社会福祉法人梵珠福祉会(青森県青森市)

リンゴの里で採れたての美味しいジュースを生産するアップルハウス大釈迦

リンゴの里で、本格的なリンゴ栽培

梵珠(ぼんじゅ)福祉会は、知的障害者通所授産施設アップルハウス大釈迦を運営している社会福祉法人である(2011年3月新制度移行予定)。主たる対象者は知的障害者であり、通所定員は20名となっている。

施設が建っているのは、津軽平野の東部、広大なリンゴ農園が広がる風景の中だ。この大自然の中、トマト等の野菜や米、リンゴの栽培、リンゴジュース加工などの作業を事業としておこなっている。

事業の中心となるのはリンゴ栽培と、栽培したリンゴを使ったジュースの製造である。2002年の施設開設当時は陶芸を中心とした作業を展開していたらしいのだが、製品の販売ルート確保が難しかったため数年で断念し、リンゴ栽培&加工に作業科目を変更することになった。もともと施設の周りはリンゴ農家だらけという土地柄である。前職が農家という職員もいるし、施設に協力してくれる人の中にも農家の人が多いのだ。

陶芸のことはわからなくても、「リンゴのことなら任せておけ」というわけで、この事業転換は見事に成功したと佐藤施設長(70歳)は語っている。理事長が知人からリンゴ農園1,6ヘクタールを丸ごと買い取って施設に提供したので、1年目から順調に市場に出荷できる製品を収穫できた。出荷先(販売先)がわかっているという点だけとってみても、陶芸品の時とは勝手がまるで違う。自分たちの専門分野に特化したことが功を奏した結果となった。

リンゴ栽培は人出を要する仕事

青森県の特産物の代表でもあるリンゴ。しかし他の農産物同様、その栽培は実に根気と手間が必要な作業の連続である。リンゴ栽培の仕事は、3月〜4月の剪定作業から始まる。これは、リンゴの木の枝づくりである。一本の木に平均してリンゴが出来るように、無駄な枝は切り落としておく必要がある。剪定はプロの剪定師に委託する仕事だが、切り落とされた枝を集めて捨てる作業が想像以上の重労働だ。これを施設の利用者たち(現在23名)が全員で担当することになる。枝集めは周りの農家でも悩みのタネで、アップルハウス大釈迦に対してこの作業だけを委託してくる農家も多いらしい。今年は10軒の農家から作業を受託し、作業費を稼ぐことが出来たという。高齢化の進むリンゴ農園にとっても、枝集めを委託できることは好都合のようだ。

次におこなうのが、5月〜7月の摘花・摘果という作業である。リンゴの枝は放っておくと花や実がいくつも出てくるので、早いうちに中心のモノだけを残して摘んでいく。この作業を怠ると、大きなリンゴを作ることはできなくなってしまうのだ。

そしていよいよ、9月〜11月中旬にかけてリンゴの収穫時期がやってくる。収穫前にはリンゴに綺麗な赤い色をつけるために葉取りという作業を行いつつ、品種別に完熟していくリンゴを収穫していくわけである。アップルハウス大釈迦で栽培しているリンゴの品種は、「紅玉」「涼香の季節」「ジョナゴールド」「王林」「ふじ」の四種類。さまざまな品種をつくることで、微妙に収穫時期をずらしていき、3ヶ月間にわたって畑中に広がったリンゴを少しずつ収穫できるようにしている。

青果用が6割を占める。それでもジュースにこだわる理由

収穫されたリンゴは、その過半数(6割以上)が青果として市場やプレマ会に出荷される。プレマ会とは、近隣農園が集まって結成された減農薬で作物を作る自主団体のことである。会で作った製品は、主にイオン系列のスーパーで買い取ってくれるシステムになっている。アップルハウス大釈迦の栽培方法も、もちろん減農薬栽培だ。

青果として出荷できないリンゴは普通の農家なら捨ててしまうか、超格安で加工用として工場に引き取ってもらうわけだが、ここからがジュースの加工工場を持つアップルハウス大釈迦の強みである。味は変わらないのに、外観に傷が付いた等の理由で市場ではほとんど値が付かなくなってしまったリンゴを、ジュースに加工することによって別の「商品」として売り出すことが可能になっているからだ。

上等なリンゴならもちろん青果用として市場に出荷する方が、利益率は一番高い。しかし市場というのは価格が不安定なのも現実である。天候不順等で全体的に品薄となった時には驚くような高値がつくが、もちろんその逆も当然あり得る。アップルハウス大釈迦がジュースの加工に力を入れているのは、市場価格に翻弄されることなく安定的な事業運営をめざしているためである。

また青果としてのリンゴ栽培だけの場合、年間を通じた利用者の作業が作りにくいという理由もある。剪定後の枝集めのような作業には誰でも参加できるが、収穫などの作業は「リンゴの蔓を付けて採る」という比較的高度な技術と、はしごの上で作業するという身体のバランス感覚が必要であり、全員が参加することはなかなか難しい。しかしここにジュース加工という事業が加わると、製造部門から梱包発送部門に至るまでに多様な工程が生まれるため、多くの利用者が作業に加わることが出来るのだ。

ストレートジュースは、自然の恵みそのもの

ところで普通リンゴジュースというと、一般的には透き通った黄金色の液体を思い浮かべる人が多いのではないだろうか? 紙パックのリンゴジュースによく見られるタイプである。このタイプは絞ったジュースを濾過して不純物を取り除き、さらに保存性を高めるためにビタミンCの酸化防止剤がが添加されている。これによって一見、リンゴジュースとは思えないほどの透明な色を作り出すことが出来るのだ。

これに対してアップルハウス大釈迦の製品は、ストレートジュースである。リンゴを搾って煮沸消毒し、添加物を一切加えることなく瓶や缶に詰めただけの単純な製法だ。そのため、色はもちろんリンゴ果実そのもののに近い半透明の黄金色。特別な濾過もしていないので、瓶や缶の底には沈殿物がたまっている。しかしそれこそがリンゴ100%ストレートジュースの証でもある。自然の恵みのリンゴの味を、そのまま絞ったジュースなのだ。

紅玉とジョナゴールドとふじを微妙なバランスでブレンドしているのが、味の特色でもある。高級リンゴの代表格であるふじの密の甘みだけでなく、紅玉とジョナゴールドの酸味をプラスし、リンゴ本来の味をジュースとして再現できるように工夫した。

アップルハウス大釈迦のリンゴ部門の売上明細は、市場への青果卸が200万円、ジュース販売が200万円、農家からの受託加工(ジュースへの加工)が300万円という内訳である。まだまだ自主製品としてのリンゴジュース売上の比率は、期待しているほど伸びていないのが実情だ。しかし、その品質の高さはリピート購入者が多いという販売実績からも容易に想像できる。

また、ユニークなエピソードもある。近隣農家から「リンゴ持込み」で、缶ジュースへの加工作業だけを委託してきた時のことだ。この場合、製造元が「アップルハウス大釈迦」と印刷された自主製品用缶に詰めて納品するのだが、農家の人はその缶ジュースを贈答用に使ったり、道の駅で自分の製品として販売したりしているらしい。ところがそれを飲んだ人が、「美味しかったから、もっと購入したい」とわざわざ電話で注文してくれる例がままあるのだという。製造元を印刷した缶が、見事に広告の役割を果たしてくれたというわけだ。

リンゴの栽培と共に成長する利用者たち

現在のアップルハウス大釈迦の利用者工賃の月額平均は、約8,000円である。多い人で18,000円。少ない人で5,000円程度なのが実情だ。佐藤施設長は、「せめて平均10,000円をめざさないといけません」と目標を語る。工賃倍増を目標としているのはもちろんだが、現実的に達成可能な目標値をまず決め、そこから次のステップに向けていこうとする地道な東北気質がそこには表れていた。

「前職は一般学校の教員をしていました。昔は時間に追われて、こんなに悠長な考え方は出来ませんでしたけど、利用者たちと関わってみてゆっくり成長することの大切さを教わった気がします。いまもう一度教員をやってみたら、きっと、もっといい先生になれたかもしれませんよ(笑)。」

人間は誰でも成長する。しかし、その人たちのやり方とペースがある。個人ごとに違う成長度合いを見極め、焦らずじっくりと指導していくこと。それが結果的に彼らのためでもある。初期の頃は利用者よりも職員が中心となって働いていたリンゴ栽培だが、今では利用者たちが「職員と同等以上の働きを見せるようになりましたよ」と佐藤施設長。

アップルハウス大釈迦の利用者たちが、リンゴのように完熟して高い値をつける(工賃が上がる)のは、販売ルート拡大のきっかけさえあればそんなに難しいことではなさそうだ。何しろ素材の良さが活かされた、とても美味しいジュースを作っているわけだから。

(写真・文/戸原一男)

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