社会福祉法人愛心福祉会(青森県青森市)

高級洋菓子チュイール一本で勝負する、やましろ作業所の挑戦

愛心福祉会の概要

愛心福祉会は、精神障害者授産施設やましろ作業所、精神障害者小規模授産施設ハート・フレンド(両施設共に、新体系への移行未定)を運営している社会福祉法人である。二つの授産施設の他にも、福祉ホームひまわりハウスや、地域活動支援センターやましろを、授産施設やましろ作業所に隣接する形で運営する。青森駅から津軽線で北へと上ること約三十分あまりの北の地で、精神障害を抱える人たちが地域の中で生活できることを目的とした社会福祉施設だ。設立は平成3年、青森県初の精神障害者授産施設として産声を上げた比較的新しい施設である。

法人のキャッチフレーズは、「ひまわりのように」。ひまわりという花は、大空に向かって大きく伸びていく特性がある。精神障害者というのは、ともすればその障害特性ゆえ、病室や自宅、地域の片隅でひっそりと生活していく人たちが多いのだが、ひまわりの花のように外に向かって胸を張って生きていってほしい。そんな願いが込められた言葉である。また施設のキャラクターとして、「やましろカエル(やましろう)」もある。こちらはどちらかというと言葉の遊び的要素が強いが、やましろ作業所での作業訓練をもとにして社会復帰(社会にカエル)をめざすことを託している。

高級菓子チュイールとは何か?

そんなやましろ作業所がメインとする作業は、チュイールという菓子の製造である。チュイールといっても、菓子に相当詳しい人でないとピンとこないかもしれない。これはフランスの伝統菓子の一つで、チュイールとは「瓦」の意味だ。つまり、欧風瓦せんべいとでも言おうか。瓦状に薄く焼いたクッキーの一種なのである。シンプルなものから、生地に各種ナッツ等を混ぜ込むものまでさまざまな種類があるが、日本では本高砂屋が昔から発売しているマンデルチーゲルという商品名のアーモンドチュイールが有名だ。

アーモンドスライスが全面に敷き詰められ、そっと触らないと割れてしまいそうな繊細な作りである。口に入れると、アーモンドスライスの香ばしさと砂糖の甘みとパリッとした食感、一枚で三つのハーモニーが楽しめるというなんとも贅沢なお菓子なのである。

やましろ作業所の「YAMASHIROちゅい〜る」は、そんな高級フランス菓子を独自の製法で作り上げた製品だ。種類もアーモンドだけでなく、ココナッツ、クルミ、カシューナッツ、マカデミアと複数のラインアップを用意した。一枚のサイズが直径約10cmと、市販のチュイールより一回り大きいのが特徴であり、素材の味が引き立つように甘みも抑えられている。価格も一枚100円(カシューナッツとマカデミアは一枚120円)と、青森県内の施設製品としては思い切った価格設定にした。

「チュイール」製造を始めた理由

施設の周りはのどかな田園風景が広がるやましろ作業所において、どうしてチュイールのような高級フランス菓子の製造を主力事業にしたのだろうか? 実は施設の開設から10年くらいは、ホタテ養殖具加工などの下請け作業だけを作業品目としていた時代があった。しかしこの作業のみだと、工賃アップはいつまでたっても望めない。当時は一人当たりの月額工賃が1,000円代に過ぎなかったとのことで、施設に通う利用者のモチベーションが上がらないのは当然だった。

そこで現施設長の礒辺紀久雄氏(57歳)が、食品の自主製品製作に事業をシフトすることにしたのだが、ありふれた作業ならあえてトライする意味がない。他の施設でやっていないことをやりたいということで、さまざまな製品を検討した結果として高級フランス菓子チュイールにたどり着いたというわけだ。昔からまちづくりをテーマとした仕事を専門としてきただけに、礒辺施設長の行動にはつねに周りの人たちを巻き込んでいくパワーと情熱が溢れている。やましろ作業所の商品開発にも、地元のお菓子屋さんが参加してくれて、職員と共に利用者の障害特性を考えながら、製造法やレシピを練り上げていった。

「製品の試作段階では、日本中の類似製品を食べ比べたり、作った製品を批評し合ったりしましたね。薄そうに見えるんですけど、チュイール一枚はごはん茶碗一杯分くらいのカロリーがあるんですよ。試食で食べるたびに、私も含めて職員たちの体がどんどん膨らんでいきました(笑)」。

販売方法の模索が続く「YAMASHIROちゅい〜る」

完成した「YAMASHIROちゅい〜る」は、見た目も味も他社のどの製品と比較しても遜色のない製品に仕上がった。しかし、問題はその販売方法である。何しろ、一枚100円以上もする高級フランス菓子だ。デパ地下ならともかく、福祉関係のイベントで販売しても、価格を聞くだけでみんな通り過ぎて行ってしまう。それはそうだろう。周りはあまりに安い、一袋100円台のクッキーが溢れている会場なのだ。集まっているのが主に年配の方でもあり、試食して「美味しい」とは言ってくれるものの、大量の販売にはつながらない状況が続いた。

製品の質から考えて福祉バザーではなく、もっと全国区の商売に打って出たいと考え、大手ネットショッピングモールにも出店してみたという。しかしこれはこれでまた問題があった。1ヶ月五万円の出店料に見合う売上が、なかなか上がらない。売上を上げるためには、キャンペーンやプレゼントなどの販促システムを有効に活用する必要があるが、何しろ顧客はネット活用のプロたちである。トクする企画を見つけると、独自の申し込みプログラムを駆使して同一人物が何十種類の名前でアンケートに申し込んできたりする。対応を適当にしていると、同じ人に何回も特典を与えることになり、それを見つけた人からの抗議が殺到する。

「製品を販売することよりも、ページの更新やこんなユーザーへの対応に追われてしまい、やむなく三年間で撤退しました」と礒辺施設長は当時を振り返る。しかし事業を大きく伸ばすためにはこうした失敗も必要であり、むしろいい勉強をさせてもらったと前向きに考えているようだ。事実、その後もゆうぱっくのふるさと便を使って通信販売を始めているし、ネット販売もいずれは施設独自のサイトを立ち上げたいとリベンジを狙っている。今回の「真心絶品」への出品も、その第一歩と捉えているらしい。

現在は地元店舗への委託販売を中心にして、販売活動をおこなっている。地元の精神病院の売店にはほとんど置かせてもらっているし、生協などの店舗にも委託販売している。最近では施設の近くのコンビニエンスショップ「サークルK」での販売が始まった。店舗のオーナーがやましろ作業所の活動に理解がある人で、レジ前の一等地に製品を並べてくれた。イベントなどで「YAMASHIROちゅい〜る」を食べたことのある女子学生たちが、「どうしてこれがここで売ってるの?」「これ、美味しいんだよねー」などと口々に言いながら、購入していく例が目立っているという。なかなか売上にはつながらなかったイベントでの販売活動が、やっとここに来て実り始めたということだろう。

いつまでも手作りの味を守りたい

礒辺施設長に今後の目標を伺うと、「ちゅい〜るだけで年商一億円、といった事業に育ててみたいですね(笑)」と壮大な夢が飛び出してきた。食品製造だけでも実際に数億単位の事業をやっている施設が全国にはあるわけだから、やましろ作業所とて不可能なはずはない。実際、「それだけのレベルの製品を作っている自信があります」。

一番のネックは、生産量の問題だろう。なにしろやましろ作業所に通う利用者たちは、「心の病」という難しい病気を抱える人たちだ。日々の体調を安定すること自体に難しさがあり、体調不良で休むことが多いのも事実である。そのためにアルバイトを用意してリスクを回避できるようにしているが、季節の変わり目などはどうしても多くの人たちが仕事に就くことができなくなる。取材に伺った日も、半数近い利用者が休みをとっていた。

もう一つは、量産化のためにもし機械を導入すると、どうしても味が落ちてしまうことである。「YAMASHIROちゅい〜る」が日本中の一流メーカーの類似製品に対抗できるほど美味しいのは、一枚一枚丁寧に作っている製造法に尽きる。アーモンドやココナッツなどのナッツがたくさん入った小麦粉生地を丹念に伸ばすこと。これが実に根気のいる作業なのだ。ナッツが重なると焼いたときに焦げてしまったり、ナッツが抜けた部分は穴が開いて割れやすくなってしまう。一枚一枚丁寧にフォークで形を整えていくからこそ、独特の食感と香ばしさが保てるのだという。そしてこれは機械では絶対に真似できない工程らしい。

「老舗メーカーのチュイールの味が最近落ちたなと思っていたら、やっぱり製造工程を機械化したらしいんですよ。やましろでは同じ轍は踏みたくないですね」と礒辺施設長。現在の月額平均7,000円という利用者工賃を倍増させるためにも全国区を見据えた販売ルートの確保が必要なのは確かだが、まずは「YAMASHIROちゅい〜る」の味を理解していただけるユーザーを(急激にではなく)少しずつ増やしていく地道な努力が必要なのだろう。せめて月額50万円の売上にのせることが、現在の第一目標だという。津軽半島の麓でチュイールいう高級フランス菓子の製造に特化して事業を組み立てるというユニークな事例だけに、その事業成果は多くの施設にも参考になるに違いない。徹底的に作り方にこだわって、本当に美味しいモノを作れば事業としても成功する。そんな施設の代表に、ぜひなってほしいと思う。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。