社会福祉法人修倫会(岩手県久慈市)

地元の食材を活かし、さまざまな製品を開発し続ける「福祉工場みずき」

社会福祉法人修倫会の概要

修倫会は、「福祉工場みずき」(知的障害者福祉工場:新体系未移行)、「松柏園」(就労継続B型事業所)、「みずき園」(就労継続B型事業所)、「チャレンジドセンター久慈」(障害者就業・生活支援センター/相談事業/地域活動支援センター)等を運営する社会福祉法人である。この他、三棟のグループホームやケアハウスを運営する。

いわて北三陸に位置する、岩手県久慈市。山には広葉樹が生い茂り、里には美しい清流が流れており、リアス式海岸線の海には奇岩が顔を見せている。山・里・海のすべてが堪能できる観光地として売り出し中とはいうものの、新幹線停車駅である二戸からバスで1時間あまり。八戸からはローカル電車で約2時間かかってしまう不便さが災いして、県外各地から多くの人が訪れる地とは言い難い。人口も少なく、一般の人々の失業率の高さも県内トップレベルであるという。そんな中にあって、修倫会は障害者が働くための理想的な環境づくりをめざして身体障害者授産施設「松柏園」、知的障害者授産施設「みずき園」(共に平成19年4月、新体系に移行済)、「福祉工場みずき」を設立してきた。

作業品目は、「松柏園」がクリーニング・縫製・シルクスクリーン印刷。「みずき園」が、菓子製造・縫製・紙製エコポットやウエス等のリサイクル事業・絨毯クリーニング・農園等。「福祉工場みずき」が、製麺製造・菓子製造・南部煎餅製造・人材派遣業・柔道着縫製等である。

新製品開発の打診が次々寄せられる、福祉工場の製麺事業

一つの土地の中にさまざまな施設が隣接する修倫会の中で、働く場としての頂点に位置するのは「福祉工場みずき」であり、その事業を支えているのは製麺事業だ。もともと福祉工場の設立のきっかけは、地元の製麺工場との事業提携に遡る。創業80年の老舗工場が機械の老朽化に伴う多額の設備投資に悩んでいた話を聞きつけ、間(あいだ)健倫施設長(61歳)が「設備はこちらで何とかするから、製麺のノウハウと販売をお願いできないか」と申し入れたのだ。どちらの組織にとってもメリットのある話にお互いが納得し、福祉工場はスタートした。

老舗工場で働いていた従業員も福祉工場に移籍したため、製麺技術は折り紙付きである。この工場で作る麺の最大の特色は、三日間も麺を熟成させていること。本来麺というのは作った後、温度管理がされた場所で保管しておくのが望ましい。小麦粉に含まれるグルテンが醸造されて美味しさが引き出される上に、シコシコ感が生まれるのである。「福祉工場みずき」では、全館に空調設備があり、製麺室は年間16度から18度に温度が保たれている。

麺の美味しさと工場の製造能力の高さは、近隣のさまざまな団体から新しい「ラーメン」の企画が持ち込まれることからも伺える。たとえば、「野田塩らーめん」である。久慈市の隣町である野田村は、太平洋から汲み上げた海水を釜で煮詰めて作る「野田塩」の産地として有名だ。そんな塩の味を活かした特産品を、野田村の第三セクター(「観光物産館ぱあぷる」を運営している)と一緒に共同開発したのである。まろやかな自然の味わいが特徴の「野田塩」の美味しさが見事に活かされたラーメンは、野田村の新たな名物として好評を博しているらしい。

それだけではない。「赤鶏ラーメン」は大自然の中で放し飼い飼いにされる「みちのく赤鶏」が有名な大野村(現、洋野町)とタイアップして作りだした製品。「ほやラーメン」は洋野町の名産「ほや」を麺に練り込んだまったく新しいラーメンだ。冷麺に続く新しい盛岡名物として有名になりつつある「南部男のじゃあじゃあ麺」に至っては、盛岡市内の経営コンサルタントが持ち込んだ商品企画に応え、「じゃじゃ麺」通の舌をも満足させる製麺技術の高さを証明した。

現在ではこうしたオリジナル製品が製麺事業全体の3割にも達し、今後はますますその比率を高めていく予定だという。古舘哲雄工場長(50歳)は、「自主製品でありながら、各団体との共同開発製品なのでどれもみな売れ方が違います。一緒に作り上げた製品だから、先方も販売に熱が入るのでしょうね」と、共同開発の重要性を強調する。どの製品にも、地元産の食材を使ってホンモノの味を消費者に届けたいという願いが込められている。

懐かしい味、岩手のふるさと銘菓「かりんとう」

「野田塩」を活かした製品としてもう一つ、「かりんとう」製造も「福祉工場みずき」の主力事業である。「かりんとう」といっても、一般的に思い浮かべる黒蜜がかかったお菓子ではない。湾曲した円盤のような形をした煎餅状の揚げ菓子であり、パリパリした食感と、淡泊な甘さが特徴だ。この岩手の昔ながらの伝統菓子である「かりんとう」に「野田塩」を振りかけた「塩かりんとう」を開発したところ、野田村の道の駅「観光物産館ぱあぷる」のヒット商品となった。揚げた小麦粉生地が持つ本来の甘さが塩気によって引き出され、「かりんとう」にはうるさい地元の人たちからも圧倒的な支持を得たのである。

この製品のヒットに気をよくし、ほうれん草の緑が美しい「ほうれん草かりんとう」、やまぶどう生地を練り込んだ「きぶどうかりんとう」等々、地元の特産物を活用した「かりんとうシリーズ」を次々に作りだしている。どれも販売元からの要望に応えて、新しい製品を独自に開発したものだ。ゼロから作り出した商品でもあり、試作には相当の時間をかけた。地元を代表する伝統菓子だけに、「観光物産館ぱあぷる」には数社のライバル製品が同時に販売されているわけだが、オリジナル製品は主力商品として位置づけられている。

しかも他社にない圧倒的な強みが、完全手作りという製法だろう。生地を混ぜ、棒でこねて伸ばし、揚げて、袋詰めをする。全ての工程に機械を一切使わず、完全手作りである。「生産効率拡大のため、一度生地を伸ばす工程を機械化したことがありましたが、顧客からすぐ『味が落ちたよ』と指摘されました。手で粉を混ぜ、こねるという工程の中に、きっと機械には決してできない味付けの秘密があるんでしょう」(間施設長)

この時の苦い経験があるため、それ以来大変でも「かりんとう」製造は手作りにこだわっている。量産はできなくても、ホンモノの味を消費者に届けることが「福祉工場みずき」のブランド化につながるのだという。

南部煎餅に、キャラクターをカラー印刷?

岩手県の銘菓といえば、忘れてはならないのが南部煎餅だ。地元の名産品を製造するのが得意な「福祉工場みずき」が、それを作らないはずがない。しかも「ごま」や「ピーナツ」味のいわゆる一般的な南部煎餅だけでなく、「大麦若葉」「じゅんね」入りの新しい味の煎餅を産みだした。とくに風味豊かな大麦若葉をたっぷり入れた「大麦若葉」煎餅は、ゴマとの相性も最高で、健康食品「べっぴん煎餅」として人気も急上昇中だ。最近では老舗煎餅店であるはずの他社までが「大葉若葉煎餅」等の類似製品を発売するようになっているらしい。

しかしこうしたオリジナル製品群の中で、もっとも驚かされるのは南部煎餅にカラー印刷を施した製品ではないだろうか。言葉や簡単なマーク等を印刷した煎餅というのは最近よく見かけるようになったが、これはそんなレベルのモノではない。鮮やかなイラストが、綺麗に再現されているのだ。「久慈ありすイラストそのまま煎餅」と名付けられたこの製品、三陸鉄道のイメージキャラクターである「鉄道むすめ久慈ありす」を専用のフードプリンタで生地の上に直接プリントした、マニア垂涎のグッズである。鮮やかな色使いで印刷されているが、食用インクを使用しているのでもちろん煎餅としてもそのまま食べることができる。

印刷煎餅の企画は、古舘工場長が三陸鉄道に持ち込んだのだという。「鉄道むすめのキャラクターは全国各地に広がっていますが、三陸鉄道でも久慈ありすちゃんを観光客誘致の秘策として大々的に売り出しています。このキャラクターグッズほしさに、全国から集まってくる鉄道マニアもいるぐらいなんですよ。岩手名物の南部煎餅とオリジナルキャラクターのマッチングが面白いと、すぐに企画は採用されました。おかげさまでこの製品はすごい勢いで売れています。三陸鉄道では、通信販売も企画しているみたいですよ」

このヒットに気を良くして、現在はプロ野球やサッカー等のキャラクターマークをプリントした製品も企画提案中とのことだ。ラーメンやかりんとうで培ってきた他組織との製品開発ノウハウが、このように新しい製品提案を産みだしていく源になる。次から次に新しい製品企画を考える発想力は、さすが福祉工場ならではだろう。「従業員(障害者)に対し、決められた給料(最低賃金保証)を支払うためには、必死に売れる製品を開発していくしかない」(仲道里美生産部長)のである。

最近では地元のケーキ店とタイアップした企画として、「写真をプリントしたバースデーケーキ」を売り出した。生クリームを塗りつめたケーキに、お祝いする人の似顔絵ならぬホンモノの写真をプリントしてしまうのである。食べるときの違和感はともかく、これまた実に斬新な商品であり、話題性は十分だ。始まったばかりのサービスだが、市内でもさっそく注目を浴びているらしい。

キーワードは、「本物志向」。それが結果的に施設のためになる。

「福祉工場みずき」では、食品事業の他にも柔道着製造という縫製事業も手掛けている。久慈市は、柔道の神様と言われた三船久蔵十段が生まれた町であり、「柔道のまち」をキャッチフレーズにまちぐるみで柔道大会や合宿の誘致もおこなっている。そんな地域特性を活かした事業として、大手スポーツウェアメーカーから柔道着や空手道衣等の縫製(仕上げ、刺繍、帯縫い)を受託しているわけだ。久慈は女性たちの内職として縫製作業が栄えた町であり、高度なミシン技術が伝統的に根付いているということも大きかった。品質的には非常に高い技術が求められる製品だが、講道館に納品されるほどの品質を誇っている。もともと「松柏園」「みずき園」という二つの施設では高級ブランドメーカーの子供服の縫製も請け負っているほど、修倫会全体の縫製レベルは高いのだ。

このように製麺・製菓・縫製とさまざまな事業を展開する「福祉工場みずき」だが、全事業に一貫しているのはホンモノに対する徹底したこだわりだろう。原材料や作り方はもちろんのこと、製品開発や営業展開に至るまで、間施設長は職員に対してプロの姿勢を要求している。

「健常者ですら働く場がないという厳しい経済情勢の町の中にあって、私たちが福祉工場を運営していくのは大変な努力が必要です。一人ひとりがプロ意識を持って頑張っていくしかありません」と、間施設長。次なる手として現在準備を進めている企画は、製粉事業だという。

「低温乾燥・低温高速微粉加工法」という画期的な技術がある。この技術を活用し、地域の畑で栽培される米や野菜を「栄養素そのままの保存食」に仕立て上げようという計画だ。実現すれば、病院や老人ホーム、幼児施設など、食事に気を使うさまざまな施設等を営業先として想定している。「二つの授産施設(現・就労継続B型事業所)から福祉工場、そしてグループホームへと障害者たちの環境作りを進めてきましたが、最終的には彼らが入居できる老人ホームの建設が目標ですね。そのためにも、あらゆるニーズや、職種、階層に対して事業を広げていきたいと思います。老人介護や給食サービスなど、アイデアはいくらでもありますよ」と、間施設長の夢はとどまることを知らない。この情熱こそが、久慈市という小さな町でこれだけの施設を運営する源になっているのだろう。

(写真・文/戸原一男)

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社会福祉法人修倫会・福祉工場みずき(岩手県久慈市)
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