NPO法人福祉ネットABC(宮城県仙台市)

宮城県産の食材を使った高級燻製で、利用者工賃のさらなる向上をめざす

利用者支援の理想を掲げて独立した事業所を立ち上げた

福祉ネットABCは、多機能型就労支援事業所「ぴぁ」を運営するNPO法人である。定員は、就労移行支援事業が6名、就労継続支援A型事業が10名、就労継続支援B型事業が15名であり、レストラン「ぴぁ」や手作り弁当製造・販売、燻製製造、委託清掃、メール便宅配などを主な事業内容とする。

法人のスタートは2005年9月である。自身も共に知的障害者の子を持つ親であるという佐藤耀代さん(67歳)と松浦典子さん(69歳)が代表理事となり、既存施設の運営にとらわれない支援の場をつくるために設立された。法人の考え方の基本はあくまで「利用者中心の事業と支援サービス」である。支援の質によって利用者の能力は大きく変わっていく。そのことを実現するためにつくられた組織であり、目的の達成度合いは活き活きと楽しそうに働く利用者の働く様子を見るだけで容易に想像できる。

法人が位置するのは、国道4号線沿いという好立地にある。陸上自衛隊霞目飛行場の近くでもあり、喫茶レストランをオープンするには最適の場所だと思い建物を借り受けたらしいのだが、実際には関係者以外にランチタイムに来店する人も少なく、経営がまったく成り立たない。そこで事業の柱を弁当製造販売にシフトすることになった。現在、県庁や市役所を中心に毎日200〜250食の日替わり弁当を販売している。

利用者が営業マン。おやじギャグで顧客の心を掴む。

レストラン「ぴぁ」の弁当の特色は、できる限り地元の食材を使った地産地消にこだわっている点だ。長年郷土料理を研究してきた調理師をはじめとする食のプロ集団がスタッフとして関わり、安心安全で美味しく、しかも栄養バランスがとれた弁当を提供する。できる限りできたての味をお届けするため、正午の時点でもご飯はまだ暖かさを保っている。こんな評判が口コミで広がり、少しずつ売上を伸ばしてきたというわけだ。

弁当を販売するのは、総勢20名のメンバーである。運転手以外は、すべて利用者が中心だ。車の移動中に何度も本日のメニューを復唱して覚え、オフィスに到着するとドアごとに声をかけていく。
「おはようございます。弁当をもってきました!」
「(日替わり弁当の)今日のメニューは、何かなあ?」
「えっと、今日のおかずは、ちんじゃ...ちんじゃ...ナントカ」
「チンジャオロースだね。ずいぶん難しい言葉を覚えさせられて、大変だナー(笑)

などという会話を毎日顧客と直接交わすことが、立派な営業活動になっている。「彼らが働く姿を役所の人たちに一番見てもらいたいので、弁当の販売はとてもいいアピールになっていると思います。一人ひとりのお客さんの名前も覚えて、すっかり仲良くさせてもらっているみたいですよ。オヤジギャグをお互い言いあったりしてね(笑)」(松浦代表理事)。

毎日200食以上の弁当を製造し、顧客の元に届け、容器を回収して洗浄する。そんな作業の繰り返しは、スタッフを入れて30名あまりのメンバーでも大変な重労働のはずだが、一人ひとりが楽しそうに働いているのが印象的である。松浦代表理事たちが求めていた「利用者を中心とする支援事業サービス」が、きちんと機能していることの何よりの証だろう。

弁当事業は年間2,700万円程度で、福祉ネットABCの事業全体の9割を占める規模になっている。平均月額工賃は、35,000円程度であるという。設立当初はたった3人の利用者でスタートしたというNPO法人が、5年あまりで24名の利用者を抱えるようになり、これだけの事業実績を実現していることは高く評価できる。

さらに高い工賃を求めて、燻製事業がスタート

福祉ネットABCでは、弁当事業に続くもう一つの柱として、2009年7月から「燻製事業」をスタートさせた。いくら弁当事業が好調とはいっても、それだけに依存するのも事業的には問題があるし、より高い工賃をめざすためには全国に向けて販売できるような商品の開発が必要だと考えたためである。

宮城県産の食材を使った商品として、最初は仙台名物・笹かまぼこ製造に意欲を燃やしたと語る松浦さんだが、調査のため宮城県石巻市にある県水産加工研究所に通い詰めるなかで「ライバル業者も多く、材料調達が難しい笹かまぼこよりも、宮城県産の海の幸を気軽に楽しめる燻製づくりに魅力を感じるようになりました」。

燻製は、ソミュール液と呼ばれる調味液に漬けて乾燥させた後、燻製機にかけるという工程で作られる。海の幸を燻製にする場合、保存性を高めるためにどうしてもパサツキ感が残ってしまうのが欠点なのだが、最新の電子燻製機を導入することにより、通常数時間かかるといわれる燻煙作業を十数分に短縮。試行錯誤しながら、油分や水分を残した柔らかな新しい食感の燻製を生みだした。燻煙時間が短縮されたため、大量生産も可能になっている。既存の燻製と比較すると、ソフトな食感に驚く人が多いだろう。こうした技術を元にして、宮城県産の新鮮なギンザケ、メカジキ、ホタテや、宮城県産の大豆でつくられた豆腐の燻製を「伊達の燻製シリーズ」として商品化した。

「弁当やレストラン事業をおこなってきたというものの、商品作りに関してはほとんど経験がありません。それでもあくまで主婦の立場、消費者目線を大切にして、本当に美味しい燻製づくりにこだわりましたね。宮城県産の美味しい魚の味を皆さんに知ってもらうためには、どうしても既存の燻製ではダメだったんです。製品化の段階でもいろいろ難しいことがありました。魚は一尾ずつ微妙に味が異なりますから、燻製として同じ味にするためには漬け込み時間を微妙に調整したりしなければなりません。下処理の段階の衛生面の徹底、グリルの火加減など、研究に研究を重ねて作り上げた商品なんですよ。ソミュール液自体には県内産・伊達のうま塩と自家製ハーブなどを入れ、燻製には桜のチップを使いました。燻製とハーブの組み合わせが、もっとも自慢できる味のポイントかしら(笑)」と、松浦さん。

商品化にあたっては経営コンサルタントからアドバイスを受けながら、食の専門家を交えた試食会などを何度も開催して試行錯誤を重ね、本格的な高級商品になるように工夫した。決して潤沢な資金もないのに、パッケージにも徹底的にこだわった。県の技術サポート機関で試作してもらったデザインでは満足せず、「もっと高級感あるデザイン」にするため専門の若手デザイナーを紹介してもらったほどの懲りようである。これはすべて「将来的には、仙台土産として利用してもらえるような商品にしたかった」(佐藤代表理事)との夢を持っていたゆえである。

2010年宮城県水産加工品品評会で「水産庁長官賞」を受賞!!

2010年3月、佐藤さんと松浦さんの元に朗報が届いた。ギンザケの燻製が、なんと2010年の宮城県水産加工品品評会で「水産庁長官賞」を受賞したというのである。宮城県水産加工品品評会というのは、県内の専門業者がその技を競う最高難度の品評会だ。何回応募しても、なかなか受賞にたどりつけない業者も多いと聞く。そんな中、障害者支援サービスを手掛けるNPO法人が出品した製品の、突然の受賞である。しかも「水産庁長官賞」といえば、全体の2位に当たる権威ある賞なのだ。

「福祉施設からの製品応募自体が初めてであり、もちろん過去の受賞歴などまったくない(水産業振興課)」という異例ずくめの審査会となったのだが、最終審査には福祉ネットABCが応募した海産物燻製の全アイテム(ギンザケ、メカジキ、ホタテ)が残っていたというからさらに驚きだ。素材や味、パッケージを徹底的に追求した結果が、水産加工分野のプロたちをうならせる結果となったのである。審査には県内の名だたる有名企業から自慢の品々が170点も出品されていたらしい。

「今回の受賞によって、客観的に製品を評価していただけたことが一番嬉しいですね。もともと味には自信はありましたが、地元企業の一流製品と比較された中での受賞ですから、本当に嬉しいですよ」と、佐藤代表理事。

受賞をきっかけに新聞などのマスメディアでも取り上げられ、贈答品を中心に燻製の売上げは急カーブで上昇を続けている。「真心絶品」への応募もこうした流れの延長線上にあり、福祉施設製品にしては珍しい贈答品に堪えうる高級水産加工品として全国に知名度を上げていくことだろう。仙台駅構内に「食材王国みやぎ」という優れた県内産食材だけを販売するセレクトショップがあるのだが、この店でも福祉ネットABCの燻製を扱ってもらえることになった。東京池袋にある宮城県のアンテナショップ「宮城ふるさとプラザ」への出品も交渉中とのことである。宮城県水産加工品品評会という公的な品評会のお墨付きをもらったことで、今後はますます燻製事業の発展が見込めるに違いない。

燻製事業のおかげで県内の水産業者とのネットワークも広がり、質の良い海産物を安価に仕入れるルートも増えることになった。このことは主力の弁当事業にも好影響を及ぼし、「レストランぴぁの弁当の魚はとくに美味しい」という評判が最近ではさらに顧客の間に広まっているらしい。これもまた受賞効果と呼ぶべきエピソードであろう。

利用者が自立生活を実現するためにも、さらに高い工賃を。

佐藤・松浦両代表理事に、今後の目標を伺ってみた。お二人ともめざすところは決まっている。利用者の自立生活の実現のサポートである。

「フットワークの軽さなど、NPO法人ならではの良さもありますが、もちろん社会福祉法人格が取れるにこしたことはありません。職員の給与水準が一定レベルに保てますし、質の高い支援サービスを安定的に利用者に供給することができるはずです。ウチのスタッフは本当に頑張ってくれているので、それに報いる報酬を可能なら保証してあげたいところです。なかなか実現は難しそうですけど」(松浦さん)

「利用者の工賃をもう少しアップさせることが最大の課題でしょうか。現在の平均月額工賃が35,000円くらいでしょ。せめてあと2万円。合計で5万円以上の工賃をもらえるようになったら、障害基礎年金を併せると月に10万円以上の収入になるはずです。将来グループホームなどで自立生活を営むためには、それくらいの所得が必要なのではないでしょうか?」(佐藤さん)

既存施設の支援では飽きたらず、自らの理想を掲げる事業所を独力で立ち上げたお二人が、さらにこのような具体的な工賃目標を掲げている。目標が実現できるかどうかは、燻製事業の成果にかかっているという。スタートしてまだ1年にも満たない事業であるが、さまざまなルートから取引の申し出が目白押しである。ぜひ頑張って事業をさらに拡張し、新しい時代の障害者支援サービス事業所の成功例となってほしいと思う。「二人とも高齢だから、ホントはそろそろ世代交代したいんですけど」と笑う松浦さんたちが安心して引退できる日は、まだまだ先のことになりそうだ。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。