社会福祉法人秋田旭川福祉会(秋田県秋田市)

下請け中心からリネンサプライへの事業転換を見事に成功させた「明成園」

秋田旭川福祉会の概要

秋田旭川福祉会は、「明成園」(就労継続支援B型事業所)を運営する社会福祉法人である。1985年の設立以来、一貫して障害者(主に知的)の自立生活の実現のために「高い工賃」をめざした事業展開を模索してきた。これまでに農業、下請け作業(トランス巻)、ダスキンマット修理&モップゴミ取り、部品プレス加工(除電ブラシ)、下請けクリーニング等のさまざまな作業に取り組んでいる。

施設が建っているのは、秋田県旭川の添川橋沿いである。近くには複数の温泉旅館が並ぶ観光スポットでありながら、JR秋田駅から車で15分程度という立地条件が幸いして最近では田畑を整備した住宅開発が進んでいる。豊かな自然と人々の生活が共存する環境の中、50名の利用者たちが働いている。

現在の明成園の主力事業「リネンサプライ」

「明成園」の現在の主力事業は、老人保健施設や病院のリネンサプライである。リネンサプライとは、施設等で使用される各種繊維製品(シーツ・タオル・枕カバー・白衣・おしぼり等)を業者が用意して有償で貸し出し、定期的に洗濯や補修等のメンテナンスを実施するレンタルサービスのことをいう。「明成園」では2009年より本格的にリネンサプライに参入し、施設内をダイナミックに一新した。建物の増改築はしていないものの、それまでは数台しか用意していなかった洗濯機・乾燥機・ロールアイロンなどの専用機を多数設置。使用した水を河川に流すための浄化槽整備の強化や、施設内の上下水道配管工事を整えている。

クリーニングの具体的な作業内容としては、「老人保健施設・病院等利用者の私物(クリーニング)、老人保健施設・病院の清拭タオル、レジャー施設の館内ウェア・タオル類、理・美容室のクロス・タオル類・布おしぼり(リネンサプライ)」である。病院等の施設にとってリネンサプライが好まれるのは、固定資産税の低減といった財務上のメリットに加えて、資材管理コストも削減できるのが大きい。一定の品質を保つためには定期的なメンテナンスが必要であり、その管理には煩雑な事務処理を伴うからだ。さらに「明成園」では一般業者が対応できないという在庫管理代行サービスまで手掛けており、これがユーザーからの信頼を勝ち取る大きな武器になっているらしい。

石川良雄施設長(76歳)は、リネンサプライの倉庫を見せてくれながら誇らしげに語ってくれた。

「ご覧の通り、老人保健施設や病院のシーツからタオル、カーテン、下着に至るまで、ありとあらゆる布製品がここにストックされています。これがあるから大手業者と価格面で対抗しながらも、クリーニング事業を続けることができるのです。スーパーの買い物カゴの洗浄サービス等も手掛けていますが、これもレンタル方式。つまり買い物カゴ自体は、明成園からの貸与ということ。スーパーではいつでも綺麗な買い物カゴをお客様に提供できるので、大変好評なのですよ」

こうしたリネンサプライ事業だけで、「明成園」の売上高は6,500万円となり、利用者への平均月額工賃は30,500円の実績を誇っている。

「明成園」がダイナミックな事業転換に踏み切った理由

数年前までの「明成園」は、クリーニング事業を請け負っていたものの、ほとんどは業者からの下請けであり、ここまで本格的な設備も整っていなかった。なにより施設としての事業の中心は、あくまで部品プレス加工(除電ブラシ)であったらしい。コピー機等で用紙をドラムに圧着させる際に使った静電気を取り除くための部品である。15年前からスタートしたこの作業は、大手コピー機会社から大量に提供され続けてきた。開設以来、さまざまな作業科目を試してきたという石川施設長が「もっとも利益率がよい仕事」として積極的に取り組んできたのである。

そんな「明成園」が、2009年に事業の中心を除電ブラシ製造の仕事からリネンサプライへと一挙に転換することになる。どうして突然そのような方針に変わったのだろうか?

「除電ブラシ製造の仕事では、本当に儲けさせていただきました。もともと2〜3年くらいの仕事だろうと考えていたのですが、予想以上に続いてくれましたね。しかし仕事のグローバル化の流れの中で、いつかは海外に流出する仕事であろうと覚悟はしておりました。悩んだのは、事業転換をするタイミングです。徐々に減ってきたとはいえ、まだ受注が残っている状態でしたから。今考えると、余裕があるうちに決心できたことが重要でした。でも、クリーニングを施設のメイン事業にすること自体はだいぶ前に決めていたのですよ」

石川施設長がクリーニング事業を選んだ理由は、これまでのさまざまな作業科目を体験する中で、それが「明成園」の利用者たちにもっとも適していると確信していたからである。施設の開設時にすでに井戸を掘り、クリーニング事業にとってコスト削減のポイントとなる水道代を無料化できる体制を整えていたのも大きかった。しかも浄化槽を設備し、施設の裏の旭川にそのまま放流することができるため、下水道料金もかからない。上水(井戸)と下水(旭川)の双方を兼ね備えた立地条件の「明成園」は、クリーニング業こそベストだと考えたのも納得がいく。もし普通に公共の上下水道を利用していると、それだれで月に70万円程度のコストがかかり、事業収益を圧迫することだろう。

大切なのは、施設長の「時代を見る目」と「決断力」

しかし「明成園」がクリーニング業で本当の意味で成功するためには、いくつかの条件があった。これまでの下請け作業ではなく、独自ルートでの営業展開ができること。単なる1回限りのクリーニングを請け負うのではなく、リネンサプライ形式にして継続的な顧客を獲得すること。そして何より、大規模な機械設備の導入を、銀行からの借入金に頼らず100%自己資金で実現することである。

「準備さえ整えば、必ず成功するという確信はありました。そのためにずっと除電ブラシ製造の仕事で儲けたお金を施設として(規定内で)積み立てし、クリーニング事業のために蓄えてきたわけです。事業転換の際には、機械整備と材料購入、配管整備などで1億5千万以上の資金が必要でしたが、助成金割合は1割くらいであとはすべて自己資金。これまでの蓄えがあったから、このような思い切った事業転換が実現できました」

石川施設長のお話を伺っていると、リーダーの「時代を見る目」と「決断力」の重要性を改めて感じざるを得ない。なにしろこれまで施設の稼ぎ頭として、15年にもわたって月額60万円以上を売り上げてきたメイン事業をあっさり捨て、リネンサプライという新しい(正確には、これまでのクリーニング事業を拡張した形)事業に取り組んだのである。しかもそれは突然の思いつきではまったくなく、十年前から周到に準備された計画であった。利用者の作業適性もしっかり考慮されているため、新事業における彼らの働きぶりも素晴らしい。機械設備を積極的に導入したものの、完全オートメーション化されることなく、利用者たちが能力を発揮できる作業分野がしっかり残されている。工場内を見学していても、活き活きと働く彼らの姿が印象的であった。

SELPブランドを活用して営業ツールを作成

「明成園」の新事業のもう一つの目玉が、営業ツールであるという。いくら機械を整備して、リネンサプライというサービスシステムを導入しても、ユーザーにしっかりした営業活動を実施しなければ仕事は獲得できない。そのために新たにクリーニング事業の各種パンフレットを用意した。しかもSELPロゴイメージが全面に打ち出されたカラフルな印刷物となっている。実はこれ、全国授産施設協議会(現セルプ協)が1995年にCI活動をおこなった際に、「セルプデザインガイドライン」として発行されたSELPロゴの使用規定に正式に則ったデザインで制作されているものだ。

福祉団体としては初めての取り組みとして大々的に実施されたセルプのCI活動も、いまやすっかり色あせてしまった感がある。その意義やロゴマークの意味すらも説明できる関係者が少なくなってしまったのが現実だ。そんな中、一施設としてここまできちんとセルプカラーを打ち出している事例は珍しい。しかもパンフレットだけでなく、封筒や施設前の看板にもきちんと規定に沿ってカラフルなSELPマークが使われている。

「明るいイメージなので、ユーザーからはとても好評ですよ。施設の看板も、SELPマークを取り入れてからとてもわかりやすくなったと来客者によく言われます。せっかく日本屈指のCI専門家であるPAOSの中西元男氏につくってもらったマークですからね。もっと他の施設も積極的に活用すべきではないでしょうか? 全国の施設がイメージの共通化をすることで、意識の統一を図るというのがCI活動の意義の一つなのですから」

と、石川施設長。こう語る姿は、さすがに秋田県セルプ協の会長を設立時からずっと担ってきた人らしい(本年度より退任)。自分たちの施設のことだけでなく、もっとお互い協力しあうことの重要性を強く訴えてくれた。

「明成園」として今後力を入れていきたいのが、このようなパンフレットを駆使した積極的な営業活動であるという。「この先どうなるか誰にもわかりませんが、今回の事業転換によって、少なくとも10年は安定できる基盤は整えたと思うのです。あとはどうやって営業活動をおこなっていくかに尽きるでしょう。私たちの事業の基本は、なんといっても高い利用者工賃をめざすところ。その目的を果たすために頑張れる職員を、一生懸命教育しているところです。人材が育ってくれれば、そろそろ私の仕事は終わりかな?なんて考えているのですけどね(笑)

残念ながら、福祉業界でこれだけの「時代を見る目」と「決断力」を持った人材は簡単に育つものではない。石川施設長が引退するというのは、本人の意図に反してそう簡単なことではないかもしれない。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。