社会福祉法人クピド・フェア(北海道岩見沢市)

最先端設備とオンリーワン技術の融合で、福祉を超えた事業展開を模索する

クピド・フェアの概要

クピド・フェアは、くぴどワークショップ(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、アゴラ(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、KP'96(就労継続支援A型事業)、パシオ(生活介護事業・自立訓練事業・就労移行支援事業)等の障害就労系施設を運営する社会福祉法人である。この他、くぴどハイム(生活介護事業)や、こぶし(特別養護老人ホーム)、ほほえみプラザ(通所介護デイサービスセンター・居宅介護支援事業)、くぴどクリニック等を運営する。

岩見沢の豊かな自然の中に、さまざまな施設が並んで建っている。広大な敷地はホテルのような様相を呈しており、とても社会福祉施設とは思えない。「天使が集い、愛の溢れる広場」という意味のクピド・フェア(Cupid Fair)には、診療所、郵便局、売店、喫茶店、クリーニング店、花ハウスといった施設が完備され、誰でも出入りできる開放的な空間となっている。障害者やお年寄りたちはこの中で自然と地域の人たちと触れあい、作業を通じて自己実現を図ってきたのである。

世界一のミニチュアベアリング企業を支える高度な職人技術

現在のクピド・フェアの事業の中心は、ベアリング組立、LEDを利用した水耕栽培、IT事業、福祉機器製造、食品加工等である。設立当初から、紳士服縫製、ランプ組立、カセットテープ組立、等々、さまざまな事業にトライしてきたのだが、安定した収益をあげることができずに何度も撤退を繰り返していった。結果として残ったのが、下請けではなく独自の技術を打ち出したオリジナル作業であったというわけだ。

そのなかでもっとも続いているのが、ベアリング組立事業である。ベアリングとは、OA機器などに使用する精密機械部品のことだ。回転や往復運動する部品に接して荷重を受け、軸などを固定する役割を持つ。回転する部分がある機器には必ず存在する部品である。世界の精密ベアリングの1/3は日本で生産されていると言われ、そのトップ企業がクピド・フェアの受注先である北日本精機株式会社なのだ。

「ミニチュアベアリング製造では世界一と評されている北日本精機さんの製品の中でも、一番精密な極小ベアリングの製造を一手に任されています。機械化もできない非常に細かい作業なので、他の下請け作業のように仕事が海外に流失することもありませんでした。今では北日本精機さんの社内でも対応できない高度な技術者集団として、高く評価していただいているのですよ」(ベアリング事業部・主任羽田さん)

一番小さなベアリンクになると、直径わずか1.5mmにすぎない。この小さな保持器といわれるボール入れに、0.5mmの小さな鉄の玉を5個、等間隔で入れていくのである。ピンセットで挟むこともできないほどの玉の大きさだから、作業に使うのは先が磁石になっている「針」なのだ。こうした地道な作業を繰り返し、1日18,000個のベアリングを総勢80名の利用者・スタッフで生産していく。しかもメンバーのおよそ4割が片麻痺の障害者だというのだから、驚きである。

「このような極小ベアリング製造に関するノウハウが培われたのは、35年の歴史の積み重ねですね。最初は5〜6名の小さな作業場からのスタートでした。決して手先が器用な人ばかりではないのですが、コツコツ丁寧に仕事ができる性格が向いていたのかもしれません。世界一のベアリング企業である北日本精機さんの技術を支える職人集団として、誇りを持って仕事をしています」

重度の身体障害者による本格的なIT事業

ベアリングに続く歴史を持っているのが、コンピュータを使ったIT事業「スタジオサーティ」である。データパンチやプログラム作成といった作業からスタートしたクピド・フェアのIT事業が、全国でも一躍脚光を浴びたのは1993年のマルチメディア事業への本格参戦からであった。映像・テキスト・音声などのデータをパソコン上で加工し、インタラクティブ(双方向性・対話型)なCD-ROMや展示コンテンツを作成するクピド・フェアの最新技術は、関係者の間で注目の的となった。

北海道電力株式会社「オール電化住宅インフォメーションシステム」、室蘭市「白鳥大橋クイズボックス」、小学館「スーパー・ニッポニカ日本大百科全書」CD-ROM、株式会社サンリオ「サンリオキャラクター大百科」CD-ROM...等、当時手掛けた仕事の多くは、時代の最先端技術を駆使したものである。

話題を呼んだのは、高度なマルチメディア技術だけではない。これまで一枚一枚手描きで彩色してきたアニメーションのセル画制作工程にコンピュータを本格的に導入したのは、クピド・フェアが日本では初めてだった。インターネット回線はアナログが主流だった時代に、超高速光ファイバー回線で東京と結び、不自由なく画像データをやりとりするという近未来のシステムを構築。長期連続テレビアニメとしては世界初となったフルデジタルアニメーション「ビッド・ザ・キューピット」(テレビ東京系)の彩色を請け負っている。

地方の障害者施設でこうした最先端の取り組みが実践されている様子は、当時さまざまなメディアで紹介されたので、ご存じの方も多いだろう。「福祉施設でこれほどまでにコンピュータを業務化しているのは、全国でもここしかない(2001年1月1日付北海道新聞)」と絶賛されるほど、華やかな事業展開を図っていたのである。現在のIT事業部門(スタジオサーティ)の現場を取り仕切る杉山健さんは言う。

「あの頃はバブル全盛の時代でもありましたからね。最近は、昔ほど派手な動きはなくなっていると思います。セル画の仕事は、数年後に海外に流失してしまいましたし、双方向性コンテンツの制作も、技術の進歩とともに仕事量が減っていきました。現在の仕事の中心は、WEB制作、DTP、システム開発、三次元CADデータ加工、画像加工、経理書類等アナログ伝票のデジタル変換、等々。コンピュータを使ったあらゆる分野の仕事を、地道にこなしています」

華やかさはなくなったとは言っても、かつてはマルチメディア技術で鳴らしたスタジオサーティである。これまでに培ってきた技術の蓄積が、現在の仕事にも活かされているというのだ。

「たとえばホームページを製作する場合でも、企画構成やデザインはもちろんのこと、データベースと連動したWEBシステム(動的ページ)の開発などが当たり前のように求められるようになっています。ところが多くのホームページ制作会社というのは、守備範囲はデザイン系かシステム系のどちらか。双方を社内で完全にこなせる会社というのは、あまりないのですね」

ここ数年で増えてきた、クピド・フェアらしい製品もある。三次元CAD技術を活かしたペーパークラフトである。動物や人形などのペーパークラフトの展開図を作っているのだ。主にプリンター会社がWEBサイトで提供する無料サービスの仕事だが、旭山動物園では「動物ペーパークラフト」としてお土産用に販売され、隠れたヒット商品となっているらしい。

このクラフト制作技術をさらに進化させたのが、ペーパージオラマである。博物館等で陳列されることが多いミニチュア立体模型を、紙で作ってしまう試みだ。非常に低コストで制作できるのがウリで、すでに北海道コカコーラボトリング札幌工場の工場見学者用の模型として初採用されたという。IT技術を使ってこのような事業展開を模索するというのも、さすがにスタジオサーティならでは。多彩な技術者集団から、今後もワクワクするようなアイデアが生み出されていくに違いない。

全国的にも稀な、赤色LEDをフル活用した野菜工場

最先端の技術を駆使した事業といえば、2004年から開始した革新的な野菜工場「コスモファーム」を忘れるわけにはいかない。これは、太陽光の代わりに赤色LEDを利用することにより、安全・新鮮・栄養豊かな葉野菜(リーフレタス・ベビーリーフ)を栽培するという宇宙時代の「野菜生産工場」なのである。

外部を遮断する密閉型工場のため、病害虫がまったく発生しない。衛生管理を徹底でき、雑菌の繁殖数は露地栽培の数千分の一以下である。収穫された野菜は、常温でも一週間以上保存することが可能だ。天候にも左右されないため、1年間を通じて安定的に生産できることが最大の特色だろう。全国でも指折りの豪雪地帯である岩見沢の冬でも、「コスモファーム」の中では毎日みずみずしい野菜がすくすくと育っている。

(写真提供:クピド・フェア)

LEDを使った野菜工場というと、露地栽培と比較すると味の劣る野菜しかできないのでは?という疑問も湧くが、どうやらそれはまったく見当違いのようだ。菅原久美子総務部長は、「コスモファーム」野菜のおいしさのヒミツについて科学的に解説してくれた。

「660ナノメートルの波長を持つ赤色LEDの光は、植物の生育にもっとも適しているといわれています。そのため、露地栽培と比較しても総カロチンやビタミンAが15倍も豊富な、栄養豊かな野菜に育つのです。優れているのは栄養面だけではありません。食感も柔らかくて、フレッシュでみずみずしい。何よりも、リーフレタス独特の苦みがまったくありません。これらの点が総合的に評価されて、岩見沢地区の学校給食や病院食に提供する生野菜として採用されました」

雑菌に対して非常に神経質ともいえる学校給食や病院食で、生野菜が提供されるというのは画期的なことである。コスモファームで生産されるレタスがいかに安心・安全な野菜であることの何よりの証だろう。最近では原発事故による路地野菜の放射能汚染の影響もあり、ますます需要が増えているらしい。2011年末からはコープさっぽろの宅配商品としての取り扱いもスタートし、売上も大幅アップした。現在では、1日に約100kgのレタスを定期的に出荷できる体制が整っている。2012年には、最新の設備を完備した第2工場も完成した。

農業を手掛ける障害者就労系施設は数多いが、このように赤色LEDを活用した最先端かつ本格的な野菜工場を運営しているのは、全国でもクピド・フェアだけだろう。農業の未来を担うと期待されている技術だけに、この事業の行方は多くの農業関係者も注目しているはずだ。

障害者による障害者のためのオリジナル福祉機器製造

もう一つ、クピド・フェア独自のオリジナル事業を紹介しておきたい。オーダーメイド車いすを中心とする福祉機器の製造である。2008年にクピド・フェアがこの事業を開始するまで、北海道には車いすを製造する事業所が皆無であった。車いすというのは本来、障害程度や年齢の違いにより、使う人の体にあったオリジナルを作るのが好ましい。しかし地元に車いす製造企業がないため、多くの北海道住民はオーダーメイドで車いすをつくることを諦めていた。

「みんなが困っていることでしたので、それなら私たち自身でこの事業を立ち上げようということになったのです。私たちは、障害者施設も老人施設も運営している、いわば車いすのプロであるわけですから。」(菅原総務部長)

事業をスタートさせるにあたり、仙台にある福祉機器製造企業にお願いし、クピド・フェアの職員(障害者職員を含む)を半年間出向させて、徹底的に技術を学ばせてきた。日常的に車いすを使っている障害者自らが車いすの製造を手掛けているため、クピド・フェアで作られる製品には使う人の視点に立った気遣いに溢れている。

オリジナルの車いすを作りたいというお客様がいると、まず状態を確認するためにじっくりカウンセリングをし、最適の機能を持たせた設計図を作成。見積提出後に、具体的な製作にかかることになる。完全オーダーメイドが売り物のため、作業はパイプの切断や溶接からスタートし、タイヤのはめ込み、シート生地の縫製に至るまで、ほとんどすべての工程が手作りだ。そのため、クッション素材の選択や厚み調整、40種類も揃っているシート柄の選択まで、すべてお客様の希望通りのオンリーワン車いすを作り上げることが可能なのだ。

「けいれんが強く、足台からすぐ足が落ちてしまう人のために、長いフットプレートを付けるようにしたり、電動車いすでサッカーをする選手のためにステップに鉄のバンパーを設置したり、お客様のどんな要望にも必ずお応えしています。分解掃除や部品の交換などの細かなメンテナンスもOKです。車いすというのは障害者の日常生活を支えてくれる大切な器具ですから、できる限り真摯に対応していきたいですね」(福祉機器製造担当:成田さん)

車いすの他にも、水圧式昇降リフター「湯遊(ゆうゆう)くん」(平成10年度グッドデザインほっかいどう受賞)や、重度身体障害者・高齢者向け特殊排泄用ベッド「快適だ〜い」、北海道立工業試験場との共同開発による電動移動用補助動力「プニット」、足こぎ車いす「ピーウィ」等、さまざまな製品が開発されている。これらの基本的な開発コンセプトはすべて、利用者の「安心・安全・快適」をめざすこと。障害者施設だからこそ持ちうるノウハウを最大限に活かした、素晴らしい事業だと思う。

オンリーワン技術の確立こそが、クピド・フェア事業の最大の特色

これまで駆け足でその代表的な事業を紹介してきたが、クピド・フェアの事業はいくら取材してもしきれないほどの種類の多さである。しかもそのほとんどが高度な職人技術や最先端の設備によって構築されている。これらの事業をすべて牽引してきたのが、吉田栄次理事長(64歳)である。法人を統括する立場でありながら現在も現役の事業部長として、職員たちを直接叱咤激励する。地域の異業種交流会にも積極的に参加し、つねに新しい事業アイデアを探しているらしい。マルチメディアも野菜工場も福祉機器も、こうした交流会で知り合った人脈で、次々に事業化に結びつけてきたのである。吉田理事長は語っている。

「社会福祉制度の改定により、福祉施設はどこも厳しい経営環境にさらされています。当法人も経営的に大変厳しい時期もありましたが、自助努力でなんとか乗り越えてまいりました。これからは施設収入の不足を、事業収入でまかなうくらいの努力をしていかないと、施設運営は立ちゆかなくなってくると思います。そのためにもますます事業の活性化を図っていく必要がありますね」

法人案内パンフレットの冒頭には、「目の悪い人でも眼鏡をかけることによって、精密機械の組立などの細かい仕事ができるようになります。足の不自由な人も、車いすに乗って動くことができれば働けます。身体の障害を補助する道具や機械設備があれば、障害者であっても十分に働くことができるのです」と書かれている。「障害者の事業所だからこそ、開発の宝庫であるべき」という吉田理事長たちの基本理念が良く理解できる表現である。

しかしクピド・フェア事業の本質は、それにプラスして「オンリーワン技術」がきちんと確立できているところにある気がする。福祉業界において、これほどまでにソフトの重要性を理解・実践している経営者というのは、実はそんなに多くない。その先進的な取り組みの数々は、全国の施設関係者にこれからも強い刺激を与えていくことだろう。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。