社会福祉法人空知の風(北海道岩見沢市)

岩見沢産の食材にこだわり、地元とのコラボでオリジナル商品を開発する

空知の風の概要

空知の風は、「たのしいどう」(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、「きっちんどう」(就労継続支援B型事業・生活介護事業)の二つの障がい者就労系事業所と、「歩〜夢」(グループホーム&ケアホーム)等を運営する社会福祉法人である。

もともと近隣の栗山町にある、栗山ゆりの会という法人で「ハローENJOY岩見沢」という事業所を運営していたのだが、空知地区の障がい者に特化したサービス展開を図りやすくするために、2012年に社会福祉法人空知の風として独立し、事業所名も一新することになった。

事業科目は、「たのしいどう」が地元産の小麦を使ったパンや菓子の製造販売・ランチカフェ運営・企業就労支援・調理(2事業所の利用者の昼食製造受託)・ギフト製作・下請作業であり、「きっちんどう」がおにぎり・弁当の製造販売である。

二つの施設が建っているのは、碁盤の目の形で整然と整備された岩見沢駅から歩いて10分程度の、住宅地の真ん中だ。生活感溢れる地域の中で、利用者とスタッフたちが明るく元気に躍動している。そんな雰囲気を感じさせる比較的新しい事業所だ。

地元産の食材にこだわる「たのしいどう」の製パンや喫茶事業

「たのしいどう」の製パン・製菓事業の特色は、岩見沢産小麦キタノカオリを使っている点である。キタノカオリというのは、最近製パン技術者の間でもっとも注目されている新しい小麦品種の一つ。国産小麦としては希少な、パンを作るのに向いた強力粉だ。ほのかに黄色を帯びた粉は、焼き上がったときに独特の香りがするという。そんなキタノカオリの中でも、岩見沢の畑で収穫された小麦だけにこだわり、美味しいパンを生み出すことに成功した。

メニューのラインアップも豊富である。まるで米粉パンのようなモチモチ食感が特色の岩見沢食パンや抹茶食パン、くるみ食パン、バターロール、クロワッサン等。他にも、あんぱん・クリームパン・チョコクリームパン・メロンパン・カレーパンといった定番菓子パンや、豆パンやかぼちゃあんぱん、野菜グラタン、カルボベジタ、ぶたバーグ、じゃがボー、ハニーマーガリン、ピリマヨウンンナー、ぶたまる、おにたまロール、たこやきぱん、じゃがチーズ、わかめちゃん...、等々。北海道ならではのさまざまな食材をパンと組み合わせ、新しい総菜パンを次々と産みだしている。

岩見沢の名物「高麗キジ」を飼育する障がい者施設とのコラボで、キジの卵を使ったシフォンケーキやプリンやクッキーも新たに開発した。どれもキジの卵独特の濃厚な味が特色で、季節限定商品(キジの産卵期が初夏のみのため)ながら、地元メディアでも大きく取りあげられるヒット商品となった。

焼きたてのパンが食べられるランチカフェでは、岩見沢産小麦キタノカオリから作られたパスタを味わうこともできる。ここでもまたキジの挽肉と岩見沢特産のタマネギを絡めたトマトパスタを独自に開発するなど、地元食材へのこだわりは徹底している。住宅地の真ん中にあるため、近隣の住民たちは、毎日美味しそうなパンや料理の香りにつられて、パン工房や喫茶店に自然と足が向いてしまう。食を通じて地域と密着する理想的な施設の姿が、ここにはある。

「きっちんどう」の肉巻きおにぎりが、大好評

パン工房に続いて空知の風がオープンしたのが、「きっちんどう」というおにぎり店だ。こちらも、もちろん岩見沢産100%のお米を使う。岩見沢には石狩川水系のきれいな水を使い、減農薬による完全循環型農業を実践する善生農園という素晴らしい農園がある。ここで収穫された美味しいお米を使い、北海道産の新鮮な海産物や特産品の数々を具にし、創作おにぎりとして販売しているのである。

道北から仕入れるというシャケやタラコ、イクラをたっぷり握った海産物系の定番おにぎりが美味しいのは当然のこととして、この店の名物になっているのが「肉巻きおにぎり」だ。「肉巻きおにぎり」といえば、本来は宮崎県が誇る新しい名物ファーストフード。北海道とは縁がなさそうにも思えるが、どうしてこのような商品を開発することになったのだろうか? 法人事務局長の松田愁司さんに聞いてみた。

「肉巻きおにぎりに関しては、岩見沢とはまったく関係がないですね(笑)。たまたま当法人の橘常務理事が研修会で宮崎に行くことがあり、現地で食べてその味に感動したというのが商品化のきっかけです。おにぎり屋さんというとどうしても地味なイメージになりがちですが、肉巻きおにぎりを全面に売り出せば若い人たちにもアピールできるという狙いもありました」

結果は大成功。お年寄りから小さな子どもたちを連れたお母さんたち、若い学生に至るまで、さまざまな年齢層のお客様が訪れ、開店当初から現在まで不動の一番人気を誇っている。1個160円という破格の価格設定(本場・宮崎では250円以上することが多い)も、人気に拍車をかけている。北海道とはあまり関係ないといいつつ、もちろん道産の豚肉を使用しているし、「肉巻きチーズおにぎり」「みそ豚肉巻きおにぎり」等、シリーズ商品ではしっかり他の北海道食材ともコラボさせている。


  • 何を注文しようか悩むほどの豊富なおにぎりメニュー

  • 子どもたちにも肉巻きおにぎりは大好評!!

「きっちんどう」では「肉巻きおにぎり」の他にも、「アスパラ天むす」「ねっぱ味噌肉巻き」「キジの半熟卵おにぎり」「岩見沢キジ肉そぼろ」「サンドイッチおにぎり」といったオリジナル商品を次々開発している。昨年12月には、岩見沢市立緑陵高校商業科の高校生たちの発案による「なまらカツサンド」を発売した。食欲旺盛な高校生のアイデアらしく、食べ応え十分の分厚いカツがサンドされたライスバーガー風の商品だ。

おにぎりというのは誰にも親しみやすい商品であるがゆえに、「お客様に飽きられないための断続的な商品開発が重要なのです」と、「きっちんどう」の横田雅之施設長。ただでさえ店いっぱいに広がっているおにぎりの看板お品書きは、今後もどんどん追加されることになりそうだ。

急速冷凍の技術を活用し、ヒット商品の大量販売をめざしたい

「肉巻きおにぎり」をヒット商品として、「たのしいどう」「きっちんどう」のパン・おにぎり等は地元住民たちに日常的に受け入れられつつあるが、事業的には課題が山積しているのも事実だ。最大の課題は、工賃だろう。現在の二つの施設の平均工賃は、20,000円程度にすぎない。店舗以外にもイベントや宅配などで懸命に販路を広げる努力をしているものの、地域性を考えた場合に大幅な拡大は望めないのだという。

そこで現在模索中なのが、ヒット商品である「肉巻きおにぎり」を急速冷凍することによって、全国のイベントで販売したり、施設の給食等に採用してもらう営業展開である。特徴ある商品であるため、ユニークさが受けて、すでにいくつかの施設から数100個単位の発注があったという。橘正樹常務理事(39歳)は、こうした考え方が今後事業を拡大するポイントになるはずだと語っている。

「パンやおにぎりというのは、基本的に作ったらその日に売り切らないといけない食品ですからね。ロス率の高さが一番のネックとなっています。しかしこれらの商品を冷凍して販売できれば、作り置きが可能になります。冷凍技術によって、おいしさをそのまま現地で再現できれば、販売圏がもっと広がり全国に作りたての味を楽しめるとアピールすることも可能です。これからはそんな付加価値ある商品をどんどん開発して、大量販売ができるようにしていきたいと考えています」

パンに関しては、すでに下地ができつつある。札幌のすすきのにあるチャバダという人気スペイン料理店の主食パンを、「たのしいどう」で製造しているというのだ。ヨーロッパ全土で一般的に食べられるというスペインパンの生地を作り、急速冷凍して定期的に店舗に卸している。ロスがまったくなく、安定した売上確保が望めるこのようなスタイルの事業展開が、今後は中心になってくるらしい。橘常務理事は、続けて将来の夢を語ってくれた。

「将来的にトライしてみたいのが、おにぎり屋のドライブスルー店です。肉巻きおにぎりが広い年齢層に受け入れられる商品なのはわかりましたが、現在の店舗での売上ではたかが知れています。もっと人出の多い国道沿いに出店すれば、車でも手軽に変えるファーストフードとして話題になると思うのですよ。おにぎりというのはお手軽で車とも相性がいい食べ物ですからね。きっと飛躍的な売上増が見込めると信じています」

北海道や岩見沢の食材にこだわり、地元企業や施設とも連動しながら事業を広げてきた空知の風。鉄道や炭鉱に変わって全国発信できる岩見沢の新しい名物は、もしかするとここから生まれてくるのかもしれない。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。