社会福祉法人旭川健育会(北海道旭川市)

ネットワーク化を武器にした商品製作システムに活路を見いだす「旭川美景園」

道北地域唯一の身体障害者入所支援施設

旭川健育会は、旭川美景園という障害者支援施設において「生活介護」「施設入所支援」「短期入所」等の事業をおこなう社会福祉法人である。主たる対象者は身体障害者であり、それぞれの定員は「生活介護」「施設入所支援」共に50名、「短期入所」が2 名となっている。

北海道の旭川市街中心から美瑛川を登った盆地に位置するこの施設は、創設以来25年にわたって重度身体障害者たちが生活と仕事の場を兼ね備えた道北地域唯一の入所型施設として重要な役割を担ってきた。

作業の中心は、木工玩具製作である。新体系移行前は、この他にも貝磨きや園芸等の作業品目が用意されていたが、現在は完全に木工作業に特化した。旭川美景園で製作される木工玩具は、木の素材やデザインの美しさに定評がある。事実、千歳空港や旭山動物園等、北海道有数の観光スポットにおいて販売されるほどのレベルを誇っており、さまざまな業者からの発注依頼に対しても対応可能な生産体制が整っていることでも知られている。

日本一設備のない木工作業施設が、全国有数の生産力を誇る秘密

しかしそんな完成度の高い木工玩具を製作しているイメージで旭川美景園を訪れると、まったく拍子抜けしてしまうことになる。作業の現場を案内されても、そこに見られるのはほとんどが玩具を綺麗にやすりがけする二十数名の利用者たちの姿だけである。普通は木工制作の現場で中心を占めると思われる、糸鋸や木材を切断する機械の姿がまったく見られない。そもそも機械が動いている音自体、まったく聞こえてこないではないか。この点について率直に尋ねると、生活支援部・部長の小原直人氏(47歳)は笑いながら語ってくれた。

「実はうちは、日本一設備を持っていない木工作業施設なんですよ。なにしろ現在保有している設備といったら、糸鋸二台と、ボール盤、それに丸鋸二台だけ。しかも現在はほとんど稼働していません。ですから、作業の現場はこれが全て。他にお見せするところはとくにありませんね(笑)。」

どうしてこれだけの貧弱な設備で、高品質の木工玩具を大量に作ることが出来るのだろうか? 実は、そこに小原氏が考え出したオリジナル生産システムの秘密が隠されていた。その秘密とは、生産の「外注化」である。つまり、木工作業のメイン行程である「木の切断」といった加工部分を外注化し、最終的な組み立てや磨き、包装作業のみを旭川美景園でおこなうというものだ。

旭山動物園等で現在大人気の動物パズルは、ほぼ完成品とも言える状態で納品されてきたものを利用者たちが丁寧にやすりがけしているだけだし、積み木トラックに至っては完全に組み立てられた状態で納品されている。旭川美景園の利用者たちの作業は、やすりがけした積み木をトラックの荷台にセットしていくだけなのである。

もちろん生産の「外注化」といっても、その制作を依頼するのは木工作業をおこなっている他の障害者施設(北海道内が中心)であるし、そもそも製品の企画開発は小原氏自身がおこなっている。生産の「外注化」という言葉を使うと語弊があるかもしれない。正しくは施設間連携、施設間ネットワークの有効活用と呼ぶべきだろう。


  • 積み木トラックは、ほぼ完成品のこの状態で他施設から旭川美景園に納品されてくる。

  • 仕上げ班をすべて取り仕切っている利用者の石田和江さんは職歴22年のベテランだ。

ナイスハートバザールが改革のきっかけだった

もちろん旭川美景園でも、以前は他の施設のように製品を100%施設内で加工生産していた。デザイン力と素材と仕上げの美しさに定評がある製品群は、どんなユーザーからも好評を博していたのである。小原氏が現在のような「施設間連携」システムを考案するようになったきっかけは、昭和60年から始まったナイスハートバザールであるという。日本セルプセンターの前身である旧中央授産事業振興センターが手がけたナイスハートバザールは、全国各地の有名デパート内で施設製品を販売するという展開で、北海道では平成13年までの16年間にわたって実施されていた。

札幌市内で開催されたこのバザールにおいて、旭川美景園の製品は売れに売れた。どんなに作っても、生産が間に合わない状態に陥ってしまったのである。さらに千歳新空港内にオープンした福祉ショップ「るぴなす」が開催したるぴなすフェアも大きかった。5日間の開催で旭川美景園の製品だけで100万円の売上があるという状態になり、重度身体障害者が利用者のほとんどを占め、機械力もほとんどない施設の体力不足が露呈してしまったのである。

ヒット商品を作ったとしても、生産力がないために需要に応えることができない。ここまでは施設事業ではよくある展開である。この場合、一般的には二つの解決策が考えられる。一つは「設備や職員を増やして、需要に応える生産体制を整える」積極策。もう一つは、「福祉施設だから、残念ながら突然の大量注文にはお応えできない」と言って顧客に理解を求める消極策だ。

しかし旭川美景園では、これら一般的な解決策をどちらも採用しなかった。いくら機械を導入しても、現場の能力を考えると結局職員に負担がかかるだけであり、重度障害者を抱える旭川美景園にはそぐわないのではないか? ただでさえ年々重度化、高齢化がテーマとなっている施設の中で、職員配置も作業担当から介護担当への振り分けが多くなっている状況だったのだ。

かといって、せっかく製品が売れている状況をみすみす逃すのはもったいない。そんな悩みをナイスハートバザールで知り合った他の施設関係者に話すと、他の施設ではうらやましいくらいの機械設備が用意され、生産力にもまだまだ余裕があることがわかってきた。そこで「これを活用しない手はない」と、小原氏はひらめいた。もともと旭川美景園のもっとも得意なところは、「製品企画」と「仕上げの磨き」であるのだから、自分たちはそれに特化すればいい。

「以前から福祉施設はどうして100%内部でものづくりをしたがるのだろう?という疑問はずっと持っていましたね。トヨタだって日産だって、どんな大企業でも自社内で全てを作り上げる企業はありませんよ。どこも関連会社に委託して、製品を一緒に作り上げているわけでしょう。施設だって同じことです。いや、むしろSELPの場合には日本中にネットワークを持っているわけですから、それらを活用したら凄いことができるはずなんです」

授産施設と療護施設の狭間で格闘する旭川美景園

小原氏たちがこのような思い切った発想転換ができたのも、旭川美景園という施設の特殊な環境によるところが大きいかもしれない。それは旭川美景園が、授産施設(旧法)でありながら、実態は療護施設との間に位置するような重度障害者のための入所型生活支援施設であったということだ。

障害者の地域生活への移行が叫ばれているが、旭川という地域特性を考えたときに、利用者たちが地域で暮らすのはほとんど困難なのが現状である。なぜなら、近隣には車椅子のままで生活できる住宅自体がほとんどないし、雪が降ったときの対応を考えると一人暮らしは不可能に近い。大雪が降ると(年中あることだが)、家から一歩も出られないし、そもそも車自体が雪の中に完全に埋もれてしまう地域である。もし旭川美景園を出なければならないとするなら、彼らにとって行き場は、療護施設か老人施設ということになってしまう。

そんな旭川美景園にとって、障害者自立支援法の制定による新体系への移行はむしろ好都合であった。以前はあくまで「働くことがメインである」授産施設であるため、利用者に少しでも作業を担ってもらうという指導をせざるを得なかった。しかし新体系への移行後は、「生活介護事業」として「生産活動」「創作活動」「日中活動」の三つの中からそれぞれの希望に応じた活動を選べる施設になったのである。

「やはり一部の利用者にとっては、当園の作業が負担に思っていたのは事実かもしれません。新体系に移行して、いわゆる生産活動(仕事)ではなく創作活動(生き甲斐)を選択した人たちが、かえって元気になってくれたみたいですしね。無理に働かなくてもいいという制度を選択できることが、彼らの心にゆとりを与えてくれたのではないでしょうか」と、林春夫園長(50歳)

寝たきりという重度障害ではないが、かといってバリバリ仕事を出来るだけの体力も気力もないという旭川美景園の多くの利用者たち。ここでは高い工賃を実現することが施設運営の主たる(絶対的な)目標ではなく、むしろ高齢化・重度化する障害者たちの生き甲斐や生活保障という支援サービスのあり方が問われてきたわけなのだ。

「けれども、それは施設側の事情でしかありません。製品を購入していただくお客様には、まったく関係のないことです。発注される仕事を断ることなく、かといって利用者たちの作業負担を増やすこともなく、最低限の工賃を減らすこともない。本当に難しいテーマだったのですが、小原部長の発想ですべてが上手く回転し始めました。外注加工といっても製品自体は当園のオリジナルですし、最後の仕上げは自分たちが責任持ってやっていますから胸を張って自社製品だと言うことができます。他の施設と連携することで、こんなに小さな施設でも膨大な生産体制が確保できることを証明できたのが大きいですね」

共同受注・共同生産をもっと他の施設も検討すべきでは?

現在、旭川美景園では木工作業をおこなっている北海道内の大きな4施設(春光会・わかふじ寮・木馬館・すずらん福祉園)の他、川本園や春日園(埼玉県)、守山作業所(愛知県)や宰府園(福岡県)ともネットワークを組み、製品製造委託をおこなっている。

「こんなことをしたら他の施設にアイデアを盗まれるよと忠告してくれる人もいますが、どんどん盗んでもらっていいと私は思いますよ。製作を委託しているのはライバル業者ではなくて、あくまでSELPの仲間なんですから。いいモノがあるなら真似してもらって、他の企業に売り込んでもらってかまいませんよ。それが結果的に施設で働く人たちの工賃アップにもつながるなら、素敵なことじゃないですか」と、小原氏。

自身を「他の施設に無理難題を押しつけてばかりで、嫌われているかもしれません(笑)」などと自嘲気味に話すが、氏の構想はまさに日本セルプセンターがめざすところと同じである。本年度の6月に発行された「スポーツ・文化事業マニュアル・実践モデル報告集」の冒頭にも、川俣宗則会長が「共同事業の意味」と題する文章を記している。

「セルプセンターの最重要事業の一つが、共同仕入れ、共同生産、共同販売による会員施設間の連携と共有化によって、利用者の賃金改善(工賃倍増計画の促進と地域生活実現)に寄与することです...(後略)」

旭川美景園の取り組みは木工作業部会を中心にして、今後ますます拡大し続けることだろう。施設ごとの環境や特性を活かしつつ、いかに消費者ニーズに沿った製品を開発し、それを効率的に製造・販売していくべきか。大量受注に対する製品供給法の一つのあり方として、このシステムがもっと多くの施設関係者に広められることを期待したい。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。