社会福祉法人厚生協会(北海道新得町)

社会福祉法人厚生協会は、聴覚障害者専門の施設として歩んできた厚生協会

聴覚障害者専門の施設として歩んできた厚生協会

厚生協会は、主に聴覚障害者の社会復帰を目的に設立された社会福祉法人である。わかふじ寮(施設入所支援・就労移行支援・就労継続支援B型)、身体障害者授産施設第2わかふじ寮(2011年4月より、新制度に移行予定)、わかふじワークセンター(就労継続支援B型)、屈足わかふじ園(身体障害者療護施設)、屈足わかふじデイサービスセンター(身体障害者デイサービスセンター)の他、やすらぎ荘(聴覚障害者養護老人ホーム)、新得やすらぎ荘(特別養護老人ホーム)、新得やすらぎ荘(訪問介護事業所)、新得やすらぎ荘(居宅介護支援事業所)、日帰りサービスセンターやすらぎ荘(指定通所介護事業所)、ひまわり荘(養護老人ホーム)等の老人施設に至るまで、計11事業所を運営している。

法人の歴史は、昭和28年に木工訓練を通して聴覚障害者の自立訓練を促すために身体障害者授産所わかふじ寮を建設したのが始まりである。戦後の混乱期にろうあ学校の生徒たちが卒業後も安定した生活を送れるような施設として、聴覚障害者の教育に生涯を捧げた教育家であった藤川マキエ2代目理事長と、自身が中途聴覚障害者であった田中皎一3代目理事長が、篤志家の援助を受けて共同で設立した。木工作業訓練を選んだのは、聴覚障害者が比較的手先が器用な人が多かったためと、森林資源に恵まれた北海道新得地方には営林署などの施設や関連企業も多く、技術指導などの点で協力者が見込まれたためであるという。

設立からすでに56年。聴覚障害者専門の施設として全国でもつねに先駆的な活動に取り組み、次々に事業を拡大してきた。その結果が、聴覚障害者施設→聴覚障害者養護老人ホーム→特別養護老人ホーム→日帰りサービスセンターという流れにつながっていく。とくに聴覚障害者専門の老人ホームというのは、全国的にもまだ珍しく(全国で9施設)、厚生協会を頼ってくるお年寄りたちは道内だけではなく関東地区にも存在しているのだという。

町が全面的に支持する理想的な環境

厚生協会の最大の特色は、所在地である新得町の町の全面的な支援を受けて各事業が成り立っていることに尽きるだろう。それぞれの施設を設立する際の建設資金に関しても、国庫補助や民間助成団体からの助成金だけでなく、新得町からの補助金が多くを占めている。社会福祉医療事業団からの債務に関しても、普通は法人が返済すべきものをなんと新得町が返済するという条件のものまである。最近新築した屈足わかふじ園などに至っては、総工費9億6千900万円のうち法人が負担した自己資金はたったの657万円だったというのだから驚きだ。まさに町ぐるみで支援する法人、それが厚生協会なのである。

北海道の中心に位置し、雄大な東大雪の山々と日高山脈に抱かれた町・新得町。地中海クラブのバカンス村やサホロリゾートが建ち並び、リゾートの町として売り出してはいるものの、地方の町に共通する若年層の流失、過疎化の流れは深刻だ。町の中心的存在であった営林署が1996年に閉所されて以来ずっと長い間、経済活動も停滞気味である。決して豊かとは言えないこの町が、一社会福祉法人に対してなぜここまで支援しているのだろうか?

その答えは新得町という町の規模にあった。人口はわずか約6,780人。厚生協会9施設で働く人たちは現在、職員と利用者を合わせると約500人になる。家族も入れると合計で1,000人を超える数字である。つまり、町全体の七分の一が厚生協会に関わる人たちなのである。ここまで法人関係者の人口比率が高まると、もうこれは町の施設と言っても過言ではないだろう。事実、佐々木忠利理事長は新得町の元町長であり、田中雅之常務理事の実弟が現在の新得町副町長である。歴代の法人の理事長は、基本的に町関係出身者が務めてきたということからも、「厚生協会=新得町の施設」という図式が理解できる。

過疎に悩む新得町が、町の活性化策の一つとして福祉施設の誘致を掲げ、厚生協会の発展を後押ししてきた。施設が増えるたびに人口も増え、雇用の場も確保されていく。地方都市ではよくある施策だとはいうものの、ここまで町と一体化して成功を収めた事例は珍しいのではないか。新得町のホームページにアクセスすると、「ロケの町」「鉄道の町」「電源の町(ダムが多い)」「リゾートの町」と並んで、「福祉の町」としてわかふじ寮の活動が紹介されている。聴覚障害者を中心とした福祉施設事業の56年にわたる歴史が、町と一体となって歩んできたことの証明でもある。

全国のホテルや施設の特注オリジナル家具を製造する

そんな厚生協会の主力となる事業は、わかふじ寮における木工作業だ。木工と言っても、ここで繰り広げられている事業のメインは本格的な「家具製造」である。官公庁やホテル、社会福祉施設などの建設の際に作る特別注文の造作家具の受注生産を基本とする。その受注先リストを一覧すると、「本格的」の意味が理解できるだろう。何しろ、帯広ステーションホテル、横浜グランドインターコンチネンタルホテル、ホテルサホロ、地中海クラブクラブメッドサホロ、然別湖畔温泉ホテルといった一流ホテルから、近郊の官公庁施設、全国の社会福祉施設に至るまで、すごい数の施設家具の製造を委託されてきたのである。

西洋環境開発株式会社が新得町にホテルサホロを建設した際には、新得町町長と助役の強い推薦もあり、ホテル内の家具を一手に引き受けている。総点数600点という超大型受注である。田中雅之常務理事(56歳)は、当時のことをこう振り返っている。

「初めての大型案件でしたが、西武からも技術者を派遣してもらい、詳細な工程表を作成して、工程会議も繰り返しおこない、全員が一丸となって家具を製造しました。自然とチームごとの競争になって、毎日残業続きで仕事をした結果、なんと納期の一週間前に完成してしまったのですよ(笑)。完成した家具をホテルに運んだときのことも忘れられません。真新しいクロスを万が一でも傷つけてはいけないと、二人で持てる家具も4人で四隅をガードして運んだのですが、2カ所だけ弾みでぶつけてしまったんです。建設会社であった大成建設の責任者に詫びに行って、修理費用を弁償すると申し出たのですが、『600個の家具を入れて、たった二個の傷?』と逆に驚かれてしまいましてね。これがきっかけで大成建設が清水日赤病院を建設したときに、家具メーカーとしてわかふじを指定してくださるなど、全国からの注文依頼が増えるきっかけになりました」

このような受注実績からも想像がつくように、わかふじ寮の作業場は施設というよりはほとんど家具製造メーカーの工房である。もちろん重度障害者用の作業品目として、ウエス製造、軽作業、パン工房なども用意されているのだが、最大の売り物である事業が木工作業であることは変わりない。売上高は、全体売上の62%に当たる約7,700万円(平成20年度実績)をこの事業が占めている。技術的にも設備的にも、まさに日本一の木工作業施設として、全国の施設から目標とされているのである。

新たな新事業として期待されるペットフード製造

そんな厚生協会が、2007年より新たな事業としてペットフードの製造販売をスタートさせた。わかふじワークセンターだ。新得町には、廃校になった小中学校がいくつもある。工場はそんな校舎を安価に町から借り受け、ほとんど改装もしないで工場として活用、ペットフードを製造する機械は知り合いのメーカーから中古品を無償で譲り受けた。このラインで製造できるのは、肉を薄くスライスしたり、棒状に加工して乾燥させるジャーキー(乾燥肉)である。無着色・無発色・無漂白の安心・安全にこだわったペットフードとしてコープさっぽろを中心にして販売し、好評を博している。

わかふじのペットフードの特色は、北海道ならではの食材にこだわったグルメ指向の商品ラインアップだ。えぞ鹿肉、ラム、シャケ、ほっけ、たら...等々。中でも一番のお奨めは、えぞ鹿肉であるという。鉄分が豚肉の5倍以上含まれている栄養面に加え、味の面でも舌の肥えたワンちゃんたちには好評である。しかも北海道では鹿がオオカミの減少によって大量発生し、作物や森林を荒らす害獣として駆逐の対象となっている状況なのだ。新得町でもハンターたちが狩った鹿の尾を役場に持参すると、一尾につき奨励金が支給される仕組みがあるらしい。鹿肉ジャーキーがペットフードとして広まり、大量に販売されることは廃棄物処理の観点からも大切なことなのだ。

「昨年度のペットフードの売上高は、約1,600万円。早いうちに4,000万円程度まで引き上げることが、当面の目標ですね」と語るのは、鈴木睦わかふじワークセンター長(49歳)。機械を最大限に活用し、もっと安定的に商品を生産できる技術を確立さえすれば、大手量販店に卸すことも可能である。商品としては、それほど完成されたレベルにあると言っていい。「これまでずっと長い間法人の事業は木工作業を中心に展開してきましたが、これからはそれだけでは限界があります。バブルがはじけて以来、施設の建設は年々減ってきていますから。こんな閉塞状況を打開するためにもペットフード事業を成功させて、ぜひ新たな厚生協会の事業の柱に育てたいですね」

工賃アップの課題に、終着点はない

厚生協会が利用者に支払っている平均月額工賃は現在、わかふじ寮で25,638円、第2わかふじ寮で17,255円、わかふじワークセンターで57,103円という数字である。どんな重い障害を持つ人でも、最低保障として5,000円の工賃を支給するという独自の方針がある。また工賃は「給料というのは、毎年少しずつアップしていくのが一般的な考え」という法人理念ゆえ、どんな重度障害を持つ利用者であろうともこれまで毎年せめて1,000円ずつ上げる努力を重ねてきた。

これに加えて、年二回の賞与支給(夏計で、2ヶ月分)である。さすがにここ数年続く全体の売上減少によって昨年度は賞与がストップし、一人ひとりの生産力に応じた工賃体系のあり方が法人内でも議論され始めたが、基本的に「なるべく多くの工賃を支払ことによって、町で自立生活が出来るようにサポートしていく」という考えに変わりはない。

「厚生協会の利用者たちも、重度化(重複障害)や高齢化によって、さまざまなサービス体系を考えていく時代に変わりつつあります。そのために私たちは老人ホームや療護施設を作ってきたわけですが、決して工賃アップの課題から逃げてはいけないと思います。少しでも高い工賃を確保して、町の中で自立生活を営んでもらうというのが本来の社会就労センターの役割なのですから」と、田中常務。町と共に歩みながら、聴覚障害者にとって理想郷とも言える施設を作り上げてきた厚生協会の今後のさらなる発展が楽しみである。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。