社会福祉法人白根学園(神奈川県横浜市)

可愛いオリジナル製品を次々開発し続ける「のぞみ」&「しらね」

白根学園の概要

白根学園は、社会就労センターしらね(生活介護/就労継続支援B型)、社会就労センターのぞみ(生活介護/就労継続支援B型)、麦の丘(生活介護/就労継続支援B型)、風の丘(生活介護)等の障がい者就労系事業所を運営する社会福祉法人である。

この他、白根学園児童寮(施設入所支援/短期入所/日中一時支援)、光の丘・しらねの里(施設入所支援/生活介護/短期入所)、希望(施設入所支援/生活介護/短期入所/自立訓練)、しらねの里・げんき(生活介護)、自立サポートセンター歩(あゆみ)(自立訓練)等の事業所や、相談支援センターコンシェル、計46か所のグループホームも運営している。

入所型の施設から始まった白根学園だが、利用者の要望や社会の変化を先取りし、通所サービス、就労支援、グループホーム等を積極的に展開してきた。多くの施設を運営する中で、早くから就労支援に力を入れてきたのが社会就労センターしらね(以下、しらね)であり、社会就労センターのぞみ(以下、のぞみ)は6年前にしらねの製菓部門が独立した事業所である。

  • 白根学園 ファッサード
  • 白根学園伝統の縫工作業。刺繍を施した小物や布巾などを製作。

新製品「くす玉」の販売がスタートした「しらね」

白根学園の就労施設としてもっとも古い歴史を持つ「しらね」では、1985年の開設以来(当時は、白根学園通所授産施設)クリーニングと自主製品の製作をおこなってきた。大規模な設備を導入した本格的なクリーニング事業と、細かい職人技術を駆使したポーチや手提げ袋などの縫製品は好評ではあるが、時代への変化と共に事業の変革を迫られている。根橋達治施設長(44歳)は、次のように語る。

「クリーニング作業は大手クリーニング会社と提携し、病院や施設の枕カバーやタオルの洗濯を中心に請け負ってきました。しかし、最近は業界全体が不況にあえいでいて、発注される仕事も激減してきました。加えて、利用者の高齢化です。体力的にクリーニング作業が厳しくなってきた利用者が増えてきたので、彼らが対応できるような軽作業を新たに考える必要がありました」

  • 大規模な設備を導入した本格的なクリーニング事業
  • 細かな刺繍を施した縫製作業が得意

そこで職員たちによって考えられたのが、自主製品として「くす玉」を製作することだった。「くす玉」ならば、主な作業は椅子に座って新聞紙やチラシを細かく切ったり、玉にのり付けすることである。これまでクリーニングに関わってきた高齢の男性利用者でも、無理なく作業に参加できる。刺繍を担当していた女性陣にも高齢化の波は押し寄せていたため、新たな自主製品として格好のアイデアだった。

「パーティグッズとしての『くす玉』って、意外と手に入れることが難しいのですよ。市販のものは、値段がけっこうするモノばかり。安価に『くす玉』を提供できれば、個人のお祝い事などに需要があると考えました」

と、清川由子支援員。一般的に「くす玉」というと、記念式典等の公式行事で使われる大きな飾り玉を思い浮かべるが、「しらね」で製作しているのはあくまで個人用のものである。サイズは、10cmから最大でも25cm程度。完全手作りオーダーメイドなので、中に入れるメッセージや飾りなどは要望に応じることが可能である。

もともと「しらね」の自主生産部門は、細かな刺繍を施した縫製作業が得意だったため、装飾品である「くす玉」作りとの相性は抜群だった。始まったばかりの取り組みのため、具体的な営業先などはまだ決まっていないらしいが、非常にユニークな商品である。福祉施設の製品として他にあまり例を見ないニッチな製品だけに、今後注目される可能性は大きいかもしれない。

  • 自主製品として「くす玉」を製作
  • ニッチな自主製品に期待する製作スタッフ

  • (写真提供:社会就労センターしらね)

可愛いスイーツ作りが得意な「のぞみ」

「のぞみ」は、美味しいスイーツの製造を担当する事業所だ。天然素材にこだわった美味しいパウンドケーキやマドレーヌ、各種クッキーなどを製造販売し、地域のイベントなどで地元の人たちから愛されてきた。

  • メンバーたちの高い製菓技術を凝縮した商品「クマのビスキュイ」

最大の特徴は、可愛いクッキーを製造できることだろう。全国植樹祭のシンボルマーク「かなりんちゃん」をイメージしたクッキーの製造を請け負ったのがきっかけで、以後「あさひくん」(横浜市旭区のマスコットキャラクター)、「おーたん」(大妻女子大学のキャラクター)等のキャラクタークッキーを生み出してきた。絵柄のパーツを別々につくり、重ねることによって絵柄をつくっていく。どれもキャラクターの魅力を十分に再現し、可愛く仕上げた完成度の高い作品ばかりだ。

「クマのビスキュイ」も、メンバーたちの高い製菓技術を凝縮した商品である。クマの手足と顔と胴体のビスケットをそれぞれクリームで接着し、まるで本物の人形のようなお菓子に仕上げている。テディベア好きな女性なら、一目見ただけで歓喜すること間違いない。結婚式の引き出物やホワイトデーのお返しなどに、これほど格好のクッキーはないだろう。難を言えば、「あまりに可愛すぎて、食べられない」ことかもしれない。

この他、スイーツではないが、紙粘土でつくったドーナツ型の携帯ストラップなどもイベントなどで大人気のヒット商品だ。ドーナツ好きの利用者たちが、それぞれ好きなドーナツを自由に作っているらしい。まるで食品サンプルのような精密さである。一つひとつの製品から、楽しそうにつくっている利用者たちの姿が容易に想像できる。他のお菓子とセットしても可愛いが、間違えて食べないように注意する必要があるという。

紙粘土でつくったドーナツ型の携帯ストラップ

グルメ&ダイニングショーに出品した理由

ところで「のぞみ」は2015年2月に開催された「第17回グルメ&ダイニングショー」に、日本セルプセンターの出展施設の一つとして参加した。グルメ&ダイニングショーとは、日本最大級といわれる東京ギフトショーと同時開催される食品関係の商品見本市である。一般流通市場への販路拡大のきっかけ作りのために、日本セルプセンターでは会員施設から参加施設を募集した。この取り組みに、「のぞみ」スタッフは洋菓子のフロランタンで参加したのである。橋本麻美支援員は、参加の理由を次のように語っている。

「私たちの施設は、ユニバーサルベーキングカップ(現チャレンジドカップ)に2回入賞するなど、昔から製菓技術が高く評価されてきました。ただし、2005年の入賞を最後に最近は少し動きが停滞気味だったので、外部の方にどれだけ私たちの製品が通じるかを試してみようと思ったのです」

今回のイベントに参加するための条件として、日本セルプセンターが提示していた条件は、次のようなものであった。

  • 日本セルプセンター会員であること
  • 自らの事業所で製造していること
  • 食品表示等のコンプライアンスが遵守されていること
  • 製造に従事する職員への衛生管理講習を定期的に実施していること
  • 生産物賠償責任保険(PL保険)に加入していること
  • 卸価格60%の設定が可能な製品
  • 製菓商品であること
  • 出展に際し、食品表示ラベル等の修正に応じられること

一般流通を前提とした場合、セルプセンターが提示した参加条件は当然なのだが、比較的小規模の障がい者施設にとってハードルが非常に高いのも事実である。「のぞみ」では、その点をどのように考えていたのだろうか? 根橋施設長に伺ってみた。

「簡単に言うと、あまりよく知らなかったというのが実情ですね(笑)。ただ私たちにとって営業開拓はとても苦手な分野の一つ。少しでもきっかけが見つかればいい。当たって砕けろ、みたいな精神でとりあえず参加してみたというのが正直なところです」

  • ビスケット生地の上にスライスアーモンドをキャラメルで固めたものを載せた洋菓子「フロランタン」
  • グルメ&ダイニングショーに参加した「のぞみ」スタッフ

フロランタンは、プロのバイヤーからも注目を集めた!

「のぞみ」が出品した製品は、ビスケット生地の上にスライスアーモンドをキャラメルで固めたものを載せた洋菓子「フロランタン」であった。数多いスイーツアイテムの中でも、自信のあった逸品である。試食用として200個を用意して、橋本さんは満を持して東京ビックサイトの会場に向かう。半信半疑で参加したものの、期待以上の反応があったという。

「もちろん味には自信がありました。けれども、相手は菓子の販売をビジネスとするプロの方々ばかり。厳しい意見が来ることも覚悟していました。けれども、『とても完成度の高いフロランタンである』とほめてくれる人たちが多くて、嬉しかったですね。材料にこだわった丁寧なお菓子作りが評価されたのです」

と、橋本さん。今回出展した成果として、三社からの商談の申し入れがあった。大手高級スーパーに商品を卸すバイヤーや、イベント関係者たちである。賞味期限の問題や、パッケージの改良、サイズや価格体系等、細かい点を詰めていけば、商品としてはぜひ取り扱いを検討したいとの評価だったという。

「さっそく食品検査会社に賞味期限検査(三ヶ月後などの一定期間、常温で保管し、専門機関で細菌検査をおこなうこと)を依頼しました。これまでは自分たちが直接お客さんに販売していたので、ここまでの検査は不必要と考えていたのです。その意味でも、今回の出展で得られたものは大きかったですね。本当に勉強になりました。これからも日本セルプセンターの指導の下、プロの市場で勝負できる製品づくりをめざしたいと考えています」

と、根橋施設長。もし今回の商談が実現すれば、フロランタンだけで月産480kg(現在の製品にすると、2100個!!)という量産になる。もちろん現場は大変だろうが、メンバーたちのモチベーションアップのためにはぜひとも進めたいと考えているという。こうした前向きな姿勢こそが、今後の新たな展開を生み出す最大の武器になるはずである。

利用者工賃の拡大を考えるときに、本当に必要なことは何か。グルメ&ダイニングショーへの参加という、「のぞみ」スタッフたちの思い切った取り組みが、少しでも同規模の施設への刺激になることを願いたい。

  • いつも前向きな「のぞみ」スタッフ

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。