社会福祉法人桑の実福祉会(群馬県伊勢崎市)

利用者が地域で普通に暮らせるように ~めざすのは地域の便利屋さん~

桑の実福祉会の概要

桑の実福祉会は、障害福祉サービス事業所くわのみ(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、桑の実福祉作業所(伊勢崎市からの指定管理)、まゆ(デイアクティビティセンター)、あずま(地域活動支援センター・デイサービスセンター)、にじ(相談支援事業所)や、5棟のグループホーム等を運営する社会福祉法人である。

就労系事業所であるくわのみが建っているのは、東武伊勢崎線境町駅から、徒歩15分ほどのところにある住宅街の中だ。近くには利根川の支流の早川や、子どもたちが思い切り走り回れるような自然公園もある。そんな自然と地域住民に囲まれた理想的な環境下に、障がい者たちの働く場が設置されている。

主な作業科目は、各種役務、弁当製造、下請け作業(ホチキス針の箱詰め等)である。もともとは旧境町が運営していた桑の実福祉作業所が母体であった歴史から、行政とも友好的な関係にある。その結果、官公庁からの仕事を積極的に受注し、群馬県のB型事業所の中でも高い工賃水準(約28,000円/県平均は約17,000円)を保っている。

桑の実福祉会 ファッサード

地域の便利屋さんをめざす

くわのみが展開する中心的な事業は、官公庁における各種役務の代行業務だ。公園清掃、花壇の管理、公衆トイレ清掃、市の広報誌の配達等々......、くわのみではさまざまな役務を請け負っている。法人総合施設長の中塚美子さん(62歳)は、この仕事について次のように説明する。

「広報誌の配達とは、月2回発行される市報を(施設がある)境町エリア40人の区長さんのところへ車で配送する仕事です。公園清掃は、空き缶・紙屑等のゴミ・落ち葉・折れた枝や危険物の回収が中心。駅前広場の花壇植栽と管理では、雑草取りや苗の植え替えなどをします。公衆トイレは、日常的な清掃とトラブルの通報等が私たちの役割になりますね。トイレットペーパーでわざとトイレを詰まらせたり、壁の落書き等のいたずらは、日常茶飯事です。公園で鳥が2匹以上死んでいる姿を発見したら、鳥インフルエンザを疑って市に通報することもあります。このように単純に清掃するだけでなく、地域に問題がないかをつねに見守るのも大切な仕事です。さまざまな仕事をこなす地域の便利屋さんをめざして、私たちは作業活動をしています」

清掃管理を委託されているのは、公園18か所、公衆トイレ2か所、だという。毎日決められた公園やトイレに、利用者と職員がチームを組んで回っていく。外の作業のため、もちろん天候が良いときばかりとは限らない。よほどの大雨か大雪でも降らない限り、普通の雨や雪では仕事は決行である。夏の猛暑や冬の寒さの中でも、清掃管理作業を毎日続けているくわのみの利用者たちの姿は、地域住民の間でもすっかりお馴染みとなっている。

「地域の皆さんから『ご苦労様』と声をかけてもらえるのが、利用者たちにとっては本当にうれしいことですね。境町の駅前では、暑い日に作業をしていると、わざわざジュースやアイスをくださるお年寄りもいるのですよ(笑)。肉体的には大変疲れる仕事ですが、こんなふうに住民と直接コミュニケーションを図れるのが施設の中では味わえない楽しみです。社会性を育む点においても、非常に良い経験になると思います」と、中塚施設長。

  • 利用者さんによる、公園清掃/花壇の管理/公衆トイレ清掃/市の広報誌の配達等
  • 利用者さんによる、清掃管理作業風景

どんな仕事を選ぶかは、利用者のやる気次第

くわのみでは役務以外にも、弁当製造やホチキス針の箱詰め作業など、施設内での仕事も用意されている。それぞれの仕事が完全に担当分けされているのではなくて、日ごとに役務作業、弁当、ホチキス作業等をみんなで分担することになっている。仕事内容によって工賃が異なり、大変な仕事に長い時間関わった人ほど、高い工賃をもらえるようなシステムとなっているのだ。

「もちろん、外の役務の仕事を嫌う利用者もいます。暑い日や寒い日は、外に出たくないと主張する人もいる。そういう方は、室内作業のみになります。『外に出たくないならそれでいいけど、お給料は上がらないよ』というわけです。仕事に対して何を期待するのかは個人の自由ですから、それは尊重しないといけませんしね」

中塚施設長によると、現在行われているくわのみの作業の中で、もっとも利益率が高いのが役務作業なのだという。経費としてはほとんど車のガソリン代くらいしかかからない仕事のため、非常に効率が良いのだ。それに対して自主製品である弁当製造は、売上こそ高いものの原価率が非常に高くなってしまうのが悩みの種。下請け作業は、関わった時間のわりにお金にならないのが現実である。将来的にはさらに役務の受注量を増やし、より効率の良い仕事に特化していく方向も考えている。

「細かい仕事や部屋の中での仕事を好む利用者たちもいますから、一挙に仕事内容を変えられないのが現状です。私たち施設職員には毎年、工賃向上の努力が求められていますが、義務としてやるのではなく、年金と工賃によって、利用者が地域で生きていくための、生存権保障の支援として工賃向上を目指しています」

  • 下請け作業
  • 弁当事業

ぐんまセルプで成功させた、共通レシピによるお弁当の共同受注

中塚施設長は現在、群馬県社会就労センター協議会(セルプ協)の会長も兼務し、県内の就労系障がい者施設の平均工賃向上に向けた活動の中心的役割を担っている。昨年度(2015年)は、なんと共通レシピによるお弁当の大量受注を実現させた。11月に開催された群馬県社会福祉大会参加者に配布されるお弁当1,079個を共同受注し、県内6事業所が協力して製造したのだ。セルプ協にとって、初めての大口受注となった。ここで力を合わせた事業所が中心となってお弁当部会を結成して活動している。

「ぐんまセルプでは、これまで、共通レシピによって県内の施設が分担して製造できるオリジナル焼き菓子(クッキーとラスク、マイムブラウニー)などを開発してきました。その考え方で取り組んだのが共通献立によるお弁当です」

中塚施設長のもとには、お弁当部会が半年前から準備を重ねてきた様子を詳細に記録した資料ファイルがある。それを拝見すると、会議は半年前から開催されていたようだ。まずはそれぞれの施設で日常的に作っている弁当の情報共有から始まり、設備状況や原価率など細かい数値も出しあった。お互いの状況が分かった上で、次には提示された予算(600円)で作ることが可能な献立を各施設から提案してもらう。議論の上、ようやくメニューが決定すると、仕入れ素材や包材の検討をしなければならない。具体的な調理法の統一、衛生管理や食品表示についての勉強会等々、あらゆる面において6事業所をまとめることは困難を極めた様子だ。

「野菜の切り方や、ハンバーグソースのケチャップとソースの混合比率、総菜の並べ方に至るまで、一つひとつみんなで議論して決めていきました。試作したものを何度も試食してもらったので、価格の割に納得のいく味のお弁当になったと思います」

苦労の甲斐あって、群馬県社会福祉大会でのお弁当は大好評。2016年も受注が見込まれるだけでなく、その他の団体からの共同受注窓口への依頼も始まったという。共同受注のメリットは、なんといっても食材や包材などの仕入れコストを大幅にダウンできることだ。共同受注・共同生産の重要性は、以前から日本セルプセンターが訴え続けてきたテーマでもある。製菓部門においてはようやく普及しつつあるこの活動を、弁当事業でも可能だということを証明した今回のぐんまセルプの実践は、非常に貴重なものといえるだろう。

  • 群馬県社会福祉大会でお弁当が配布される様子
    群馬県社会福祉大会でお弁当が配布される様子
    (写真提供:群馬県社会就労センター協議会)
  • 完成した共通レシピによるお弁当
    完成した共通レシピによるお弁当
    (写真提供:群馬県社会就労センター協議会)

工賃アップは、利用者支援の大切なツールの一つ

くわのみでは、新しい役務として最近「境ストックヤード等管理業務」という委託契約を結んでいる。これは、施設の隣にある容器包装プラスチックゴミ保管施設(ストックヤード)の門の施錠・開錠を管理するという仕事だ。保管施設には市内からゴミを収集してきたトラックがやって来て、その後で別の業者のトラックがゴミを回収しにやって来る。ゴミの収集業者と処分のための回収業者が違うため、施設の門はトラックが到着するたびに開け閉めしなければならない。非常に単純な仕事だが、安心して任せられる事業者はなかなかいないだろう。くわのみは、市への役務提供の実績があり隣にある福祉施設だから受注することができた。

「朝、利用者が職員と一緒に開錠し、夕方施錠します。周辺に飛散したゴミの清掃も行います。この仕事で、年間委託費は46万円。他の施設の方に話しても、なかなか信じてもらえません(笑)。この仕事は、生活介護の利用者たちに担当してもらっています。生活介護事業としては、とても大きな工賃の収入源になりました」

今後、くわのみとしてさらに工賃アップを図るためには、より作業効率が高い仕事を選んでいく必要があると中塚施設長は言う。障がい者就労系事業所にとって、もっとも大切に考えるべきなのは利用者たちの幸せである。工賃というのは、彼らの所得を保障し彼らのやる気を高めるための重要なツールの一つであるが、すべてではない。彼らが毎日楽しく、やる気をもって仕事に励む姿をどうやって作り出していくか。そこにこそ、支援者である職員の質が問われている。工賃向上という目標から決して逃げることなく、利用者たちが安定して働き続けられるためのメンタル・生活面での支援も欠かさずに行っていく。そんな理想像をめざして、中塚施設長たちの挑戦は続いていく。

(文・写真/戸原一男)

  • くわのみのみなさん
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*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。