社会福祉法人あげお福祉会(埼玉県上尾市)

清掃やしいたけ・きくらげ栽培で、地域との連携を模索する「グリーンドア」

あげお福祉会の概要

あげお福祉会は、グリーンドア(就労継続支援B型事業)、プラスハート(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)等の障がい者就労支援事業所を運営する社会福祉法人である。その他にも、杜の家(障害者生活支援センター)、上尾市障害者就労支援センター、障害者就業・生活支援センターCSA、楡の木・楓の木(グループホーム)等も運営している。

法人の原点となるのは、平成8年に開設された精神障害者小規模作業所ハート倶楽部・上尾だ。当時は精神障がい者のための社会復帰施設が上尾市内に存在しなかったため、当事者・家族・ボランティア・福祉関係者等による「つくる会」が発足し、多くの人たちの要望を受けてスタートした。その3年後には別作業所としてラテールも開設し、平成14年には本格的な就労支援を目的とした精神障害者通所授産施設(当時)グリーンドアが開所されることになったのである。

グリーンドアの作業品目は、清掃事業(アパートの清掃・緑地管理・学校清掃)、軽作業(電機部品の組み立て)、しいたけ・きくらげの生産販売である。法人内で運営される複数の事業所の中でも、就労支援に特化していることが特徴であり、少しでも高い工賃を目指してさまざまな取り組みが繰り広げられている。

  • あげお福祉会 ファッサード
  • キクラゲ栽培ハウスと店頭直販売

民間アパートの清掃を受託

グリーンドアの事業の中で大きな比重を占めるのは、清掃作業であるという。ユニークなのが、近隣の民間アパート・マンションの清掃受託だろう。竹村絵里施設長(44歳)は、この仕事について次のように説明する。

「施設が開所した当時、清掃作業を中心に事業展開しようと決めていたのですが、なかなか仕事が増えない状況でした。きっかけとなったのは、ある関係機関(精神保健福祉士)の方が経営しているアパートの清掃を受託したことです。非常に丁寧な仕事をすると評価され、これだったら他にも紹介してあげるということになりました。それ以来、続々と仕事が増え続け、現在では民間の不動産会社を通じて37か所と契約させていただいています」

大きなアパートになると、1か所で数棟もある契約先もいくつか存在するため、棟数でいうと約80棟になるという。これだけの契約先に対し、1ヶ月2回の頻度で共用部分の清掃をおこなっていく。廊下や階段の掃き掃除、手すりや消火器などの拭き掃除、エレベータ内の掃除、オートロック型マンションの入り口窓ふき、天井の蜘蛛の巣取り、駐車場の草取りや落ち葉拾い等々が具体的な作業内容だ。

  • 利用者による、清掃作業
  • アパートの清掃作業

「この仕事で一番大変なのは、やはり夏の暑さと冬の寒さですね。なんといっても上尾市は日本一の暑さで有名な熊谷市の近くですから、夏は40度近い猛暑になる日がしょっちゅうなんですよ。そんな時には、いつも熱中症で倒れるのでは?と、心配しながらメンバーを送り出しています。幸いなことに、これまでの事故としてはたまに気分が悪くなる方がいるくらい。みんな汗をかいて真っ黒になりながら、一生懸命働いてくれています」と、竹村施設長。

アパートやマンションの清掃というのは、赤ちゃんがいたり、夜勤明けで寝ている住人さんがいたりと、非常に顧客に近いところで作業をおこなうのが特徴である。こうした緊張感がある職場環境は、メンバーたちの仕事への意識を向上させる効果がある。ひと夏ここで作業をすることで、これまで就労経験が少なかった方々でも期待以上の成長を見せるという。

売れる自主製品づくりとして始まったしいたけ栽培

グリーンドアでは、平成25年度から新しい事業としてしいたけ・きくらげの生産・販売を始めている。清掃事業とまったく違い、ハウスの中で半年かけてじっくり菌床を育ててキノコを育てるという事業だ。竹村施設長は言う。

「キノコ事業に取り組んでみようと考えた理由は、二つあります。一つは、福祉バザー等のイベントに私たちが参加したときに、売れる商品がなかったということ。二つ目は、地域の人たちとの直接的なふれあいの場をもちたかったということですね。どうしても清掃事業というのは、特定の人としか関わることができません。自主製品を製造販売すれば、もっとたくさんの人たちと日常的に触れ合うことができるのでは...と期待したのです」

地産地消が叫ばれる中、埼玉県産のしいたけというのは市場でもなかなか見当たらない。上尾産となると、なおさらだ。肉厚で新鮮なしいたけを安価で提供することができれば、地域の人たちに喜んでもらえるのではないか。竹村施設長のそんな考えはみごとに当たり、事業スタートから3年ですっかり美味しいしいたけを生産する事業所としてグリーンドアの名は近隣に知れ渡ることになった。支援員の柳沢迎輝さん(33歳)は嬉しそうに語る。

  • 支援員の柳沢迎輝さん(しいたけの栽培)
  • 事業スタートから3年で、美味しい上尾産「しいたけ」を生産

(写真提供:あげお福祉会)

「私たちが育てているのはトムトムという品種。肉厚で大ぶりのしいたけで、見るからに迫力があります。A級の製品になりますと、直径が約7〜8cm。厚みは、3cmくらいあるんです。これが約5~6個入って380円~ですから、とてもお買い得だと思います。ハウスは市民農園に隣接して建っているので、入り口の直売コーナーにはいつもたくさんの人たちが立ち寄ってくれます。自分たちが半年間じっくり手間暇かけたしいたけを、お客さんに直接販売できて、しかも喜んでくれる。メンバーたちは、そんな経験をとても楽しんでいるようです」

ハウスでの直接販売の他にも、生産したしいたけは地元の飲食店や市役所内での販売店、上尾市場等にも卸しているという。収穫したての新鮮な状態で消費者の元に届けられるのが、地産地消の醍醐味である。上尾市内では珍しいしいたけ栽培農家として、グリーンドアの名は確実に広まっている。

健康ブームに乗って、きくらげが思わぬブームに

しいたけが収穫できるのは、10月〜4月の約6ヶ月間だけ。それ以降の空白の時間を活用するために始めたのが、きくらげ栽培である。しかし、しいたけと違ってきくらげというのは、一般的には馴染みの薄い食材だ。竹村施設長たちも、どうやって販売すれば良いのかあまりわからないままのスタートだった。

「きくらげの多くは乾燥きくらげで、しかもほとんどが中国産。国内で生産されているのは、ごくわずか(国産市場のわずか5%)しかありません。国産の多くは九州産のため、関東で生産されているきくらげは非常に希少価値があるらしいです。ビタミンDや不溶性食物繊維、鉄分、カルシウム、ビタミンB2など、たくさんの栄養分も含まれている栄養豊かな食材だということも、取り組んでいるうちにいろいろ学んでいきました。中華料理に使われるイメージが強いですけど、サラダや和え物に使ってみてもとても美味しいのですよ」

  • 健康ブームに乗って、きくらげを栽培生産
  • きくらげの選別、ごみ取り作業

最初はきくらげの効用をお客さんに伝えながらの販売活動が続いていたのだが、最近になって突然ブームがやって来た。低カロリーで食物繊維たっぷりの健康食材として、さまざまなメディアで取り上げられる機会が多くなったのだ。こうなると、希少な国産きくらげを生産しているグリーンドアの名前が突如として脚光を浴びることになる。完全無農薬の安心・安全な栽培法、いしづきを一つひとつ手で丁寧にカットするという細やかさ、何より生産場所=ハウスが近くにあるため直に見られるという点も話題となり、大量の注文が舞い込むようになったらしい。

「おかげさまで昨年度は、乾燥きくらげとして保存しておいたこれまでの在庫も含めて全部売り切ってしまいました。きくらげの市場規模は、確実に広がっていることを実感しています。食材フェア等に出店すると、業者からの取引依頼が本当に多いのですよ」と、柳沢さん。

せっかくの取り立て新鮮なきくらげを生のまま出荷できる取引先を開拓するのも課題だという。本格的な高級中華料理店なら、乾燥ものよりも高値で取引できるはずの立派な商品である。グリーンドアではしいたけときくらげのハウスをもう一棟増やし、高まるニーズにできる限り応えられるように生産体制を強化していく予定だ。

地域との連携を、今後ももっと図っていきたい

グリーンドアにとってまったく新しい事業だったしいたけ・きくらげの生産販売を始めて、約3年。この事業に取り組んでみて一番良かったのは、期待以上に地域の人たちとの接点が増えたことだと竹村施設長は語っている。

「どうしても精神障がい者というのは、自分の存在を隠してしまいがちです。そのため私たちとしても積極的に施設の存在をPRしなかったため、グリーンドアの名が地域に広まることはありませんでした。でも美味しいしいたけやきくらげを通してお客さんたちと接していけば、自然と触れあいが生まれて彼らへの理解も深まっていく。そんな好循環が生まれてきていると思います」

  • 利用者による、キノコの販売風景
  • 竹村絵里施設長、利用者&スタッフ陣

グリーンドアの平均工賃は、現在時給で470円だという。主に精神がい害者が働く職場のため、稼働率はわずか約60%にすぎない(メンバーの多くは、週2〜3日の半日出勤だ)。そのため、月額平均工賃にすると一人当たり約19,000円という数字である。障がいの特性上、メンバーたちに出勤率の向上を求めても仕方ない。そうではなく、あくまで「時給単価」を少しでも上げることで工賃向上につなげたいと竹村施設長は考えている。

「精神障がい者が中心といっても、グリーンドアは就労支援に特化した事業所。居場所づくりではなくて、少しでも高い工賃をめざすべきだと思います。私は初期の小規模作業所も経験した上でここを始めましたので、とくにそういう意識が強いですね。事業を展開する上で稼働率の低さは本当に苦しいですが、より付加価値のある仕事や製品を生み出すことで、なんとか目標をクリアしたいと考えています」

精神疾病は誰もがなり得る身近な病気である。早期発見、早期治療で症状は改善されるはず。差別や偏見をなくし、安心して医療や福祉の支援を受けられるような社会をめざすべきできはないか。グリーンドアではそのように考え、さまざまな事業を展開する中で、地域の人たちとの交流活動を事業の大きな柱として位置づけている。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。