社会福祉法人武蔵野(東京都武蔵野市)

新しい時代に対応した事業のあり方を模索する「ワークセンターけやき」

武蔵野の概要

武蔵野は、ワークセンターけやき(就労継続支援A型・就労継続支援B型・就労移行支援)、ジョブアシストいんくる(就労移行支援)、武蔵野福祉作業所(就労移行支援・就労継続支援B型・生活介護支援)、ワークステージりぷる(就労継続支援B型)等の障害者就労支援事業を行う社会福祉法人である。

この他にも、ワークセンター大地、デイセンター山びこ、デイセンターふれあい、生活リハビリサポートすばるなどの社会活動支援事業(生活介護支援・自立機能訓練等)や、地域活動支援センターびーとや武蔵野市障害者就労支援センターあいるなどの相談支援事業、グループホーム・ショートステイハウス等の居住支援事業などを展開している。

さらにはこども発達支援室ウィズ、地域療育相談室ハビット、地域子育て支援拠点施設おもちゃのぐるりん等の子育て支援等の児童支援事業から、ゆとりえ、桜堤ケアハウスなどの高齢者支援事業に至るまで、地域のあらゆる福祉ニーズに対応した幅広いサービス(22施設・38事業)を提供する社会福祉法人なのである。

武蔵野 ファッサード

利用者の変化に合わせて、中心作業も変化

さまざまな事業を展開する法人の中で、代表的な就労系事業所がワークセンターけやである。ここでは印刷を中心とした事業を行っており、つねに時代を先取りした機器の導入によって高い工賃を実現してきた。統括施設長の髙澤勝美さん(58歳)は次のように説明する。

「印刷がDTPによるデジタル化へと向かったときに、ワークセンターけやきではいち早くコンピュータによる組版・出力システムを導入してきました。カラーオンデマンド等の印刷機はもちろんのこと、大型プリンターを設置してポスターや看板などの出力サービスにも対応しています。 売上数字だけみると、印刷は今でもけやきの中心事業と言えます。しかし最近は業界全体が非情に厳しい状況にありますし、外注加工も多いので利益率は年々低下していますね。何より問題なのは、この仕事に対応できる利用者が減ってきていることでしょう。施設を利用する方々の障がいの種類が、身体から知的・精神へと変わってきたためです。そのため少しずつ事業内容の組み替えを行い、利用者の実態にあった作業スタイルを模索してきました。長い実績を持つ印刷を残しつつも、利用者たちが生き生きと働き、高い工賃を保障できるような事業への転換を進めてきたのです」

  • 利用者の実態にあった作業スタイルを模索
  • 高い工賃を保障できるような事業への転換

美味しいパンを求めて、住民たちが集う場に

髙澤さんたちがまず取り組んだのが、法人ビルの1階にオープンしていたパールブーケというパン焼き工房&カフェをワークセンターけやきで運営することだった。もともとはワークセンター大地(生活介護事業所)の直轄だったのだが、けやきに移管することによってより収益性を高める店舗をめざしている。

「天然酵母・国産小麦を使った本格的なパンは、オープン以来ずっとパン好きのお客さんから高い人気を得てきました。1斤400円という価格にもかかわらず、一度食べたらこのパンしか食べられないという常連さんもたくさんいます。施設のまわりは、吉祥寺の高級住宅街という立地条件もあるのでしょう。本当に良いお客さんに恵まれていると思います」と、髙澤さん。

もちろんいつまでも本格的なハード系パンばかりでは、日々変化していくお客さんのニーズに応えることはできない。そこでワークセンターけやきに運営が移管されたことをきっかけとして、パン職人にも参加してもらって新しいメニューを開発していった。現在はバラエティ溢れる総菜パンや、大人気の塩パン、さらには季節ごとの焼き菓子なども売り出している。カフェコーナーでは、有機野菜カレーライスやキッシュランチ、シーザーツナサンドセットなど、洒落たメニューを提供。近隣の主婦層の憩いの場ともなっているようだ。

さらに特徴的なのが、店内のピアノを活用して毎週金曜日に実施されるミニコンサートだろう。吉祥寺という町の特性もあり、近所にはセミプロ級の腕をもつ音楽家たちが多数住んでいる。彼らに無料でコンサートの場を提供し、音楽を通じた住民交流をめざしたところ、大人気となった。次々と出演要請が相次ぎ、現在ではなんと2ヶ月待ちの状態なのだとか。

「おかげさまで金曜日は、毎週たくさんのお客さんで賑わっています。なかには固定ファンが付いているようなピアニストもいらっしゃいます。そんな時には、入りきれないほどのお客さんが集まることになりますね」と、副施設長の矢澤潤一さん(43歳)はうれしそうに語っている。音楽を通じた地域貢献と共にカフェそのものも繁盛する。まさに一石二丁の優れた事例と言えるだろう。

  • 本格的なハード系パン・バラエティ豊かな総菜パン・大人気の塩パン
  • パン職人にも参加してもらって新しいメニューを開発

武蔵野市役所の最上階にオープンした食堂とカフェ

ワークセンターけやきの新しい飲食事業が、武蔵野市役所の最上階の8階にオープンした食堂「さくらごはん」と、カフェコーナー「カフェ・ル・ブレ」だ。これまで印刷事業等で培ってきた施設への信頼や実績が評価され、市役所から職員食堂や休憩場所の跡地を活用するように依頼されてスタートした。

「さくらごはん」は、季節感を大切にした和食中心の食堂である。店頭に陳列された大きな釜で炊く美味しいお米が最大のウリであり、武蔵野市内の地場野菜や全国の友好都市の食材を使ったこだわりメニューも市役所の食堂とは思えないほどの豪華さを演出している。髙澤さんは、食堂の特徴について次のように説明する。

「食堂を運営するにあたり、まず取り組んだのが新調理システムの導入です。これまでは専門的技術や経験が不可欠だった厨房の現場が、このシステムによって仕事が標準化・細分化されたため、利用者たちにも調理過程で活躍できる工程が多くなりました」

  • 新調理システム(クックチルと真空調理)で運営する食堂「さくらごはん」
  • 「さくらごはん」店内風景

新調理システムとは、クックチル(加熱調理後に急速冷却すること)と真空調理(下処理した素材を真空密閉して行う調理法)を総じて呼ぶ最先端の調理法である。大量調理、計画生産、さらには衛生管理にも優れ、外食産業のセントラルキッチンではお馴染みのシステムだ。福祉施設が運営する食堂としては比較的珍しいこの新しい調理スタイルを髙澤さんたちは積極的に導入し、効率的な食堂運営をめざしたわけだ。

「市役所にある食堂とはいっても、ここは高級住宅街の中にある一等地。味に肥えたお客さんもたくさん来店されます。そのため新調理システムを採用しつつも、食材にこだわり、調理法にも一工夫加えることによって『さくらごはん』ならではの特色あるメニューを提供しています」と語るのは、厨房を仕切っている橋本一シェフだ。

臭みがなくあっさりした味のサーモンと千葉から取り寄せた新鮮なアジの二つを楽しめる「南房総のアジと信州サーモン丼」や、ブランド豚をスチコンで3時間以上も低温調理した驚くほど柔らかな「庄内豚のチャーシュー」、地元の野菜をたっぷり盛り込んだ「こびる(小昼)ランチ」などが橋本シェフのお勧めメニューである。

「カフェ・ル・ブレ」は、「さくらごはん」の隣にあり、もともとは職員たちの休憩場所だったところ。窓際のカウンターテーブル席からは、階下に武蔵野中央公園の美しい緑を眺めることができる。桜の季節には、格好のお花見スポットとしてたくさんのお客さんで賑わうという。

  • カフェコーナー「カフェ・ル・ブレ」入り口
  • 季節感を大切にした和食中心の食堂「さくらごはん」

付加価値ある軽作業で、多くの利用者へ働く場を提供する

食品事業以外に、ワークセンターけやきが積極的に取り組んでいるのが封入封緘などの軽作業である。これは障がいの種類や程度を問わないというメリットがあり、現在では20名ほどがこの仕事に従事している。軽作業といっても、高い工賃にこだわってきた施設ならではの工夫がある。それは、「元請けである」「官公庁の仕事を中心とする」ことだと、矢澤副施設長は強調する。

「官公庁の仕事というのは、決まった時期に決まった量の仕事があることが大きな特色です。国民保険や税金の支払い通知書とか、住民に対して一斉に通知がいく時期が決まっています。そのため私たちは、一年を通して作業計画を事前に組み立てることができるのです。仲介業者を介さないのも特徴ですね。印刷などに比べると決して単価が高い仕事ではありませんが、利益率から考えれば十分に魅力ある事業です。今後は、この分野の売上を積極的に伸ばしていきたいと考えています」

最後に、髙澤さんに今後のワークセンターけやきのあり方について伺ってみた。

「法人内でさまざまな施設を運営していますが、時間の経過と共にどこも似たような事業になってきたのも事実。こうした問題を解決するために、法人全体として施設事業の再構築に取り組んでいく必要がありますね。一つの動きとして昨年、ワークセンターけやきは就労継続機能を強化することにし、就労移行支援事業についてはジョブアシストという新たな事業所をスタートさせました。企業就労を本気でめざす利用者に対して、専門的な就労トレーニングをおこなうことを特徴としています。そのため、ここでは基本的に作業現場はもちません。ワークセンターけやきの各作業場が、彼らの体験実習の場となるのです。このような事業整理によって各施設の目的が明確になり、より細かな利用者サービスが提供できるようになると信じています」

障がいのある多くの利用者たちが、住み慣れた地域で暮らし、安心と笑顔のある毎日を支えるために、障がい者の就労支援事業はどうあるべきか。ワークセンターけやきの模索と挑戦は続いていく。

  • 副施設長の矢澤潤一さん
  • 封入封緘などの軽作業をする利用者さん

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。