社会福祉法人みゆきの杜(栃木県宇都宮市)

高級ブランド豆腐の製造販売で、高い工賃を実現しつづける「JOYみゆき」

みゆきの杜の概要

みゆきの杜は、JOYみゆき(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業・生活訓練事業・短期入所事業)、ジョブみゆき(就労継続支援B型事業)、ふれ愛みゆき(地域活動支援センター)、サポートみゆき(相談支援事業)、グループホームみゆき、グループホームかいどう(平成30年3月完成予定)などの障害者支援サービスを行う社会福祉法人である。

法人が設立されたのは、平成14年4月。精神障害者小規模通所授産施設、精神障害者社会復帰施設地域支援生活センター、グループホームみゆきを併設する施設として誕生した。現在の就労支援事業の中心となる豆腐製造を始めたのは、平成19年(現在のジョブみゆき)からだという。平成25年には、複数の障害者サービスを統合する拠点としてJOYみゆきが新たに建設された。

JOYみゆきの作業内容は、おとうふ事業(豆腐の製造販売)、調理事業(弁当・焼き菓子の製造販売、カフェ運営)、クリーン事業(清掃)となっている。なかでももっとも古い歴史をもつ豆腐製造が主力であり、販売部門に携わる約10名の利用者の月額平均工賃は、37,000円を超える高い水準を誇っている。(製造部門にあってもベテランメンバーは30,000円前後を維持している)

  • みゆきの杜 ファッサード
  • JOYみゆきでは、古い歴史をもつ豆腐製造が主力

売り物は、みゆきの高級ブランド豆腐

JOYみゆきの豆腐の特徴は、なんといってもその味にある。みゆきの杜理事長・総施設長の大関喜子さん(69歳)は、次のように語っている。

「国産極大粒大豆のミヤギシロメと天然にがりだけを使って作った手づくりの高級豆腐です。作り方は、蔵王すずしろさんに指導していただきました。私たちがこだわったのは、本当に美味しい豆腐を安売りしないで売り切ること。スーパーに卸したりする大量生産品ではなくて、固定客をターゲットとした高級豆腐を作ろうと思いました」

価格は、一丁で360円(税込)とした。スーパーで100円以下の豆腐が全盛とされる現在、非常に強気の価格設定である。しかし大関さんは「ミヤギシロメを使った豆腐は、都心なら500円でも売れる高級品。一度食べてもらえば、決して高くないとわかってもらえるはず」と、信じたのだという。

事実、JOYみゆきの豆腐を試食してみると、その濃厚な豆の甘みに驚くことだろう。濃厚でありながらも、非常になめらか。まさに豆腐本来の味である。冷や奴で食べると、安売りの豆腐とはその差は明らかだ。二度と元には戻れないかもしれない。ちょうど世間でも、価格は高いが美味しい豆腐を求めるニーズが高まっている時期でもあった。付加価値ある製品への理解者を増やせば、必ず固定客になってくれるはず。そんな大関さんの狙いは見事にあたり、今や宇都宮市内では「みゆきの豆腐」は高級ブランド品として多くの人たちから認識されるようになった。

  • みゆきの豆腐は、濃厚な豆の甘みときめ繊細ななめらか。豆腐本来の味に驚愕!
  • 製造作業の利用者さん

生鮮食品を売り切るための努力

豆腐というのは日持ちのしない生鮮食品であるから、もちろん売れ残りを極力減らすための販売努力は不可欠であろう。JOYみゆきの販売方法の基本は、ラッパを吹きながらリヤカーで街を歩いて売る「引き売り」である。店に委託することは一切ない。自分たちで作ったものを、自分たちの手で売る。しかも利用者が中心となって製造・販売をおこなっているところに、施設の特色があると大関さんは言う。

「販売する時には施設のパンフレットを持参して、自分たちの障がいのこととか、施設で働く仲間のことをお客さんにアピールしていきます。この営業トークを生み出したのは、利用者自身なのですよ。誰が教えたわけでもないのに、自然にみんなが話し方を覚えていきました」

精神疾患のある利用者自身がリヤカーを引いて、街の中で豆腐を売り歩く姿はとても珍しく、多くの人たちから注目されていった。地元の新聞やテレビなどの取材も殺到し、ますます人気が高まっていく。

職員の力も大きかった。豆腐事業を発案したのは、当時、新人だった女性職員である。自分で言い出した責任もあり、残ってしまった豆腐を売りさばくための当初の営業努力はすさまじかったという。あらゆる知り合いに電話をかけ、必死で販売していたのだ。新人のそんな姿を見てしまえば、まわりの職員も黙っているわけにはいかない。かくして次第に職員全員が豆腐を売りまわり、あるいは自分たちで買い取ることが常態化していく。この流れは利用者たちにも広まっていった。「今ではあまりにみんなの販売力がスゴイので、自分の分を確保したくても在庫がないときがあるくらいですよ」と、大関さんは嬉しそうに笑う。

  • ラッパを吹きながらリヤカーで街頭で豆腐を引き売りするスタイルが注目される
  • 国産極大粒大豆のミヤギシロメと天然にがりだけを使って作った手づくりの高級豆腐

仕事を通じてどんどん成長する利用者たち

豆腐事業の売上は、年商で約2,600万円。もめん豆腐や絹ごし豆腐を中心として、寄せ豆腐、がんも、厚揚げ、豆乳等々の製品群を、自社製品1日約10万円販売している。この結果、現在のJOYみゆきの豆腐事業の今年5月の中心的利用者月額平均工賃は、約37,000円(販売部門)、約26,000円(製造部門)となった(法人全体の就労継続B型の平均工賃は22,800円)。利用者の大半は精神疾患のある障がい者であることを考えると、この数値は驚異的である。

「精神障がい者は出勤率が低いため(通常50%程度)、どうしても月額の平均工賃は低くなりがちです。しかし私たちの施設ではどんどん利用者が成長していき、出勤率が上がっていきました。販売分門では、全員が毎日フルタイムで働いているのですよ。お客さんと交流することで責任感が芽生え、『自分が休むわけにはいかない』と主力のメンバーは考えています」と、大関さん。

豆腐事業を立ち上げたときに構想していたことは、利用者の月額平均工賃を 30,000円とすることだった。目標を実現するために、高付加価値の商品づくりをおこない、販売ロスをゼロに近づける営業努力を全員で分かち合う。これが、JOYみゆきの高い工賃実績を支える秘訣となっている。

今後の課題は、大量にできる「おから」を再利用した商品開発だという。なにしろ昔ながらの伝統的な製法で真面目に作る豆腐だから、廃棄物となるおからの量も半端ではない。これを蒸しパン、クッキー、パウンドケーキなどの食品として再利用していくことが、事業的にも非常に大切なのだ。すでにイベント用などのアイテムとしては作っているが、これを低カロリーの治療食として継続販売できないかを検討中である。「捨てない。値引きしない」をモットーに掲げたJOYみゆきの新たな商品として、多くの人たちに広まっていくことを期待したい。

  • みゆきの杜施設長 大関喜子さん
  • 「おから」を再利用した新商品の開発、蒸しパン/クッキー/パウンドケーキを製造する利用者さん

(文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。