社会福祉法人なごみ福祉会(神奈川県川崎市)

清掃事業によって、飛躍的な事業拡大を続けている「多摩川あゆ工房」

なごみ福祉会の概要

なごみ福祉会は、多摩川あゆ工房(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、あゆクリーンサービス(多摩川あゆ工房分場:就労継続支援B型事業)、みんなのお菓子屋さんレゼル(就労継続支援B型事業)、夢花工房ぽぱい(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、夢花工房オリーブ(夢花工房分場)、デイリー夢花(夢花工房分場)等の障がい者支援サービスを行う社会福祉法人である。

この他、グループホーム(共同生活援助事業)やヘルパーステーション(居宅介護・行動援護事業)、放課後デイサービス、相談支援事業、地域療育等支援事業、さらにはなごみ保育園、さざ沼なごみ保育園、太子堂なごみ保育園、梅丘なごみ保育園、北烏山なごみ保育園等、5つの保育園も運営する。

法人のスタートは、1973年に障がいのあるお母さんが作った「重度障害児通園の家」だった。これは後に無認可保育所「共同保育所なごみ園」となり、1981年に社会福祉法人を設立。「障がいの有無にかかわらず、地域の中であたり前に生活したい」という一人のお母さんの願いが、大きく羽ばたくことになったのである。

法人理念は、「共に生き、共に育つ」である。保育園を卒園した障がい児たちの成長と共に、ニーズに合わせて事業が次々に拡大していった。多摩川あゆ工房は、なごみ福祉会として初めて設立された成人のための法内就労支援施設である。

なごみ福祉会 ファッサード

多様な焼き菓子が地域でも人気

多摩川あゆ工房(以下、あゆ工房)を代表する作業が、焼き菓子の製造だ。みんなのお菓子屋さんレゼル担当のサービス管理責任者・谷澤浩子さん(51歳)は、その特徴を次のように説明する。

「レゼルとは、フランス語でつばさの意味。天使のように翼を広げ、世の中に羽ばたきたいという願いを込めて名付けました。素材にこだわって、甘さ控えめの焼き菓子を作っています。現在、販売しているのは約28アイテム。多摩区内にある養蜂場のはちみつをたっぷり使った『多摩のはちみつクッキー』や、多摩特産ののらぼう菜を生地に練り込んだ『のらぼうクッキー』、多摩産の梨をジャムに加工して特製生地とあわせた『多摩梨のタルト』など、地元の素材を活かしたオリジナル商品も開発してきました。おかげさまで地域の方からはとても人気で、リピーターも増えているのですよ」

販売するのは、おもに地域のバザーである。1年間で約50回のイベントに出店する。その他、近隣保育園や幼稚園のおやつ、企業や団体からの集会のお茶請けなど、定期的にさまざまな発注が寄せられる。施設入り口の販売コーナーも充実しており、ほぼ全アイテムがここには揃っている。ショップでもないのに、受付にはレジが設置してあるほどの力の入れようだ。

「出張販売に行くのは学校関係が多いので、ほとんどの商品が1袋100円という低価格。ワンコインで買えると、学生さんたちからは大人気です。ただし、最近はやはり原材料の高騰によって、この価格で売るには厳しくなっています。売上そのものは年々上がっているのに、利益率がほとんど変わらない状況ですからね」と、谷澤さん。

  • 地元多摩の素材を活かした多様な焼き菓子が人気
  • 約28の焼き菓子を作る厨房と利用者さん

日本セルプセンターも後援している神戸スウィーツ・コンソーシアム等に積極的に参加し、製菓技術の向上や原材料の再検討、そして製品開発のヒントなどを得たという。新製品である多摩梨のタルトは、この研修会への参加がきっかけとなって生まれたもの。8月〜12月までの季節限定製品ながら、昨年度はあっという間に売り切れてしまった。価格も250円という高めに設定したものの、お客さんからは大好評。新製品の投入によって、利益率を少しずつ改善させたい考えだ。

官公庁からの発注が増え続ける清掃事業

あゆ工房は近年、大きく業績を向上させた施設として全国からも注目されている。セルプ協が2017年3月に発行した『就労継続支援B型事業の取組事例集:工賃向上・売上拡大をはかる成功へのアイデア』にも、好事例として選定された。

その中心的な役割を果たしたのが、清掃事業である。もともとは利用者の保護者が住んでいた市営住宅の共有部分(階段や廊下など)の清掃を、住宅自治会から請け負っていた仕事だった。その後、障害者優先調達推進法の施行によって、官公庁からの清掃業務発注が相次ぐようになる。あゆ工房では清掃業務部を独立させ、あゆクリーンサービスとして分場化している。

「昔、清掃会社に勤務していた経歴をもつ職員が中心となり、『福祉施設を抜けだそう』というコンセプトでスタートしました。残念ながらこの職員は亡くなってしまったのですが、今でもその遺志は若いスタッフたちに引き継がれています。工賃8万円をめざして頑張っているのですよ」と、飯島克巳施設長(62歳)はその思いを語っている。

現在、受託しているのは、川崎市北部地域療育センターや多摩区役所生田出張所、特別養護老人ホームなど6カ所の日常清掃と定期清掃である。さらに近隣住宅などの共用部分清掃も、週に3〜4日。これだけの仕事量を、14名の利用者と6名の職員(2名が常勤、4名が非常勤)で担当するのである。清掃事業を担当する支援員の千頭聡一朗さん(33歳)は、スタッフのやりくりに苦労しながらも、日々成長する利用者たちの姿を見るのがうれしいと目を輝かせる。

「最初は指示されないと動かなかった利用者たちも、今ではすっかり自分たちだけで仕事の段取りをできるようになっています。ワックス掛けの担当が、彼らにとって仕事上の最終目標。任された人は、本当にうれしそうに仕事をします。そんな丁寧な仕事ぶりがお客さんからは評判となり、仕事が増えているのではないでしょうか」

  • 住宅自治会官公庁からの清掃業務発注が相次ぐ
  • 丁寧な清掃作業の仕事ぶりがお客さんからは評判

今後の事業展開は、3つの柱を中心に

あゆ工房の今後の課題について、飯島施設長に伺ってみた。

「就労継続支援B型事業としての作業は、製菓、清掃の2本の柱と考えています。高い工賃を稼ぐという観点からは、清掃などの外作業が中心になりますが、製菓部門で働きたいという障がい者のニーズがたくさんあるのも事実。彼らをもっと受け入れられるように、製菓部門の収益を改善したいですね。将来的には、専用の店舗をオープンさせたいと夢見ています。より街中に近いところで、いつでも地域の方たちが気軽にお菓子を買いに来られる。そんな店を作りたいのです」

清掃事業の売上は、年々増加の一歩をたどっている。29年の最終売上予測は、約2,000万円弱。今後も官公庁からの発注が見込まれるし、高齢化の影響で公営住宅からの引き合いも期待できる。これをさらに地域見守りサービス等につなげていけば、新しい事業を生み出すことも可能だろう。

あゆ工房の清掃業務の成功に注目した川崎市障害者雇用・就労推進課は、市内の障害者施設へ新しく清掃業務に取り組むための支援活動を始めている。すでに実績のあるあゆ工房など2施設が指導役となり、サービスを行っている現場に他施設からの実習生を派遣。業種転換を検討させようという試みだ。全国的にもなかなか進まない工賃向上計画を、一挙にランクアップさせるための注目すべき動きといえるかもしれない。あゆ工房の清掃事業の実績が、それほど際立っているという証拠だろう。

生活介護事業も実施する多機能型事業所のあゆ工房には、さまざまなタイプの利用者が混在するのも事実である。そのため飯島施設長は、「障がいの重い利用者たちが参加できる職場づくりにも力を入れていきたいですね」と今後の豊富を語っている。さまざまな仕事を通じて、多様な障がい者たちが地域の中に溶け込んでいくこと。「共に生き、共に育つ」という法人の原点を大切にしながら、あゆ工房の事業は拡大を続けていく。

  • 飯島施設長と利用者さんの集合写真
  • 調理作業をする利用者さん

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。