社会福祉法人修倫福祉会(茨城県坂東市)

しずかの創造苑の「揚げ餅」は、懐かしい田舎のお袋の味。シンプルな味わいが人気

社会福祉法人修倫福祉会の概要

修倫福祉会は知的障害者を主たる対象者として、「就労移行支援事業」「就労継続支援B型事業」(しずかの創造苑)や、「生活介護事業」(丸太)を運営する社会福祉法人である。この他、「共同生活援助事業」として三つのグループホーム(しずか寮・マルタホーム・みなみ寮)も運営する。

中心的な事業所である「しずかの創造苑」があるのは、茨城県南西部に位置するのどかな田園風景の中である。施設の入り口付近は樹木が生い茂った林になっており、木の中の細い道を通り抜ける必要がある。初めて訪れる人は、地図を手にしてもほとんどが簡単にはたどり着くことができないだろう。まさにその名の通り、静かな環境の中でひっそりとたたずんでいる施設なのである。

作業内容としては、揚げ餅、パン、梅干し、らっきょう等の食品製造や、さをり織り、その他軽作業などをおこなっている。しかし売上の1/3を占めるのは揚げ餅であり、近年はますますその比率が高まっている。

パンや梅干し等を作っている施設は全国に数多いが、揚げ餅というのは非常に珍しい。そのため「しずかの創造苑」というと揚げ餅というイメージが定着しつつあり、今後も中心的な作業品目として事業を拡大していく予定なのだという。

しずかの創造苑が、揚げ餅を始めた理由

もともとしずかの創造苑では、施設の設立当初から周りの田んぼ(施設の土地)を使って餅米を栽培していた。周囲にはいくらでも広大な土地があるため、利用者の施設外活動の一環として農園作業を取り入れていたのである。そこで収穫された餅米は、一年の終わりに赤飯を炊いたり、餅をついたりして福祉バザー等の会場で自主製品として販売活動をおこなっていた。しかし赤飯やあんころ餅は日持ちがせず、その場でしか販売することができない。せっかく一年かけて栽培した美味しい餅米、これをもっと有効活用して他の製品を作れないかと考えた末に浮かんできたのが、「揚げ餅」だったというわけだ。

なにしろ揚げ餅の製造には、特殊な設備が必要ない。餅米は自分たちが栽培しているわけだし、作り方もよくわかっている。しずかの創造苑がある茨城県南西部は米どころの地でもあり、昔から各自の家では収穫した米を使って餅をつき、食べきれなかった餅は揚げ餅にしていた。「私の家でも、親が良く揚げ餅を作ってくれました。自分たちにとっては、いつも食べていた身近なお菓子なんですね」と、和田孝子施設長(64歳)。しずかの創造苑の「揚げ餅」は、まさに田舎の家庭で日常的に作られていた家庭の味そのものなのである。

家庭の味とはいっても、作り方にはさまざまなこだわりがある。餅米は基本的に施設内で栽培された自主生産米だし、田んぼ(水稲)と畑(陸稲)の餅米をブレンドして使用している。米というのは基本的に水稲で生産する方が収穫量も増え、安定的に栽培できるのだが、あられや煎餅の材料とするには陸稲米の方が適しているらしい。しかし連作もできず、雑草取りの手間暇がかかる陸稲米を全面的に栽培するわけにもいかないため、独自の配合でブレンドしているのだ。

施設の田んぼは、現在二町半の大きさ。水稲と陸稲の二つがある。3月から種まきをして苗床を作り、5月初旬に田植えとなり、夏の間雑草取り等の管理をおこない、9月から10月にかけて米を収穫する。その後、脱穀した籾を精米し、11月以降からふかして餅を作り、小さく細かく切断して、やっと揚げ餅の原料となる乾燥工程へとすすむことになる。

美味しい揚げ餅作りのためには、この乾燥工程が非常に大切なのだという。餅に含まれる水分を完全に飛ばさないと、揚げたときに固い芯ができてしまう。

しずかの創造苑では、切断した細かい餅を利用者が手作業で1ヶ月かけて陰干しを繰り返し、その後も冷蔵庫で2ヶ月保管しながら乾燥させるという念の入れようだ。決して機械乾燥に任せず、あくまでも手作業に徹するこうした製造法には、「子どもの頃食べていた家庭の味を再現したい」という和田施設長の想いがこもっている。

フライヤーを使わず、鍋で揚げるから田舎の味が再現できる

もうひとつのこだわりは、揚げ方である。しずかの創造苑では揚げ餅を事業としてスタートする時に、揚げる工程を効率的にするためにフライヤー設備を購入した。コンビニやハンバーガーチェーンでお馴染みのこの機械を使えば揚げる工程は非常に楽であり、品質的にも安定するというのが食品業界の常識だ。しかし実際にフライヤーを使って餅を揚げてみたら、どうもふっくらと仕上がらず、揚げ餅特有の食感、サクサク感がでなかった。フライヤーというのは大量の油の中に材料が入ったカゴを落とすだけの作業なのだが、フライドポテトや空揚げなどを揚げるには適していても、餅をふっくら揚げるのには向いていないのかもしれない。

「何回やってみてもどうしても手作りの味が再現できなかったので、やっぱり鍋で揚げた方がいいわね、ってことになりました」と和田施設長は語る。フライヤーで揚げるのと違って、鍋で餅を揚げる作業というのは相当体力がいる仕事である。家庭で余った餅を少し揚げるのとはワケが違う。大量の餅を大きな鍋の中で返し続ける作業だけでも、腕力と根気が相当必要なのだ。

味付けは、単純に醤油だけである。最近の市販品では薄めの塩味の揚げ餅が主流になりつつあるが、しずかの創造苑では醤油味のみ。隠し味として、一味唐辛子を少量加えている。いわゆる市販品の洗練された揚げ餅とは少し違った濃いめの味付けが、昔懐かしい田舎のお袋の味として、多くの人の心をつかんでいるのだろう。福祉関係のイベントでも、しずかの創造苑の揚げ餅はいつでも大人気だ。シンプルな商品ではあるが、意外と他施設で作っているところは見あたらない。パンやクッキーなど甘い製品が並ぶことが多い会場である。おやつにもなるし、酒のつまみにもなるし、お土産としても万人に喜ばれる。価格も手ごろ(1袋370円)な揚げ餅は、誰からも好評を得ているというわけだ。

2008年の夏には毎日新聞に「福祉施設で作っている美味しいモノ」という企画で紹介され、全国から注文が殺到し、一時は電話回線がパンクするほどの騒ぎになったのだという。もともと10,000袋程度の生産しかしていなかった製品なのに、100以上の顧客から何千という発注が一挙に届き、年間を通して考えていた生産計画がもろくも崩れてしまった。「買っていただけるのは嬉しいですが、あまりに突然、同時期に注文が殺到するのも考えものです(笑)。幸いなことにこの時のお客様は一時的でなく、その後も固定客となってくださっているので、とても有り難いのですけどね」(和田施設長)

課題は、生産力アップと品質の安定化

このように、今後の課題はやはり生産力のアップに尽きるかもしれない。米は施設内生産が基本だが、大量の注文がある年はやむなく近隣の農家から安価に購入するルートは確保した。工賃倍増計画の達成のためには「売り切れ御免」というこれまでの考え方では、問題がある。施設といえどもこれからの時代は顧客からの注文に対して、いかに応えていくかという経営努力が問われていくからである。工賃を倍増にするためには、現在の揚げ餅の売上450万円を倍にするくらいの意気込みが必要なのだという。

もう一つの課題としては、製品の安定化であろうか。「手作りの味」「お袋の味」というのがしずかの創造苑の揚げ餅の最大のウリではあるが、それは同時に欠点にもなり得る。全ての工程が機械化されていないだけに、どうしても製品の味にバラツキが出る危険性がある。現在の製造レベルではまだ問題視されていないが、製造量がこの調子で今後もどんどん増えていけば、何らかの形で品質安定化の方策を検討しなければいけない時期がやってくるだろう。

しかしそうはいっても、大規模なオートメーション工場によって大量生産するお菓子が当たり前の現代にあって、正直に手作りの工程を守り続けるしずかの創造苑の揚げ餅は希有な存在であることには変わりない。バザーなどでの圧倒的な人気が話題になり、最近では他施設からも「ウチでもやってみたいので教えてほしい」という依頼がいくつか出てきたという。もしかしたら近いうちに日本中の施設で、揚げ餅事業をスタートさせるところが出てくるかもしれない。誰もが作り方を知っているが自分ではなかなか作らず、しかも誰もが大好きという製品はなかなか見あたらない。福祉バザーを中心とする販売活動をおこなっているところでは、ヒットする可能性が大きいのではないだろうか。

(写真・文/戸原一男)

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社会福祉法人修倫福祉会・しずかの創造苑(茨城県坂東市)
https://www.mefuki.org

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