社会福祉法人足利むつみ会(栃木県足利市)

エコポリスパンを導入して、文書細断リサイクル事業に本格的に参入

社会福祉法人足利むつみ会の概要

足利むつみ会は、「社会就労センターきたざと」(就労移行支援事業/就労継続B型事業/生活介護事業)、「セルプみなみ」(就労継続B型事業/生活介護事業)、「デイ・アクティビティセンター銀河」(知的障害者通所更生施設=新体系未移行)、デイ・センターWIN(生活介護事業)を運営する社会福祉法人である。この他地域生活支援事業として、グループホーム・ケアホーム(デイジー/ドナルド/あゆみの家)や、おもちゃ図書館、特別養護老人ホーム青空、放課後児童クラブ「ビタミンクラブ」、日中一時支援事業「スマイル」等の事業も展開する。

法人の設立は、1985年のことである。当時足利市には複数の知的障害者入所更生施設があったのだが、働くことに主眼を置いた施設は余り存在していなかった。そこであえて「通所授産=利用者が自宅から通って仕事をする」ことにこだわり、少しでも高い工賃を稼ぎ出せる施設づくりをめざしてきた。それが「社会就労センターきたざと」である。

行政もこの地を「福祉の里」として位置づけ、足利中央特別養護学校を隣接地に建設するなど、障害のある人たちやその家族が安心して地域生活が送れる場として積極的にバックアップしてきた。比較的市内北部に位置する「社会就労センターきたざと」に対し、南地域の人たちのために「セルプみなみ」を開設(2006年)することになったのも、そうした行政との連携の結果である。

きたざとのパンの魅力は豊富なラインアップ

設立当初の作業品目は、サンヨー電気やアキレスといった市内の大手メーカーからの下請け作業であった。ファンヒーターパネルの組立作業、完成した靴の梱包作業等は安定した仕事を確保できていたのだが、時代の流れと共に工場の閉鎖や海外への業務移動等が続いたため、メイン事業の変更を余儀なくされた。現在の「社会就労センターきたざと」では、パンの製造が代表的な事業となっている。(「セルプみなみ」は、クッキーを担当)

「ピーターパン」というブランドで販売しているこの施設のパンの特色は、なんといってもアイテムの豊富さだ。つねに46種類にも及ぶメニューを用意し、顧客が毎日来店しても飽きないような心遣いがなされている。チラシを見ると、あんパンやクリームパン、ジャムパンといった定番の菓子パンから、コロッケパンやハムカツパン、チリドックやピザトーストなどの総菜パン、食パンやバターロール、フランスパンに至るまで、まさに一般のパン屋さんさながらのラインアップである。

職人による完全手作りが基本であり、冷凍生地は一切使わない。手間のかかる総菜パンもすべて一つひとつ手作り。たとえばコロッケパンに挟むコロッケは、ジャガイモを蒸かして丸めるところから作業しているというのだから、相当のこだわりだ。コロッケに絡めるソースも、地元産のソースを使って独自ブレンド(配合は企業秘密とのこと)したという凝りようである。そのため一度食べたお客さんは今時珍しい「手作りの味」を気に入ってくださり、固定客となってくれるパターンが多いのだという。

こんなこだわりゆえに、毎朝の仕事のスタートは早朝5時となっている。店のオープン時間である10時には焼き上げなくてはならないためだ。中心となる職員は元パン職人であるため、早朝からの作業は当然と考えてくれているらしい。販売方法は施設内のパンショップ「ピーターパン」での販売と、専門学校や保育園や社協への出張販売、日赤病院店舗への委託販売等である。年間売上は、約1,000万円。パン部門に携わる利用者の平均工賃は約30,000円であり、法人全体の中でも高い水準を維持している(法人全体工賃は、20,000円)。

通り沿いにパンショップをリニューアルオープン

さらに「社会就労センターきたざと」では、今年9月にピーターパンのパン・喫茶ショップを通り沿いにリニューアルオープンする。現在基礎工事も終わり、着々と建設作業が進行しているところだ。完成すると、店内には手作り・焼きたてのパンが並べられ、喫茶スペースもあるのでその場で食べることもできる。足利県立女子高等学校が近くにあるという地の利から、大幅な売上増が期待されている。

パンショップを新たに建設する理由について、阿由葉寛理事長(52歳)は次のように語っている。

「現在のパン売上の大半は出張販売なのですが、移動する労力を考えるとどうしても店舗販売に力を入れたかったのです。現在の店は施設の中にあり、一般の人はなかなか入りづらい立地ですから。それにやはりパンは焼きたてが一番美味しいでしょ。焼きたての状態で、ピーターパンのパンをもっとたくさんの人に食べてもらいたかったのですよ」

店舗には、地域住民たちが楽しんで来店してもらえるための配慮もされている。パン販売、喫茶スペース以外にも、ウッドデッキでのんびり過ごせるコーナーや、子どもたちが遊べるボールプールなどの遊具室まで設置されているのだ。これは、重度の知的障害者たちを魅了する感覚刺激空間づくりによって、彼らに最適なリラクゼーション活動を提供するという理論「スヌーズレン」に基づいている。

スヌーズレン遊具は「社会就労センターきたざと」内で企画製造されているオリジナル商品でもある。大人から子供まで、車いすの人たちでも安心してくつろげるように設計された「ポジショニング・クッション」や布で出来た巨大なサイコロ「カウントボール」など、どれも子どもたちが楽しく遊べる遊具ばかりだ。商品の展示コーナーという位置づけでもあるが、地域住民にとってピーターパンの存在は単にパンショップの域を超えた存在になっていくに違いない。


  • 施設内の廊下は、多彩な光を発する幻想的な空間となっている。

  • 車いすの人でも安心して座れるポジショニングクッション

パン製造に関わる利用者たちの間でも、期待が広がっている。もともと「社会就労センターきたざと」の中でもパン部門の利用者達の工賃は高く、能力的には一般就職への道がもっとも近い人たちだ。これまでも出張販売などで顧客とふれあう機会が少なくなかったが、今後はそれが日常的になってくる。自分の作った製品を目の前で買ってもらうという体験を通じて、ますます自立への思いを高くしてもらおうという狙いである。

「店のオープンによって利用者たちの意識が高くなり、たとえば外のパン屋さんで働きたいという利用者が出てくることが理想的ですね」と、川村直美サービス管理責任者(30歳)。完成予想パース図を見る限り、多くの人たちが集う理想的な空間になることが容易に想像できる。ショップのオープンが楽しみである。

文書裁断&用紙リサイクル作業をスタート

新店舗のオープンによってパン事業の大幅な発展が期待されるのだが、実はこの事業に関われる利用者というのは人数的には数少ない(7名程度)。「社会就労センターきたざと」の多くの人たち(3事業合計で定員60名のうち、53名)は、能力的な問題から現在も下請け作業に従事しているのが現実である。しかし下請け作業というのは作業量の割には、利益が少ないというのが常識だ。現状に甘んじないで「もっと儲かる仕事を考え出さないと時代に取り残されることになる」(阿由葉理事長)という危機感から、新たに考え出されたのが用紙リサイクル事業なのである。これは専用車両によって機密文書などを細断し、回収した紙片を製紙会社に販売して古紙として再利用してもらうというエコ事業だ。

きっかけは阿由葉理事長の2007年のアメリカ視察旅行であったという。障害者が軍の機密文書の細断を請け負っている姿を見て、日本でも同様なことができないだろうかとひらめいた。帰国後さまざまな調査をしてみると、文書細断のための専用車を作っているメーカーがあることがわかった。機密文書を扱うためには、基本的にはクライアントに出向いていってその場で細断することが必要だ。そのためこの専用車は大型シュレッダーが搭載され、細断された紙片は自動的に後部に圧縮されていく。細断機とゴミ収集車がセットになった、スグレモノなのである。

エコポリスバンというこの専用車、コンパクトながらも小型シュレッダーの20〜50倍もの細断能力を持ち、500kg程度の文書は約一時間で裁断してしまう。大きな金具等で綴じられていなければ、ホチキス程度のものなら手で取り除く必要もない。車にはセキュリティトレーサーというシステムまで完備されているため、機密文書を細断している様子や車の走行記録に至るまで、すべて完全にデータとして残されていく。最高度のセキュリティを保証するという、まさに機密文書細断のための専用車なのである。

この高額な専用車を栃木県から「障害者自立支援基盤整備事業」の補助を受けて購入し、エコリサイクル事業がスタートした。今年3月のことだ。エコポリスバンを使って文書細断事業をおこなう事業者は全国に約80社あるのだが、もちろん社会福祉法人が導入するのは初めて。エコ事業を絡めた障害者就労のあらたな形として、関係者からも注目が集まっている。

エコポリスバンを福祉施設の全国ネットワーク事業に

文書細断の仕事が入ると、利用者3名と職員2名のチームで顧客の元へエコポリスバンで駆けつけ、現場で文書を細断する。細断した文書は、用紙会社に持ち込み古紙材料として買い取ってもらうことが出来る。細断料と、古紙料のダブルで利益になるという計算だ。平均的な受注では1回の細断が500kg程度だというから、細断料で25,000円、古紙料で15,000円程度の収入になる計算である。下請け作業と比較すると、作業効率的には悪くない収入であり、ポイントはいかに定期的な受注を確保できるかにかかっているという。

エコリサイクル事業部・営業担当の津久井敏夫さんは、今後の展開を次のように語っている。

「事業スタートしてからわずか2ヶ月なので、まだまだ発展途上の段階ですが、顧客の反応はとてもいいと思っています。とくに官公庁に関しては、障害者施設への優先発注という観点からも、積極的に営業活動を進めています。官公庁としては、用紙リサイクルの作業を福祉施設に発注するという二つの意味合いがありますからね」

栃木県の官公庁の障害者施設への発注実績は全国でも最も低い数字であったらしく、知事指導によって施設への優先発注が強く通達されているらしい。こうした背景を元にして積極的に営業展開することで、今後の展開は自ずと開けていくに違いない。

下請け作業中心の「社会就労センターきたざと」の利用者にとっても、新しい事業は工賃確保以外の意味合いを持っている。

浅沼千絵支援員(27歳)によると、「施設から出て仕事をすることが初めての体験なので、身体が固まってしまってスムーズに動けなくなる利用者がいたことも事実です。でも慣れるにつれて、少しずつそんなこともなくなりました。彼らにとって新しい仕事の体験をすることは、社会適応していくためにはとても重要なのではないでしょうか」とのこと。いずれはむしろ自分が出かけたいと手を挙げる利用者が次々あらわれ、選考に困るような時期が来るのかもしれない。

事業的な目標は、「とりあえず月商40万円、年商500万円という数字をめざしています」(津久井さん)とのことだ。エコリサイクルブームに目を付けた同業社も複数存在するのも事実だが、営業担当地域を振り分けるなど、お互いにパイを食い合わないような友好関係を保っていく努力を続けているらしい。少なくとも官公庁からの受注に関しては福祉施設であることのメリットは非常に大きいため、他社もむしろ積極的にタイアップしたがる傾向にあるようだ。

しかし阿由葉理事長の今後の夢は、このエコリサイクル事業を全国の福祉施設でネットワーク化していくことなのだという。「さまざまな地域で、企業と対等な関係で福祉施設がエコポリスバンを導入していけば、この事業そのものの認知度が格段にアップして飛躍的に営業展開がしやすくなるのではないでしょうか? 結果的に、利用者たちの工賃アップにつながるはずだと思いますよ。障害者施設も、これからはもっと積極的にお金を稼ぐ事業を展開していかなければいけません。私たちの始めたエコリサイクル事業が、その先鞭となればいいですね」

リニューアルオープンするパンショップ「ピーターパン」とともに、エコポリスバンの用紙リサイクル事業の今後の展開が大いに注目されるところである。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。