社会福祉法人高柳福祉会(千葉県柏市)

資金力のなさを地域密着でカバーして運営する「わかたけ社会センター」

高柳福祉会の概要

高柳福祉会は、知的障害者通所授産施設「わかたけ社会センター」(新体系未移行)を経営する社会福祉法人である。基本的に1法人1施設(定員20名)の小規模な施設であるが、分場として「Galleryたけのこ」(定員10名)や、グループホーム(定員10名)も運営する。

もともとは、外山義哉施設長(52歳)が1985年に一人の障害者を対象としてスタートさせた無認可作業所であった。1995年に晴れて認可法人になったのだが、活動を休止していた保育所が持つ社会福祉法人格を、全国初の「保育所から障害者施設への定款変更」によって実現したのだという。

「わざわざそんな面倒なことをしたのは、単純にお金がなかったからですね。これは昔も今も変わりませんけど(笑)。当時は社会福祉法人を設立するのに、1億円の資産と自己所有の土地がないと認可されない時代でしたから。障害者施設への定款変更というのは全国的にも前例がないことであり、手続きは本当に大変でしたけどね。新規で立ち上げてくれた方がよっぽど早く認可できますよ、と役所の人に何度も言われました」(外山施設長)

活動休止していた保育所の木造校舎もそのまま譲り受け、空港周辺防音整備事業(海上自衛隊飛行場より2km以内のため)を活用して建物の修繕を図るなど、あらゆる助成制度を活用し、できる限り費用をかけずに知的障害者通所授産施設「わかたけ社会センター」は立ち上がった。

中心的な作業場である養鶏場にしても、知人から無償貸与してもらった野ざらしの土地を独力で整備して、小屋を建てるところから始めている。まさにゼロからのスタート。地域の中に障害者の働く場を作りたいという外山氏の思いに、地域の知人たちが応援することで成長してきた施設なのである。

いちごジャムの材料は、近隣いちご畑から取り放題?!

作業品目は、養鶏作業(採卵)と農耕作業(サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ)とジャム(いちごジャム、ミックスジャム)、味噌(赤味噌、ゴマ味噌、ゆず味噌、赤辛味噌、にんにく味噌)の製造、そして施設外授産(企業への出向)である。

創設時から続けている養鶏は、2棟の鶏舎で900羽の鶏を平飼いし、自然の環境の中で産む1日600個の有精卵を販売している。殻が厚く、黄身の盛り上がりが非常に高いのが有精卵の特色であり、1個35円という価格でも固定客が付いている。(もっとも餌となるとうもろこし価格の高騰により、最近ではこの価格でも利益がほとんどでなくなっているところに養鶏事業の苦しさがある)

農耕作業の畑は、すべて周りの農家の好意によって無償貸与されている土地である。三種のイモを中心に栽培し、近隣スーパーの産直コーナーや道の駅、近隣への週一回の宅配等で販売している。

「昔は宅配を中心に販売していましたが、最近は産直コーナーを設置しているスーパーが多くなってきたので助かりますね。ここでは価格も自由に決められるので、周りを見ながら販売価格の調整ができるのです。もちろん特売商品も店には並んでいるので、よほど品質に特徴がなければ強気の価格設定はできませんけどね」と外山施設長。大きな利益は望めないが、年間を通して安定的に利用者の仕事量が供給できる事業として養鶏・農耕を位置づけているのが正直なところだという。

むしろ利益率の面から見ると、ジャムや味噌等の加工食品の製造販売の方が圧倒的に高い。どちらも千葉県産の農作物を使い、保存料や着色料等の添加物を一切使用しない優しい味の商品だ。とくに人気が高いのが、いちごジャムである。有機栽培のいちごに三温糖を加えた糖度52度という甘さ控えめのジャムは、地味な製品ながら根強いファンがいる。道の駅等で購入し、何度もリピーターになっている顧客が多いのだ。

このジャムの素材となるいちごは、近隣農家からすべて無償で提供されているものである。「わかたけ社会センター」の近くにはいちご狩りを楽しめる農園があり、土日にはいちごの食べ放題を楽しむ観光客で賑わっている。こうした農園では、顧客が摘み残した果実を平日の間に整備(摘み尽くす)する作業が大切だ。

そこで「わかたけ社会センター」に農園から協力依頼がくることになった。広大な畑のいちごをすべて採り尽くすために、人出が大量に必要なのである。いちごのハイシーズンである4〜6 月の3ヶ月間は、朝電話があるとスタッフ総出で出かけていって畑のいちごを山のように採ってくることになる。その量たるや、合計すると約2トンを超えてしまうという。

人手不足の農家としても助かっている作業だとはいえ、これだけのいちごを無償提供となると、一体誰のために栽培しているのかわからない。事実、農家の人には「なんだか、わかたけのためにいちごを栽培しているみたいだな」と笑われているらしい。しかしこうした冗談が言い合えるのも、良い関係を保てているからこそ。まさに地域の人々に支えられてきた施設の特徴を表しているエピソードと言えよう。

駅から数分の好立地に建てられた分場「Galleryたけのこ」

2006年より東武野田線高柳駅徒歩3分という好立地に、わかたけ社会センターの分場として「Galleryたけのこ」が開設された。この機織り工房では10名の利用者が「さをり織り」と呼ばれる色鮮やかな反物を織っていて、出来上がった反物を加工したバッグ・帽子・ポーチ・マフラー・服・小物類等の販売ショップも併設されている。

「『Galleryたけのこ』を作ったのは、多くの人にもっと私たちの製品を見てもらいたかったからですね。せっかく一生懸命製品を作っても、日常的に人との触れあいがなければ寂しいじゃないですか。この店は駅前の商店街の中にありますから、そういう点ではまさに理想的な立地条件でした」

と、外山施設長。この考えは見事にあたり、一点ものの高級バッグや帽子を求めてわざわざ東京方面からさまざまな層のお客様も訪れるようになってきた。「Galleryたけのこ」の製品の特色は、工房では素材の反物づくりに特化して、縫製加工に関しては外部の個人業者に依頼している点だろう。その結果、反物の良さを活かした高級感ある製品作りが可能になった。ボストンバッグ12,000円、トートバッグ7,800円、洋服4,000円〜等々...。

値段は少々高くても、手織り反物の良さを理解してくれる人たちにとっては「オンリーワン」商品としての価値がある。知的障害者一人ひとりが持つ芸術的センスが最大限発揮されるという「さをり織り」の特色を活かすには、最適な手法と言えるかもしれない。この他、指定された反物を使ってオリジナルのデザインをおこすオーダーメイド製品製作なども受け付けている。

ギャラリーの隣は、こだわりの食品を販売するコーナーである。ここでは「わかたけ社会センター」で作られた手作りジャム・味噌の販売をしているのはもちろん、全国から厳選した食材を扱った喫茶店にもなっている。最大の売り物は、北海道ノースプレインファーム製おこっぺ牛乳を使用した味わい豊かなソフトクリームだろう。マニアの間では話題の牛乳を特別ルートで仕入れ、その場で美味しいソフトクリームを提供する。本来なら都心のデパ地下でしか味わえない希少なスイーツとあって、密かに穴場ショップとして通い詰めている学生たちもいるとのこと。

「駅に近いといっても、所詮は田舎ですから、ご覧の通りお客さんが頻繁に訪れてくれるわけではありません(笑)。でも、2ヶ月に1回、後援会が歌声喫茶と題するライブに定期的に使用してくれたり、織物の体験会が実施されたりと、地域の人たちが頻繁に利用してくれるスペースになりつつあるのも事実です。今後の課題としては、このような分場を地域ごとに増やしていくことでしょうか。それが結果的に『わかたけ社会センター』全体の応援団を増やすことにつながると信じています」

地域密着こそが、小さな施設が生き残る唯一の道

高柳福祉会では2008年に、「Galleryたけのこ」のすぐ裏に定員10名のグループホームを建設した。本場・分場併せて30名定員程度の小規模社会福祉法人が、独自の建物を建設したというのだから大変なことである。しかも、ホームが建っているのは、駅から徒歩3分の好立地だ。商店街もすぐそばにあり、住まいとしては理想的な環境と言っていい。驚くことには、さらに隣りにもう一棟新たなグループホームを建設中なのである。いったいどこからこのような資金を調達してきたのだろうか? 外山施設長は、この質問に対して恥ずかしそうに答えてくれた。

「こんな弱小法人がグループホームを建設できたのは、すべて知人である大家さんのおかげです。『Galleryたけのこ』のスペースを安価に提供してくれた大家さんが、利用者の独立した住まいの場を作りたいという私の考えに共鳴してくれて、設計段階からホーム建設に全面的に協力してくれたのです。考え方としては、私たちが望む建物をゼロから建ててもらって、それを丸ごと貸してもらうという形態ですね。資金力のない法人ですから、本当に助かりました。駅にも近く、電車通勤するには最高の立地条件ですね。そのため、住んでいるのは大半が『わかたけ社会センター』の利用者以外の障害者たちなんですよ。私の妻なんか、自分の家よりホームの方が便利だわって、うらやましがっています(笑)

高柳福祉会の最大の特色は、このような近隣住民との密接な関係を保っているところにあるような気がする。今回の取材でざっとお話を伺っただけでも、いちごジャムの材料はすべていちご畑からの「無償提供」だし、イモ畑の畑そのものは近隣農家からの「無償貸与」である。ナシの産地で知られる高柳地方のナシ畑農家からは「畑になったナシをすべて持っていけ」と言われているし、グループホームの建築は大家さんの全面的な資金提供によるものだ。

「お金がないから、周りに頼るしかないんですよ」と自虐的に語ってはいるが、知的障害者施設に対してこれだけ周りが協力してくれるのは外山施設長の人柄と、地道に地域の中で良い関係づくりを培ってきた努力の賜だろう。「資金力がない法人でも、地域密着によってこれだけのことができる」典型例として、施設が積み上げてきた歴史は決して小さなものではない。これからも周りの協力を仰ぎながら、きっと地域の障害者にとって必要なサービスを提供し続ける施設であり続けることだろう。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。