社会福祉法人幸仁会(埼玉県深谷市)

県産端材リサイクル製材を武器に、官公需比率95%を実現した「川本園」社会福祉法人幸仁会

広大な敷地で繰り広げられる木材加工事業

幸仁会は、「川本園」(就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業)と「ウッドワーク川本」(就労継続支援B型事業・就労移行支援事業)を経営する社会福祉法人である。その他グーループホーム「ハイツ川端」も運営する。

作業品目は、「川本園」が学習机やベンチ、写真楯や置き時計などの各種木工製品製作であり、「ウッドワーク川本」が建築用材の製造である。どちらの事業所も定員30名程度(川本園が40名・ウッドワーク川本が30名)の規模であるにもかかわらず、それぞれの広大な敷地内には作業棟6棟が建ち並び、庭には山から伐採されてきた丸太の原木等がところ狭しと積み上げてある。

木工作業をおこなっている施設は全国に数多いが、「川本園」の最大の特徴は、丸太の製材から製品加工に至るまですべての工程を持つ作業体制にある。木工事業というのは作業が細分化されているのが普通であり、製材と加工の2つを一作業所内でおこなっている例というのは業界的にも珍しい。

しかも製品に使われる木材は、県内産の間伐材や端材をフィンガージョイント加工して製造されたものである。端材を何本も接着剤でつなぎ合わせて長くした後、何層にも貼り合わせて大きな一枚の板を作っていく。いわば木材の究極のリサイクルと有効利用。こうした製材技術をつかってさまざまな製品が生み出されていくのである。

国の施策に則ったビジネスモデルで大盛況

「公共建築物等における木材利用の促進スキーム」というものがある。農林水産大臣や国土交通大臣によって策定された国の施策である。これによると「低層の公共建築物については原則として木造化をはかる」とされ、木材利用促進のための整備案として「法律による措置」「木材化基準の整備」「予算による支援」を用意している。

埼玉県ではこうした国の施策に則って、「さいたま県木材認証制度」等独自の制度も整備し、積極的に木材利用の促進活動を進めてきた。さらには、経済産業省が推し進める環境リサイクルに関する3R政策(リデュース・リユース・リサイクル)である。大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済活動を進めてきたこれまでの姿を見直し、環境対策や資源の枯渇に配慮した循環型社会を作りだそうという政策だ。

野村吉茂理事長・施設長(73歳)は、こうした国や県の施策に目を付けた。

「国産材、とくに県産材の有効利用というのは、どの自治体でも大きなテーマとなっています。埼玉県も例外ではありません。『みどり豊かな彩のくに』をめざす県として、積極的に森林の整備や県産材の有効利用をアピールしているわけです。つまり、リサイクルされた県産材で低価格の製品作りを実現できれば、役所関係が発注しないはずがないということですね」

「官公需における障害者福祉施設等への優先発注制度」だけではほとんど現場の効力はないのが現実だが、「林業・木材産業の活性化」「森林の適切な整備・保全の推進」「環境リサイクル」を実現するためにもっとも適した事業者が障害者福祉施設であるとなれば、話は別である。しかも製材から製品加工に至るまで一環製造するため、他社と比較しても価格競争力が圧倒的に高いわけだ。埼玉県内における「公共建築物等における木材利用の促進スキーム」が生まれるたびに、行政側が「川本園」に事前に相談を持ちかけてくるようになったというのも納得がいく。

かくして「選任の営業マンはゼロ」という営業体制にもかかわらず、現在では一年中ほとんど仕事が途切れることのない受注システムが構築されている。事務所の作業予定表はつねにびっしり埋まっている。工場は常にフル稼働であり、世間の不況などどこ吹く風と言った様相だ。

次々と変貌してきた「川本園」の事業内容

もちろん「川本園」の事業は、昔からこのように順調だったわけではない。開設当初は多くの障害者施設と同様に、サインペンの組立や紙袋のヒモ通し等といった企業からの下請け作業を細々とおこなう典型的な「知的障害者授産施設」に過ぎなかった。しかし「儲け」につながりそうな話を聞きつけると、すぐ新たな事業に転換していくのが野村施設長の特性だ。ある時、施設の周りに広大な竹林があることから竹を活かした事業構築を勧められると、竹箸の製造を始めることになった。しかしこれを食堂などに卸していたのでは、利益が上がるはずがない。

というのも、業務用の割り箸の価格は1セットあたりわずか数円にしかならないからだ。これをいかに数倍の価格で売れるようにするか。野村施設長が考えたアイデアは、生命保険のセールスレディに名刺代わりとして「環境に優しい竹箸」を配布してもらうというものだった。箸の袋に謄写版印刷で名前を入れるだけで、業務用に卸すのとは比較にならない価格で竹箸を販売できるようになる。この企画は予想以上の大ヒットとなり、警察が交通標語を入れて配布するという仕事にも発展したらしい。

「1つひとつの商品に付加価値をつけることの重要性を、この時あらためて学びましたね」と野村施設長。さらに竹活用の事業は、芝串製造へと変貌を遂げていく。芝串というのは、芝生が剥がれないように土に打ち込む留め具である。竹で作った芝串は、芝が根付く頃には土に腐食分解されていくため、作業的にも環境保護の観点からも評価が高い。そんな芝串が1980年代のゴルフ場開発ブームにのって、売れに売れた。「川本園」では一日の生産量が5万本を超え、関東で一番の生産量を誇る事業所となったほどである。

しかしそんなブームも長くは続かない。バブルが去ってゴルフ場建設ラッシュが止まると売上げが激減してしまうため、今度は竹の工芸品を作る方向にシフトすることになる。この時、竹から平らな板材を作る技術を開発したことが、現在の「川本園」の事業スタイルを決定づけることになる。

湾曲した竹材を細かくカットし、それぞれをカンナで平らに削って出来た板を何枚も貼り合わせることによってさまざまな製品を作り出していく。この高度な竹加工の技術を活かした工芸品が、新たな「川本園」のメイン商品となったのである。

埼玉県の施策と密着した事業活動

そんな折り、埼玉県の森づくり課で「県内産間伐材促進利用」のために県内小中学校に地元産の木材を活用した学習机を導入するという企画が生まれてきた。県を挙げてこの企画を実現させるため、製造事業者に指名されたのが日頃から完成度の高い竹製品を作っていた「川本園」だったというわけである。

竹板を作るという細かな技術は持っていたものの、当時は家具製造に必要な図面デザインなどの基礎はまったく持ち合わせていなかった。しかし工業研究所の指導によってこれらの技術をマスターし、木工製品加工技術を手にすることになる。さらには、端材から板を作り出すフィンガージョイント加工という製材ノウハウである。集成材を自社製造することによって、行政の要望にマッチした生産体制を整えられると考えた野村施設長は、ここから一気に大規模な設備投資をおこない、現在の事業体制を完成させた。

その結果、どうなったか。大学用システムデスク、野外用ベンチ、小中学校の学習机セットやロッカー、埼玉県武道館内のベンチ・椅子・テーブル...といった家具類から、置き時計、朱肉入れ、写真楯などの大会記念品小物、さらには植樹カウンターボード、さいたま県庁の各課や係につるされている案内板等、さまざまな仕事を受注できるようになった。「川本園」で製造する木工製品のほとんどは、役所から発注委託されるものである。その割合は、なんと95%という驚異的な数字だ。官公需からの発注量増大を課題としている多くの施設にとって、これほど理想的な営業スタイルはないだろう。

もちろんここに至るまでには、行政側の要望に応える地道な活動の積み重ねがあった。埼玉県木材をPRするために埼玉県農林部の職員たちが使っている木製ペーパーの名刺製作は採算度外視で受注しているし、埼玉県が木質系バイオマス燃料ペレットボイラーの導入を本格的に推進するための実験として、ペレット製造ミニプラントを施設内に稼働させるなどの協力をおこなった。

また不動ヶ岡高校にある樹齢50年のポプラの木が枯れた際には、その木を伐採して施設に運び、木の皮をむき、乾燥させた後、使える部分だけをつなぎ合わせて製材加工し、大時計や椅子、さらは生徒に記念品として配る置き時計などを製作している。さらには北与野駅前の樹齢300〜600年のケヤキの樹木を伐採するときにも、古木から時計やストラップなどの記念品を製造している。

どれも非常に意義深い仕事だが、採算的には手間ばかりかかってまったく採算が合わない「道楽みたいな仕事」だと野村施設長は笑う。しかしどれも県産材再利用と環境リサイクルをPRしたい行政にとって、非常に重要な仕事である。企画が生まれたときに「川本園」に相談すれば、何とかしてくれる。そんな信頼関係が、行政から生まれる仕事を積極的に発注してくれる源になっているのだろう。

めざすのは、日本一の工賃を支払える障害就労施設

「川本園」の現在の年間売上高は、約4,500万円であるという。就労継続支援B型事業所の平均工賃は、約24,000円。就労継続支援A型事業所に至っては、減額特例の利用者以外には当然のことながら埼玉県の最低賃金である時給750円以上が支払われている(月平均65,900円)。2010年4月に新体系に移行した際に就労継続支援A型事業所の所属となった利用者は、大幅な工賃アップとなった。野村施設長は語っている。

「基本的に、私たちはすべての事業をA型にする義務を負っていると思いますよ。少しでも高い工賃をどうやったら支払えるようにするのか。常に数字を追いかけていく必要がありますね。たくさんお金を支払うことが、利用者に対する最大のサービスなのですから」

官公需中心の現在の事業展開にも満足することなく、次なる展開を模索中である。某住宅メーカーとタイアップした企画により、住宅建材のドアや天井類のパーツを製造することが来年度から決まっているというのだ。安価かつ環境リサイクルへの配慮がなされた、まったく新しい工法による住宅建材だけに、相当量の受注が見込めるはずである。すでに2,000万円を超える売上げを計画しており、これによって工賃は倍額以上に大幅アップする予定である。

「日本一の工賃を支払える障害者施設に成長させたい」と、野村施設長の夢は尽きることがない。昨年春から、木材の研究をしていた埼玉県の元研究員にも職員として参加してもらうことになり、これまで以上に産官学からのさまざまな相談が増えてきた。ただでさえ「県産材のリサイクル技術を持つ木工製品メーカー」という唯一無二の特色を持つ「川本園」が、今後どのような発展を遂げるのだろうか。時代の変遷と共に臨機応変に事業を変えてきた野村施設長の柔軟な発想で、きっとまた新たな姿を次々見せていくに違いない。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。