社会福祉法人オリーブの樹・オリーブハウス(千葉県千葉市)

地元産ミルクを使ったアイス製造で、自立生活を後押しする「オリーブハウス」

オリーブの樹の概要

オリーブの樹は、秋桜(就労継続支援A型事業)、ファーストオリーブ(就労継続支援A型事業)、はつらつ道場(就労継続支援A型事業)、花まんま(就労継続支援B型事業)、オリーブハウス(就労移行支援事業、就労継続支援B型事業)を経営する社会福祉法人である。その他にも4カ所の福祉ショップ、ヘルパーステーションおきらく、グループホーム&ケアホーム等を運営する。

法人名の「オリーブ」というのは、「友愛」を意味している。昔からオリーブの枝葉は平和の象徴とされ、国連旗のデザインにも採用されてきた。「私たちはすべての人を人として大切にし、思い合う気持ちを持ち、障害をもつ人々の自立と社会参加を支えるための福祉の仕事を進めます」という法人理念が、名称やマークに込められている。

もともとは、加藤裕二現理事長が1984年に自宅で近隣の障害者5名と始めた小規模作業所だった。その後、美味しいクッキーやケーキを製造販売する施設として地元では少しずつ有名となり、年々事業規模を拡大していき、2000年には社会福祉法人オリーブの樹を設立。現在では、前述の通り千葉市内5カ所で障害者就労系事業所等を運営する規模の法人にまで成長した。近年は企業への就職をサポートする活動にも積極的であり、オリーブハウスでは35名定員の就労移行支援事業を展開している。

イベントへの販売回数だけで、年間なんと500カ所?!

この法人の最大の特色は、自分たちでつくった菓子や手工芸品などの製品を自分たちで直接売るところである。基本的に、販売委託はしない。さまざまなイベント等への出店や、各事業所が運営する販売店・レストラン・福祉ショップだけで、ほとんどの商品を売りさばいていく。各団体・企業から依頼される出張販売には積極的に参加し、なんと1年間で500回の出店をこなしているのだという。

「私たちの原点は、作業所時代に障害者本人たちが自主的に駅前に商品を持っていって、道行く人たちに販売していたところにあります。初めて彼らが商品を売ってきたときは、ホントに売れたの?って、職員が驚き、大喜びしたほどでした。一生懸命売れば、きっと活動に理解してくれる人たちが協力してくれるようになる。それ以来、職員・利用者・ボランティアが一体になって、みんなで商品を積極的に売るというのが私たちのモットーになっています」

と語るのは、主任作業指導員の石垣秀雄さん(48歳)だ。要請される販売会は、ほとんど断らない。10月・11月のイベントシーズンなどは、法人メンバーをフル動員して、近隣小中学校のバザーや運動会、高校や地域公民館の文化祭、企業の臨時販売会などに出店するのである。ピーク時にはイベントが重なることも多いが、複数のチームがそれぞれの会場に出動していくことなど日常茶飯事だ。

「少しでも私たちの施設の活動に協力しようという考えから誘ってくださるわけですから、できるかぎり断らないようにしています。1回の販売会の売上は数万円のところから数十万円になるところまで、さまざまですけどね」

このような出張販売だけで、オリーブハウスは法人内他事業所の製品を年間3,000万円以上も売り上げているという。販売の中心を担うのが、外に出かけてお客さんと会話するのが大好きなアクティブ班の利用者たちだ。ファーストオリーブで大量に製造される法人名物のクッキーやパウンドケーキ等の菓子類はもちろんのこと、オリーブハウスの手工芸班が1年間コツコツと作り貯めてある手づくりキャンドルやビーズ製品などを、職員とともに手練の販売技術で売りさばいていく。イベントがないときでも、時間があまると彼らは駅前などの街頭に商品を持って販売してくることも多いという。「商品を売ることが、自分たちの工賃アップにつながる」という基本理念が、作業所時代からメンバーたちに徹底されているのだろう。

千葉県産の新鮮なミルクを使った高級アイスクリーム

ところで、オリーブハウスの代表的な商品といえばアイスクリームを忘れるわけにはいかない。2001年に認可施設となった後に取り組んだ比較的新しい事業だが、これによってオリーブハウスの名は一躍全国に知られるようになった。

千葉県産の新鮮なミルクをたっぷり使った、乳固形分15パーセント以上のホンモノの「アイスクリーム」は、口に入れたときのなめらかさが舌をくすぐる味わいだ。種類も豊富に用意されている。ミルク本来の味を楽しめる「バニラ」、香り高い高級抹茶・朝比奈を使用した「抹茶」、アールグレイを使った大人向けの味わいの「ロイヤルミルクティー」、ほどよい甘さで子供に大人気の「チョコレート」、いちごの爽やかな香りがたまらない「ストロベリー」等々の定番商品の他、「桜」(春)、「バナナ」(夏)、「マンゴー」(夏)、「栗」(秋冬)、「紅いも」(秋冬)といった季節バージョンも用意されている。

「じつは千葉県というのは、北海道に続く第二の酪農王国。房総半島には、日本の酪農発祥の地とされる牧場もあるくらいです。そんな地の利を活かし、クッキーやケーキに続く看板商品を作ろうとして取り組みました。他の施設でほとんど見かけない製品だというのが、アイスクリーム製造を選んだ最大の理由です」

地域性をさらに活かした製品として、南房総市の菜の花から採れた「菜の花純粋はちみつ」を使った「菜の花の丘のバニラ」や、千葉県特産のピーナツペーストをふんだんに練り込んだ「ピーナツ」もある。こちらはそれぞれ「千葉市優良観光土産品推奨」(菜の花の丘のバニラ)、「千葉県優良県産品推奨」(ピーナツ)の認定を受けている。

「ウチのアイスクリームの美味しさの秘訣は、じっくり時間をかけたエージング工程にあると思います。材料を一度加熱して殺菌処理した後、4度Cに冷却しながら攪拌し、それを一晩寝かせるわけですが、アイスが熟成されてなめらかな味わいになるのです。工場で大量生産されている他社製品とは、ここが一番違うのではないでしょうか?」

最近ではアイスクリームが若い女性を中心としてちょっとしたブームになっている。コンビニでショーケースに有名ブランドのアイスクリームがズラリと並んでいるのを見かけることも多いだろう。そんな高級アイスと比較しても、オリーブハウスのアイスは味で決してひけをとっていない。1個200円(菜の花の丘バニラとピーナツは250円)という価格も、一度食べてみると納得すること請け合いである。

アイスクリーム製造に必要とされる最高度の衛生管理基準

アイスクリームを製造するためには、食品製造の中でももっとも厳しい衛生管理基準をクリアしなければならない。クッキー製造の延長程度に考えていたオリーブハウスのスタッフにとって、取り組んでみて初めてその厳しさが身にしみたという。石垣主任は語っている。

「手の洗い方、作業着の着方、器具の殺菌の仕方等々、あらゆる作業工程について細かいマニュアルを設け、作業に関わる全員がそれを遵守しなくてはなりません。利用者たちにも徹底させるわけですから、非常に神経を使いますよ。作業室には大きくイラストで注意事項を記していますし、月2回の衛生教育も欠かさないで続けています」

もっとも大変なのが、機器の洗浄である。アイスクリーム製造工程自体は、2日ほどの作業で終わる単純なものだ。しかしその後に徹底した機器の洗浄作業が待っている。アイスクリーム製造に使った機械をネジレベルまでバラバラに分解し(その数たるや、なんと200パーツになる!)、すべて三種類の洗剤(中性・アルカリ性・酸性)で洗浄、その後さらに殺菌処理をおこなうという徹底ぶりである。

「実際に取り組んでみて、アイスクリーム製造を他の施設であまりやらない理由がよくわかりました(笑)。大腸菌群が検出されやすい繊細な食べ物ですから、衛生管理は本当に神経を使わないといけません。アイスクリーム製造を就労移行事業の作業としているのも、ここに理由があります。これだけ厳しい衛生教育を受けた利用者なら、どんな企業に行っても通用するはずだからです」

事実、オリーブハウスの利用者たちの就職先は、パン工場、回転寿司屋、スーパーマーケット(総菜売り場)、レストランなどの食品関係が圧倒的多数を占めている。有名ブランドに負けない味わいのアイスクリームを作ることによって、高度な衛生管理知識を身につけた利用者たちが自立への道を歩み始めている。そんな話を聞くと、ますますこのアイスクリームが美味しく感じられてくるではないか。

ホテルへの就職をめざした取り組み、「お掃除プロ」

オリーブハウスでは昨年度から新たな就労移行支援事業の柱として、清掃事業をスタートさせた。その名も「お掃除プロ」。文字通り、プロのお掃除職人を育てようという取り組みだ。

千葉県の幕張地区というのは、さまざまなホテルが建ち並んでいることで有名である。利用者たちに高度な掃除技術を身につけてもらえれば、ホテルへの就職への道が開けるのではないか。そう考えた加藤理事長が、海外視察の際に香港で見たという知的障害者のためのホテルマン養成施設を参考にして、独自の疑似ホテルルームや清掃訓練施設を設置した。利用者6名からスタートしたこの新事業は、半年で4名を病院や老人ホームなどの清掃係として就職させるといった実績を産んでいる。

「Pタイル(ビニールタイル)やフローリングが貼られた施設で実際にポリッシャー(床清掃機材)を使う訓練がじっくりできるので、上達は早いと思います。私も含めてメンバーたち全員が素人でしたけど、いまではすっかりいっぱしの清掃マンに成長してくれました。もともと掃除のセンスがある人も多いみたいです。訓練施設での様子を見て、これなら安心だと仕事を発注してくださるお客様も増えてきています」(伊藤美奈子指導員)

さらに、疑似ホテルルームの設備は圧巻だ。まるでシティホテルのような客室がそのまま再現されていて、利用者たちは本番と同じ環境下で清掃トレーニングに励むことができる。テレビやトイレ、バスルームまで完備された客室は、まさにゲストルームそのものだ。

「今はまず、ベッドメイクを中心に勉強してもらっています。ホテルの部屋の整備の中でもっとも難しいといわれる仕事です。客室に入って一番お客様の目につくのは、やっぱりベッド。安心で清潔感あるベッドメイクができるようになれば、それを仕事にすることも夢ではありません。とても難しい作業のため簡単にはマスターできませんが、みんな一歩ずつ成長しています。数年後にはきっと、お掃除プロのメンバーの中からプロのホテルマンが生まれることを、私たちは信じています」(佐伯賢介指導員)

先輩に続け!! 食堂に掲示されている就職者たちの一覧表

オリーブハウスの食堂で、とても印象的な壁新聞ふうの張り紙を見た。施設を卒業し、企業へと巣立っていった先輩たちの一覧表である。「さまざまな職場でがんばるOBOGたち」と題された張り紙には、先輩たちの氏名と写真、入社日、会社名などがわかりやすく記載されている。

詳しく見ていくと彼らの仕事内容は、「弁当の製造」「清掃・事務補助」「コンテナ作り・軽作業」「品出し・接客」「レストランのステーキ・ハンバーグの加工・清掃」「リネンの洗濯・整理」「鶏肉の加工」「老人ホームにて清掃・介護など」「洗い場担当」「串団子の検品・出荷作業」「缶・ビン・ペットボトルの仕分け」といった具合である。

「毎日、みんなは昼食の時にこれを眺めて、大きな励みにしているみたいですよ。自分もいつの日か先輩たちのように就職して自立しようと、気持ちを奮い立たせているのでしょう」と、石垣主任。

何気なく掲示されている食堂の張り紙の中にも、利用者たちの大きな「夢」が表現されている。彼らもいつかは「頑張るOBOGたち」の一覧に掲載されて、今度は後輩たちに刺激を与える存在になっていくことだろう。雨があまり降らない地中海の厳しい環境下でも必死に生きていく強さを持つという「オリーブの樹」のように、今日もオリーブハウスの利用者たちは社会に羽ばたくための訓練を続けている。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。