社会福祉法人三和会(群馬県みどり市)

天然木を利用した格調高い工芸品を製造する「木工工芸館・工房ふじ」

三和会の概要

三和会は、工房ふじ(就労継続支援B型事業)、セルプあけぼの(就労移行支援事業、就労継続支援B型事業)、セルプわたらせ(就労継続支援B型事業、生活介護事業)、セルプおおむろ(就労継続支援B型事業、生活介護事業)等の障がい者就労系事業所を運営する社会福祉法人である。この他、エルシーヌ藤ヶ丘、藤和荘、12棟ものグループホーム・ケアホームなどの障がい者生活支援事業や特別養護老人ホーム「山笑」など、幅広い福祉事業を展開している。

三和会の障がい者就労系事業所の中でももっとも古い歴史を持つのが、「木工工芸館・工房ふじ」である。施設が建っているのは、群馬県の森林資源に恵まれた山間部だ。小平鍾乳洞公園(自然と人とのふれあいの里「小平の里」)に隣接し、町の観光事業の一翼を担う好立地となっている。新緑や紅葉シーズンには、富弘美術館やわたらせ渓谷鉄道への観光ツアーの一環として工房を訪れる関係者も多いという。

和の心を伝える工房ふじの木製食器たち

工房ふじで作られているのは主に、ロクロ製品や木工玩具、家具などの自主製品である。とくにロクロの技術は、日本の障がい者木工作業施設の中でもトップクラスであり、天然木を利用した格調高い製品群が群馬県優良推奨品にも指定されている。

太い原木から切り出された木材から、一枚一枚削られる「木の器」。木目の美しさ、手触りの優しさが特色だが、完成までには相当の時間が必要である。まず荒取り(丸太を適切なサイズにカット)した素材を完全に乾燥させるのに、約半年。それからならい旋盤によって器の形に加工された後、ロクロ研き(紙やすりで何度も磨く作業)、塗り作業(色塗り、ウレタン加工、漆塗り等)等の工程が何度も繰り返されることになる。

加工スタートから約3週間。ここまで丹念に作り上げないと、完成した器のレベルが格段に落ちてしまうのだという。

「ロクロ研きに関しては、職員もかなわないベテラン職人が利用者にいます。下手な人が磨くとどうしても完全な円形にならずに凸凹ができてしまうのですが、彼が磨くと本当になめらかな仕上がりになるのです。自分にしかこの研きはできないと、プライドを持って作業しているのですよ(笑)

と語ってくれたのは、関口美知子館長だ。彼らの技術が詰まった製品である「多目的茶托セット」「銘々皿セット」「盛り鉢8寸」「平鉢8寸」「茶托5枚セット」「菓子器」等は、冠婚葬祭の贈答品や官公需の記念品としてもこれまで高い人気を博してきた。

1995年に全国授産施設協議会(当時)CI活動によって「SELP」という名称を発表した時などには、PAOSの中西社長自ら「セルプ認定ブランド」第1号として、工房ふじの高級「蕎麦打ち6点セット」をプロデュースしたほどである。日本を代表するCIの専門家が、数ある障がい者施設の中から、ブランドにふさわしい製品として目を付けた。この施設のロクロ技術は、それほど卓越したものだったというわけだ。

ここ十年で売上は激減。時代に適応した製品開発が課題

しかし最近では、木工作業をおこなう多くの施設と同様に事業的には苦戦が続いている。何しろ木製の茶托などは、海外で製造された安価な商品が100円ショップでも簡単に購入できてしまう時代である。比べてみるとその素材や質感には雲泥の差があるものの、贈答品として高価な箱入りセットが次々に売れていく時代は過ぎ去ってしまった。施設入り口に併設された販売コーナーに、山のように製品が並べてあったというのはもはや過去の想い出だ。

「これからの時代は、伝統工芸の世界でもデザイン力が必要になってくることを痛感しています。単なる丸盆でも、形にちょっと深みを付けたデザインにするだけで茶碗が格段に置きやすくなります。形そのものを丸ではなく、花型に切り出してみたり、ちょっとの工夫が工芸品をモダンに変身させてくれると思うのですね」

「お客様に対して、器をどう使っていくかという提案をすることもとても大切です。菓子器や茶托という固定観念にとらわれていると、どうしても使い方が限定されてしまうでしょ? ところが若い人たちのライフスタイルに合わせた提案をしてみると、反応がまるで違ってくるのですよ。八寸盛り鉢をサラダボールとして使ったり、握り寿司を並べる皿として銘々皿を使って見たり...。使い方を変えるだけで、食卓がとってもお洒落に変身するから不思議です。こんな生活提案をすることで、利用者たちが丹念に作り上げる製品をこれからも作り続けていきたいですね」

と、関口館長。完全オーダーメイドとして、オリジナルデザインの製品づくりにも応じているとのことだ。こだわりの木製食器を求めている方には、格好の工房かもしれない。

木炭ストーブの普及によって、発展しつつある薪の販売

現在の工房ふじの売上を支えているのは、薪事業であるという。東日本大震災以降、全国的に薪ストーブが注目されている。なにしろ電気を一切使わないのでいざというときでも安心だし、暖炉の周りで囲む一家団欒は何ごとにも代え難い経験となる。群馬県内はもとより、東京近郊でも新築やリフォームの際に薪ストーブを取り入れる施工例が増えているらしいのだ。

薪ストーブでもっとも大切なのは、良質な薪を燃やすことである。適当な木を燃やしても、火はすぐに消えてしまう。山から切り出された原木を薪割りして半年間は乾燥させ、水分量を15〜20%程度に低下させる必要がある。木は古木ではなく、若木が好ましい。人間と同じで、古木には油成分がほとんど抜けているので、燃やしたときの火持ちが悪いのである。

木の切り出しや時間をかけた乾燥など、これまで工房ふじが培ってきた「木に関する知識やノウハウ」をそのまま活かせる事業として、薪の製造販売が数年前より始まった。注文は、ほとんどが個人宅からのものである。ストーブ会社と連携しており、新しく薪ストーブを導入した家からは必ず注文が入るようになっている。ストーブを設置したはいいが、実は良質の薪を安価に手に入れるのは意外と難しい。リーズナブルな価格で販売する業者が希少であるため、年々売上を増やしているという。

個人宅以外のレストラン等業務用の需要もある。代表的な例が、イタリアンレストラン「ナポリの食卓」だ。群馬県を中心にチェーン展開するこのレストランの名物が石窯ピザであり、その薪として使ってもらっているというのだ。価格面はもちろん、プロにも認められた品質であることを証明する事例だろう。さすがに森林資源に囲まれた環境の中で、格調高い木工芸品を作り続けてきた工房だけのことはある。

複数事業によって、工賃を確保。工芸品事業は、今後も続けていきたい。

薪事業だけでなく、現在の工房ふじの作業品目一覧を見ると「木製食器・木工玩具の製造」「パッケージ作業」「リサイクル事業」「味噌の製造販売」...と、その種類は多岐にわたっている。これまでメイン事業として稼ぎ頭でもあった「木製食器・木工玩具の製造」の売上が低迷する中でも、平均工賃が下がらないように必死に努力してきた結果である。今後の展開について、関口館長は次のように見通しを語っている。

「木工事業が停滞する中、なんとか他の事業を立ち上げることによって少しでも工賃アップを実現してきましたが、群馬県内の平均を下回る結果しか出せていないのも現実です。いろいろ手を広げていくのも大切ですが、これからは利益率の良い事業に特化する必要もあるかもしれません。その意味でも、ロクロ製品というのは重要な鍵を握っています。時代は変わってしまいましたが、まだまだ製品そのものの質には自信を持っていますし、職人としての利用者の腕も健在です。もう一度アピールの仕方や販売先を考えて、売上の向上を目指したいと思います」

最近取り組み始めた味噌造り等の食品事業にも、期待を持っているのだという。なにしろ施設に隣接する「小平の里」は、県内でも有名な観光スポットの一つだ。観光客が減少気味とはいうものの、こんな立地に施設(売店)があるメリットを活かさない手はない。

地元に伝わる伝統的な味の手作り味噌が完成したことをきっかけに、さまざまな関連製品を考えて新たな観光土産を生み出したいらしい。空気が澄む素晴らしい立地条件の中に立てられた工房である。ぜひ近隣の観光施設を巡る際に、施設にも足を伸ばしてみてはどうだろうか。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。