社会福祉法人偕恵園(神奈川県横浜市)

利用者ニーズに合った施設運営を徹底する「偕恵いわまワークス」

偕恵園の概要

偕恵園は、偕恵いわまワークス(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、偕恵(施設入所支援事業)、偕恵シグナル(生活介護事業)、辻のあかり(生活介護事業)、横浜市つたのは学園(生活介護事業)等の障がい者事業所を経営する社会福祉法人である。この他、13のグループホームや椿壽(特別養護老人ホーム)なども運営している。

多数の事業が展開される中で、偕恵いわまワークスが法人唯一の就労系事業所「メテオ」を運営する組織となっている。もともと知的障害者通所授産施設と身体障害者通所授産施設の二つを運営していたのだが、自立支援法に基づく新体系移行の際に、就労目的の「メテオ」(就労継続支援B型事業)と、支援目的の「ぷらねっと」(生活介護事業)の二つに組織再編した。

作業品目は、「メテオ」では製パン・製菓・喫茶店&ベーカリーショップ運営、「ぷらねっと」ではシルクスクリーン印刷・看板制作・下請け作業である。施設が建っているのは、最寄り駅(相鉄線・天王寺駅)から徒歩2分という抜群の立地条件の横浜市岩間市民プラザビルの中である(横浜市との合築。1・2階部分を、法人が所有)。ビルの上階にあるホールや展示場では、コンサートや演劇、展示会などの催し物が年中開催されている。そのためビルの入り口で営業している喫茶店やベーカリーショップは、市民プラザを利用する地域住民が頻繁に利用する空間となっている。

「メテオ」が運営する、大繁盛のパンショップや喫茶店

偕恵いわまワークスを代表する事業が、「メテオ」の製パン事業だろう。岩間市民プラザビルの1階にパン工房があり、ガラスで見渡せるようになっているため、ビルを利用する人たちは誰でも彼らが働く様子を見ることができる。昼になると美味しいパンが焼ける香りが辺りに立ちこめ、自然とベーカリーショップ(こむぎこハウス)に足が向いてしまう。併設された喫茶店(いろえんぴつ)も、ランチの時間はいつも大混雑の状況だ。

外はカリカリで中は柔らかく、噛めば噛むほど味の出るフランスパンを中心に、バターの風味いっぱいでパイ生地のようにパリパリしたデニッシュ、たっぷりのカスタードクリームが入ったクリームパン等々、人気商品は数多い。甘酢から揚げパン、煮玉子パン、豚キムチ揚げパン、コーンカレー、胡麻揚げあんパン、セサミフランク、コーヒーメロン等々のオリジナル総菜・菓子パンなど、常に30種類以上のラインアップを用意している。

「パンは店頭だけでなく、区役所や高齢者ケアプラザ、市民病院などに出張販売しています。お昼に届けるためには、朝早くから準備にかからなければならないので、職員はもちろん利用者たちも早番として7時半に出勤してもらうことがあります。イベントシーズンになると、土日も出勤することは日常茶飯事。『メテオ』で働く利用者たちは、そんな環境にも耐えられる人たちばかりです。仕事中は雑談禁止ですし、すべてが立ち仕事で、お客さんとのコミュニケーション能力も要求される。高い工賃を保障する代わりに、求めるものは多くなりますね」

と語るのは、偕恵いわまワークスの荒井忠施設長(56歳)だ。平成24年度の実績として平均時給ベースで180円(月額15,000円〜18,000円)となり、今後も工賃向上に関しては計画的に進めていく予定だという。就労継続B型事業として、利用者たちと「働く」ことの意味や意義を確認し合い、仕事を通して責任感や仲間との協力関係を築いていくのが目標だ。

和気あいあい、楽しく仕事をするのが特色の「ぷらねっと」

それに対して生活介護事業である「ぷらねっと」の事業方針は、それぞれの作業が「日中活動」という位置付けである。サインボードや看板制作、Tシャツ等のシルクスクリーン印刷という作業に参加しつつも、利用者一人ひとり別々の多彩な生活支援プログラムが用意されているのが特色なのだ。自力通所が困難な利用者への送迎サービス、基本的な理解力を把握する学習プログラム、身体機能の低下と重度化を見越した健康プログラム等々、生活介護事業ならではのきめ細かな支援サービスである。

「サインボードや看板制作というのは他の障害者事業所ではなかなか取り組んでいない仕事なので、事業的にはまだまだ伸びる可能性は秘めています。事実、以前(身体障害者通所授産施設の時代)は専門の営業担当が官公庁をまわって積極的にアプローチしていました。しかし生活介護事業所となってからは、利用者支援の方により力を入れるようになっています」(荒井施設長)

「立ち仕事が中心の製パン作業と違って、座りながら作業ができるのが『ぷらねっと』の特色です。車いすの方でも安心して仕事ができますしね。高齢化が進むにつれ、いろいろなタイプの仕事を用意していかないと利用者が順応できなくなってしまいます。若い時みたいにバリバリ動けなくなったとしても、無理しない範囲で働くという場所だけは残してあげたいのです」(安東支援部長)

目的がまったく異なる二つの事業所を、利用者自身が選択

働く施設と支援の施設。この二つを明確に分離し、作業の種類も分離させて、ビルの1階と2階に配置。それぞれの方針に沿った事業展開を進めているのが、偕恵いわまワークスの特徴といえるかもしれない。新体系への移行の際に、1階の知的障害者通所授産施設「メテオ」と2階の身体障害者通所授産施設「ぷらねっと」の二つの事業を統合整理し、利用者の障害種別を超えてそれぞれの適性にあった人員の再配置をおこなった。

「事業の再スタートにあたり、利用者本人と家族に二つの事業の運営方針をきちんと説明し、適性も含めて徹底的に話し合いました。工賃はメテオの方が圧倒的に高くなりますから親御さんたちが行かせたいのはわかりますが、衛生管理や就労時間(通常9時から4時まで。早番や残業、休日出勤もあり)、そして自力通所が条件になるなど、ハードルもいろいろあるのです。話し合いを通じて、一人ひとりが施設に何を求めているのかが非常に明確になりましたね」

と、安東泉支援部長。話し合いにより、これまではメテオ(製パン部門)に所属していた利用者がぷらねっと(サインボード・シルクスクリーン印刷)に所属変更になった事例もあるし、その逆もある。移動すると、工賃は大幅に変化することになる。二つの事業所の種別を、就労継続B型事業と生活介護事業に分けたからである。同様の問題で頭を悩ませた施設も多いと思うが、偕恵いわまワークスでは念入りに三者面談を重ねることによって、比較的スムーズに乗り切った。

「同じビルで作業しているので、それぞれの仕事の様子は本人が一番理解しているのです。少しでも高いお給料をもらいたい反面、仕事中は常に緊張を強いられる1階(メテオ)の環境よりも、のんびり楽しく仕事ができる2階(ぷらねっと)の環境を好む方もいるわけです。むしろ親御さんたちにそのことを理解してもらうことが大変でしたけどね(笑)

製パンと看板制作・シルクスクリーン印刷というまったく異なる二つの作業を展開していたからこそ、このように事業所の役割を分離することができた。利用者ニーズにあった障がい者事業の展開を考える上で、参考になる事例といえるかもしれない。

施設に所属していない地域の障がい者にも広げる支援の場

偕恵いわまワークスでは、施設地域活動支援事業という取り組みにも力を入れている。地域の人たちと障がい者のふれあいを通じて理解を深める各種プログラム(フラダンス、手話ソング、パン作り・切り絵教室、講演会等)と、余暇活動支援事業としての「青年学級おもいっきり会」の二つから構成される。注目すべきは、「青年学級おもいっきり会」だろう。地域に住む施設利用者以外の障がい者だけを対象にして、月3回の定期的な会合を開いているというのだ。

「もともと『地域の障がい者たちが気軽に集まれる場所があるといいね』という関係者の声が集まってスタートした企画です。施設としては、地域貢献活動の一環という位置づけで創設以来ずっと継続的に実施してきました。会合の時間はいつも5時以降ですし、年に数回出かける日帰り旅行ももちろん土日に実施します。職員の負担は大きいですが、みんな喜んで担当してくれていますよ。昨年度は20周年特別企画として、2泊3日の北海道旅行を実現させました。1年間みんなで必死にお金を貯めて出かけただけに、喜びもひとしおだったようです」(安東支援部長)

「残念ながらこの活動に対しては横浜市からの助成金が途切れてしまいましたが、施設単独の事業として継続を決めました。地域の障がい者への支援という重要な活動です。活動を通じて地域の人たちとの接点が拡がり、結果的に職員の意識が向上するというメリットもあります。社会福祉法人の地域貢献活動という観点からも、私たちとしては今後もずっと継続していきたいですね」(荒井施設長)

こうした荒井施設長の考えは、全国社会福祉協議会が昨年発表した『社会福祉法人福祉ビジョン2011』内の「新しい課題に向き合う社会福祉法人等の責任と使命」とも見事にマッチする。福祉ビジョンでは、社会福祉法人の役割が次のように提起されているからだ。「今後、社会福祉法人は、制度内の福祉サービスを実施する、福祉制度を着実に運用するという役割だけでなく、本来の使命を発揮するために、地域に生じてくる新たな福祉的課題・生活課題に着目した公益的な取り組みとして制度外の福祉サービス・活動をすすめていく責任と使命がある......」。

「青年学級おもいっきり会」という取り組みは、地味だが今後ますます評価されていく活動になっていくだろう。施設の利用者に対するきめ細かな個別支援サービスはもちろんのこと、地域に住む障がい者たちのサポートも視野に入れていく。つまり、施設運営を通じて地域の人たちと一体となった活動を進めているのが、偕恵いわまワークスという組織なのである。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。