社会福祉法人白銀会(茨城県石岡市)

仕事を授け、一般企業への就労をすすめる入所授産施設「しろがね苑」

白銀会の概要

白銀会は、知的障害者入所授産施設「しろがね苑」(施設入所支援・自立訓練・就労移行支援)、知的障害者通所授産施設「銀の笛」(生活介護・自立訓練・就労継続支援B型・就労移行支援)、ワークセンターしろがね(就労継続支援B型)等の障がい者就労系事業を運営する社会福祉法人である。この他、12ヶ所のグループホームや1ヶ所のケアホーム、生活介護センター(生活支援センター)「ゆう」、障害者就業・生活支援センター「かい」なども運営している。

中心となる事業所のしろがね苑の特色は、ズバリ「企業に通用する人材の育成」である。そのため入所授産施設といっても、普通の入所施設とはまったく考え方が異なっている。受け入れた利用者に生活・就労支援を施して、4〜5年の期間で一般企業に送り出すことを基本理念としているのである。(自立訓練が2〜3年、就労移行支援が2年)

そのため、入所施設にありがちな利用者の高齢化問題とはまったく無縁だ。現在の利用者平均年齢は約27歳であり、設立時(約38歳)よりむしろ若返っている。18歳で特別支援学校を卒業し、ここでトレーニングを積んだ利用者たちは数年のちには次々に社会に巣立っていく。これまでに一般就労を果たした障がい者の数は、80名をゆうに超えている。

具体的な就職先は、日立建機グループ、ダイショー関東工場、日本クラウンコルク、いっしん、石岡郵便局、ヤマト運輸茨城主管支店、ヨークベニマル石岡店、ワンダーコーポレーション、スターバックコーヒー イーアスつくば店、筑波学園ホテル、ジョイパック、日清医療食品、土浦日本大学中等教育学校...等々、じつにさまざまな企業・団体名が挙げられる。しろがね苑は、利用者たちをこのような一般企業に導くための理想的な「入所授産施設」なのである。

企業にどんどん送り出す支援の秘密

しろがね苑では、なぜ次々と利用者の一般就労を実現しているのだろうか? 白銀会の長谷川淺美理事長(しろがね苑長兼任)に、その秘訣を伺ってみた。

「私たちの施設の最大の特色は、障害が重い、軽いに関わらず、就労という目標を持って入所してもらうことですね。そのために4〜5年というタイムリミットを設け、一般就労が実現できるように生活・就労両面からのサポートをおこなっていきます。まず始めに取り組むのは、フルタイムで働ける体力をつけてもらうこと。1日8時間働く体力をつけるために、起床から就寝までの規則正しい生活に慣れてもらうことからスタートします」

障がい者の場合、就労訓練の前にやるべきことが山ほどあるというのが、長谷川理事長の基本的な考え方である。起床から就寝まで規則正しい生活を送ること、人にあったらきちんと挨拶をすること、お風呂に入った時にきちんと自分の体を洗うこと、今日どんな服を着て何を食べようかを自分で決めること...。これまで保護者による過剰な庇護下で育ってきたために、基礎的な社会常識や「自己選択・自己決定」能力が欠如しているのである。


そして入所後2〜3年。施設で徹底的な自立訓練を施された利用者たちは、ようやく就労移行支援のステップに進むことになる。ここでもしろがね苑独特の支援体制が揃っている。苑内の農作業や下請け作業などの他に、一般企業における実習の場がいくつも用意されており、さまざまな職種体験ができるようになっているのである。長谷川理事長は言う。

「自分が本当にやりたい仕事を選ぶのは、とても大切なこと。そのためにも可能な限り多様な実習現場を用意して、就労体験できるようにしています。一般的には3〜4箇所の仕事を体験しないと、自分のやりたいことは見えてきません。複数の職場を体験するので、仕事への適応能力も格段に向上します。その結果、どの企業からも即戦力として期待される人材が育っていくのです」

職場での定着率は、98パーセント!!

しろがね苑での2年間の就労トレーニングを終えた利用者たちは、基本的には一般就労へのステップを踏むことになる。ここ数年の就労実績は、17名(平成23年度)、13名(24年度)、21名(25年度)と順調に推移している。この数値もすごいが、もっと驚くべきは就職後の職場への定着率だろう。過去3年間に就職した51名のうち、リタイアした人はたったの3名。しかもその中の2名は翌年に別の職場に再就職しているため、実質的なリタイア者は1名だけなのだ。数値にすると、なんと98%の定着率。障がい者の一般就労を考えるときに一番課題とされていることを、見事にクリアできている。

「私たちが一番重要視しているのが、この数字です。いくら就職者数を伸ばしても、すぐに辞めてしまうのでは意味がありませんから。万が一、仕事や職場環境に適合しなかった場合、再チャレンジの機会を用意してあげることも大切です。せっかく良い仕事に就いたのだからと無理強いせず、本人が本当に希望する仕事を一緒に探していくのです」

と、長谷川理事長。入所施設の特性上、利用者の嗜好や特性を十分に支援員たちが理解できていることも、彼らの就職先を選ぶ上で大きいメリットだという。主任就業支援ワーカーの梶山剛史さんは、こんな事例を紹介してくれた。


「昨年度リタイアした一人の男性は、製造業の職場になじめないというのが退職理由でした。どうしてもスーパーで働きたいと言うのです。本人が強く希望するのでトライアル雇用の3ヶ月で終了し、翌年やっとカスミという中規模スーパーに転職することができました。最初は臨時職員からのスタートでしたが、仕事に対する本人のモチベーションは大幅にアップ。とても一生懸命働くので、その働きぶりが非常に評価され、ついに正職員での採用が決まったのです」

世の中にはさまざまな仕事がある。その中から、自分がどんな仕事に就きたいのか。それを考えるのも自立生活を送る上で重要な決断である。しろがね苑のスタッフたちは、そんな観点からも障がい者の雇用先を考えている。非常にレベルの高い就労サポートであると思う。

好きな仕事だから、頑張れる

好きな仕事を選ぶことができた利用者は、しろがね苑の卒業生にはたくさんいる。代表的なのが、幸楽苑というラーメンチェーン店に就職したAさんだ。彼は、子どもの頃から大のラーメン好きだった。三度の食事がラーメンでもかまわないと公言してはばからない。もちろん希望の就職先は、ラーメン屋さんである。しかし飲食店というのは、お客と直接向かい合うサービス業だ。重度の知的障害であるAさんにとって、もっとも苦手の分野と言っていい。人とコミュニケーションを図ること、笑顔を作ること、厨房内の機械操作を覚えること等、すべてが能力的には難しいだろうと判断されていた。

ところがいざ就職してみると、Aさんの秘めたる能力がみごとに開花することになる。幸楽苑への就職には反対だったという梶山さんも、その後の変化に本当に驚いたという。

「彼をみていると、好きだというパワーはすごいなとあらためて感心します。人に愛想を振りまくことなど一切なかった彼が、店で一生懸命笑顔を作ろうと努力しているのですから(笑)。マニュアルに従って洗浄機の機械操作をきちんと覚え、ふだんは店内で丼や皿を洗っています。忙しいときには、餃子も焼いているのですから驚異的な成長ぶりですよ。お昼のまかないに毎日ラーメンが食べられるが、本当に嬉しいみたいです」


職場が本人を成長させるという点では、こんな事例もあった。職員がいくら注意しても施設では暴飲暴食をやめなかった肥満児のBさんの話だ。就職後もどんどん太り続けていたのだが、職場で着用する制服のサイズがついに限界まで達してしまう。そこで職場の人から「これ以上太ると、制服を着られなくなるよ」と注意されると、一挙にダイエットし、スリムな体に変身したというのである。「私たちがあれだけ口うるさく言っても聞かなかったのに、職場の上司の一言で簡単に変わってしまうのですよ」と、長谷川理事長もあきれ顔だ。

共通して言えるのは、彼らがみな現在の仕事を心の底から楽しんでいることだろう。好きな仕事だから頑張れる。多くの職場体験の中から自分の意思で選んだ仕事だからこそ、そんな強い思いを抱いているに違いない。

レストランのオープンで、サービス業のトレーニングも

しろがね苑ではそんな彼らの姿をもっと多くの人々に知ってもらうために、企業向けの「障害者雇用促進セミナー」「障害者の就業支援と採用事例研究会」などを積極的におこなっている。2013年度には一般向けに、「働く障害者のパネル展」と題する写真展も開催した。一般就労を果たした障がい者たちがいきいきと働く様子を、パネル写真で多くの人々にみてもらおうという試みである。彼らの笑顔を一目見るだけで、働く喜びを感じ取ることができるだろう。写真展で掲示した写真は、「〜ハンディのある人たちと働く職場づくり〜 仕事を支えてくれる仲間です(就業先紹介 vol.1)」というパンフレットにも掲載されている。今回の記事にも使わせていただいた写真である。

  • 作業風景
  • ほくぶの森号

さらに白銀会では、2014年の10月に向けてレストラン事業を新たにスタートさせている。しろがね苑の広大な農場から収穫されるさまざまな無農薬有機栽培野菜を中心にして、茨城産の食材でメニューを組み立て、茨城県の笠間焼の食器を使うなど、オール茨城の地産地消にこだわった高級志向のレストランだ。長谷川理事長はこの事業のねらいを次のように説明する。

「最近では地元密着をめざしてレストラン事業を営む障がい者施設も増えてきましたが、私たちのターゲットは中高齢の富裕層。そのためにドッグラン付きのレストランにして、ペット好きのお客さんが車に乗って遠くから集まってくるような場所にしたいと考えています。敷地は広めですから、ワンちゃんも思う存分動き回れますし、その世話係や敷地の整備も利用者の仕事になります。なにより一番大切なのは、ここが飲食店の就労実習の場になるということですね。一般就労のことを考えるとトレーニングの業種は多いほど良いのです。これまでの実習品目に加えてレストランの接客業を体験できるため、さらに多くの就職チャンスが広がることでしょう」

障がい者の就労は、一般企業に就職するのが基本。福祉施設がやるべきことは、その橋渡しのための生活支援・就労支援に特化することだと語る長谷川理事長の考え方は非常に斬新にも思える。しかしよく考えてみると、その活動は「利用者に仕事を授ける」という授産施設本来の意義を忠実に守っているだけなのかもしれない。今はまだ少数派のこの支援スタイルが全国のスタンダードになる時、きっと障がい者雇用の現状は一変することになるだろう。


(文/戸原一男 写真提供/社会福祉法人白銀会)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。