社会福祉法人恵友会(栃木県塩谷郡高根沢町)

地域企業との積極的なコラボによって工賃倍増計画を実現した「いぶき」

恵友会の概要

恵友会は、いぶき(生活介護事業・就労移行事業・就労継続支援B型事業)、桜花(生活介護事業・就労移行事業・就労継続支援B型事業)、ひびき(生活介護事業・就労移行事業・就労継続支援B型事業)等の障害者就労系事業所を運営する社会福祉法人である。

この他にも、6カ所のグループホームや日中一時支援、サポートセンターいぶき(移動支援事業、福祉有償運送事業)等も展開している。

平成15年、高根沢町に知的障害者授産施設いぶきの里と身体障害者デイセンターいぶきの複合施設としてスタートして以来、就労系通所施設として着実に成長を遂げてきた。設立から10年が経った現在では、法人内の全施設をあわせると200名以上の障害者が通う規模になっている。

法人の中心である多機能型施設「いぶき」は、緑あふれる大型温泉施設・高根沢町元気あっぷむらの裏に建ち、四季折々の花や木々に囲まれている。隣接する親水公園は野鳥の生息地としても有名で、冬には白鳥が飛来することもある。そんな広大な自然環境に誘われて、施設には多くの関係者が頻繁に訪れるという。

  • 恵友会 全景
  • 親水公園

いぶき名物の米粉パン

いぶきの名物といえば、やはり米粉パンだろう。開設2年目のパン事業スタートと同時に米粉パン製造に取り組み、2010年厚生労働省主催「至福のお届け」で優秀賞に選考されるなど、全国的にもその名を知られてきた。古口保理事長(59歳)は、米粉パンを始めた経過について次のように説明する。

「パン事業を始めようと決めたとき、少しでも付加価値のあるアイデアを探していました。そんな時、テレビで新潟県の黒川村が米の消費拡大のために米の製粉会社を立ち上げたというニュースを見たのです。当時はまだ米粉パンというのはそれほど普及しておらず、非常に話題性がありました。さっそくその会社(新潟製粉株式会社)に問い合わせをすると、工場長がわざわざこちらまでやって来てくれたのです。すると製粉を依頼するという条件で、米粉パンの製造ノウハウを教えてもらうことができました。今でも3施設あわせて4トンの米を新潟まで送り、特殊な製粉機で粉にしてもらっているのですよ」

米粉パンの特徴は、なんといっても独特のもっちり感にある。水分を多く含み、しっとりとした甘みのあるパンは、どちらかというと日本人好み。あんやカレーなどとの相性も抜群のため、総菜パンも作りやすい。学校給食で子どもたちに聞いてみると、圧倒的に小麦パンより米粉パンの方が人気はあるらしい。美味しい上に安心安全、米の消費拡大にもつながる米粉パン。米の産地では今や、地産地消を代表する食品になりつつある。

  • 特殊な製粉機で粉にした、もちもち食感の「いぶきの米粉パン」
  • 米粉パン製造風景

いぶきの米粉パンは、塩野谷農協の農産物直売所「たんたんプラザ光陽台」や元気あっぷむら等で販売されている。また町内の学校給食にも採用されるなど、販路は年々拡大しているらしい。昨年度(2013年度)のパン事業(小麦パンも含む)販売実績は、いぶき、桜花、ひびきの3施設をあわせると、3,000万円を超える規模にまで拡大した。

企業の中に、常設カフェ!?

いぶきのもう一つの特色が、テイ・エス・テック株式会社(ホンダ車の内装部品の製造会社)の食堂内に構えた常設店舗だ。その名も、喫茶店「プリマヴェラ」(イタリア語で、『春』の意味)。平成25年の3月、事務棟が新築されたのを機に喫茶コーナーが設置され、その運営を委託された。同社の荻原一男・栃木総務課長は、次のように語っている。

「以前の食堂は複数の自動販売機が設置されているだけの、とても殺風景な空間でした。そのため、食後には社員がゆっくり美味しいコーヒーを飲める憩いの場を作りたかったのです。いぶきさんに喫茶店を委託することによって、二つのメリットがありました。一つは、従業員に対する福利厚生の充実。もう一つが、福祉に対する社内理解が進んだことでしょう。障がいがあるとかないとか関係なく、非常にスタッフがしっかり教育されています。彼らの笑顔がとても素敵なので、毎日会話をするために立ち寄る常連社員も多いみたいですよ(笑)

喫茶店のスタッフたち(利用者)を管理するのは、元ホテルマンというユニークな経歴をもつ豊岡信夫営業開発課長だ。経営全般から社員教育、宴会場、バーテンダーまで、ホテルに関するあらゆる仕事を経験してきたという豊岡さんは、まさにサービス提供のプロフェッショナル。お辞儀の角度や、言葉遣い一つひとつにまで細かく目を配る。障害者施設が運営する飲食店というのは全国でも珍しくなくなったが、これほどの専門家が徹底してサービスの指導をおこなっている店は稀だろう。豊岡開発課長は語っている。

  • 豊岡信夫 営業開発課長
  • プリマヴェラのスタッフ

「ハートピアきつれ川(精神障害者が主体となって運営していたホテル)に勤務していた経験があるので、障害者でもきちんと教育すれば一流のサービスを提供できると考えていました。もちろん当初は接客の途中でコーヒーをこぼして泣いてしまうような失敗もありましたが、いまでは慌てず『失礼しました』などと対応できるようになったのですよ。その成長を見ていると、本当に嬉しくなりますね」

店舗では、コーヒーや紅茶などの飲料メニューの他、季節のスイーツ類、いぶきの米粉パンやクッキーなども販売する。また、社内の会議室や応接室への出前にも対応している。店を運営することで、テイ・エス・テック株式会社との関係がさらに深まったのが大きいという。古口理事長はその効果を強調する。

「店で働く店員の中から、何人かが会社に認められて就職していきました。なかには総務課の事務職として働いている人もいるのですよ。テイ・エス・テック株式会社のような大企業の事務所です。一流のサービス指導を受けてきたからこそ、そんな部署でも立派に働くことができるのでしょう。さらに昨年、社内各部署にセルプ自販機をなんと14台も導入していただきました。喫茶店効果で福祉に理解ある社風ができつつありますから、売上は非常に期待できます。これからも、社員の皆さんの期待に応えられるようなサービスをどんどん提供していきたいですね」

  • テイ・エス・テック株式会社との絆
  • 店内で販売されている米粉パンやクッキー

工賃倍増計画を実現。今後はA型施設をめざす。

平成19年度から厚生労働省の指導によって全国の都道府県で実施された、工賃倍増五カ年計画。約49億円もの膨大な税金が投入され、一大キャンペーンとして繰り広げられたにもかかわらず、ほとんどの施設が目的を達成できなかったのはご存じの通りである。しかしいぶきは、この計画をみごとに達成した数少ない施設の一つだ。当初は平均約11,000円だった月額工賃が、計画後には23,000円にまで上昇した。はたしてどのような策を講じたのだろうか?

「助成金を使ってパン工房を拡張して製造能力を高めたり、新たに弁当事業をスタートしたり、企業への施設外就労を進めてみたり...といくつかポイントはありますが、決定的なのはセルプ自販機の設置事業に力を入れたことですね」

と、古口理事長。以前、名古屋ライトハウスの紹介でも説明したが、セルプ自販機とは、日本セルプセンターが株式会社ジャパンビバレッジなどとタイアップして進める社会貢献型の自動販売機設置推進事業である。SELPマークの付いた飲料水自動販売機の設置を斡旋するだけで、販売利益の一部が日本セルプセンター並びに地方の就労支援組織の活動費として還元されることになる。会員施設がこの自動販売機をユーザーや関係団体に設置斡旋した場合、その自販機売上の一定額がマージンとしてフィードバックされる仕組みだ。

いぶきではこれまですでに38台の設置を決めたため、1ヶ月の自販機収入(缶ジュースの売上げに応じて施設に支払われるマージン)がなんと25万円を超えるようになった。施設の事業収入として、毎月これだけの実益が上がる事業は貴重である。この点に目を付けた古口理事長は、喫茶店の管理者である豊岡課長をセルプ自販機の特命営業マンとして任命。ノルマを課して、関係企業に積極的にアプローチを繰り返し、次々と導入実績を増やしていったのである。平成24年度は、ついにセルプ自販機設置キャンペーン実績の全国第1位に輝いた。

「平成25年4月から『障害者優先調達推進法』が施行されました。これは官公庁だけに限定した法律だと勘違いしている人が多いのですが、きちんと読み解くと3年後の見直しの際には一般企業も対象となる可能性が示唆されています。その時になって慌てないよう今から準備したほうがいいですよと説明すると、たいていの経営者は理解を示してくれますよ。そんな時、セルプ自販機は非常にいい商材となるのです」

  • 古口保理事長
  • 仕出し弁当作業風景

古口理事長の次なる目標は、就労継続支援A型事業所の設立だという。

「まず手始めに、セルプ自販機や施設外就労をメイン作業としたA型事業所を高根沢町に開所する予定です。さらに桜花でも、現在計画中の新事業所をA型分場にしたいと思っています。さくら市内のど真ん中に300坪の土地を確保(さくら市から貸与)できたので、さまざまなメニューを扱う飲食店に挑戦したいのです。これから私たちがめざすべきなのは、最低賃金を保障するA型事業所でしょう。そのためには、企業との連携をもっと増やしていく営業力強化が不可欠。一流のホテルマンだった豊岡営業課長を中心に、これからもどんどん周りの人たちを巻き込む仕組みを考えていきますよ」

障害者の「いぶき」を地域の人たちに感じてもらうことを目的としてスタートした古口理事長たちの試みは、誕生から10年の月日を経てようやく大きな成果を上げつつある。米粉パンというオリジナル製品を中心に、笑顔という最高のサービスが地域の中でさらに広まっていくことを期待したい。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。