社会福祉法人新潟もぐら会(新潟県新潟市)

古着回収や高齢者世帯のごみ収集代行によって、地域と結びつく「もぐら工房」

新潟もぐら会の概要

新潟もぐら会は、もぐら工房(就労継続支援B型事業)、新潟もぐらの家(共同生活援助施設)、ポプラの家(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、ハローキッズ(放課後支援施設)等の障がい者支援事業を展開する社会福祉法人である。

法人設立と同時に初めてもぐら工房が建設されたのが、1982年のことだ。印刷、ウエス、製袋(ポリ袋)の三つの作業をおこなう授産所としてスタートした。その後は時代の変遷とともに、利益率が低下した印刷事業をクリーニングへと転換するなどの変化もあったが、現在はウエス、製袋、受託作業の三つの職種に落ち着いた。

ユニークな法人名は、もぐらという生物がもつ限りない生命力と可能性に利用者たちの姿を重ねたのだという。いつも土の中にもぐって人目に付かずに生きているもぐら。外見も決して派手とは言いがたい。しかしもぐらたちが生活する畑は、トンネルが掘られて自然と耕され、豊かな土壌となっていく。障がいのある人たちも、同じように地域を耕す役割を果たす存在でありたい。そんなみんなの願いが、「もぐら会」という名前には込められているのだ。

  • 新潟もぐら会 ファッサード
  • 新潟もぐら会 利用者さんたち他

地域24か所の拠点から古着を回収するウエス事業

現在のもぐら工房の中心的な事業となっているのが、ウエスである。古着を集め(購入し)、裁断加工し、機械の油汚れを取るための特殊な布をつくるこの作業は、全国の多くのセルプ(施設)でも作業科目として採用されている。もぐら工房のウエス事業の最大の特色は、原材料のほとんどの古着を地域から回収する体制を整えたことだろう。地域内の24か所の拠点に古着の回収ボックスを設置し、毎日のようにトラックで回収に行っているのだ。こうした動きについて、施設長の田中滋世さん(57歳)は次のように説明する。

「現在、市役所、区の出先機関、公民館、ショッピングセンター、銀行など、24か所の拠点に古着の回収ボックスを設置させてもらっています。非常にたくさんのみなさんから継続的に古着をご提供いただいていて、ほぼ毎日どこかにトラックで回収するために出かけます。とくに5〜6月、10〜11月の衣替えの季節は、忙しくなりますね。ボックスを設置してある場所の管理者から、『満杯になったから、すぐに取りに来て下さい』と催促が入るほどです(笑)

ウエス製造というのは、非常に地味で、利益もあまり上がらない事業だと思われがちだ。事実、もぐら工房でも以前はウエス部門の低収益に苦しんでいた。状況が変わったのが、行政の後押しによって地域住民からの古着提供が増えてきた1990年頃からのことなのだという。

「それまでは東京の日暮里にある業者から古着を購入して、それを加工するという事業スタイルでした。このやり方だとほとんど利益は出ませんが、素材を無料で集められるとなると話は変わってくるのです。食品加工などと比較するとロスも少ないですし、むしろ効率のいい商売といえるかもしれません。地域の古着リサイクルシステムを確立させるために行政側が積極的にPRしてから、一挙にウエス事業は好転していきました」と、田中さんは笑う。

  • 回収衣類のボタンや襟の部分など端布の裁断処理作業
  • 加工された白ウエス製品群、他にも色ウエス混合などがある

古着を回収するとウエスには加工できないような服(木綿が含まれないコートなど)も集まってしまうが、これはまた別の業者に安価で売りさばくことが可能だ。ウエスに加工する際に、ボタンや襟の部分などの大量の端布が出ても大丈夫。これも行政の特別の配慮により、手数料なしで焼却処分できるようになっている。端布だけでも年間で10トンあまりも出てくることを考えると、そのコストは無視できない。さまざまな要因がプラス方向に向き、ウエス事業はいつの間にか施設を代表する稼ぎ頭となっていった。

ウエスは、需要に供給が追いつかないほどの大人気

それでは、販売活動はどのようにおこなっているのだろうか? もぐら工房のような小さな施設(定員20名)の場合、専門の営業マンを配置するほどの余裕はあまりないだろう。しかし田中さんによるとウエスの販売は非常に好調であり、黙っていてもさまざまな取引先から声がかかってくるのだという。

「新潟というのは、大手の造船会社や自動車工場、そして製紙工場などが多数あるため、関連企業でウエスを必要とする現場は山のようにあります。しかし、ウエスを製造している会社は年々減る一方。零細企業がほとんどですし、普通に材料を仕入れて作っていたら儲かる職種でもありません。代変わりを機に、店をたたんでしまう工場が多いのです。そんな状況ですから、私たちのもとには毎年新規の取引先からの注文が増え続けています。むしろ、需要に供給がまったく追いついていない感じですね。住民の皆さんの古着の量には限りがありますし、利用者たちの生産能力もそれほど高いわけではありません。作れば売れる大人気商品ではありますが、このあたりが唯一の悩みどころでしょう」

現在のもぐら工房の平均月額工賃は、約3万円である。売上の割になかなか利益率が向上しないポリ袋製造事業を好調なウエス事業が補って、さらにこの数値をキープし続けている。さまざまな利用者でも対応できる仕事の幅を用意するためにウエスだけに特化するわけにはいかないが、これからもこの仕事がもぐら工房の屋台骨を支えていくのだろう。

  • ウエスを作るための回収衣類を裁断する作業をする利用者さん
  • ウエスを作るため、回収衣類を選別作業する利用者さん

地域貢献としての「高齢者世帯ゴミ収集事業」

ところでもぐら工房では、「さかい輪ふれあい収集事業」というユニークな活動にも取り組んでいる。これは、高齢者世帯の生活ごみをもぐら工房のスタッフが回収するというサービスである。

高齢化が進み、一人ではごみ集積所まで生活ごみを出しに行くことすら難しくなってしまった人たちが地域にはたくさんいる。地域課題解決のための話し合いをおこなっている坂井輪コミュニティ協議会において、高齢者世帯のごみ出しサポートの必要性が議論されているときだった。会議に参加していた田中さんは、そんな活動なら自分たちにやらせてほしいと手を上げたのである。

「福祉施設というのは地域に支えられることは多いですが、自分たちから積極的に地域のために働くという発想はありませんでした。でも地域の古着を回収し続けている私たちこそ、この仕事をやるべきだと思ったのです。現在、45世帯の高齢者の家をまわり、生活ごみを回収しています。身体が不自由になってしまってゴミ出しもままならないお年寄りから感謝されると、大変だけど取り組んで良かったと改めて思いますね」

この活動には、もう一つ大切な意義が潜んでいる。それは、新たな地域のセイフティネットワークの確立である。住民たちの生活の様子というのは、ごみから見えることも多い。高齢者の場合、ごみの選別が荒くなってくると、それは要注意。認知症の初期症状かもしれないのだ。

  • 利用者さんによる、高齢者世帯のごみ出しサポート
  • 不要衣類の回収ボックスの設置

「実際にこれまで、二件ほど怪しい動きを察して、自治会・民生委員・地域包括センターと連動することで家族と連絡を取り、特養老人ホームに入居してもらった事例もありました。私たちだけでは何もできませんが、地域の社会資源と連動すれば大きな力になります。もぐら工房が、少しでも地域のお役に立てればこんなに嬉しいことはありません」

好調なウエス事業によって高い平均月額工賃を実現しながらも、地域との連動を何よりも大切に考える。それがもぐら工房の姿である。みんなが手を合わせて助け合いながら、一人ひとりをかけがいのない大切な存在として認め合う。そんな理想社会の実現に向けて、古着回収やごみの収集代行など、地域に入り込んだ仕事をもぐら工房の利用者たちは着実にこなしているのである。

(文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。