社会福祉法人わかたけ共済部(福井県)

わかたけ共済部は、工賃倍増計画の切り札として、ヘラクレスカブトムシの養殖に成功

子どもと老人福祉を中心に展開する、わかたけ共済部の事業活動

わかたけ共済部は、老人施設を中心にして保育施設、障害者施設等23事業所を運営する社会福祉法人である。法人に在籍する職員数だけで、310名(パート含む)を超える規模となっている。こうした中で、総合支援センターわかたけとして、わかたけ授産場(知的障害者授産施設)とわかたけ福祉工場(知的障害者福井工場)と地域活動支援センターの三事業を一カ所で運営する。同敷地内には養護老人ホームと認知症デイサービスセンター、老人デイサービスが併設されている。

建物に入ると、地域活動支援センターに通ってきた知的障害の子どもたちがにぎやかに歩き回る一方で、老人デイサービスを利用するお年寄りたちがベンチに座って談笑している。わかたけ共済部の法人パンフレットには、ロゴマークの説明として「わかたけ共済部の掲げる"ふたつの出発"をテーマに、子どもと老人がともに手を組み合い、地域社会の中で歩んでいく様子を"W"の文字に表現しました」という表記がある。

建物内で最初に出会った光景は、こうしたわかたけ共済部の理念をまさにそのまま表現したものだと言えるだろう。

わかたけ福祉工場は、あらゆる幼・保育教材を扱う総合商社

障害者事業の中心となるのが、わかたけ福祉工場である。この事業所では、保育施設で扱われる教材の製作と販売が行われており、現在10名の知的障害者が働いている。具体的な作業内容としては、色紙、自由画帳、リボン、モールといった保育教材の加工だ。全判の用紙やロールのリボン等を製紙会社等から仕入れ、幼・保育園などの教育現場で使われやすい形に断裁していく。商品アイテムは、2,000種類以上にものぼる。広大な倉庫に原材料を保管し、二階の商品倉庫に種類ごとに番号化して並べていく。発注があるたびにこれらの材料が細分加工されて、色紙セットや自由画帳として製品化されていく仕組みである。

これらの商品を販売するのが、2名の専属営業マンだ。取引先は、北は青森県から南は岡山県・愛媛県に至るまで1,000施設を超えるという幼・保育施設の数々。この広大な地域を二人の営業マンが、車で移動して注文をとってくる。月曜から金曜日までの五日間、夏・冬休み以外はほぼ一年中出張族というタフな営業活動だ。わかたけ福祉工場の施設長である白藤宗徳氏(37歳)も、入社当時は三年間この地道な営業活動を行って、徹底的に事業運営に必要な基礎知識を磨いてきた。

この幼・保育教材販売事業というのは、もともと先代理事長が昭和19年に個人経営として開始していたものを、障害者のための事業として組織変更していったらしい。そんな土台があるために、経営に対する考え方は非常にシビアそのものだ。営業面では福祉事業という考え方は一切持っていないし、顧客にもとくにそのことを説明していない。障害者職員の平均給料は、福井県の最低賃金をクリアする月額平均8万(2008年実績)。2名の営業マンの人件費は、完全に事業利益の中から支出する構成としている。一般企業では当たり前のこの考え方がわかたけ福祉工場の事業を支え、年商一億円という売上実績につながっているのである。

下請けだけで22,000円の工賃を実現したわかたけ授産場

ほぼ一般企業並みの体制と呼べるわかたけ福祉工場に対し、下請け作業を中心に事業展開しているのが、知的障害者わかたけ授産場だ。ここでは野菜の選別・パック詰、プラスチック玩具部品のバリ取り、老人ホームのベッドシーツ・枕カバー等のクリーニング、畑仕事などが主な事業品目である。これらの仕事で20名の利用者に対して、月額平均22,000円の工賃を支払っている。

中心となる事業が、野菜の選別・パック詰である。地域のスーパーで販売される野菜・フルーツを青果市場から大量に運んできて、サイズ別に振り分け、計量、不良品チェックをした上でトレイに載せてラップ加工してパック詰めしていく。典型的な下請け作業ではあるが、「とにかくたくさんの人出を要する仕事であり、不況に左右されず安定的に仕事が確保できるのがこの仕事のメリットだ」と、白藤施設長。

面白いのが、毎日どんな野菜が入荷されてくるのか予想もつかない点にあるという。常に売れ筋の商品や、特売商品などが中心的に回されてくるわけだが、テレビの健康番組などでトマトの効用が過大に宣伝されると翌日は大変なことになる。それこそ施設中が「トマトの山」と化してしまうわけである。トマトが好きな人ならたまらないが、嫌いな人にとっては地獄のような光景だ。事実、嫌いな野菜が大量に入荷された日など、利用者によっては触りたくもないと逃げ回る人もいるらしい。

最近では青果市場に毎日出入りしているメリットを活かし、施設内の畑で野菜の栽培も始めている。この野菜作りには老人ホームのお年寄りたちも参加していて、障害者とお年寄りたちが一緒に畑で種まき、草取り、収穫をするという和やかな光景となっているのだ。現在作っているのは、ナスとジャガイモとネギ。どうせ作るのなら、少しでも高く売れる野菜を作りたいという白藤施設長の戦略もあり、現在はほとんどネギ畑と化してしまった。これは「今年の日本で生産自給率が比較的低いのがネギであると調べた結果、高値で売れると判断」したためであるという。狙いはずばり的中し、冷夏もあって通常より高い値段で出荷することに成功した。

たかが施設内の親睦的活動とも言える野菜づくりではあるが、どうせやるなら少しでも高く売れる野菜を栽培した方がいい。ここにも幼・保育教材の営業活動で培われた、シビアな事業家としての視点が活かされている。

プラスαの授産工賃をめざすために開始したのが、昆虫事業部

わかたけ授産場が、2007年4月に突如として開始した新事業が昆虫事業部だ。福祉施設がヘラクレスカブト虫の養殖に乗り出し、二年かかって羽化に成功したというニュースは、新聞やテレビなどのマスメディアを通じて大々的に報道されたのでご存じの方も多いだろう。Yahoo! Japanのトップニュースにも取り上げられたため、当時は施設に問い合わせの電話が鳴り止まず、施設のホームページはアクセス超過でサーバーがダウンした。その狂騒ぶりはすさまじいものであったことが、容易に想像できる。当時の新聞の見出しを見てみよう。

「福井・越前の授産施設、巨大カブトの養殖に成功。一匹五万円ヘラクレス。工賃アップ期待(中日新聞)」「世界最大のカブトムシ養殖。越前市の授産施設が成功。工賃アップへ事業化に期待(日刊県民福井)」「授産施設ヘラクレスオオカブト養殖。越前市・わかたけ共済部。幼虫300匹、一匹羽化。通所者工賃狙い(福井新聞)

メディア報道だけみていると、低すぎる授産工賃改善のためのウルトラCとしてわかたけ授産場が本格的に昆虫事業に参入したかの印象を受けるが、本当の目的は「授産工賃を、もう少し高めるためのプラスαの付加事業を作りたい」という発想にすぎなかったのだという。下請け作業中心でありながら、わかたけ授産場における平均授産工賃は22,000円に達している。地方にあっては、決して低くないレベルの金額だ。しかし障害者支援自立法の制定(2005年)により、「工賃倍増計画」で目標工賃を平均30,000円とされたので、「もうひと踏ん張りするための活動をせざるを得なくなった」。

しかし下請け作業だけでも、現場は毎日てんてこ舞いの状況だ。多くの施設がそうであるように、これ以上新しいことに挑戦する余力は正直なところない。そこで白藤施設長は「人出と資金を最小限に抑え、変な言い方になるが、楽して儲かる事業はないか」ということを徹底的に調査していった。アイデアとして検討された事業は、50種類以上。その中には山に落ちている紅葉などの葉を、料理に添える「つま」として青果市場に卸す事業や、ハツカネズミの子供を大量養殖して、は虫類の餌として販売する事業なども最終候補に挙がっていた。

「つま」事業などは、山に紅葉の葉を取りに行き、毎日出入りしている青果市場に売りに行くと、一箱300円の値がついた。なにしろ施設の裏の山には、宝の山となる季節の葉っぱがそこら中に落ちている。その時は実験段階だったので白藤施設長一人の行動であったが、事業となると数名の利用者を連れて山を登っていくことになる。熊も出没する地域である。事業としての成功は見えていたが、危険性を考えると断念せざるを得なかった。

かくしてさまざまな事業が検討されては消え、最終的に生き残ったのが昆虫事業、その中でももっとも高値を生むヘラクレスオオカブトの養殖というわけである。たまに誤解されるらしいのだが、施設長の個人的趣味で始めたわけでは決してない。むしろ昆虫など「触るのも苦手だったし、今でもそう(笑)」。しかし仕事となると徹底してしまうのが彼の性格だ。これまで全く興味のなかった昆虫のことを調べ上げ、カブト虫の養殖についてはいつの間にかマニア並みの知識をつけてしまった。

ヘラクレスの養殖事業は、わかたけ共済部のチャレンジ精神の象徴

ヘラクレスの養殖には、まず親となるオス・メスの成虫を業者から購入して交尾させ、産卵させてから土の中で二年間延々と育て続ける忍耐が必要だ。その間やることと言えば、マットと呼ばれる土の交換と部屋の温度管理だけ。わかたけ授産場では十匹のメスと三匹のオスで、350個の卵を生ませ、320匹が幼虫として孵化し、実際に成虫になったのは150匹であった。高値で販売できるのは、角が立派なオスのヘラクレスのみ(オス・メス比率は、約半分)。サイズにもよるが、150ミリを超えると50,000円以上(2008年時)の高値がつく。わかたけ授産場では155ミリに育った成虫に、なんと70,000円という値がついた。平均すると120〜130ミリ程度の大きさで、それぞれ一匹10,000円程度という価格である。

成虫の中でも、角がしっかり伸びていないカブトは角曲がりと呼ばれ、ほとんど値がつかない。150匹のうち、約75匹がオスであり、販売できたのは約50匹。売上としては、約100万円であった。養殖部屋の作成や親カブトの購入に要した初期投資額が150万円であったので、現段階では50万円の赤字となる。事業的にはほぼ計画通りに推移したのだが、結果として赤字になったのはメスの価格が暴落して売上につながらなかったのが大きかった。もし例年通りの価格でメスも販売できていたら、初期投資は十分回収できた計算だ。もっともわかたけ授産場がメディアに出た宣伝効果(専門家試算によると数億円)を考えると、現段階でも十分ペイした事業だとも言えるかもしれない。

本年度で三年目を迎える昆虫事業部だが、今後の見通しはどうなのだろうか?残念ながら当初もくろんだ「手間暇かけずに儲かる事業」であるとは、簡単には言い難い現状である。なにしろ日常作業は土の中に眠る幼虫(要は、巨大イモムシだ!)の管理だけだから、女性職員は気持ち悪がって誰も寄りつかない。言い出しっぺである施設長が数名の利用者と共にイモムシを管理し、販売のための経過報告として定期的にブログを更新しているのである。「養殖事業を引き継がせる職員がいないのが難点です」と白藤施設長は、嘆いている。

またユーザーがマニアしかいない点も、高値がつく魅力的な事業である反面、いつ暴落するかわからないという危険性も併せ持っている。授産事業の工賃アップの切り札としてメディアに大々的に取り上げられたヘラクレスカブト虫の養殖事業だが、実態はこのような問題を多数抱えていた。

それでもなお、わかたけ授産場のユニークな取り組みは、福祉関係者の中でもっと高く評価されてしかるべきだろう。現状の数字に甘んじず、新しいことに挑戦するためには発想の転換や勇気が必要だ。誰もが反対する事業の中にこそ、未来の成功の芽が潜んでいるに違いない。そんな当たり前のことを再発見させてくれた昆虫事業部のさらなる(ささやかな?)発展を、陰ながら見守っていきたいと思う。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。