社会福祉法人ひとふさの葡萄(山梨県中央市)

画期的液体肥料「友果(ゆうか)」で、新しい障害者ビジネスに挑む「アグリーブみのぶ」

ひとふさの葡萄の概要

ひとふさの葡萄は、多機能型就労支援事業所「ほっとらんにんぐ」(就労継続支援B型/生活介護)、就労継続支援B型事業所「アグリーブみのぶ」等の障害者就労支援事業を運営する社会福祉法人である。この他「あおぞら」(児童デイサービス)、「ソテリア」(障害者指定相談支援事業所・発達障害児者支援事業所)、「またあした」(放課後学童支援事業所)、「サポート昭和」(地域活動支援センター)を運営する。

作業品目としては、「ほっとらんにんぐ」が甲州地どりの飼育と販売・パン製造・軽作業であり、「アグリーブみのぶ」が液体肥料「友果(ゆうか)」の製造と「友果」で栽培された果実の販売である。

法人本部は山梨県中央市に位置するものの、「ほっとらんにんぐ」のメインとなる甲州地どりの作業場は、甲州盆地が一望できる曽根丘陸の一角にあり、「アグリーブみのぶ」に至っては身延町大島の富士川上流の農園地帯の中にある。どちらも中央アルプスに囲まれた大自然の中で、障害者が活き活きと働ける場をめざして設立された事業所なのである。

「美味しんぼ」にも紹介された、甲州地どりを飼育

ひとふさの葡萄の代表的な事業といえば、「ほっとらんにんぐ」における甲州地どりの飼育だろう。甲州地どりとは、山梨県畜産試験場で改良された県内産シャモ(雄系)と白色プリマスロック(雌系)の交配により生まれた新しい品種である。1986年頃から開発されたこの地どりを、太陽の下の広い農場で放し飼いにして120日間かけて育て上げる。与えるのはもちろん安心安全な自然の餌だけで、鳥たちは農場の草や土の中の虫をついばみ、自由な環境で走り回りながら成長する。抗生物質や肉骨粉などは、一切与えない。できるかぎり鳥たちにストレスを感じさせない環境でじっくり育てることで、脂肪分がない歯ごたえある肉質を産みだしている。

この甲州地どりの飼育を一手に引き受けていたのが、加藤政彦氏を代表とする甲州地どり普及生産組合であった。品質管理のためにその飼育法は徹底した理想主義が貫かれ、最高に美味しい鶏肉となる反面、コスト的には高く付いてしまい、なかなか市場で受け入れられなかったが、2001年に漫画「美味しんぼ(80巻/日本全県味巡り 山梨編)で紹介されたことで、一挙に甲州地どりの名前は全国に知れ渡ることになる。2006年には、キリンビールのキャンペーン企画「選ぼうニッポンのうまい!」に、山梨県代表として「甲州地どりのホワイトシチュー」が選考されている。

ひとふさの葡萄で甲州地どりを飼育するようになったのは、2005年からである。三尾馨理事長(58歳)が加藤政彦氏の元に弟子入りし、具体的な飼育方法のノウハウを指導してもらった後で、社会福祉法人ひとふさの葡萄として甲州地どり普及生産組合に加入することになったのだ。三尾氏が構想していたのは、地元の特産品を農家の人たちと一緒に作り上げるという理想的な障害者就労施設の姿だという。

「大自然の中で、利用者たちが動物を飼育するという仕事が素敵だなと思ったんですね。加藤さんの育てる鳥たちは、1平方メートルあたり10羽以内、平飼いで、しかも広い運動場が付いていなければならないという厳しい条件です。こんな健康的な環境で育てられるわけですから、美味しい鳥になるのは当然なのですよ。幸い、加藤さんも私の理想郷づくりに理解を示してくださり、一緒にやろうということになりました」

2年間の弟子入り後、「ほっとらんにんぐ」では加藤氏の農場の隣に「Kato-Son's Farm(かとうさんず ふぁーむ)」を設立、さらに指導を受けながらも、独自に甲州地どりの飼育をスタートさせた。現在では、敷地内に12の鶏舎を構え、年間で15,000羽を出荷する一大飼育農場に成長している。その規模は、指導を仰いだ加藤氏の農場を超えるほどとなり、なんと甲州地どり全出荷量の6割は「ほっとらんにんぐ」が占めるようになっている。

「夏は酷暑で、冬は冷たい風が吹き抜けるという盆地独特の厳しい気候の中、毎日鳥たちを追い回しているので、利用者たちも体力がつきました。生き物を育てるという大変さを、みんなで理解しながら毎日仕事に励んでいます」と語るのは、地どりの飼育事業を任されている職業支援員・サービス管理責任者の宮坂健太さん(30歳)だ。福祉施設の職員というより、すでにその風貌は立派な飼育場の管理者という雰囲気を呈している。県特産品の飼育を自分たちが担っているという自信に満ちあふれた表情が印象的であった。

魚肉エキスを利用した画期的なスーパー肥料「友果」

「ほっとらんにんぐ」に続き、2010年から三尾理事長が新たに仕掛けた施設が「アグリーブみのぶ」である。「ほっとらんにんぐ」が自然の中で活き活きと働く職場づくりがテーマであったのに対して、「アグリーブみのぶ」は徹底的に高賃金をめざした事業所だという。具体的には、30,000円以上の工賃確保を目標とする(「ほっとらんにんぐ」は、10,000円)。その目的を果たすための事業が、魚肉エキスを利用した画期的な肥料「友果」の製造なのだ。

農作物の品質向上に格段の効果があるというこのスーバー肥料は、三尾理事長と共に障害児を持つ親として理想の障害者就労施設づくりの夢を語り合ってきた仲間である清水久雄理事(63歳)が、アビオン株式会社と共に開発に関わった製品だ。

高級な海洋魚から抽出精製されたエキスに食品用総合酵素類を配合し、1年間発酵させて作り出されるというこの特殊肥料は、果実などの作物に葉面散布すると生命力が増し、病気にかかりにくくなるという特性がある。害虫にも強くなるため、農薬散布回数を減らすこともでき、作物が本来持っている美味しさを際立たせてくれるのである。

「利用者たちに高い工賃を支払うためには、売れる製品を作らなければいけません。しかし県内の多くの施設で作っているのは、どこもありきたりのモノばっかり。どうせ新しい施設を作るなら、もっと安定的な事業を確保するべきだと思いました。『友果』の製造をしてみたいと三尾理事長から打診があった時は、いいアイデアだと思いましたね。必ず売れる製品だということはわかっているので、県内でトップクラスの工賃を支払う施設となるのは間違いないですし」と、清水理事。

この時すでに清水氏は肥料「友果」の営業マンとして農家にその効能を説いてまわり、肥料としての実効性が検証されつつあった。「友果」を使うと、明らかに果実の旨味が増すだけでなく、日持ちもするし、実の大きさもワンランクアップする。新しいことにはなかなか挑戦しない体質の農家の人たちも、収穫された果実の差に驚き、注目が集まっていたのである。JA松本ハイランドでは、地域内のりんご農家たちに「友果」をいち早く推奨しており、アビオン株式会社の製造能力を超える需要が生まれていたのもグッドタイミングであった。

こうして「アグリーブみのぶ」は、画期的なスーパー肥料「友果」の製造を担当するいわば第二工場として2010年4月からスタートを切ることになる。専用の高度設備が必要で、高い売上確保が期待できる障害者就労施設は、山梨県内では初の試みである。山梨県障害福祉課も「新たなビジネスモデルの可能性を秘めている(山梨日々新聞)」と大きな期待を寄せているらしい。

すでに1,800万の売上が約束されている「友果」製造事業

「アグリーブみのぶ」が始めた「友果」製造事業がすごいのは、「スタートする前からすでに売上が確保されている」(三尾理事長)ところである。これは清水理事(有限会社富岳アビオン)との契約が、作った肥料はすべて買い取ってもらうことになっているためだ。

「施設が立ち上がってから、アビオン株式会社の方に指導いただきながら、さっそく3タンクで『友果』の製造を始めました。規模としてはアビオン本社と同じ製造体制です。1タンクで600万円の売上になりますから、3本で1,800万円の売上。スタート時点で、すでにこんな販売計画が立っている施設なんて私は経験したことがありません(笑)」と語るのは、日永田施設長(57歳)である。

これまで県内の複数施設の立ち上げに関わってきた実績の持ち主である日永田氏ですらも、「友果」のような事業は初めてのことだけに、戸惑いを隠せない。しかも製品が完成するまでには、一年という時間を必要とする。作った肥料はすべて買い取ってもらう契約になっているとしても、それはあくまで製品が完成した後の話。現時点での売上はまったくのゼロなのである。

そのため現在、三尾理事長は「友果」という肥料の素晴らしさを広めるために、「友果」を使って作られた美味しい果実を近隣農家から仕入れ、「アグリーブフルーツ」として販売するという地道な営業活動を続けている。

「私の頭の中では、『友果』を中心とした事業展開は完成されているわけですが、なかなか周りの人たちに理解してもらえないのですよ。そんなうまい話があるのかって。日永田施設長ですら、『現金を見ないと、まだ信じられない』なんて言っているくらいですから(笑)。でも『友果』を使った果物が美味しいのは、事実。一度食べてもらえれば、絶対に納得してもらえます。『友果』のすごさが広まれば、農家にもっと広まります。現在の商談だけでも、すでに今のプラントでは製造能力が不足することがわかっているんですよ」と、三尾理事長。自らの中で広まる構想と、周りとのズレにやきもきする日々がまだ続きそうだ。

めざすのは、「友果」を使って近隣農家とタッグを組んだ町興し

「ほっとらんにんぐ」で地元の人たちと甲州地どりの飼育を始めたように、「アグリーブみのぶ」で三尾理事長がめざしているのは、地域の人々を巻き込んだ町づくりでもある。

「北海道の十勝の生キャラメルとか、長野のお焼きとか、ヒット商品を作ることで雇用の場も生みだし、町興しになった事例はたくさんありますよね? 『友果』というのは、それらに匹敵する可能性を持った商品だと私は思うんです。せっかく素晴らしい肥料を私たちが作っているので、山梨県内の農家の方たちにどんどん『友果』を使ってもらって、美味しくて利益の上がる果物を生産してほしいですね」

すでにこの取り組みは始まっている。桃の産地として知られる山梨県内でも、春日居岡部地区は千疋屋や新宿タカノフルーツ等の高級フルーツ店でも最高級品として扱われるほどの特別な高級ブランド桃の生産地である。プライド高いそんな農家グループの人たちですら、「友果」の素晴らしさに飛びついた。清水理事から「友果」を勧められて使ってみた結果、明らかに「これまでと違う品質」の桃が栽培できたからだ。グループを統括する生産農家の和田浩幸さんは、次のように語っている。

「桃の品質を決めるポイントは、(1)ジューシーさ、(2)日持ちの長さ、(3)サイズの大きさですが、『友果』を使うとどれも圧倒的に効果が表れます。とくに日持ちの長さには、お客さんたちが驚いているようですよ。普通、長くても一週間しか持たない桃が、私たちの桃はなんと半月以上持つのですから。日持ちの短さが桃の最大のウィークポイントでしたから、これは生産農家も流通業者も販売業者も大歓迎ですよ。包丁でカットした後も、酸化して変色することがほとんどありません。デザートに出すことできる桃として、有名レストランに積極的に売り込んでいきたいと思っています」

メンバーたちはみな「アグリーブみのぶ」が生産する「友果」を肥料として使うことで、日本一の桃がさらにバージョンアップすることを期待しているようだ。清水理事は、生産農家の方々と共に熱く語っている。「『友果』は、施設利用者、生産農家、流通業者、販売業者、消費者、すべての人を幸せにする商品なんですよ」今回の取材のためにわざわざ集まってくれた生産農家のメンバーも、この言葉に大きくうなずいていた。

来年の春には「アグリーブみのぶ」のタンクの中で現在熟成中の「友果」が完成し、やっと近隣農家への販売がスタートする。「果実の友」という意味合いを持ったスーパー肥料が、今後山梨県の果実事業をさらに発展させていくことは間違いないだろう。そしてその中心に、小さな障害者施設の存在がある。「『友果』を使った町興し」という三尾理事長たちの夢は、一歩ずつ実現に向けてスタートを切ったばかりなのである。

(写真・文/戸原一男)

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社会福祉法人ひとふさの葡萄(山梨県中央市)
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