社会福祉法人花工房福祉会(長野県長野市)

対面販売を中心にして、地域の人たちに商品を売り歩く「エコーンファミリー」

花工房福祉会の概要

花工房福祉会は、エコーンファミリー(就労移行支援事業/生活介護事業/就労継続B型事業)・エコーンファミリー三輪事業所(就労移行支援事業)・エコーンファミリー篠ノ井事業所(就労継続支援B型事業)・エコーンファミリー朝陽事業所(就労継続支援B型事業)等の障害者就労支援事業所を経営する社会福祉法人である。この他、生活の場としてケアホームを二棟運営している。

もともと障害児を持つ親の会が始めた共同作業所が法人の原点だが、1988年の長野オリンピック開催後の区画整理によって空いた土地を長野市より無償提供されることになり、20名定員の知的障害者通所授産施設として2001年に生まれ変わった。設立から10年が経った現在では、4事業所・60名定員(現員74名)の障害者サービス事業所に成長している。

作業科目は、パン&菓子・おたっしゃ豆富・竹炭製品等の製造販売や、プランター・野菜の育苗販売、清掃業務委託、古紙・牛乳パック回収、メール便配達委託、各種内職作業、等々である。できるかぎりさまざまな作業を用意し、利用者たちが各々の障害特性に合わせた仕事を選択できるようになっている。

エコーンファミリー最大の特色は、対面販売にあり

しかしエコーンファミリーという施設の最大の特色は、なんといっても製品を対面販売で積極的に売り歩くその姿勢にあるといえるだろう。豆富・パン・菓子・花苗などが外商のメイン商品であり、毎日いくつものチームに分かれて出かけている。たとえばパンは、長野日赤病院・長野県庁・長野市役所・長野南郵便局・八十二銀行・ヤマト運輸などの官公庁や企業に臨時販売所を設けさせてもらっているし、豆富は90名余りの会員のもとに車で宅配する。宅配以外にも、施設の周りの近隣住民のためにリヤカーで豆富を売り歩く姿が、すっかり地元の名物になっているらしい。

小池邦子所長(68歳)は、こうした販売法について次のように語っている。

「ほとんど毎日どこかに出かけなければなりませんから、たしかに大変な労力ですね。でも私たちは、対面販売の場こそ、施設の存在をみなさんに知っていただく最大のチャンスだと考えているのです。百聞は一見にしかずという諺があるじゃないですか。利用者が一生懸命声を上げて販売する姿を見てもらえれば、理解者は少しずつ増えていくはずですよ。だからあえて製品を売る歩く活動を積極的におこなっているのです」

こうした対面販売の現場に出かけていく中心的な役割を担うのが、マルチグループと呼ばれる「販売専門班」の利用者たちだ。彼らはエコーンファミリーでつくられるさまざまな製品を、毎日どこかに出向いて売り歩く。販売以外にも畑仕事をしたり、プランターの植え替えや花壇の整備をしたりと、施設の中に留まることはほとんどない。外にいるのが大好きな、外向的な人たちの集まりだ。取材当日は、パンや豆富の販売に加えて、ちょうど季節の花の植え替えも重なる時期であり、施設の入り口は持参する製品の準備でごった返していた。

販売会で活き活きと活躍する利用者たち

そんなマルチグループの中でも販売のエース格ともいえる存在が、上原奈央子さん(31歳)である。以前の職場では、職種が本人の希望と合わず、仕事も休みがちであったという。しかしそんな話が信じられないくらいに、エコーンファミリーに入所して販売の仕事に関わってからは、180度生まれ変わった。まさに水を得た魚のようである。お客さんと積極的に会話を交わし、元気な声で呼び込みを絶やさない。なにより、まったく仕事を休まなくなった。その変化は、小池施設長ですら驚くばかりであったという。

仕事の様子を見ていると、お客さんへの声がけは勿論のこと、電卓を使った代金計算、代金の預かりと釣り銭計算、すべて一人で任されている。知らない人が見ると利用者なのか職員なのかまったく区別はつかないだろう。そんな彼女、実は文字の読み書きが苦手というのだから、驚きである。もちろん計算(暗算)能力もないはずなのだが、電卓を使って代金を計算し、お客さんが出すお金を入力して釣り銭金額を算出し、釣り銭を渡すまでの仕事をこなしている。

「彼女は決してはじめから高い能力があったわけではないのですよ。でも販売会に出かけてみて、とても楽しかったのでしょうね。もっと現場で役に立つ存在になるためには、代金計算ができないとダメだと気付き、必死に家で特訓したみたいなのです。お母さんのサポートも大きいと思います。お客さんがお札と小銭(たとえば、1,050円)を出してきても、まったく慌てずに対応できるのですよ」と、小池施設長。

長野日赤病院のように半日の販売で5万円程度売り上げる会場では、お客さんが休む間もなく訪れてくる。とくに昼休み時間などは、会計を持つ人の列でパニック状態にもなりそうだ。しかし上原さんはそんな時でもマイペースで、しっかり笑顔を絶やさずに計算を続けている。

「今の仕事は本当に楽しいです。ほとんど毎日、どこかに販売に出かけています。もっとたくさん製品を売って、みんなの役に立てると嬉しいですね」(上原さん)

仕事に自信を持ち、必要とされていると感じると、人はここまで変わることができるのだ。上原さんの姿は、そんなことを教えてくれる。

売れ残りゼロ。作ったモノはすべて売り切るのが施設の方針。

このように利用者たちが製品を張り切って販売するとなると、自然と職員たちも負けてはいられない雰囲気になっていくだろう。エコーンファミリーでは、作った製品はその日のうちにすべて売り切るのが鉄則となっている。なんと、ロス率ゼロ。販売会に出かける施設は全国には多くとも、これだけ徹底的な方針が貫かれている例は珍しいだろう。しかもこの施設の場合、それが毎日のことなのである。小池施設長は言う。

「せっかく一生懸命つくった製品なのですから、無駄にしたらもったいないじゃないですか。製品は、一つ残らずすべて売り尽くさないとダメ。これが私の基本方針です。初めのうちはトップダウンでうるさく指導してきましたけれど、最近ではやっと職員たちにこの意識が徹底されてきたように感じますね」

もちろん販売会である以上、その日の天候や客層によって売上の増減は避けられない。製品の大半が売れ残ってしまうこともあるだろう。しかしそれを「今日はダメでした」と諦めて持ち帰らずに、顔なじみの事業所や学校などに必ず立ち寄って、残りの製品を売り切ることが大切だというのである。

「そのためには普段からいろんな方々とコミュニケーションをとって、協力者を増やしておくことが大切ですね。夕方にみなさんの職場にお邪魔してみると、小腹を空かせた方がけっこういらっしゃるので、『いいところに来てくれた!』と、案外どこでも歓迎してくれるのですよ(笑)

どんどん地域に広がるエコーンファミリーのネットワーク

こうしたエコーンファミリーの積極的な販売活動が、地域の中でどんどんネットワークを広げている。なにしろ、毎日どこかで必ず利用者たちが元気よくエコーンファミリーの製品を売り歩いているのである。地域の中でこの施設の名前を知らない人はあまりいないだろう。街角で彼らが声を出して販売する姿を見てしまえば、自然と応援したい気持ちにもなってくる。

そんな人たちが、次にはさまざまな仕事を発注してくれるようにもなってきた。たとえば地域のパン屋さんである。パン事業をスタートする際に具体的な技術指導に関わってくれたらしいのだが、利用者たちの製造能力が向上したのを見極めた上で、最近では他店で販売するラスク・スコーンの製造を任せてくれることになった。さらにある食品メーカーからは、ナチュラルローソンで販売するバター未使用の高級自然派クッキーの製造を委託されている。

それだけではない。「竹なでしこ」と称する竹炭石けんは、石けん会社とのコラボによって生まれた非常に高品質のオリジナル石けんだ。エコーンファミリー篠ノ井事業所の炭焼き小屋で利用者たちが焼き上げた炭粉を練り込んだ石けんは、類似品がないほどの製品と評価されている。事実、他企業からもOEMとして定期的に大量の発注がくるほどである。

「おたっしゃ豆富」の事業趣旨はそもそも、長野県西山地区のブランド品である西山大豆を、地域の農家の人たちとエコーンファミリーの利用者たちがともに育てて収穫し、廃棄物(おから)を出さない製法によって栄養満点かつエコな豆腐を作り、地域の人たちに直接販売するというプロジェクトであった。

「利用者の笑顔こそ、最大の財産」と語る小池施設長の方針が、このように次々と地域の人たちを巻き込んで大きく花開きつつある。「おたっしゃ豆富」プロジェクトはスタート時に、長野県「地域発 元気づくり支援事業」の助成を受けている。

親亡き後の生活の場の確保と、さらなる収入アップを目標に

小池施設長に、エコーンファミリーの今後の目標について伺ってみた。

「これまでは施設運営を安定化させることが第一で、なるべく事業は広げないようにしてきました。しかし親亡き後の利用者たちの生活保障は、深刻な問題です。法人では対応策として2棟のケアホームを建設してきましたが、今後も生活の場についての課題は大きくなっていくでしょうね」

工賃アップについての課題も大きいという。現在のエコーンファミリーの就労継続B型事業の平均工賃は、32,000円。地方にあっては決して低くない金額ともいえるが、小池施設長としては最低でも平均40,000円以上にしたいという。これが実現すれば、ほとんどの利用者が障害者年金と合わせて10万円以上の収入になり、最低限の生活が保障されるはずだからだ。

「施設から企業就職への動きも積極的におこなっていますが、多くの利用者はエコーンファミリーでずっと働くことになるでしょう。だからこそ私たちは、できるかぎり高い工賃を支払う努力を怠ってはいけませんね」

もちろん高賃金を得ることを優先するあまり、利用者たちが楽しく笑顔で働ける環境を妨げていないか、つねにチェックしていく必要はあるだろう。小池施設長も、「一番大切なのは、働く彼らの気持ち。工賃が下がったとしても、働く環境が変わっただけで生き甲斐が生まれたと喜んでいる利用者の例もありますからね」と、語っていた。

今日も元気に、エコーンファミリーたちの利用者は長野市川中島町を中心とした地域で製品を販売していることだろう。小池ファミリーたちの明るさが、町に元気を与えている。地域における理想的な施設運営の一つのあり方を、ここに見た思いがした。

(写真・文/戸原一男)

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社会福祉法人花工房福祉会・エコーンファミリー(長野県長野市)
http://ameblo.jp/ecofa/

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。