NPO法人のんぴーり青山の会(新潟県新潟市)

小型家電回収事業のスタートによって、最低保障工賃の大幅アップを実現

のんぴーり青山の会の概要

のんぴーり青山の会は、「のんぴーり青山」(就労継続支援B型事業)、「のんぴーりサックス」(就労継続支援B型事業)、「のんぴーりAXIS」(就労継続支援B型事業)の三つの障がい者就労系サービス事業所を運営するNPO法人である。

1994年に開所した福祉作業所「のんぴーり青山」が法人の原点であり、2004年には二つ目の事業所として「のんぴーりサックス」を開設。その後、障害者自立支援法の施行に伴ってNPO法人格を取得すると、2008年4月より、就労継続支援B型事業に移行することになった。2011年にはさらに「のんぴーりAXIS」を開設し、3事業所体制となっている。

作業品目はそれぞれ、焼き菓子の製造販売、併設店舗による各種製品の販売、その他受託作業等(のんぴーり青山)、さしみこんにゃくの製造販売、総菜類の製造、玄米の選別作業等(のんぴーりサックス)、小型家電の回収・分解・分別作業、ドラム缶蓋の研き作業(のんぴーりAXIS)等である。

法人事務局がある「のんぴーり青山」は、越後線(新潟からの在来線)青山駅から徒歩数分の住宅街の中にある。建物は風情のある民家そのものであり、入り口に掛けられた「のんぴーり青山」の風情ある筆文字看板が印象的だ。法人の創設者が障がいを持つ当事者であったことから、「それぞれのペースで、のんびり、ゆっくり進もうよ」という思いが、その名には込められているという。

「のんぴーり青山」で開催される、月1回開催のお祭りイベント

「のんぴーり青山」の代表的な活動が、月1回・第3木曜日に開催される「わくわく市」である。「あなたのちいさなお店です」というキャッチコピーのついた販売会は、事業所に併設された店舗において、8年前から継続的に開催されてきた。ここでは宮城県の有名な障がい者事業所である「蔵王すずしろ」が製造するはらから豆腐や、「のんぴーりサックス」の自主製品である刺身こんにゃく、そして「のんぴーり青山」で作るケーキやクッキーなどの焼き菓子の他、全国から仕入れた季節の野菜や果物などバラエティ溢れる品揃えで、お客さんを待ち受けている。

「福祉作業所時代から焼き菓子を作っていたのですが、それだけでは魅力的なお店にはなりません。『わくわく市』をスタートさせるにあたり、目玉商品としたのが蔵王すずしろさんのはらから豆腐でした。蔵王山麓の水と、国産大豆を100%使った本格的な豆腐は、味が濃くて本当に美味しいのです。木綿豆腐一丁が450円、油揚げが320円と価格も安くはありませんが、一度食べて病みつきになったというお客さんが毎回買いに来てくださるのですよ。1回の販売会で、蔵王すずしろさんからは1000個くらいの商品を仕入れます。8年経った今でも『わくわく市』のメイン商品ですね」

と語るのは、寺口能弘統括所長(36歳)である。2003年4月に所長に就任し、翌年の2004年2月から「工賃20,000円保障」を掲げて、事業展開したのがこのイベントだった。地域の人たちに来店を促すためのチラシを手描きで制作し、近隣の企業や学校関係者に配布したり、近隣住宅へのポスティングなども積極的に開始した。そうした活動を地道に続けた結果、毎月100人あまりの人たちが小さな店舗に集まるようになってきたのである。

「販売利益を上げるのが大きな目標ではありますが、『のんぴーり青山』が地域の拠点としてみなさんに認識されるようになったのも、とても意味あることだと思います。利用者たちがチラシを近隣にポスティングする際に、たまたま庭の水やりをしていたお父さんたちと挨拶を交わす。これって、福祉施設にとってはとっても重要な活動でもありますから」

「わくわく市」は、地域の人たちの憩いの場

お客さんを飽きさせないためのさまざまな工夫も、毎回用意されている。市場と名のる以上、もっとも重要なのは商品ラインアップだ。いくら美味しいとはいっても「はらから豆腐」や刺身こんにゃくだけを並べていては、来店者を増やしていくことは厳しいだろう。そのためにも、毎回、季節限定スイーツや、全国から探してきた旬な野菜・果物を、イベントのメイン商品として売り出している。過去のチラシから、その動きをざっと見てみよう。

「ホワイトデー:のんぴーりオリジナルクッキー&ケーキ」「低農薬・有機特別栽培法による、いよかん・はっさく・甘夏」「産みたて新鮮玉子」「天草のばんかん」「秋の味覚・栗ごはん」「卵たっぷりかすていら」「ぜんまい煮・大根と昆布の煮物」「おひまさまフェア:桜餅&ちらし寿司」「焼きたてあつあつピザ」「大好評! 中ノ口村ホーマー農園の採りたてぶどう」「コーヒーロールケーキ」「クリスマスアレンジフラワー」「朝採り野菜」「おふくろの味・煮込みハンバーグ・舞茸ごはん・金時豆」...等々。

取材当日は、洋なしのタルトと夏の定番スイーツの水ようかん、そしてオレンジゼリーが目玉商品となっていた。スイーツから野菜・果実、豆腐にこんにゃく、各種の総菜...等々。まるで昔懐かしいよろず屋の雰囲気である。毎回違った商品が売り出されているから、それを楽しみに集まってくる。毎回発行しているチラシの裏は注文票にもなっていているため、事前に商品をFAXで予約してくれる常連顧客も多いらしい。職場や地域でとりまとめ役を引き受けて、わざわざ店舗まで商品を引き取りに来てくれる人までいるほどなのだ。

「最近は、店内でコーヒーの無料サービスを始めました。買い物をするだけでなく、少しでも施設に留まっていただければと思いまして。ご覧の通り、みなさん楽しそうに団らんしてもらえる場になってきたのですよ。とても居心地が良いみたいで、なかには何時間も座っていかれるお客さんもいますけどね(笑)

大幅な最低工賃保障のアップをもたらした「のんぴーりAXIS」の新事業

寺口所長がさらなる工賃アップを目指して手掛けたのが、小型電子機器の回収・分解・分別というまったく新しい事業である。2012年3月に「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律案」が閣議決定されたのを受けて、全国の市町村で次々と「使用済小型電子機器の回収実験」が動き出した。新潟市でも6月から市内に12箇所の回収拠点を設置し、家庭の使用済家電(携帯電話・デジタルカメラ・ビデオカメラ・CD&MDプレーヤー・ゲーム機・カーナビ・電卓・電話機等)を回収するという取り組みを始めている。

電気や電池で動くこのような小型家電には、金・銀・白銀などの貴金属や、精密機器の部品として有用なレアメタルと呼ばれる希少金属が含まれている。これまでほとんどが燃えないゴミとして捨てられ、環境破壊の一因にもなっていたこれらの貴金属を有効活用しようという試みだ。法律が正式に施行されると市町村での回収が義務づけられるようになるため、全国の自治体では先行して回収活動に力を入れ始めたのである。リサイクル活動に熱心な自治体では、すでに障がい者施設に回収された使用済小型電子機器の解体作業を委託するところも増えている。

寺口所長はこうした法律が施行されるという動きをつかむや否や、約1年かけて新潟市の廃棄物政策課を何度も訪れ、行政の指定する使用済小型家電回収拠点の指定業者として随意契約を交わせるように交渉を続けてきた。その結果、新潟市障がい福祉課のサポートもあり、「のんぴーり青山の会」は市指定の12拠点のうち、6拠点から回収できる権利を得た。この事業に取り組む想定で2011年6月に新設したのが「のんぴーりAXIS」ということになる。

寺口所長が優れているのは、使用済小型家電回収・分解・分別という作業を単なる行政からの受託作業という位置づけでなく「利益の生まれる事業」として目をつけたところであろう。単に使用済小型家電を回収したり、分解したりするだけでは、下請け作業の延長程度の工賃しか稼げないはずである。それでは新しい施設の取り組みとしては、ほとんどメリットがない。

しかし分解・分別作業をした後の各パーツは、各種貴金属やレアメタルが含まれた「有価物」として、関係者の間で取引されていくのである。これらを専門家任せにせず、もっとも高値で購入してくれる業者に直接売ることができたとしたら? これが基本的な事業コンセプトだった。

「今回の取り組みに先立って、さまざまな金属部品のくずを有料で引き取って分別し、専門業者に転売するという仕事を始めていました。その関係で企業の方から、販売先の選定方法をアドバイスしてもらったことが大きかったですね。数万円で買った金属部品のくずも、きちんと仕分けするだけで倍以上の価値ある商品に変えることができるのです。私たちは廃棄物運搬処理等免許を持っているわけではありませんが、引き取っているのはあくまで有価物としての金属部品。法律的にも問題はありません。この考え方で、使用済小型家電の回収・分解・分別作業を事業化しようと考えたわけです」

その考えはズバリ的中した。行政の指定する拠点からの回収以外にも、市が指定する業者としての利点を活かして企業や団体に積極的に営業活動を展開すると、次々に協力者を増やすことができた。不要になった小型家電を引き渡すだけで参加できる気軽な社会貢献事業として大好評となったのだ。すでに1ヶ月で約2.8トンの使用済小型家電を回収可能な体制を確立している。事業スタートとしては、上々の滑り出しといっていい。集まってきた部材を分解・分別することで、60万円程度(註:時期によって相場が異なる)の有価物に変えることができるからだ。無(ゴミ)から有(お金)を生み出す、マジックともいえる事業だ。

「僕は本当に周りの方々に恵まれていると思います」と、寺口所長はまわりへの感謝の気持ちを忘れない。これまでにも法人事業に対して多くのサポートを受けてきたが、とくにこの新しい事業の成功の裏には「ある特別な方」との出会いがあった。その人を通じて、さまざまな心あたたかい民間企業、個人の方々を紹介していただいたおかけで、金属部品を独自に転売するルートが開けたのだという。

全然のんびりしていない名物施設長の次なる一手は?

「のんぴーりAXIS」の新しい取り組みにより、法人全体の最低保障工賃は30,000円を達成できた。来年の4月からはさらにこの金額を、40,000円にする予定だという。若くして新潟県セルプ協会長を務める寺口所長は、障がい者就労系事業所の工賃目標についても厳しい意見を持っている。

「20歳以上の障がいのある人の障害基礎年金は、月額約65,000円です。人並みの生活水準を維持できる金額が月額10万円だとすると、35,000円から40,000円足りません。グループホームの費用だって、6〜7万円かかるわけですからね。もし自分が彼らの立場だったとしても、残りのお金で好きなモノを買ったり、食べたりしたいはずです。そのための工賃を払えるようにするのが、就労系施設の最低限の義務だと私は思うのです」

手元にある新潟県内研修会資料には、「寺口が吠える! 工賃1万円で、お前らは働く気になるのか?」という講演概要が記されている。このように寺口所長は、施設職員を対象とした研修会でも叱咤激励をおこなっているようだ。「工賃倍増5カ年計画」と題して、厚生労働省は平成19年度から23年度までに49億円の税金を投入したが、全国平均で12,000円が14,000円にアップしたにすぎない。新潟県でいうと、目標工賃21,000円を達成したのは140施設中、わずかに20施設程度という惨状である。これはいったいどういうことなのか? 工賃向上というのは、所詮は各施設の覚悟の問題、やるか・やらないかの問題にすぎないのではないか...と、寺口所長は強く訴えているのである。

「もちろん利用者への支援をおざなりにして、ただ単に儲ければ良いというわけではありませんし、さまざまな利用者と各種の障がいが絡み合ってきますから、数学の方程式のように単純に答えが出せるわけではありません。しかしそれを前提として事業をおこなっているのが、私たちの仕事です。支援を言い訳にするのは間違っています。もっと儲けられる仕組みはないか。もっと稼げる仕事はないか。そんなことをいつも考え続けるのが、重要なのです」

「のんぴーりAXIS」の新事業によって、最低工賃の大幅向上という数値的実績以外にも、予想外の成果もあった。これまでの事業所では作業者としての能力を発揮できなかったある利用者が、水を得た魚のように活き活きと働き出したというのだ。室内作業ではなく、体を張った力仕事だからこそ起こった変化である。利益率のいい新事業での積極的な働きにより、この利用者は一挙に法人で一番の工賃を稼ぐエリートに成長した。組織が動き続けることによって「適性にあった利用者の職種開拓」が実現できた成功例といえそうだ。

「のんぴーり...」という組織名からは想像もできないほど、常に動き続けている寺口所長。次にはどのような目標を掲げているのだろうか?「細かいことはまだ話せませんが、3〜4種類の事業アイデアは持っています。基本的にはなるべく事業所を分散して、それぞれの地域で、作業内容にあった利用者で構成していくという考え方です。定員10人規模の事業所が地域の中に点在して、それぞれ自分にあった職場を選べるようになることが理想的ですからね」

小さな組織の若き所長が打ち出すさまざまな事業アイデアは、同規模の他の事業所にとっても、きっと参考になるのではないだろうか。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。