社会福祉法人更生慈仁会(新潟県新潟市)

新規事業「エコモア」によって、ダイナミックに動き出した「青松ワークス」

更生慈仁会の概要

更生慈仁会は、「青松ワークス」(就労継続支援B型事業・移行支援事業)、「麦っ子ワークス」(就労継続支援B型事業・移行支援事業)、「すずまり」(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、「慈仁工房」(就労継続支援B型事業)等の障害者就労系事業所を運営する社会福祉法人である。この他にも、「十字園」(施設入所支援事業・生活介護事業)、「いずみ福祉園」(生活介護事業)、「テイクオフ」「さくら荘」「どれみふぁ荘」等のグループホームやケアホーム、さらには「愛慈保育園」「にいつ保育園」等の保育施設から、「はまゆう」等の老人福祉施設に至るまで、多様な福祉サービス事業を展開している。

法人の原点となる組織が生まれたのは、大正2年のことである。現在の敷地の隣にある新潟信愛病院(精神科)の退院患者を自立生活支援するために新潟精神病者慈仁会(任意団体)を設立。その後いくつかの組織変更を経て、昭和48年に「青松ワークス」の前身となる「青松学園」を開設したのをきっかけに、次々に事業所を立ち上げてきた。すぐ先に日本海の砂浜が広がる広大な土地に、中心となるほとんどの施設が建っている。その歴史や定員規模から見ても、新潟県を代表する大きな法人なのである。

「青松ワークス」の工賃アップのための一大プロジェクト

更生慈仁会の障害就労系事業所の中でも、最大の規模を誇るのが「青松ワークス」だろう。定員55名(現員65名)というこの施設では、昔から企業の下請けや、牛乳パック再生紙を使ったハガキ製作などの作業に取り組んできた。しかし月額平均工賃は、6,000円〜7,000円程度にしかすぎなかったという。

工賃アップのためのプロジェクトが組まれたのは、2008年度のことである。厚生労働省が2007年に発表した「工賃倍増5カ年計画」を受け、新潟県でも翌年より「新潟県障害者授産施設工賃倍増計画」が策定され、当時10,441円とされていた県内障害者就労系施設の平均工賃を21,000円にまでアップすることが目標として掲げられた。これを受けて、「青松ワークス」でも具体的な工賃アップのためのプロジェクトに取り組む必要性が生まれたのである。

さまざまな議論がおこなわれた中で、新しい事業は「リサイクル古紙を使ったトイレットペーパー」製作販売に決まった。(1)当時すでに、市販トイレットペーパーの仕入れ販売をおこなっていた実績があった、(2)製造用の機械さえ購入できれば工業製品に比べて製造が比較的容易である、(3)古紙(牛乳パック)リサイクル事業の延長として事業展開がしやすい、(4)消耗品であるために一度納入実績を作ると安定的な販売が見込める、等がこの事業に決めた理由である。

プロジェクトは、渡辺美智子課長を中心とした職員6名で結成。全職員総出でトイレットペーパーに関する市場調査をおこなった。チラシやインターネット販売、さらには事業所向けの商品の価格や品質を知るところからのスタートであった。当然、誰もがトイレットペーパーのことについて知識を持つ者などいない。この時初めて意識して詳しいことをゼロから勉強していったのである。

未来への発展を願って付けられたネーミング「エコモア

製品名は、「エコモア」に決定した。「リサイクル古紙を使ったトイレットペーパー」であることと、製品の製造販売を通じて利用者工賃の向上をめざす商品であることが、そのネーミングには込められている。使ってもらう顧客のトイレットペーパーフォルダーに、「このトイレットペーパーは、障害者施設青松ワークスで製作しています。障害者の社会参加に役立っています」等のシールを貼ってもらえば、施設全体のアピールをも兼ねることになる。

トイレットペーパーそのものの製造方法は、単純である。製紙会社から仕入れた小巻ログといわれる材料(約1.7メートルの長いトイレットペーパー)を、一つずつ切断して梱包するだけだ。現在では利益率向上のために、ワインダー設備を導入し、原紙から小巻ログをつくる体制に切り替えた。

渡辺和夫施設長(61歳)は、語っている。
「材料を切断するだけの作業でどれほどの利益が上がるか、最初は懐疑的だったのですが、やってみたら意外と儲かるので驚きました。もちろんこれは、職員たちの念密な市場調査と徹底した原価計算の賜です。利用者工賃の大幅アップという目標の下、全職員が一丸となってこのプロジェクトを進めていきました」

トイレットペーパーとはいえ、公共的な場に出回る製品である。いかにも福祉施設がつくった...といった簡易包装では、営業の段階で支障をきたしてしまうだろう。そこで製品の顔となる「青松ワークス」のロゴを、コンセプトから自分たちで作成。「エコ」「自然」「未来を感じる」「調和」問いイメージが、このマークには込められている。もちろん青松の頭文字「S」から作られたデザインだ。

生産コストを徹底的に検証。理詰めで営業活動できる体制を確立

当然のことながら、プロジェクトで一番大変だったのが製品をどこに売るかという営業活動だったと、渡辺課長は言う。

「計画の段階から、販売ターゲットは官公庁や学校関係に絞ることを決めていました。家庭向けの販売では量がしれていますし、量販店の製品と価格面で対抗できるわけがありませんからね。そこで定期的に納入してもらえる顧客先として、官公庁、学校、保育園、幼稚園、小・中学校、非営利団体、民間企業等を具体的にリストアップ。営業班が地道に訪問していったのです。価格的な優位性をウリにするのではなく、『環境に優しい製品』であることを強調できるように、事前に徹底したロールプレイングも繰り返しました」

安さを前面に出さないといいつつも、もちろん価格競争は避けて通れない。そこで徹底的な原価算出と、競合他社との単価比較、等の計算を繰り返した。年間でどれくらい定期発注していただける顧客であれば、いくらまで単価を下げることが可能なのか。あるいは単純に1個あたりのコスト比較でなく、メートルあたりの単価差はどうなっているのか。顧客先で想定される話は、すべて事前に説明できるようにしておく。

このようにして、初めての大型案件であった新潟大学への共同入札を筆頭に、次々と計画していた顧客に「エコモア」を販売することができた。とくに学校関係への納入実績は素晴らしく、現在では新潟市内の約70%の学校と取引できるようになっているという。

価格競争が激しいはずのトイレットペーパー市場において、100個入り5,900円の芯有り「エコモア」トイレットペーパーが、ここまで関係者に支持されている。これは商品のメリットをきちんと説明できるようにした営業力の見事な勝利だろう。2009年に1,100万円程度の売上で始まった「エコモア」事業は、2011年にはなんと2,430万円を超えるようになったのである。

国の制度も後押し。ますます期待できる今後の事業展開

工賃も、もちろん大幅にアップした。スタート時にはわずか6,424円であった平均月額工賃が、翌年には14,701円にまで上昇。2011年には、16,393円となっている。新潟県が設定した平均工賃目標21,000円にはまだ届かないものの、青松ワークスにおける「エコモア」事業に関わる利用者数は全体の約半分にすぎない点を考慮すると、十分に納得のいく数字である。もし単純に「エコモア」事業だけの利用者工賃を設定したとするならば、目標を大幅クリアする数値をはじき出せるに違いない。


顧客に送る注文票には、利用者からの手紙が添えられている。

「厚生労働省が2012年7月に発令した『国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律』も、私たちの事業活動の後押しになっています。新潟県でも既に同じような施策をおこなっていたのですが、今年で期限が切れて終了するところでした。国の通達によって、ますます官公庁や学校関係への営業活動がやりやすくなると思います」と、渡辺施設長。嬉しい反面、今後のことを考えると、不安がないわけではない。

「このプロジェクトに関しては、あまりに上手くいきすぎたというのが率直な感想ですね。事前の準備や研究に1年間じっくりかけましたが、スタートしてからは飛ぶ鳥をおとす勢いで売上も伸び続けています。毎月設定する売上計画も、これまで下回ったことがありませんからね。現場がどんどん強気の計画を立ててくるもので、私の方がむしろ計画を抑えるようにブレーキを掛けているくらいなのですよ(笑)

心配なことは、ただ一つ。原料の確保に尽きるのだという。トイレットペーパーに加工するための原紙を仕入れることができるのは、中小製紙会社からに限られる。大企業だと、取引するロットが桁違いだからである。しかし製紙業界というのは、1年先にはどんな変化が起こっているかまったく予想もつかない世界だ。現在の取引先が、そのまま存続しているという確証はない。そのためのリスクヘッジとして、先を見据えた新たな取引先確保にいまから動いているらしい。

それにしても、トイレットペーパーという地味な製品をここまで本格的に事業展開し、利用者工賃アップに結びつけた青松ワークスの取り組みは素晴らしいの一言だ。一見なんの変哲もない商品でも、販売ターゲットと販売方法をきちんと策定すれば、障害者就労系事業所ならではのメリットも加わって短期間でこれだけの成果を上げることができる。典型的な工賃倍増計画の好事例を、ここに見た気がした。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。