社会福祉法人北日野こもれび会(福井県越前市)

人生を輝かせる職場、感情を育む事業で高工賃を実現する「ぴーぷるファン」

北日野こもれび会の概要

北日野こもれび会は、障害福祉サービス事業所ぴーぷるファン(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)と共同生活ぴーぷるファン(一体型共同生活支援事業・共同生活介護事業)を運営する社会福祉法人である。

主な作業内容は、若越チェアーの座椅子部分の組立、各種ビニール加工、赤十字血液パック緩衝材制作等の受託作業から、エコバッグ、Tシャツプリント、縫製品、お弁当やお菓子等の自主製品販売、催事場における製品販売(衣類を中心とする仕入れ商品)、企業への施設外就労など、実にさまざまである。

認可法人となったのは平成19年と比較的新しいのだが、工賃倍増5カ年計画に真剣に取り組んだ結果、売上げも工賃も年々増加し続け、目標通りの数値を達成している。平成24年度の平均工賃は、なんと56,804円というハイレベルな数値だ。驚くべきは、就労継続B型が60,602円、就労移行が56,137円、生活介護が51,585円という詳細だろう。所属がどこであろうとも、できる限り同じ職場、同じ作業に参加してもらい、事業ごとの工賃格差をなくすように仕向けた結果である。生産型とはいえ生活介護事業で50,000円を超える平均工賃を実現している事例は、全国的にもきわめて珍しいのではないか。

利用者のモチベーションアップの秘訣は、たくさん遊ぶこと

ぴーぷるファンでは、なぜこのような数値を達成できているのだろう? 田辺義明施設長(56歳)は、そのポイントを「仕事と遊びのメリハリをつけること」だと説明する。これだけ生産性を追及した施設であるにもかかわらず、仕事をしない療育活動の日が何日も設定されているのである。土曜日(午前中のみ出勤日)は、社会福祉センターで料理教室かスポーツ練習としているし、月に1回はボーリング大会や小旅行がある。小旅行といっても、名古屋方面に大型バスを借り切って遠出し、ホテルでの豪華バイキングや劇団四季のミュージカルなどを楽しむ大きなイベントだ。年末には好例の文化祭&大忘年会が待っている。さらに数年に1回は、北海道や沖縄等への大型旅行が企画されているという。

スポーツ・文化活動にも非常に力を入れている。毎年実施される障害者スポーツ大会には、必ず選手を交代で派遣するようにしているのだ。平成24年度には男子リレーチームが福井県の障害者スポーツ大会で優勝し、全国大会ではフライングディスク部門で鷲坂忠和さんが優勝した。障害者技能競技大会、SELPスキルアップコンテスト(福井県社会就労センター協議会主催)等々の文化活動にも積極的に参加するよう心がけている。平成24年度の第6回SELPスキルアップコンテストでは、調理部門・私の主張発表部門・作業部門の三部門で優勝という快挙を成し遂げた。

「人生の中で喜んだり、笑ったり、悔しがったり、泣いたりする体験。これは利用者の感情を育む療育活動として、私たちは非常に大切なことだと考えています。暮らしの中で喜怒哀楽があるから、人は誰でも生きる意欲が増していくわけでしょう? 仕事は大変でも、その後に楽しい旅行が待っているとわかっていれば頑張れるし、大会に出て優勝したら自信が持てるようになる。全国大会でまったく歯が立たず、悔し涙を流して帰ってくるのも貴重な経験です。こうした経験の積み重ねが、仕事に向かう意欲を高めてくれるのです」と、田辺施設長。

このような療育活動を通じて利用者たちの感情が育成されていくと、どんな重い障害を持つ人でも日々の表情に変化が現れてくるという。自信なさげに下ばかり向いていたおとなしい男性が、別人のように輝いた表情をするようになる。常習的なリストカットのため腕が傷だらけだった女性も、職場に順応していくといつの間にか自傷することはなくなっていく。自信さえ持てれば、働く意欲もどんどん湧いてくるものである。ぴーぷるファンという施設の最大の特色は、利用者たちの労働意欲が格段に高いところだと言えるかもしれない。

つねにクリエイティブな姿勢で仕事づくりに望む

もちろん彼らのやる気がいくら高くても、肝心の仕事がなくては始まらない。職員たちの日々の営業努力が必要なのは言うまでもないことだ。田辺施設長は工賃倍増・向上計画を作成するにあたり、毎年分野ごとの営業計画を詳細に作成し、それぞれの担当に厳しいノルマを課してきた。全体売上の過半数は、福井県内にある合成樹脂製品の総合メーカーである酒井化学やそのグループ企業からの委託生産なのだが、仕事を待っているだけでは売上が急激に伸びるはずもない。取引企業にとって、もっと自分たちを使うことのメリットを提案できないか。仕事を納めに行くたびに相手先の工場を詳細に観察することを欠かさないという。

「稼働していない機械を一つでも見つけようものなら、チャンス到来。機械ごとウチに預からせてもらうように積極的に交渉しますね。一時期でも稼働してない機械というのは、企業にとってはやっかいな存在のはずでしょ。そこで機械を預からせてもらい、アウトソーシングによるコストの削減を提案するわけです。機械さえ預かってしまえば、こっちのもの。その仕事は決してなくなることはありません(笑)。もちろん一年中続く仕事じゃないけど、それは承知の上。この種の仕事を、いくつも重ね合わせていけばいいのですよ」

田辺施設長の仕事に対するこうしたクリエイティブな考え方が、ぴーぷるファンの事業成績をこれまで着実に成長させてきた。たとえ委託仕事であろうとも、完全な受け身体制である必要はない。つねに攻撃的な姿勢で自らにできる作業を提案し、仕事を増やしていくのである。

たとえば、全国の赤十字社で使われているという「血液パック保護材」。輸血パックを輸送する時の緩衝剤としてこれまでは細かい発砲スチロールが使われてきたが、使用後の廃棄処理が面倒だという話を聞きつけた。そこで担当の長谷川浩一主任は発砲ポリエチレンシートを切断して袋状にし、段ボールにセットするだけで使える緩衝剤を開発し、提案してみた。ビニールを加工するという技術は、自分たちが得意とするものだからである。これが顧客に大好評で、現在では日本中の献血現場で使われるようになったという。

ペイント会社のインク丸缶を一時保存するための簡易キャップも、長谷川主任が顧客ニーズを探り出す中から自ら開発した商品である。ビニールを丸く切ってヒモを付け、シャワーキャップのようにインクの丸缶にかぶせるだけの単純な製品なのだが、使い捨てできるところが現場では大好評。一個あたり30円という高単価で受託できている。もしこれが単純な下請け作業だとすれば、工賃は多分5円程度にしかならないはずである。開発したのがぴーぷるファンだからこそ、付加価値ある製品としての金額を提示できるというわけだ。

若越チェアーの座椅子部分の組立にしても、木枠制作だけなら100円のところを、木枠に付けるビニールシートの縫製や緩衝材の制作で100円、全体の取り付けで100円と、作業工程を一つでも増やすことで単価を上げる努力をおこなってきた。言われたままなら一つの工程をこなすだけの内職仕事で終わってしまうが、あれもできる、これもできると他の工程を意欲的に取り込んできた結果だろう。こうした非常に地道な活動の繰り返しが委託作業の受注金額を増加させ、利用者の工賃をアップさせているのである。

重視するイベント販売事業と、自主製品事業の拡大

受託作業以外にぴーぷるファンが力を入れているのが、イベント販売事業だ。鯖江つつじ祭り、たけふ菊人形祭りなど、近隣を中心として年間で50日余りのイベント出店が予定されている。ここで販売するのは施設内で作られた縫製品だけでなく、お年寄りを主なメインターゲットとした衣類の数々だ。大勢のお客さんで溢れる祭り会場の好位置にテントを張り、ニーズに沿った衣類を問屋から仕入れて販売するという活動である。

地方ではどこでも、商店街の衰退が悩みのタネとなっている。ぴーぷるファンの地元、武生(現越前市)でも例外ではない。街の洋品店が年々少なくなり、郊外の大型ショッピングセンターで販売しているのは若者たちのお洒落な服ばかり。お年寄りたちは自分好みの服を買う場がほとんどなくなってしまったのだ。そんな中、このイベント出店は「買い物困難者に対する移動販売」としての位置づけも呈してきた。

販売要員の中心は利用者と保護者に交代で担ってもらうが、出張販売は特別工賃が加算されるシステムになっているため、たとえ土・日の出勤になってもみんな喜んで参加してくれる。イベント期間中、田辺施設長は彼らと共に毎日欠かさずテントに詰めているらしい。

「地域貢献の意味あいも強いので、お客さんたちと話すのが私の大切な仕事なのですよ。福祉相談にのることもありますし、『ぴーぷるファン』ではこんな仕事もできるから記念品等の発注をよろしく、という営業活動もしなくてはいけません。イベントで知り合ったお客さんから、これまでにたくさんの大型発注をいただいてきました。たけふ菊人形祭りになると37日間連続開催ですから大変ですが、もちろん1日も欠かさずテントに常駐しています。まあ、外で人と話すのが好きだというのもあるでしょうね(笑)

ここ数年では、自主製品事業の大幅な拡大も目指している。とくに力を入れているのは食品事業で、弁当の製造販売は1日500食が対応できるような機械設備も導入した。県庁・市役所・各種イベントでの販売によって、年間600万円を売り上げる計画である。パン・菓子製造のテコ入れも順調のようだ。今年からはオリジナル形状のサンドイッチ(二つ折りにした食パンに、カツやハム等を挟んだだけの大量生産可能な総菜パン)で、大々的に打って出る予定だという。

どんな重度障害の利用者にも、最低30,000円の工賃を

ぴーぷるファンの現場を見ていくと、生活介護・就労移行・就労継続B型といった異なる事業サービスの利用者が同じ職場内に混在していることに驚かされる。障害の重い人も軽い人も、一つの作業チームの中でその人に適した役割を持たされ、仕事に対して積極的に参加しているのである。それゆえに工賃の格差は事業サービスごとには基本的につけないようにしているとのこと。どんなに重い障害の人でも「最低30,000円の工賃」を保障するというのが、この施設のモットーなのだ。田辺施設長は言う。

「私たちはもともと無認可作業所(その後NPO法人)からスタートしました。当初は、設備も建物もなにもない。自宅の家庭用ミシンを持ち出して細々と縫製作業をやっていたのです。そんな時でも、30,000円くらいの工賃は支払っていました。ですから工賃倍増計画に従って、5年で現在の数値に押し上げたわけです。私たちのこれからの目標は、70,000円の平均工賃ですね。さらなる作業の見直しや、積極的な営業活動、そして利用者のモチベーションが高く持てるような支援をしていけば、自ずと結果はついてくると思います。」

取材中、ある印象的なシーンに出会うことができた。ちょうど翌日から鯖江つつじ祭りが始まるために、大量の商品を車に積み込まなければならないところだった。そこで次のような館内放送が流れたのである。「ただ今、休憩時間中ですが、手が空いている人は全員、ロビーに行って荷物の運び込みを手伝ってください...」。この放送を聞いて、休憩していた利用者たちが続々集まってきた。皆、当たり前のように自主的に荷物運びを手伝っていく。明日から始まるお祭りで大量の商品が売れることを期待するように、商品を運ぶ彼らの顔は喜びに満ちている。

田辺施設長が何度も話してくれた「ヤル気」とは、このことなのだと思った。全国的に見ても非常に高い平均工賃実績を残している「ぴーぷるファン」。しかしその事業の詳細を見てみると、驚くほど特別なことをおこなっているわけでは決してない。パワフルな施設長の下、共通の目標を持ってやるべきことを着実にこなし、参加者一人ひとりのモチベーションを丹念に育てていく。特徴としては、それだけのことだ。しかし全員の「ヤル気」が高まるだけで、地方の比較的小規模の施設でもこれだけ高い工賃を支払うことができることを、「ぴーぷるファン」の取り組みは見事に証明しているのである。

(写真・文/戸原一男)

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社会福祉法人北日野こもれび会 ぴーぷるファン(福井県越前市)
http://www.p-fun.jp

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