社会福祉法人南陽園(石川県加賀市)

利用者ニーズに応じて、高工賃を実現するためのさまざまな事業展開を模索

南陽園の概要

南陽園は、「夢ファクトリーえん」(就労移行・就労継続支援A型・就労継続支援B型)「ホワイト社」(就労継続支援A型)、「夢うさぎ」(生活介護・就労継続支援B型・放課後デイ他)、「トムソーヤ(兎夢創家)」(就労移行・就労継続支援A型・就労継続支援B型)、「ゴッツォーネ」(就労継続支援A型)等の障がい者就労事業を展開する社会福祉法人である。

この他にも、「夢ようよう」(施設入所・生活介護、短期入所他)、「ほっとやすらぎ」(施設入所・生活介護・短期入所)、「セルプなんなん」(就労継続支援B型)、「風のガーデンむうみん」(施設入所・生活介護・就労継続支援B型・短期入所)、「レイクサイド楽」(生活介護・機能訓練・居宅他)などの障がい者介護支援事業もおこなっている。

その設立は、昭和50年8月に遡る。石川県初の重度身体障害者授産施設として、当時としては最先端の設備を導入したクリーニング事業をスタートさせたのが始まりであった。法人の基本理念は、「夢・楽・安」。つまり、夢があって楽しく安心した生活をめざしていくこと。ひとり一人が主人公として、笑顔のこもったサービスを提供するのがモットーだ。「つねにお客様・会員様(利用者)の立場に立ち、あなたもわたしも買いたくなる製品づくり、利用したくなるサービスの提供をいたします(法人パンフレットより)」をめざしている。

南陽園の外観

本格的なクリーニング事業をはじめた理由

南陽園の近くには、北陸「加賀温泉街」の一つとして名高い片山津温泉がある。明治・大正・昭和と時代を超えて全国から集まった湯治客で賑わった温泉街には、数多くの巨大な温泉ホテルが建ち並んでいた。ピーク時には150万人の人びとで町に観光客が溢れていたという。こうした地の利を活かし、南陽園ではホテルに提供するリネンサプライ(クリーニングした浴衣・シーツ・タオル等をレンタルする事業)をスタートさせたのだった。表琴子副園長は、クリーニング事業を選んだ理由について次のように説明する。

「この仕事を選んだのは、やはり高い工賃が期待できるということが大きいです。当時はバブル絶頂期。全国から団体客が訪れてきて、片山津温泉の景気も最高潮でしたから。それに会員様(利用者)たちが、いくら忙しくてもいいから高い工賃を稼げることを希望されていたのです。時代と地の利から考えて、リネンサプライが一番効率的な事業展開だと考えたのです」

設立から約40年経った現在でも、こうした基本方針は変わらない。大規模な機械を導入した工場で、国際基準に則った品質管理システムISO9001-2000取得)により、安心して利用してもらえるクリーニング工場として多くの顧客からの信頼を勝ち取っているのだ。

  • クリーニング作業風景
  • 大型クリーニング機器

「創業時と違い、片山津温泉の景気が落ち込んでしまったので、現在では老人施設、介護施設、保育施設、葬儀場等を中心とした営業活動をおこなっています。約150事業所とお付き合いさせていただき、年間売上は約3億5千万円。この業界は本当に価格競争が激しいのですが、私たちのモットーは丁寧な仕事をおこなうことにつきます。それがこれまでずっとクリーニング事業を続けてこられた理由だと思います」

と、表琴子副園長。働く障がい者への月額平均工賃も、92,928円(A型事業所)、42,108円(B型事業所)と石川県のトップクラスを維持し続けている。「夢ファクトリーえん」という施設名には、まさに「あなたの頑張り次第で、高工賃をゲットする」という目標がストレートに表現されている。「できる限りパート従業員などのサポートスタッフを現場に入れないで、会員様だけで完結できる工場をめざす」というのが表修司理事長の考え方。その根底には、事業で稼いだ利益は一人でも多くの障がい者に配分したいという確固たる理念がある。

新しい時代に即した食品事業もスタート

南陽園では、2004年から「夢うさぎ」の事業としてベーカリーカフェ「パンドーネ」をオープンさせている。これまでのクリーニング事業とは一線を画した、食品事業への参入である。セルプなんなんの永井浩信事業責任者は、そのねらいを次のように語る。

「重度の障がいをもつ人たちに対する新しい就労支援事業を立ち上げることになったので、これまでとは違うアプローチをしたかったのです。それが、自分たちでつくった製品を地域の人たちに販売するという製パン事業。製造行程が細分化できるので、既存の施設では就労に適さないような障がい者も受け入ることができるようになりました。クリーニング事業そのものが非常に厳しい状況にあったのも、異分野である食品事業を始めた理由の一つですね」

「パンドーネ」のパンの特徴は、小麦の味が存分に味わえるストレート製法。冷凍生地などは一切使わず、一つずつ手で丁寧にこねていく。さまざまなメニューがある中で、しっとりとした食パンや、ビックサイズのメロンパンが一番の人気商品だ。

  • ベーカリーカフェ「パンドーネ」作業場
  • パンドーネ レジ

「おかげさまでお客様からはとても美味しいパンだと好評をいただいています。店舗だけでなく、保育園やホテル、老人施設にも定期的に納品させてもらえるようになりました。近隣のイベントにも積極的に参加して、生クリームが入った冷凍メロンパンや加賀もんポケットバーガーなどのオリジナル商品を販売しているのですよ」(嶽野賢一・パンドーネ責任者)

「パンドーネ」は、片山津インターから5分、片山津温泉の入り口にある。近くには柴山潟、湖畔公園、雪の科学館などの観光地が連立する好立地だ。こだわり素材で毎日焼きたてのパンを提供する店として、地元の人たちからの話題を集めるようになっている。取材中に店舗に訪れた常連客の一人は、「毎週、病院通いの帰りに必ず立ち寄っています。孫が必ずパンドーネのパンを買ってこいとせがむのです(笑)」と語り、その日もまたたくさんのパンを購入していった。

近未来のレストラン像を先取りした「ゴッツォーネ」

パン事業に続いて南陽園が進めた食品事業が、2011年6月にオープンした「しあわせ食彩ゴッツォーネ」だ。重度の障がい者にもクリーニング以外の事業で働く場を用意した「パンドーネ」と違い、今度はA型事業所としての高い工賃をめざした本格的なレストランである。国道305号線沿線にあり、近くにはココスや牛角など有名なチェーン店が建ち並ぶ飲食店の激戦区。そこに100席の大きな空間を誇る豪華なレストランが誕生した。

「他店とは、値段で争ったらとても太刀打ちできません。そのため、バイキング形式で自由に好きなモノを食べてもらい、ゆったりした空間でじっくり時間を使ってもらうような店づくりを目指しました。ごらんの通り、メイン料理からスイーツに至るまで、料理の数はたっぷり用意しています。平日ランチがメインですが、金・土・日・祝日のディナーにも、常連のお客様が通ってくれるようになりました」と、平川幹也サービス管理責任者。

  • 無農薬植物工場「菜っ葉ちゃん」
  • しあわせ食彩ゴッツォーネ店内風景

このレストランの最大の特色は、光と水で育てる無農薬植物工場「菜っ葉ちゃん」を併設しているところだろう。店舗に入ると、ガラス越しにレタスなど数種類の青葉を育てている様子を見ることができる。レストランで使う青葉のすべては植物工場で収穫された野菜であるため、まさに「店内店消」の実現だ。新鮮かつ、安心安全。近未来型のレストランの先取りと言えるかもしれない。

平日ランチは、一人1,800円。パスタかピザか肉料理の中からメイン料理を一品選び、前菜・スープ・サラダバー・ドリンク・ドルチェは自由に取り放題となっている。目の前で調理する天ぷらや串カツ、小松うどんなどのライブカウンターもある。バイキングメニューは数十種に及び、とてもすべてを食べきれないほどの圧倒的なラインアップである。

「日本庭園が眺められる和室もあるので、ちょっとした会合などに最適だと好評をいただいています。今後の課題は、結婚式の会場として使ってもらうことですね。二次会での利用は増えていますが、結婚式そのものはまだ未体験。でも、100名程度は収納可能ですし、写真やビデオを投影できるプロジェクターも完備しています。レストランウエディングが流行っている現在、有望なターゲットだと考えているのです」(平川さん)

  • 日本庭園が眺められる和室
  • レストランで使う青葉は自家野菜工場で栽培

ビッグ旅行で、コツコツ働く人たちを表彰

南陽園のもうひとつの名物は、利用者たちの中から出勤率が高い人たちを選考して毎年実施される「ビッグ旅行」であるという。一人ひとりが能力を付けて高い工賃をめざすことはとても重要だが、彼らにとって働く目的がお金だけではないのもまた事実。決して生産能力は高くなくても、一生懸命コツコツと休むことなく真面目に働いている人を評価してあげたい。そう考えた表修司理事長が、1年間で出勤率がもっとも高かった人たち数名を選考して大型旅行に連れていくことにしているのである。

「選考の対象となるのは、出勤率のみ。休まずに働きに来てくれた人を表彰する取り組みです。旅行先は、アメリカ、シンガポール、ヨーロッパ、ハワイ等の海外だけでなく、沖縄、福岡などの国内など多種多様。1グループ6〜10人程度となっています。発表は年1回、全体集会で大々的に実施されます。その時にみんなの前で名前を呼ばれた人は、『やったー!』と多いに盛り上がってくれますよ(笑)

と、表琴子副園長。もちろん同じ人が毎年選考されることがないように、1回選考されたら5年間は対象からはずれる等の配慮はなされている。しかし能力や成果以外に、休まずにコツコツと頑張ったことを評価する南陽園のこの取り組みは、とてもユニークなものと言えるだろう。高工賃の実現を掲げるだけでなく、「自分らしく生きたい」という障がい者の思いに、できる限り寄り添っていく。南陽園がめざしているのは、そんな多用な福祉サービスの実現である。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。