社会福祉法人大幸福祉会(愛知県名古屋市)

事業拡大と福祉サービスの二つのテーマに挑戦する「ユニオンワークス」

社会福祉法人・大幸福祉会の概要

大幸福祉会は、みかづき保育園(産休明け・縦割り・長時間・障害児保育)、幸楽荘(特別養護老人ホーム)、第二幸楽荘(地域密着型特別養護老人ホーム)、福田ハウス(知的障害者共同生活援助及び介護事業所)、ユニオンワークス(就労移行事業・就労継続支援事業B型・生活介護事業)を運営する社会福祉法人である。

障害者多機能事業所としてのユニオンワークスの主な対象者は、知的障害者だ。事業所の運営ポリシーとして一番に大切にしているのが「利用者利益の確保」だという。「利益」とは金銭的な利益(工賃)のことを指しているのはもちろんだが、決してそれだけではない。施設利用者をお客さんと捉え、彼らに「選んでもらえる施設」として、各種福祉サービスにも力を注いでいる。現代では当たり前になりつつあるこうした考え方を古くから取り入れてきた。社会福祉制度が急激に変化する中、時代に即した障害者支援サービスを模索する先進的な施設だと言える。

愛知県初のオシャレな洋菓子工場としてスタート

ユニオンワークスが設立されたのは、1986年のことだ。現在でこそ製菓を主な作業品目とする障害者施設は多いが、当時はまだ全国的にも珍しい存在で、少なくとも愛知県内では初めての試みだった。食べ物を作ることは、利用者のみならず職員たちにとっても楽しいことである。見た目に清潔だし、いい匂いが常に漂ってきて、気分も明るくなってくる。楽しい仕事をしながら自立をめざすという方針の下、三角屋根のオシャレな洋菓子工場としてスタートした。

建物は立派なものができても、実は製菓の専門家がスタッフにいたわけではない。県内・県外の洋菓子店に出向き、教えを乞うために奔走した。そこで出会ったのが、神戸市内の洋菓子店で職人相手に洋菓子作りの指導をしていた中島隆夫氏であった。氏は「同じ同業者には教えられないが、障害者のためになるのであれば」と快く引き受け、神戸から名古屋の施設まで足を運んで、ゼロからクッキー作りの指導をしてくれた。これが現在のユニオンワークス「メロディクッキー」の基本的な味になっているのだという。

「メロディクッキー」は、フラワー・サブレ・アーモンド・レモン・アメリカン・オレンジ・コーヒー・ココナッツ・名古屋コーチン卵の9種類がある。どれもシンプルながら、甘さ控えめの飽きがこない味わいが特色であり、優しい味にファンも多い。「真心絶品」を選択する上での「スイーツ選考会議」でも、うるさ型の専門家たちに「突出した味ではないが、安定した美味しさ」と評された。20年間頑固なまでにずっと同じ商品群を作り続けている歴史が、このような評価につながっているに違いない。

徹底した事業化戦略を元に成長を続けるユニオンワークス

そんな安定した商品とは裏腹に、ユニオンワークスの事業内容そのものはここ数年で急激に変化を遂げてきた。その変化を施設にもたらしたのは、現在の施設長・奥村嘉章氏(38歳)である。学生時代に広告代理店や食品会社を起業し、すでに学生実業家として活躍していた奥村氏にとって、当時のユニオンワークスの雰囲気はあまりに自分が経営する会社のそれとは違っていた。職員が十数名いるのに年間売上はわずか一千万円程度だし、定時がくるとまるで公務員のようにきちっと退社してしまう。

「本当はすぐにでも変えたかったのですが、福祉の世界は急激な変化に弱いという特色があります。一気に改革すると反発があるので、ゆっくりの改革ですね」と奥村氏。

青年実業家である奥村氏の分析は、冷静だった。売上1,000万を2,000万円に上げるための改革は、そんなに難しいものではない。年20%アップの目標を立てれば、四年で達成できる。そのために必要なのは、ちょっとした仕事をする上での工夫、つまりアイデアのみだ。しかし2,000万円から4,000万円に上げるためには、設備と人の補充が必要になる。そしてさらに8,000万円以上にするためには、売上拡大のためのシステムの構築が必要だ。

彼の冷静な分析の元でユニオンワークスの事業は再構築され、年々成長を続けてきた。クッキーの販売先も、これまでの福祉バザー一辺倒から名古屋水族館、名古屋城内お土産コーナー、近隣病院、スーパーなどへの委託販売を増やし、パチンコ店への出玉景品なども積極的に提案するようにしている。パチンコ店への営業は近隣店舗だけでなく、青森から京都に至るまでのほぼ全国チェーンに数千枚のDMを発送して、1,500万円の売上を確保するといった実績も作り上げた。

現在の年間売上は、8,500万円にまで上昇した。このレベルの売上を確保するためには、施設内の設備でおこなうクッキー製造事業だけでは到達しない。ユニオンワークスでは、各種ノベルティの開発(クッキーだけでなく、特殊ボールペンの製造等、顧客ニーズに応じたあらゆる製品の企画開発が可能だ)や菓子袋詰めなどの下請け作業等を新たな事業として取り組んでいる。逆に設立当初は事業の一つの柱としていたパンの製造は、食品部門をクッキーに特化するため思い切って廃止した。事業安定のためには、現在何が必要で何が不必要かを冷静に見極める判断力こそが、奥村氏の最大の武器である。

他施設製品の販売代行もスタート。新たな収入源に。

ユニオンワークスでは、2007年からイオンなどの大手スーパー・イベントスペースに於いて、県内の他施設製品を委託販売するという新たな事業をスタートさせている。これまでは行政や社会福祉協議会から「福祉バザー」という形で用意されたイベントに、参加施設がそれぞれ職員を派遣して製品を販売するスタイルが主流であった。しかし数十施設から派遣される職員数は膨大であり、その人件費を換算すればどう考えても赤字運営のイベントに過ぎないのではないか? 昔からそんな疑問を抱いてきた奥村氏は、自らイオングループのイベントスペースを無償提供してもらう営業活動を実現させたことをきっかけにして、他施設製品の販売代行を手掛けることになった。

具体的には、希望する施設の製品を預かり、30%の手数料で販売を代行するというシステムである。施設側にしてみれば、製品を送るだけでまったく人出をかけなくてすむというメリットがある。もっとも自らバザーに出店するばかりで、製品を他者に委託販売する(=販売手数料を支払う)という経験が少ない福祉施設にとっては、30%の手数料という数字自体が相当なハードルであったらしい。事業開始時はなかなか製品も集まらず苦労したというが、奥村氏の考えに理解を示す施設の製品を中心にして販売会を実施していったところ、回を重ねるに従って相当な売上げ実績を作り出してきた。「そんなに売れるなら自分の施設の製品もお願いしたい」ということで、だんだん参加施設も増えてきたのが実情らしい。現在では55施設が、ユニオンワークスのこの販売委託事業にエントリーしている。

この販売代行事業の年間売上は、3,500万円である。粗利30%として、一人分の人件費とアルバイト代を含めても十分ペイする計算だ。既存のバザー運営と決定的に違うのは、徹底した経費管理である。福祉バザーといえども、過剰に人員を配置することはしないのがモットーだ。この事業を担当するのは、奥村氏が直々にスカウトしてきたという催事部担当・吉田朋弘氏(35歳)である。一年間の出張販売に関して、会場確保のための営業から、集客のためのイベント企画、搬入搬出や会場のアルバイト手配に至るまで基本的に一人で全てを取り仕切っている。

「一年間で250日、ほとんど毎日どこかの会場で運営しているバザーを管理しています。ほとんど手配師のイメージですね。もともとユニオンワークスに包材を販売する業者として関わっていたのですが、施設長の人柄やユニオンワークスの事業内容に惹かれてお世話になることにしました。私自身は福祉のことはまったくわかりませんが、製品を販売する場を作ることが利用者のためになるのだと割り切っています。なかなかモノが売れない難しい時代ですが、やり甲斐のある仕事なので毎日楽しんでいますよ」

事業の拡大と福祉サービスの両立をめざす。

このように奥村施設長は事業に関しては徹底したビジネスライクな考え方を貫いているのだが、一方で現場の福祉サービスにも十分配慮している。「高い工賃(月平均20,000円)、スタッフの質と専門性、給食や送迎などの細かいサービス、決して赤字にしない安定経営等々が、ユニオンワークスを運営する上での私の基本的考えです」。


クリスマス会にボランティア参加してくださったジャスコ名古屋みなと店の皆さん。

だからこそ、仕事以外のレクリエーション活動を頻繁におこなっているのだ。毎月二回常に違う行事を用意し、利用者に参加したいイベントを選択してもらうようにしている。ユニオンまつり、ソフトボール大会、電気の科学館見学、プール、ボーリング、一泊旅行、手品ショー、クリスマス会、もちつき、カラオケボックス、映画鑑賞、お買い物、お菓子作り、と一年間続くそのプログラムを見ていると、とても事業に力を入れる施設の行動予定とは思えない。事業生産性をあげるという観点からは矛盾するようなこうした福祉サービスに力を入れるのは、あくまで利用者主体のサービス事業所をめざしているからなのだ。奥村施設長は語っている。

「高い工賃をめざすために、もちろん売上の拡大をつねに頭に入れていますが、利益率のいい仕事を選んで取り入れているつもりです。やみくもに数字だけを追いかける経営者にはなりたくありませんから。だからユニオンワークスでは、仮に製造能力に余力はあっても、OEM(相手先ブランド生産)PB(自主企画商品)製造には決して手を出しません。むしろ大量生産の仕事は、企業への外注で対応します。利用者あってのユニオンワークスですし、彼らが毎日喜んで働きに通ってくれる環境づくりこそが私たちの大切な仕事ですから」

めざすのは、高い工賃だけでなく、プラスαの価値である。このように事業の拡大と福祉サービスの充実という相反する二つのテーマを常に追いかけながら、ユニオンワークスでは障害者施設の理想的なあり方を模索しているのである。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。