社会福祉法人草笛の会(静岡県菊川市)

静岡産の食材を使って地元密着型の新製品を作り出す「草笛共同作業所」

草笛の会の概要

草笛の会は、「草笛共同作業所」(就労継続支援B型事業)を運営する社会福祉法人である。「草笛共同作業所」を本場として、「だいどう作業場」「はまおか作業場」「つばき作業場」(すべて就労継続支援B型事業)等、三つの分場を運営する。

この他、花の店ギャラリー「ピッコロ」や県内授産製品の販売店「ハーモニー」(店員派遣)、「ほっと」(利用者向け朝食提供食堂)、「ウェルくさぶえ」(生活介護事業)、「かすが」(生活介護事業)、「菊川寮」(生活介護事業・施設入所支援事業)、「おおぶちの家」「さくらの家」等のグループホーム・ケアホーム15棟や、「アフターケアセンターくさぶえ」(居宅介護・行動支援事業)、「心身障がい児学童保育サポートふれんずつばさ」(心身障害児放課後対策事業)など多角的な事業を展開している。

作業品目としては、「草笛共同作業所」(本場)がパン製造・葛布・手芸品・印刷、「だいどう作業場」が駿河シャモ飼育・花苗・ミカン栽培、「はまおか作業場」「つばき作業場」が企業の下請け受託等である。

法人が位置するのは静岡県の中部、浜松と静岡の中間点に位置する東遠地区である。市町村合併でまとまる前は、小さな市・町が集まる地域であり、財政的にも恵まれていなかった。そのため福祉行政も一市単独で実施するというよりは東遠地区全体として考える広域行政の考え方が根付いていたという。

その結果、菊川市でスタートした「草笛共同作業所」の分場スタイルで、「身近なところに作業所を」のキャッチフレーズのもと、次々と各地域に作業所が生まれていったわけである。

早くから地域生活支援の取り組みを行っていたのも、草笛の会の特徴だ。知的障害者入所施設として「菊川寮」「春日寮」の二つを運営していたのだが、2005年に「春日寮」を廃止し(通所更生施設に種別変更)、グループホーム・ケアホームに分散して「地域から独力で通える生活の場」を作りだした。15棟もグループホーム・ケアホームがあるのは、そのためである。地域の中に働く場と、生活の場をつくるという信念にそって着実に運営してきた法人であると言える。

草笛パンは、地元ホテルの朝食にも採用される人気商品

「草笛共同作業所」の事業の中心は、パンの製造販売である。吟味した材料で作った焼きたてパンのメニューは、「食パン」「もちっと食パン」「デニッシュパン」「フランスパン」「おさつフランス」「ライ麦パン」「全粒粉パン」「調理パン」等、なんと50種類にも及ぶ。これらの商品を日替わりで焼き上げ、地域の企業や学校や施設の昼休みに販売しに行くのである。販売先は毎日異なっており、一週間のスケジュールはびっしり埋まっているという。

この他にも地元大手ドラッグストアへの委託販売もスタートし、売上は順調に伸びている。東京・銀座ファンケルスクエア内にあるオーガニックキッチン「ぎんざ泥武士」には独自レシピのハンバーガーパテを、掛川グランドホテルには結婚式の時のパンを提供するなど、「草笛共同作業所」の製パン技術はプロをもうならすレベルにある。

事実、ホテルたいほうイン掛川に毎日提供している朝食パンは、宿泊者に大人気であり、ネットの書き込みで「このホテルの朝食パンは、とても美味しいです」との声が寄せられているほどらしい。最近のビジネスホテルは、朝食サービスに非常に力を入れている。宿泊客がホテルを選ぶ大きな理由の一つに、朝食の美味しさを挙げているからだ。そんな厳しい顧客から「美味しい」と支持されるというのだから、草笛パンの美味しさが想像できるというものだ。

この他季節商品として、「クグロフ」「シュトーレン」「パネトーネ」等のクリスマス用ケーキ(リッチなパンという位置づけ)というアイテムもある。それぞれイタリア、ドイツ、オーストリアでクリスマスに食べられる伝統菓子だが、この中ではとくに「シュトーレン」が日本でも人気の商品だ。「草笛共同作業所」でも地元を中心にして販売したところ、昨年度は11月からクリスマスまでの2ヶ月だけで400本の受注があった。

最近「真心絶品」にも認定されたこの商品は、伝統的なドイツ菓子のいわゆる「シュトーレン」と違ってしっとりして食べやすい。一年間かけて洋酒に漬け込むドライフルーツとナッツの味が自慢であり、小袋に入れた粉糖が付いていて、食べる時にかけられるようにしているのも気が利いている。スイーツにはうるさい真心絶品認定委員の面々をもうならせた商品だけに、地域限定から今後は全国に向けた販売展開が期待されている。

「シュトーレンの販売は、短期決戦。年末の2ヶ月が勝負です。基本的には予約販売なのですが、昨年はギリギリまで注文を受けてしまって、大変な目に遭いました(笑)。一度食べてもらえると美味しさがわかると思うので、是非これからはもっとたくさんの方に知ってもらえるように頑張って販売していきたいと思います」(大塚信乃施設長補佐)

竹粉を加えたオリジナル健康食パン「竹小町」

また「草笛共同作業所」のパンの特色として、オリジナル健康食パン「竹小町」の存在を忘れるわけにはいかない。なんと小麦粉に竹の粉を混ぜ込んで焼いたという、オリジナル健康食品なのだ。

静岡県ではタケ資源の有効活用をめざした「竹利用サミット」が、毎年開催されている。産学の総力を挙げて、県内に豊富にある放竹林の有効利用を図るために、竹を使った新しい製品の研究発表会をおこなっているのである。「草共同作業所」でもこの大会の第3回と第4回の会場を請け負うなど、運営には主体的に関わってきた。

昔の人が竹の筒に水を入れて長旅に出かけたことからも分かる通り、竹には独自の抗菌性物質や異臭を分解する成分が含まれている。そんな特徴を最大限に活かすために開発されたのが、竹の断面の繊維を高速切断することにより、超微粒子にして粉砕するという最新技術だ。竹独特の針状繊維の除去が難しく、これまで全国的に何度も試みられてきた竹の食用粉末化だが、静岡県の「竹利用サミット」メンバーたちの研究によって、ようやく実現にこぎ着けた。この粉を使って、園芸材料や飼育肥料やワインなどの新しい「竹食品」が次々開発されている。

竹食パン「竹小町」は、こうした中で「草笛共同作業所」独自のアイデアを加えて発想されたオリジナル商品だ。食用の竹粉を、小麦粉に混ぜて焼き上げるのである。竹粉というのは食材として無害であることはもちろん、健康食品としての効能も持っている。食物繊維の含有比率が90%以上であり、腸内を綺麗にして消化不良・便秘の解消につながることが、静岡県立大学食品栄養学部・横越秀彦教授によって証明されているのだ。

「草笛共同作業所」が開発したのは、竹の粉を練り込んだ食パン「竹小町」(1斤270円)と、竹炭粉末を練り込んだ「竹炭ソフトフランス」(1本210円)の2種類である。どちらも若干癖がある商品だが、健康ブームに乗ってメディアで紹介されると、地元でブレーク。それまでは福祉関係者しか訪れないような福祉ショップ「ハーモニー」に、どっと人が押し寄せた。週に一度しか店頭に並ばない限定商品(焼くのはそれぞれ週一回のみ)であることも希少価値を高め、リピーターとなった固定ファンが必ず購入していく人気商品となっているのだという。

「草笛パンの美味しさの秘密は、実はみな『竹』が絡んでいるんですよ」と語るのは、三谷末光理事長(66歳)だ。「すべてのパンの卵は、孟宗ヨーグルトと呼ばれる竹粉飼料を食べさせて育った鶏が産んだモノを使っているのです。つまり、ある意味、草笛パンはすべて『竹パン』と呼んでもいいのかもしれません(笑)

地元で売り出し中の「駿河シャモ」を新商品に

パンをメイン事業とする「草笛共同作業所」に対し、これまで花苗やミカン栽培等の農園事業を作業科目としてきた「だいどう作業場」が新しく始めた事業が養鶏だ。静岡県中小家畜試験場で開発されたという地元特産の新品種「駿河シャモ」を育てている。黒軍鶏をベースにして、名古屋コーチン、比内鶏、土佐九斥等、美味しいと言われる7種類の地鶏を組み合わせて誕生した究極の地鶏であり、静岡県が売り出し中の名産品なのである。

それだけに、飼育環境や餌へのこだわりは半端ではない。駿河深層水に大井川水系の地下水を加えたこだわりの水、広々とした鶏舎で平飼いにされたストレスのない飼育環境、そして県内特産のお茶、柿酢、竹酢液が混ぜられた独特の飼料によって、健康で美味しい鶏が育てられていく。その結果、低脂肪でヘルシー、シコシコと締まりのある肉質になるわけだ。

そんな県特産の「駿河シャモ」を「だいどう作業場」内でも飼育できることになり、ハムや燻製といった新製品の販売もスタートさせた。「若しゃもモモハム」・「若しゃもムネハム」・「若しゃもササミスモーク」・「若しゃもモツスモーク」・「若しゃも手羽先スモーク」といった商品群である。どれも駿河シャモの特色を活かし、豚肉を使ったハムや燻製とは少し変わった味わいのある製品に仕上がっている。

「駿河シャモ自体のブランドがまだ確立されていないので、販売はまだまだこれからといったところですが、肉質の美味しさは保証できます。なにしろ東京・大手町で開催されたニッポンやきとり祭りでは、比内地鶏や名古屋コーチンなどの有名ブランド鳥を相手にして、全国第6位の成績だったのですからね」と、だいどう作業場サービス管理責任者の牧野和彦さん(50歳)

2007年5月にキリンビールが主催で開催されたこのイベントでは、全国28箇所のブランド地鶏が「焼き鳥屋台」の形で勢揃いし、その完売のスピードを競った。ブランド力ではまだまだ劣るはずの駿河シャモがこのイベントでこれだけの人気を博したことは、肉の味がホンモノであることの何よりの証拠だろう。

現在は加工技術の難しさから、飼育肉を提供して業者に製品加工を委託している段階だが、いずれは施設内で加工全行程をできるような体制を整えていく予定だ。「できれば生肉の全国販売も手掛けていきたいですね。現在は地元の居酒屋やレストランにだけ生肉を卸しています。でも駿河シャモの本当の美味しさは、生肉を食べてもらわないとわかりません。本当に綺麗な色をしているんですよ。ぜひ鳥鍋や焼き鳥で召し上がっていただきたいですね。ガラスープなんか、まったく濁りがなくて最高のダシが出るんですよ」(牧野さん)

そんな美味しい肉を地元でしか食べられないのはもったいない。駿河シャモのブランド力アップのためにも、ぜひ焼き鳥セットや鍋セットの商品化を、今後は期待したいものである。

芸術活動への積極的な取り組み

最後に、草笛の会の「音楽療法」「絵画療法」といった、芸術活動に対する積極的な取り組みについても触れておくことにしたい。知的障害者一人ひとりの発達促進や生活自立のために芸術活動が大きな成果をもたらすことは、すでに各地の障害者施設で実証されてきている。そのため、余暇活動として音楽活動や絵画活動をおこなっている施設は多いはずである。

草笛の会では、これまで専門家を招いた勉強活動を定期的に実施することで職員の支援体制のレベルアップを図り、療法の成果を記録として印刷物にまとめてきた。『音楽療法の実践』『音楽・レクリエーション療法の実践』『草笛の絵かきたちI〜VII』という有料販売の冊子シリーズである。音楽療法士・伊藤安一氏や常葉学園短期大学教授・落合英男氏といった専門家が関わってきた芸術療法の歴史が、わかりやすくまとめられている。

とくに「絵画療法」の取り組みの歴史は長いだけに、その内容は充実している。落合教授が草笛の会の職員たちにこれまで継続的に指導してきた「絵画療法」のポイントが、具体的な事例と共に語られているのだ。冊子に掲載されている作品群を眺めるだけでも、その支援活動の成果を実感することができる。「絵画療法」の基礎について勉強したい人にとっては、格好の入門書と言えるだろう。(冊子は「草笛の会」で購入することができる)

「絵画療法というと、どんな絵を描かせるかという技術指導が中心かと思われがちですけど、落合先生がこれまで私たちに教えてくれたのは、どちらかというと側面的な支援の大切さですね。それはたとえば、職員がもっと画材に対して知識を持つことや、きちんとした絵の飾り方を考えていくことです。職員が絵画に対する知識を持つことで、利用者への支援の幅もぐっと広がっていくことを教えていただきました」(大塚さん)

「草笛の絵かきたちVI」に記されたチャート図「絵画療法の発展」によると、絵画療法がめざすところは、「個の作品のPR/展示会の開催・展覧会の開催/工芸作品としての展示販売」であるという。「利用者たちの精神・生活の安定と向上」のために始めた療法活動ではあるが、何らかの形で実益性を兼ねた活動に進化できるならそれに越したことはないという考え方に基づいている。

「これまでは利用者たちの表現の場として芸術療法を捉えてきましたが、今後はここで描かれた作品をどのように活用していくかも私たちに問われていくと感じています。展示会を定期的に開催して、作品を有料で販売したり、グッズを制作したりすることですね。くさぶえアートを自主製品の包装紙に活用するといったアイデアもぜひ実現したいと思っています」(三谷理事長)

日本セルプセンターとしても昨年度より始まった「デザイン活動支援事業」において、会員(知的障害者)施設が保有する利用者のアート作品を活かしたさまざまなデザイン提案(施設イメージのメインビジュアルに採用)を実験的にスタートさせたばかりである。是非とも草笛の会のような療育実績のある施設と共に、作業科目としての「障害者アート」の可能性を広げる活動をおこなっていきたいものだ。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。