社会福祉法人長良福祉会(岐阜県岐阜市)

美濃の有名醤油蔵元とのコラボで生みだした画期的スイーツ「醤油さぶれ」

長良福祉会の概要

長良福祉会は、就労継続支援B型事業所「長良ひまわり社」を運営する社会福祉法人である。事業所の設立の歴史は、1989年に神戸英子施設長(61歳)が地域の障害者1名をボランティアで自宅に預かり、現在の制度で言うところの「日中活動支援」をしていたことに遡る。その後、自分の子供も預かってほしいという要望が親から寄せられて自然と増え始め、5名を超えた段階で小規模通所授産所「長良ひまわり作業所」を開設することになった。 

法人格を取得したのは2003年であり、その後に関係者から寄付を募って土地を購入し、2006年に現在の建物を新築した。このように神戸施設長の自宅で細々と始まった作業所が、十数年の月日を経て、立派な社会福祉法人として認知されるようになったのである。

作業品目としては、昔から続く紙袋製作等の下請け作業が中心であるが、自主製品としてクッキー、シフォンケーキ等のスイーツ類も製造販売している。建物の1階は地域住民のための交流スペース「喫茶ひまわり」となっており、多くのサークルが定期的に活用してくれているらしい。店内では彼らがつくった手作り製品などを預かるコーナーも設置され、さまざまな人たちが集まる憩いの場になっている。

本格的スイーツを生み出すきっかけになったケーキ職人との出会い

もともと下請け作業が中心であった「長良ひまわり社」が、現在のように本格的に自主製品としてクッキーやケーキ類を製造できるようになったのは、「喫茶ひまわり」をオープンした後のことである。ホール係のパート職員として参加することになった神村夫佐子さんの夫・邦彦氏(72歳)が、職歴35年のベテランケーキ職人であることがわかったのだ。その時すでに心臓の病気を煩い、自宅療養中の身であった氏が「ちょっとだけ、手伝ってください」と神戸施設長にくどかれ、職人としての腕を提供することになった。

「療養中の身ではありましたが、何もしないで家にごろごろしているより、身体のためには良いかなと考えてお手伝いすることにしました。実は、昔からこういう仕事をしたいなと憧れていたのです。自分の技術を人のために役立てるという、いわば社会奉仕的な仕事でしょ。美味しいお菓子を通じて、たくさんの人たちと交流が持ちたいという純粋な気持ちでした」と、神村邦彦さん。

「長良ひまわり社」に参加した氏が、さっそく施設のメイン商品とするために作った商品が「醤油さぶれ」であった。このサブレは、神村氏が昔勤めていた洋菓子店で自ら開発したオリジナル商品だという。卵黄と三温糖を使い、刻んだアーモンドを隠し味に入れた贅沢なサブレ生地に、高級たまり醤油をたっぷり塗って焼き上げた、まったく新しい感覚のスイーツである。甘いサブレと口の中にほんのり広がる醤油の香ばしい味のミスマッチ感が、斬新な味わいを醸し出している。

醤油さぶれの味の決め手は、地元の有名な蔵元が造る超高級醤油「みのび」

「醤油さぶれ」の味の決め手は、何といっても醤油にある。神村氏がこだわったのは、地元岐阜・長良地区で三代にわたって伝統的な手作りの醤油造りの伝統を頑なに守り続けている「山川醸造株式会社」のたまり醤油「みのび」である。

たまり醤油とは、東海三県(愛知・岐阜・三重)でのみ生産される醤油の一種だ。醤油には、全国の8割を占めるという濃い口醤油の他に、薄口醤油(関西方面)・白醤油(愛知三河地方)・甘露醤油(広島・山口等山陽地方)等の種類がある。味噌や酒と同様に、それぞれの地域独特の嗜好によって、昔からさまざまな味の醤油が造られてきたのである。

たまり醤油の特色は、旨味と甘みの濃さだろう。他の醤油と比較すると、明らかに濃厚な味わいだ。大豆のみを原料とし、2年以上も発酵させるからこそこのコクが生まれてくる。色が濃いために「塩辛い」と誤解する人が多いのだが、事実はまったく逆だ。熟成期間が短いほど塩辛くなり(塩水に近い=薄口醤油)、たまり醤油は他の醤油の三倍以上の熟成期間を要する製品なのである。

近代的な機械も使わず、じっくりと時間をかけて職人たちが作り上げる山川醸造のたまり醤油。大手メーカーの台頭によりホンモノの醤油を造る蔵元が消えていく中、山川醸造は伝統と革新をテーマとした新商品を次々に売り出し、世間の注目を浴びてきた。代表的なヒット商品が「アイスクリームにかける醤油」である。「100円アイスクリームがリッチに大変身!!」「かけて楽しい! 贈って嬉しい! 世界に広がる醤油スイーツ!!」と謳うこの醤油は、たまり醤油独特の風味がアイスの甘さと合わさることによって、不思議な味わいを生み出すことに成功した。現在では岐阜名物土産の定番として土産物屋や、インターネットを通じて全国に販売されている。

このユニークな醤油を開発したのは、三代目の山川晃生社長だ。これまで通り、淡々と醤油作りを続けていても将来はないと考え、伝統的な醤油蔵元とは思えないほどの革新的な発想で、次々に新しいたまり醤油シリーズを開発してきた。その一つが「たまごかけご飯のたれ」に代表される「用途限定醤油」であり、もう一つが醤油スイーツシリーズなのである。「アイスクリームにかける醤油」の他にも、県内のスイーツ店に企画を持ちかけて「焦がし醤油のキャラメルジェラート」「醤油ラスク」「醤油チョコあられ」「しっとり醤油マドレーヌ」等の商品化を実現している。「長良ひまわり社」の「醤油さぶれ」も、山川醸造株式会社が誇る醤油スイーツの公式認定商品として位置づけられている。

あらゆる嗜好に合わせて、「醤油」の配合を微妙に調整

「醤油さぶれ」は、第4回の「真心絶品認定委員会」に応募し、醤油とサブレというミスマッチ感覚がスイーツにうるさい審査委員をもうならせた。認定委員会に出品した時のことを、神戸施設長はこう振り返っている。

「味には自信がありましたけど、当時はまだ包装紙までは気を配っていませんでした。いわゆる無地の透明の袋に入れただけの状態です。でもこのままでは、『真心絶品』なんていうブランドにとても応募できないと思って、外箱や内装の小袋を新しく制作したのですよ。『醤油さぶれ』のロゴは、私の姪に筆で書いてもらいました。パッケージがしっかりしたおかげで、ギフト用に使ってくださるお客さんも増えてきましたね」

ユニークなスイーツであり、リピーターも増えつつある「醤油さぶれ」だが、悩みもある。サブレの醤油感をどこまで打ち出すか、さまざまな意見が飛び交っているというのだ。「真心絶品認定委員会」でも、初めての認定会議ではその発想の斬新さに審査員一同が拍手を送ったものの、「ネーミングの割に醤油の味がしない。もっと醤油感を出した方が面白い」との講評で、一度は認定が見送られた経緯がある。その後、醤油感をアップさせた数種類の試作品を再度応募して「真心絶品」として認定されるに至ったわけだが、地域によって嗜好は相当変わってくるらしい。

「真心絶品に認定された新バージョンは、こちら(岐阜人)の味覚からするとちょっと醤油が強すぎるかもしれませんね。関東の人は、とても醤油の味が好きだと思うんですよ。醤油にはけっこう塩分が含まれていますから、ホントは控えめにした方が身体のためではあるんですけどね(笑)」と、神村さん。

このあたりの味覚に関しては、新しいスイーツであるが故の悩みであるのかもしれない。しかし「地域の味覚、お客さんのニーズに合わせてさまざまなバージョンを用意し、一番良いと思われる商品を提供していきたい(神戸施設長)」との考え方で、今後も味の改革には柔軟に対応していく予定だ。

より高い工賃をめざす最大の武器こそが、「醤油さぶれ」

「長良ひまわり社」の現在の平均工賃は、15,000円であるという。神戸施設長は、この数字をなんとか「30,000円以上にしたいですね」と語っている。しかし現状の下請け作業中心の事業展開では、工賃アップはたいして望めない。やはり自主生産品の販売拡大が、工賃アップのためにはどうしても必要不可欠なのである。

「下請け事業と自主生産品事業の売上比率は、現在は8対2くらいなんです。なんとかこれを5対5まで持ってくれば、工賃目標も達成できるような気がします。そして、そのための最大の武器が、『醤油さぶれ』なんですよ。美味しい洋菓子を作っている施設というのは全国には多いと思いますけれど、自分たちだけのオリジナル商品というのはなかなかありません。せっかく神村さんが提供してくださった大切な商品なので、全国に向けて大々的に売り出していきたいですね。あまりメジャーな存在とは言い難い岐阜県ですけど(笑)、『醤油さぶれ』が有名になれば、もっと私たちの存在をアピールできると思うんです。めざすのは、都会のデパ地下で販売するような商品になることですよ」

神戸施設長は冗談交じりにこう語ってくれたが、「甘じょっぱい」、「ちょい足し」感覚という、いわば流行の最先端をいくスイーツである。ぜひ多くの人たちにこの不思議な味を試してみてほしい。一度食べると懐かしい醤油の味が、癖になること請け合いである。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。