社会福祉法人みかわ(愛知県岡崎市)

社会福祉法人みかわ デザイン活動支援事業によって、施設イメージを一新した「花の木苑」

社会福祉法人みかわの概要

みかわは、多機能型事業所「花の木苑」(就労継続支援B型事業・生活介護事業)を経営する社会福祉法人である。就労継続支援B型事業の分場として「カフェ・ベーカリーふら和」を運営するほか、分場に併設する形でグループホーム「たかはた」も運営する。

法人の設立は1999年と比較的新しく、無認可作業所が発展的に進化していった施設である。作業品目としては、内職や農作業などの軽作業と喫茶・パン製造販売、クッキー製造、さをり織り等をおこなっている。現在の定員数は60名だが、事業規模としては年間売上で1,000万円に満たない比較的小規模の施設に分類される。

しかし工賃引き上げ5カ年計画に則って、アドバイザー派遣事業(技術者指導)や工賃水準改善事業(経営コンサルタント派遣)にも積極的に参加して専門家の意見を導入するなどの努力を重ねており、時代の流れと共に一歩ずつ進化しつつある施設なのである。

クッキーラベルの変更を目的に、第1回デザイン活動支援事業に応募

そんな「花の木苑」が、日本セルプセンターの第1回デザイン活動支援事業に応募したのは2009年の7月のことである。開所当初からクッキーやシフォンケーキを作り続けており、技術者派遣事業等の活用によって味も相当改善され、顧客からは美味しいと評判になってきたものの、いかんせんパッケージが弱いという悩みを抱えていた。小さな施設ならどこでも同じだろうが、職員の手作りによるシールを袋に貼っただけの簡易包装である。利用者の絵をモチーフにしているものの、「クッキー」と書かれただけのデザインは味気なく、「購入者が、どこの商品かさえもよくわからない」という状態だった。

施設長は、当時のことをこう語っている。「私の娘たちがいろんなイベントの記念品として花の木苑のクッキーをよく使ってくれるのですが、きちんとしたネーミングもないから『いつものクッキー、お願いできる?』なんてよく私に頼んできましたね(笑)。」

日本セルプセンターが始めたデザイン活動支援事業の案内を受けたときには、担当者に「応募してみたらどうか」と進めたものの、あまり深くは考えていなかった。県単位の事業にはこれまで何度か採択された実績があるものの、全国規模となると会員施設数も膨大であるし、支援対象となるのはもっと大きな施設に違いないという思い込みもあった。「宝くじに応募するような感覚」で、とりあえずエントリーシートを提出したのが正直なところだ。応募動機も「クッキーの素敵なシールを作ってもらえれば、ラッキーかも(山本由希子サービス管理責任者)」という感覚だったらしい。

支援決定が決まってビックリしたのは、他ならぬ花の木苑のスタッフたちである。山本さんが昼休みに日本セルプセンターのホームページを眺めていると、「SELP事務局ニュース」のコーナーに「第1回デザイン活動支援事業決定」のタイトルが踊っている。そこになんと決定施設として、花の木苑の名前があるではないか。山本さんはこの時のことを嬉しそうに振り返ってくれた。

「まさか花の木苑に決まるなんて誰も思っていなかったから、職員室でみんな大騒ぎですよ(笑)。それと同時に、エライことになったなとも思いましたね。だって実際のところ予算もほとんどない小さな施設ですし、どこまで提案を受け入れられるか不安だったのです」

山本さんたちには、もう一つ心配があった。以前、工賃水準改善事業によって派遣されてきた経営コンサルタント(中小企業診断士)が、あまりに現場の発想と隔離しており、せっかくの事業もほとんど成果をあげることなく終わってしまった苦い経験があったのだ。しかし日本セルプセンターから派遣されてきたプランナーに施設の中を見学してもらい、これまで製作してきた記念誌や機関誌などを見せると「花の木苑のイメージづくりの中心は、利用者のイラストにするべきだろう」との提案を受け、安心することになる。

花の木苑では普段から、仕事以外の余暇活動として利用者たちに絵を描いてもらう時間をふんだんに用意してきた。施設開所当初は仕事があまりなかったことの名残でもあるし、山本さんを中心とする支援員たちが絵画活動に熱心だったということもある。現在でも岡崎市芸術祭には、毎年必ず花の木苑の利用者による共同制作を出品している。今年のテーマは、「みんなの手」。利用者にそれぞれの思いの「手」を描いてもらい、それを千手観音になぞらえて立体的にディスプレイした力作である。このような素晴らしい作品が、花の木苑には山のように眠っていた。記念誌や機関誌にも、利用者の素朴な作品が多数使われている。施設におけるデザインとは本来、それぞれの施設が持つ特徴を端的にビジュアル表現することである。そう考えると、花の木苑の施設イメージの基本を利用者のアートとしたのは当然の発想であろう。

提案されたデザイン案を見て、再度ビックリする花の木苑スタッフ

それから約2ヶ月後。花の木苑に日本セルプセンターからデザインの提案書が送られてきた。それを見て山本さんたちは、デザイン支援が決定した以上の驚きを感じることになる。一つには、提案されたデザイン案が素晴らしかったということであり、もう一つは花の木苑全体のトータルデザインという提案内容の大きさである。

「クッキーラベルを新しく作ってもらう程度で参加したのに、すごい提案内容だったのでちょっと驚きました。でもデザインの基本が利用者のイラストになっていましたし、すごく可愛くて花の木苑のイメージにピッタリだったのですね。こういうふうにデザインイメージを統一すると、施設全体のPRになるのだということを改めて教えてもらいました。職員みんなで提案書を見て大騒ぎですよ」

想像以上の提案書が送られてきて、施設長の反応はどうだったのだろうか?

「イヤ、正直なところ、どうしたものかなと最初は驚きました。これを全部実現するには相当費用がかかりそうでしたし。でも職員がみんな提案書の周りで『すごい、すごい』と騒いでいるのを見たら、『お金がかかるから、ちょっと...』なんて止められませんよ(笑)。『予算は何とかするから、やってみろ』と全面的に後押ししましたね」

これまではラベルをカラーコピー等で制作してきたわけだから、いくらデザイン費用がかからないとはいえ、きちんとした印刷物に変更すると商品自体のコストが高くなってしまう(※1)。しかし山本さんは「利益率を上げるために、内容量を変えるなどの変更を検討していたところでしたので、タイミングもちょうど良かったです」と語っている。「中身を少し減らしても、包装資材で高く見える工夫をすればお客さんは喜んで買ってくれます。いくらエコの時代といっても、やっぱり見た目は大切なのですよ」

提案されたデザイン案は、クッキーラベル、名刺、幟、サンキューカード、シフォンケーキの巻紙、レジ袋、施設車両ラッピングの7種類。そのうち、車両以外はすべて提案を受け入れて製作することにした。今回の花の木苑のデザイン提案の基本は、利用者のイラストを使って明るい施設イメージを作り出し、製品にもそれらを全面的に打ち出していくことである。これらのデザインは基本ツールである名刺とも連動しているため、名刺を配布することがすなわち商品のPR活動につながるように考えられている。

花の木苑ではこれまで、理事長と施設長しか名刺を持っていなかった。職員に名刺を持たせる必要性を感じていなかったためだ。しかし新しい花の木苑の名刺デザインを見た職員たちから、「この名刺なら、私もほしい!」という意見が続出し、施設長は今後の展開や職員のモチベーションアップを考えて、これを機に全員の名刺を作ることにしたという。これも今回のデザイン支援活動による大きな成果といっていいだろう。今後は花の木苑の職員たちによる自主的な営業活動が期待できるに違いないからである。

(※1)日本セルプセンターのデザイン活動支援事業における、各支援施設のデザイン制作費はセルプセンターによる負担となるが、印刷物等の制作費は施設が負担することになっている。

サンキューカードの配布で、リピータを増やすきっかけに

今回のデザイン提案のもう一つの特色が、サンキューカードの作成である。クッキーラベルがいかに可愛くても、それは1回だけの購入で終わってしまう危険性を孕んでいる。事業として一番大切なのは、定期的に購入していただけるリピーターをいかに増やすかということだ。そのため利用者のバラエティ溢れるイラストを活かして、サンキューカードをつくることにした。イベントなどで製品を購入してくれた顧客に対し、さまざまなイラストカードを配布することで次回購入につなげようという狙いである。

「カードは全部で20種類作りました。もったいなくてなかなか配布できないのが問題なのですが(笑)、今後はもっと積極的に活用していきたいと思っています」と、山本さん。クッキーのラベルに興味を示した顧客に対して、さらにたたみかけるように20種類ものイラストカードを配布できれば、営業効果は絶大なものになるに違いない。好きな絵だけを使ってシールを特注するなどのサービスを提案できれば、結婚式の引き出物や記念品としての需要がさらに期待できることだろう。

  • サンキューカード
  • サンキューカード制作風景

成果はすでに表れている。定期的に出かけている近隣企業での出張販売会の売上がアップした他、ギフト用品としての発注が増えてきたというのだ。

「お祭り用に使いたいとか、職員に配布するプレゼントとして最適だとか、販売会でクッキーを販売していると、そんな声をよく聞くようになりました。味には定評があったのですけど、やっぱりギフトとして使ってもらうには商品としての可愛らしさが重要だったのですね。大幅な売上増を図るためには、このような大量発注の仕事をもっとほしいと思っていました。これからは、新パッケージとサンキューカードと名刺を有効に活用して、企業や団体向けにどんどん営業活動を進めていきたいです」(山本さん)

花の木苑全体のモチベーションが上がったのが、もっとも大切なこと

売上的にはどれくらいの効果があったのだろうか? 新しいデザインツールがすべて完成したのが2010年の7月であったことから考えると、実際に新パッケージで販売活動に挑んだのはまだ4ヶ月程度(2010年12月現在:取材時)にすぎない。4ヶ月平均の昨年比売上は約20%増とのことだが、花の木苑のクッキー販売の大半を占めているイベントシーズン(10月〜12月)だけを抽出してみると、約46%増と明らかに売上は伸びている。施設長は言う。

「1年目なので、『これだけ明らかな効果がありました』と人に誇れる実績を残せていないのは事実ですが、売上が今後伸びていくのは間違いないと思いますよ。なにより一番大きいのが、職員たちみんなが『自信を持ってお客さんに売れるようになった』と語っていることですね。これが今回のデザイン支援活動で一番大きい成果といえるかもしれません」

山本さんも同意見だ。「利用者のイラストが商品についているので、私たちのモチベーションは必然的に上がっています。販売会でもお客さんに『可愛いラベルですねー』と喜んでもらえるので、本当に売りやすくなりました。『このラベルのイラストは、花の木苑の利用者たちが描いたものなのですよ』と語りかけるだけで、簡単にコミュニケーションがとれますしね。レジ袋も可愛いので、お客さんに商品を渡す瞬間がすごく楽しいです」

花の木苑では、今回のデザイン支援活動によって得られた成果をレポートとしてまとめており、その中には結論として次のように記されている。

「今回のデザイン支援を通して、

  • 一商品のデザインだけでなく、施設全体統一されたパッケージデザインの重要性、必要性の学び
  • 花の木苑が持っている『良さ』『姿』の発見
  • 今まで以上の販売への利用者、職員の意欲の向上

一商品のデザイン案支援のつもりが、予想もしなかった収穫を得ることができました。今後に活かしていきたいと思います...」

日本セルプセンターの「デザイン支援活動」への参加によって、施設全体が活性化し始めた花の木苑。新しく作られたツールを活用して、これから次々に地域へのアピール活動を実施していくことだろう。今後の販売活動がどのように推移していくのか非常に楽しみである。そして、利用者たちのアートを施設イメージの中心に据えるという考え方を、これからもぜひ続けていってほしいと思う。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。