社会福祉法人あさひ会(愛知県名古屋市)

施設長自らデザインを行い利用者のハンデを補う「治具開発」により企業からも注目

木工作業で有名な施設を運営する社会福祉法人

あさひ会は、知的障害者通所授産施設「守山作業所」(2010年4月新制度移行予定)を中心にして事業を営む社会福祉法人である。施設としては守山作業所の他に「守山作業所第一分場」、小規模作業所「MORIYAMAパズル館」を運営しているが、利用者の障害程度によってそれぞれの所属を振り分けているだけで、実態は一法人一施設として一体運営が図られている。(この他、グループホームも三カ所運営)

作業品目としては、手づくり玩具製作などの木工作業、クッキーやパウンドケーキなどの菓子製造、それに開店祝いや葬儀の花に添えられるネジリブラシ製造など。食紅で着色したカラフルな色合いが可愛らしい木工パズル等の玩具は、名古屋港水族館、伊勢おかげ横町、中部国際空港、富士サファリパーク、名古屋市博物館、モリコロパーク(愛・地球博記念公園)、三州足助屋敷などのショップでも常設販売され、クッキー等のお菓子類は名古屋城下の土産物屋で「名古屋城プチクッキー」と銘打った製品を販売する。企画力と販売力には定評のある施設なのだ。

事業の中心となるのは、なんといっても木工作業だろう。200種類をゆうに超えるといわれるバラエティ豊かなラインアップがそろう木工玩具。定番おもちゃから季節の人形に至るまで、見る者をメルヘンの世界へ誘う製品群はすべて施設長である西岡俊雄氏(54歳)が独自にデザインしたものである。氏のデザイン画に従って、8名の職人たち(もちろんすべて障害者だ!)が複雑なラインを糸鋸で見事に切り分けていく様は、圧巻の一言。全国に木工作業をおこなっている施設は数多いが、少なくとも糸鋸の分野においてはその技術と生産力は群を抜いている。「糸鋸の守山」と評されるゆえんである。

毎年、次々に開発されるオリジナル製品群

守山作業所が凄いのは、単に職人たちの技術力だけではない。クリスマス・お正月・ひな祭り・五月節句・児童玩具・パズル・小物類という約7種類のカテゴリーの中に、それぞれ30種類以上ある豊富な商品アイテムが、この施設の最大の特色である。しかもそのうちの1割は毎年見直しを図り、常に新しい製品と入れ替えているのだから、恐れ入る。ざっと計算しても、毎月数点は新作を発表しているという計算だ。西岡氏は、「昔から製品の企画は、私が一人でおこなってきました。デザインを考えるのは好きなんですが、さすがにそろそろアイデアのストックが尽きてきそうですね」と笑う。

それは当然だろう。彼がおこなっているデザイン作業とは、単に製品のビジュアルを作るだけではない。新しい製品を考えるとき、まず頭の中に浮かぶのは利用者たちの顔なのだ。このデザインなら、あの利用者が無理なく作業できるかどうか。このデザインなら、どれだけ作業を分割できて、どれだけの利用者たちがさらに製作に参加できるようになるかどうか。いわば事業全体のデザインを見据えて製品企画しているわけだから、その苦労はそこらの玩具デザイナーの比ではないはずだ。

しかし新製品の開発は、コンスタントに売上をあげるという営業目的以外にも、利用者たちの能力向上のためにも不可欠なのだと言う。「製品開発と売上拡大と利用者の職域拡大。つねにこの三点をセットで考えていくことが大切なんですよ。新製品を開発すれば、製品が売れて生産量が上がります。すると行程を細分化する必要が出てくるために、重度の利用者にも作業への参加チャンスが生まれてくるわけです」

こうした信念があるからこそ、苦しみながらも西岡氏はいつも新製品の開発に頭を巡らせている。製品アイテムが非常に多いため、製造現場が混乱してしまうのでは?などという心配は、まったく無用のようだ。確かにものすごい数の部品がストックされ、息つく暇もないスピードで木材が加工されているのだが、楽しそうに笑顔で仕事をこなす利用者たちの姿が印象的である。管理者側で仕事分担と時間配分がすべて計算し尽くされているからこそ、忙しい中でもこうしたゆとりが生まれているに違いない。

現場にはオリジナル開発の治具がいっぱい

重度の利用者たちに作業してもらうためには、いくら行程を細分化したとしてもオリジナル治具の開発は不可欠だ。否、それこそが分業のためのもっとも重要な要素だとも言える。そのため、守山作業所の現場にはオリジナル開発の治具が溢れている。まるで治具のオンパレード。ドラえもんのポケットのように、それぞれの障害と仕事にあわせた何十種類もの道具たちが用意され、それを使って多くの利用者たちが作業に参加しているのである。


  • 細かい部品を一挙にやすりがけする自動ヤスリ機

  • クッキー袋を止めるヒダも、この治具を使えば簡単だ

たとえば現場の中心でガラガラと回っている、まるで福引き廻し機のような機械。中には切り出した小さな木片が入っていて、回転するローラーの側面に取り付けた紙ヤスリに木片が触れるたびに、自動的に切断面がツルツルに仕上がっていく。食堂などでよく使われているジャガイモの自動皮むき器と同じ仕組みである。

木工玩具(自動車のタイヤの芯)に不可欠な丸棒の切断面を綺麗にするためには、ヤスリで先端を一定の角度に削り落とすという高度な技術が必要だ。この作業工程も、ベルトサンダーというヤスリをかける機械にちょっとした工夫を加えることで誰でも担当できる仕事になった。それは、ヤスリに棒を当てるとき、必ず同じ角度になるような特製の台を設置することだ。この治具に棒を差し、くるくる回すだけで簡単に小口落としができるようになったのだ。

木工作業だけではなく、クッキーの製造現場でも治具の開発は進んでいる。クッキーの袋を閉じるときに、高級感を出すためにヒダをつけてリボンで留めるのだが、この作業が利用者には難しかった。そこで開発されたのが、木製で作られた自動ヒダ付け機である。一般企業の菓子製造の現場では自動結束機という高価な機械も利用されているらしいが、お金をかけず木製の手作り治具を開発するところがいかにも守山作業所らしいところだ。

こうした治具の開発の数々も、基本的にはすべて西岡氏のアイデアである。取材中も常に紙に図面を描いて、少しでも聞き手(私)に対してわかりやすく説明しようとする誠実で几帳面な性格が表れていた。

「難しい行程は職員だけがやっているような施設のままでは、いつまでたっても生産力の向上は期待できません。職員の最も重要な仕事は、作業を手伝うことではなくて、利用者の作業環境を整えることなのです。いかに彼らが毎日ストレスなく、効率よく仕事ができるようにしてあげられるか。この点をもっと改善していけば、生産力はあがります。生産力があがれば、もっと大きな仕事が受けられるようになるはずです」

最新設備も導入し、さらなる生産能力の向上を

守山作業所では、最新設備の導入にも積極的だ。糸鋸を使用する作業場では、削り取った木くずをその場で吸い取っていく吸引器をすでに15年前に導入している。まさに焼き肉の煙を吸引するブースターのような機械である。普通、糸鋸の現場作業者は埃よけのためにマスクをしていることが多いが、守山作業所ではその必要がまったくない。実にクリーンな環境なのだ。

また、木工パズルに色づけをするために、以前はピース一つひとつをさまざまなカラーの食紅につけて着色することが多かったが、なにしろ手間がかかるし色の種類にも限定がある。最近では厚みのある木材にもプリントできる最新型のインクジェットプリンターを導入したため、カラフルなデザインを自由に木材に施せるようになった。

その他にも、木材を自由な形で切り取ったり、文字を焼き込んだりできるレーザーカッター。決まったところに確実に穴を開ける時に重宝するNCルーター。利用者が安全に細かい木片を切り出すことができるカットソー、等々。時代の変化と利用者の作業能力の向上にあわせて、的確な先端設備をその都度導入してきた。

これらの機械設備とアイデア溢れる治具開発により、木工作業をおこなう施設としては異例の生産能力を誇る工房になりつつある。ある福祉団体から依頼された20,000個(製作期間1ヶ月)の木製マグネット製作は楽々クリアできたし、長野県鶴間公園100周年の記念携帯ストラップは、5,000個を製作することができた。杉の木をギザギザの葉の形にカットして文字を焼き入れるという複雑なデザインの製品だが、1ヶ月で最大50,000個は生産できる体制があるという。

技術力を求めて、企業からも製作依頼が続々

最近では、そんな守山作業所の技術力と生産能力の高さに目をつけた企業からの製作依頼がひっきりなしに寄せられている。もはやこれは「下請け」作業では決してない。あくまで対等なパートナーとして、堂々とその能力を評価された上でのタイアップ依頼である。

代表的な例が、鳥取県境港市の水木しげるロードで販売される製品群の開発だ。「ゲゲゲの鬼太郎」の作者として知られる漫画家・水木しげるの故郷に作られた観光スポットで販売するグッズのいくつかを、プランニング会社と一緒になって企画製作をしているのである。

第一号として作った杉の板ハガキは、盆休みの期間中だけで三千枚を完全に売り切る大ヒット商品となった。薄い杉の板を、「一反木綿」「ぬりかべ」「目玉おやじ」「ちゃんちゃんこ」の形に切り出しただけのシンプルな木製ハガキなのだが、これを妖怪ポストに投函すると妖怪の消印付きで郵便物として届けられるという企画が観光客に大いに受けた。非常に好評だったので、次なる製品として目玉親父のドアストッパーやけんけん玉などを現在試作中とのことである。

こうした企業からのタイアップ依頼は、「今後ますます増えていくと思います」と西岡氏は胸を張る。自主製品の企画開発と製作で培った技術ノウハウを、今度はタイアップ製品の製作に回していくことで安定した売上を確保することもできる。「現場の生産技術や能力を挙げていくことでまだまだ仕事は増やせるはずだし、工賃だってあげられると思いますよ」。現在守山作業所の利用者の月平均工賃は20,000円だというが、トップクラスの職人たちの平均工賃だけを抜き出してみると、平均額は50,000円を超えている。

もちろんこの数字に決して満足することなく、西岡氏の発想はつねに先を見据えている。きっと今日もまた新しい仕事の依頼に対して、その製品デザインと現場の作業分担、そして利用者のための治具開発と、頭をフル回転させているに違いない。彼の頭が回転し続ける限り、守山作業所がその歩みを留めることは決してなさそうだ。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。