社会福祉法人名古屋厚生会(愛知県名古屋市)

母子家庭から障がい者まで、幅広い利用者支援を手掛ける「名古屋厚生会館」

名古屋厚生会の概要

名古屋厚生会は、「名古屋厚生会館愛のホーム」「名古屋市五条荘」(母子生活支援施設)、「名古屋厚生会館第一保育園」「名古屋厚生会館第二保育園」(保育所)、「名古屋厚生会館クリーニングセンター」(生活保護授産施設)、「名古屋厚生会館セルプ」(就労継続支援B型事業所)、「名古屋厚生会館ワークス」(生活介護事業所)、「名古屋厚生会館学童クラブ」(放課後児童健全育成事業)等のさまざまな福祉事業を手掛ける社会福祉法人である。

法人の歴史は大正時代に遡るほど古く、地域の生活困窮者に対する保育活動をおこなっていたのが始まりである。その後、戦災母子、サラ金地獄、DV等、時代によって原因は変遷したものの、一貫して生活に苦しむ母子を対象とした福祉サービスを提供してきた。その結果、住居、保育施設、職場の3つを揃える総合的な施設として現在に至っている。

近年、増加する生活保護問題について「新たな生活困窮者支援制度」の構築が厚生労働省社会問題保障審議会で検討されるようになってきた。そんな中、「就労準備のための支援」「中間的就労」をセットで実施してきた名古屋厚生会の活動は、関係者から再注目されつつある。社会保障費削減のための理想的なモデルとして、厚生委員会に属する議員や研究者(三菱総合研究所)の視察が相次いでいるという。

  • 名古屋厚生会館セルプ 全景
  • 名古屋厚生会館第一保育園 全景

白洋舎の仕事を手掛ける本格的なクリーニング事業

名古屋厚生会がおこなう就労事業の中心は、「名古屋厚生会館クリーニングセンター」(以下、クリーニングセンター)である。その名の通り、作業種目はクリーニング事業。しかも、業界最大手である白洋舎の仕事を中心に手掛ける本格的なクリーニング施設だ。ここで働いているのは、さまざまな理由によって生活保護を受けている母子家庭のお母さんたち。名古屋厚生会の母子寮に住み、子どもを保育施設に預けて、クリーニングセンターで働いている。「職・住」並びに「学」までがトータルに揃った理想的な空間だ。クリーニングセンター&名古屋厚生会館セルプの関祥男施設長(55歳)は、次のように語っている。

「最近では生活保護の受給対象になってしまうと、働く意欲をなくしてしまう若い人たちが多いと言われています。そんな中、ウチの施設で働くお母さんたちは本当に一生懸命。朝から夕方まで、立ちっ放しの厳しい労働環境でクリーニングの仕事に励んでいます。毎日汗を流しながら、次のステップに向けた準備を着々とおこなっているのですよ」

クリーニングセンターの工賃は、愛知県が定める最低賃金の780円以上。月給にすると平均で109,267円程度になる。この結果、なんと施設に勤める約70パーセントの人たちは、生活保護の受給辞退者となっているらしい。いずれ退所することになれば、福祉利用者から納税者に巣立っていくのである。近年の急激な社会補償費用の増加に頭を悩ませる関係者たちが、名古屋厚生会の活動に再注目し始めたのもうなずける。

  • 名古屋厚生会館クリーニングセンターで働くお母さん達 1
  • 名古屋厚生会館クリーニングセンターで働くお母さん達 2

クリーニング事業そのものは、年々売上が減少気味なのだという。品質には非常に厳しいとされる白洋舎の仕事を長年請け負っていることからもわかるように、工場内は本格的な設備が整っている。そのため機械の維持費が膨大であり、水道光熱費も年々上昇している。しかし、一般顧客がクリーニングにかける費用そのものは減少を続けているわけだから、事業が厳しくなるのも当然かもしれない。今後は、隣接するリハビリテーション病院の長期入院者の衣類クリーニングなど、個人顧客以外の定期的ニーズを探る努力がいっそう求められている。

厚生会館セルプで製造する「アカパックン」が大ヒット!!

それに対し、飛躍的な事業成長を続けているのが名古屋厚生会館セルプ(以下、厚生会館セルプ)である。ここは、クリーニングセンターで働いていた障がいがある人たちを2011年に独立させた事業所だ。

「生活保護授産施設へ入所を希望するお母さんが年々減少するのに対して、高い工賃を求める障がい者の入所希望者が増えてきたので、B型事業所として独立させることになりました。もともとクリーニングセンターにいた人たちが中心ですから、仕事への意識は非常に高いのが特徴ですね。そこに昨年からアカパックンという商品の爆発的なヒットが加わって、非常に良いムードになっています」

と、関施設長。アカパックンとは、今から約10年前に名古屋市内の恵川商事の安藤孝平社長によって開発された皮脂吸着グッズである。お風呂用と洗濯用の二種類があり、浴槽や洗濯機に入れるだけで抜群の効果を発揮する。形状もユニークである。カッパの頭の形をした可愛いキャラクター人形となっているのだ。この中には船舶事故の原油や重油を回収する繊維と同じ素材が入っており、皮脂油を驚くほどに吸い取ってくれる。しかも一度吸い取った油は、絞っても決して外には再排出しない。

  • 関祥男施設長の画像
  • 製造されている商品「アカパックン」

お風呂に使えば、何人入浴したあとでも綺麗なお湯をキープする。残り湯の再利用もしやすく、節水にも役に立つ(アカパックンお風呂用)。洗濯に使えば、えり・そでの汚れや衣類の黄ばみを防ぎ、驚く白さに洗い上がる(アカパックン洗濯用)。しかもどちらも使用期限は、200日。SUPERアカパックンに至っては、400日という驚くべき長さである。これだけの期間、家庭の風呂や洗濯の水をクリーンにしてくれる魔法のような商品なのだ。クリーニングセンターでは2006年から、恵川商事からその製造を委託されてきた。関施設長は語っている。

「『エコ&人を支えるチカラ』というアカパックンの趣旨に則り、安藤社長から製造を依頼されてきました。しかしここまで注目されるようになったのは、環境問題が主要テーマとなった2008年のG8洞爺湖サミットが開催されてから。それまではまったく鳴かず飛ばずの商品で、恵川商事さんの倉庫も在庫の山でした。一時は在庫が40,000個を超えて、会社中がアカパックンで埋め尽くされていたそうですよ(笑)

人気に火がついたのは2012年の春、とくに『ヒットの泉』というテレビ番組でアカパックンが取りあげられたからのことだった。繰り返し使え、地球に優しいエコな商品の特色を、わかりやすく紹介してくれたのだ。アカパックンの製造現場として、厚生会館セルプのメンバーが働く様子も取りあげられている。その後も『アメトーク』等で、お風呂芸人などから紹介された。

メディアの影響というのはすさまじい。環境問題に対する世間の認知度が広まってきたタイミングとも見事にマッチしたのだろう。あれほど売れなかった商品が、嘘のように売れ出した。いくら作っても間に合わない。昨年以来、月に20,000個以上の販売が続いている。一時のブームで終わるかと心配されたが、一年半以上たった今でも売れ行きにかげりは見られない。苦節十年の末にやっとたどり着いた商品だけに、今後も安定した人気は続いていくことだろう。

  • くまモンバージョンのアカパックン
    くまモンバージョンのアカパックン
  • 「ヒットの泉」に登場した安藤社長
    「ヒットの泉」に登場した安藤社長

全国展開を視野に入れるウエス事業

アカパックン以外にも、厚生会館セルプの好調な事業を支えているのがウエス事業である。ウエスとは、工場の機械を手入れする使い捨ての雑巾のこと。その多くが、家庭などから出る古着などを再生して作られている。インクで汚れた印刷機や油まみれの工作機などを拭く専用の布のため、一般的には馴染みがない地味な商品だ。しかし、人が汗して働くところにはウエスが必ず必要とされている。

「この事業の特色は、大量に安く仕入れた布を大まかにカットして梱包するという作業の簡易性にあります。事業に必要な機器は、布を断裁するカッターと針の検針器、ウエスを封入するビニール梱包機くらい。カットそのものも、厳密に同じ大きさでなければいけないとか、少しでも曲がっていたら不良品という厳格さも必要ありません。それがクリーニング事業とまったく違うところであり、障がい者の作業適性に非常にマッチしていると思います」

  • ウエス事業 布を断裁するカッター
  • ウエス事業 針の検針器

と、関施設長。アカパックン同様、ウエスにも「地球環境に優しい」という売り文句がある。激安が売り物の紙ウエスは、輸入のバージンパルプを使っているため地球環境を破壊する元凶だ。かといって一見エコに感じられるレンタルウエスも、使用後は化学薬品で洗濯するためにその廃液を排出することが問題となっている。これらと比較すると、古着から再生された「使い捨て」のウエスこそ、環境にもっとも配慮した商品なのである。

「私たちはこれらを『セルプウエス』として、積極的に市内の事業者に売り込んでいます。アカパックンほどではないにしろ、その売上は年々着実に上昇傾向。今後はウエス事業に取り組む障がい者施設の仲間を増やすことによって、仕入れと販売と納品のネットワークをさらに大きく拡大していきたいですね」

こうした取り組みにより、厚生会館セルプ全体の2014年の作業収入は、前年度比で49.1%の大幅増を果たした。工賃平均も、47,535円となっている(前年度比5.347円増)。より高い工賃をめざした取り組みはさらに続き、将来的にはクリーニングセンターの一部を障がい者専門の作業場とし、A型事業所として運営させていく構想なのだという。

お馴染みの「ワークス」のビニール製品たち

最後に、名古屋厚生会館のもう一つの障がい者サービス事業所である厚生会館ワークスにも軽く触れておこう。福祉関係者にはむしろ、この事業所で作っているビニールポーチやトートバッグなどの縫製品の方がお馴染みかもしれない。日本セルプセンターが関わる各地の福祉バザーや販売会では、必ず売れ筋商品として大々的に取り扱ってきたからである。

可愛い絵柄がプリントされたビニール生地をロールごと仕入れてきて、ミシンで丁寧に縫い上げる。大ポーチ600円、小ポーチ400円、トートバッグ1500円といったお手頃な価格のため、全国どこでも女性たちに大人気の商品だ。アイテムとしてはこの他にも、ペンケース、ホルダーポーチ、ティッシュケース、印鑑ケース、スマートホン・デジカメケースなどが揃っている。同じ柄で大小ポーチとトートバッグセットで購入する顧客が多く、商品を通じて名古屋厚生会館の名を全国に普及する広報役を果たしている。

  • 可愛い絵柄がプリントされた、ビニールポーチやトートバッグ
  • ミシン作業風景

厚生会館ワークスの杉浦正幸常務理事は言う。
「おかげさまで日本セルプセンターを通じてたくさんの注文をいただいています。嬉しい限りですね。もっとも私たちは、厚生会館セルプと違って重度の障がい者を対象とする生活介護事業。そのため生産活動に特化できないのが悩みの種ではあります。年々、利用率が低下していって、財源不足となっています」

近年、社会福祉法人を取り巻く状況はさまざまな変化をもたらしている。年金、医療、介護、少子化対策などの制度改革も進められていくことだろう。そんな時代の変化に対応できる福祉サービスの提供こそが、社会福祉法人に求められている課題だ。母子家庭から障がい者まで、幅広い社会的弱者を対象とする名古屋厚生会でも、新しいニーズに応じた活動が始まっている。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。