社会福祉法人ひびき福祉会(大阪府)

ひびき福祉会は、ハイワークひびきを頂点とした複数事業所で、多くの障害者雇用の場を確保

さまざまな事業を展開する、ひびき福祉会の概要

ひびき福祉会は、6つの事業所から成り立っている社会福祉法人である。詳しい構成は、アクティビティセンターひびき(知的・身体・精神障害者/生活介護事業)、第三ひびき(知的障害者更生施設)、ハイワークひびき(知的・身体・精神障害者/生活介護事業・就労移行事業)、ワークセンターひびき(知的・身体・精神障害者/生活介護事業・就労移行事業)、障害者生活支援センターひびき、ショートステイ(知的/身体)となっている。事業所に通う障害者(知的/身体)のためのケアホームも10カ所設置し、運営に当たっている。

障害者生活支援センターをのぞくと、どの事業所でも何らかの形で生産活動に携わっているのが特徴であり、障害の種類や程度に応じたさまざまな仕事が用意されている。たとえばアクティビティセンターひびきでは縫製・紙漉・リサイクル(アルミ缶・ミルクカートン回収)、第三ひびきでは陶芸、ハイワークひびきでは、洋菓子の製造・喫茶店運営、ワークセンターひびきではメール便配送受託・食品加工・ウエス製造・印刷・WEBショップ運営...といった具合に、多種多様の事業を展開している。

さらにワークセンターひびきの事業所の入り口には、全国から集めてきた障害者施設製品が所狭しと並べられ、「パレットひびき」として営業活動をしている。これは旧授産事業振興センター(セルプセンターの前身)時代に全国で設置されていった福祉ショップ「パレット」の流れを組む店舗だが、単独施設でこれだけの商品を集めて販売している事例は珍しい。岐阜県からトマトジュースや熊本県からうどん、宮城から豆腐、沖縄から黒糖菓子、福井からは納豆や米、鳥取県から野菜といった施設製品を定期的に仕入れては地元の人々に販売しているのだ。ここにもひびき福祉会のめざす「ネットワーク化」という発想を垣間みることができる。

本格的菓子製造をめざしたハイワークひびき

そんなひびき福祉会の中でも、頂点に位置するのがハイワークひびきだ。本格的焼き菓子製造工場として1997年に開設されたこの事業所では、現在22名の利用者がフルタイムで働き(職員5名)、年間で約6,000万円を稼ぎ出す。利用者の月額平均工賃は30,000円。多い人だと、50,000円をゆうに超えるという。製造しているのはマドレーヌ、ブラウニー、フィナンシェ、パウンドケーキ、シフォンケーキ、フルーツゼリー、リンゴタルト、シュトレーン、スイートポテト、クッキーなど、どれも高度な製菓技術を必要とする焼き菓子ばかりだ。

ひびき福祉会の亀井勝理事長(71歳)は、「もっとも誇らしいことは、ハイワークひびきにおいて22名の利用者がフルタイム(9時から5時まで)で働いて、一年間仕事が途切れないこと」だと言う。

それが成立しているのも、スイーツ&カフェ「ルタンテール」や「洋菓子のブリス(生洋菓子)」といった独自店舗の運営や、頒布会といわれる独自会員(月2,500円の会費で、月替わりのお菓子が自宅に届くシステム)の獲得、ヤマト運輸系列の通信販売カタログ(ヤマトホームコンビニエンス)への出品など、ひびき福祉会として考えられる限りのアイデアを営業活動に注いでいるからだろう。この他、大阪府セルプセンターとして共同受注しているパチンコ店景品の共通レシピによるクッキー製造の中心も担っている。打診された仕事は、基本的に断らないのがモットーだ。繁忙期になると、夜遅くまで毎晩メンバーが懸命に働いている姿を見ることができる。

今でこそここまで事業を拡大することができたが、事業開始から三年くらいは試行錯誤の日々が続いたらしい。当初は、法人内には製菓に関して専門的な知識を持つ人材が全くいなかったためである。「石の上にも三年ですわ」と、亀井理事長は笑う。素人集団が始めた事業ではあったが、料理専門学校の講師が初期のレシピ作りや機械選定に尽力してくれたおかげで、一流品の焼き菓子製造をめざす理事長の思いがようやく実るレベルにまでたどり着いた。菓子作りの専門家なら誰でもうなるBACKEN製のオーブンを導入するなど、品質へのこだわりは半端ではない。

材料にも徹底的にこだわっている。小麦粉や卵、バターといった基本素材はもちろんのこと、菓子類に使うチョコレートはフランス製のバローナチョコ、ケーキに入れるレーズンは一粒1円もする高級品、マドレーヌに入れるレモンは低農業や無農薬国産ものを使用している。これらはすべて「食の安全」に徹底的にこだわる理事長の考え方に基づいている。「食べ物は素材が命。いい材料を使って、丁寧に作り上げれば絶対美味しいものが作れるはずなんです」。

ハイワークひびきを中心に、すべての事業所がリンクする


  • 保険外交員が顧客に配布するケーキ。似顔絵が印刷されている。

  • 第三ひびきの利用者が作った陶器をカップケーキとして活用。

焼き菓子の製造から印刷、ウエス、店舗経営、陶芸、縫製と実に多種多様な事業が混在するひびき福祉会の事業構成は、ともすれば「なんでもあり」のゲリラ集団のようにも見受けられる。しかしよく話を伺っていくと、そんな印象はとんでもないことだと理解できる。構成としては法人内のトップにハイワークひびきという高賃金・高レベルワークの事業所を配置し、ここを中心にすべての事業所と仕事がリンクするように考えられているのだ。

たとえば焼き菓子で使うケーキのラベルは、アクティビティセンターひびきの利用者が作った手漉き紙を使用しているし、ケーキを一つ一つ包むビニール袋の印刷(保険外交員が持参する景品などのオリジナル製品)は、ワークセンターひびきの利用者がパット印刷でおこなっている。バレンタインやクリスマスに販売するクッキーセットの布袋も普段縫製作業をおこなっているメンバーによるものだし、「ルタンテール」や「洋菓子のブリス」で販売しているカップケーキの陶器は、第三ひびきで作られたものだ。手漉き紙や陶芸という地味な商品も、高級焼き菓子&ケーキというブランド品と一緒に抱き合わせ販売することによって、少しでも高く販売することができる。実に巧妙に考え抜かれた戦略である。


  • スイーツ&カフェ「ルタンテール」

  • 街のケーキ屋さん「洋菓子のブリス」

こうした発想は、亀井理事長がもともとは無認可作業所の出身であり、その時代に味わった下請け作業からの脱却という方針から生み出されている。バブル時代が終わりを告げた頃から、「食品」「リサイクル」「サービス」の三業種がこれからの障害者事業の中心になるという発想を抱いてきた。ひびき福祉会では、こうした信念に基づいて事業を拡大してきた結果として、現在のような複雑な事業構成になったのである。

新事業として開発された加工食品「バカ美味餃子」。その狙いは?

各種事業を展開するひびき福祉会が、2008年4月に開始したのが加工食品「バカ美味餃子」の製造販売だ。焼き菓子のイメージが定着してきたひびき福祉会が始めた取り組みとしては、少し唐突な印象である。しかしここにもまた、食の安全を訴える亀井理事長の信念が隠されていた。食品偽装問題が発覚して以来、大手企業が販売している加工食品の多くは「安いだけで、添加物だらけ」の偽り品であることが多くの人に知れ渡ってしまった。加工食品工場の現場をのぞけば、とてもそれらの商品を食べる気にならなくなる。

そんな中で、餃子である。子供からお年寄りまで、多くの人が好物にしている餃子。カレーとラーメンに続く国民食の一つと言っていい。けれども作るのは手間暇がかかるため、一般的な家庭では手作りではなくて冷凍食品や出来合いの商品を買ってくることが多い。そんなご家庭に、「手作りで安心安全な餃子を提供できないか」と考えたのだという。餃子ほどの国民食なら、美味しいモノを作れればリピーターも増えるはずである。

当然、素材には焼き菓子のような徹底したこだわりをみせた。肉は、非遺伝子組み換えの穀物だけを食べて育った和歌山県の養豚場で飼育された豚、野菜は鳥取の農園で無農薬有機栽培された白菜(夏場は別の農園産による微農薬有機栽培)、ニンニクは青森県八戸産の高級品。皮は極薄の特注品で、これは業者に専用のものを作ってもらっている。味付けは、素材の味を味わってもらうためにあえて抑えめにした。なにしろ餃子にするには「とてももったいない」と言われる高級豚肉である。本来ならソーセージにするのがベストである甘みのある肉を楽しんでもらうために、味付けはなるべく薄い方がいい。これは化学調味料の味に慣れてしまった人たちに対するアンチテーゼ、ひびき福祉会からの提言でもある。

この事業をスタートさせてから約1年半。まだまだ試行錯誤の日々は続いているらしい。なにしろあまりに高級食材を使っているので、販売単価が高くなってしまった。20個入りで780円。スーパーで特売される安物の冷凍餃子の感覚で比較されると、とても対抗できない。また味付けに対しても「少し薄味で物足りない」という意見が寄せられてくるのも現実だ。しかし「安心で安全な食品を提供するのが、福祉事業のあるべき姿でしょ?」と、素材へのこだわりを捨てるつもりはない。多少高くても、本当に安全で美味しいものを求めている人に対して、愚直に考えを訴えていくことを理想としているのだろう。

事業的には、餃子を中心とした各種冷凍加工食品の展開も考えているようだ。ざっと挙げてもシュウマイ、肉まん、あんまんといった商品群が考えられる。これらのアイテムを増やしていくことで、冷凍加工食品事業の売上増大が期待される。ハイワークひびきとの連携で言うならば、焼き菓子だけではつなぎ止めにくい頒布会会員の拡大をも狙っているに違いない。菓子だけでなく、餃子などの飲茶が商品アイテムに加われば、ユーザーとしては楽しみが一挙に増えるからである。

亀井理事長は、一見すると関西商人そのもの。腰が低く社交的で関西なまりの話しぶりからは「儲かれば、なんでもあり」のやり手商人のイメージを受ける人も多いだろう。事実、ウエス事業で回収する使い古しのおしぼりの中から、まだ使えそうなモノだけを選別して「リサイクルふきん」として10枚セットで販売したり、集めた古着の中からまだ着られそうなモノを法人ビル一階に無人販売店舗を作って格安に販売したりと、その商才は「さすが関西商人」とうならざるを得ない。しかしその本質に流れているのは、多種事業を組み合わせることによって多くの障害者に働く場を与えようとする発想と、彼らが少しでも高い工賃を得られるようにするための営業努力、そして安心安全な食品を理解者のネットワークによって広げていこうとする頑固な信念なのであった。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。