共生シンフォニー(滋賀県大津市)

自然派志向のクッキー製造で全国的にも有名ながんばカンパニーを中心にして事業を営む「共生シンフォニー」

共生シンフォニーの概要

共生シンフォニーは、がんばカンパニー(就労継続支援事業A型)、まちかどプロジェクト(生活介護事業)、ゆめつくりや「夢創舎」(就労継続B型)、あんふぁんカフェ(社会的事業所・滋賀県単独事業)、ぬくとば(老人デイサービスセンター)などを運営する社会福祉法人である。

事業内容としては、がんばカンパニーがクッキーの製造販売。まちかどプロジェクトが講師派遣・演劇活動・芸術活動等々を通じた社会への啓発活動。ゆめつくりやが昼食弁当の製造・配達。あんふぁんカフェが、子育て主婦を対象とした食育カフェの運営となっている。

法人の母体となるのは、1986年に重度脳性小児麻痺の身体障害者たち中心に5人で始めた無認可作業所「今日も一日がんばった本舗」だ。四畳半の木造アパートの一室で、「身体に優しい商品を販売する」という仕入れ販売業をスタートさせた。地元名産品である信楽焼を販売したり(これはほとんど売れなかったらしい)、コーヒーメーカーを地元の企業に無料でレンタルして珈琲を定期的に補充していくというアイデア事業を展開していった。この事業がヒットし、取り扱い商品も菓子、お茶と少しずつ増えていくことになり、1996年にはクッキーの製造工場を建設するに至る。参加する障害者も知的障害の人が増え、ほぼ現在の事業基盤がそろっていく。

年間売上1億8千万円。ほとんど菓子製造企業のレベル

共生シンフォニーの象徴的事業所は、やはりクッキーの製造販売をおこなうがんばカンパニーであろう。無添加・無農薬・低農薬の素材を使用した自然派系のオリジナルクッキーの売上は、年間で1億3千500万円以上(2010年度予測は、1億8千万円)という驚異の数字を誇っている。クッキーという単独製品だけでこの規模の数字をあげている施設は全国でも例を見ないし、ここまでくるとほとんど菓子製造企業と呼んでもよいレベルにあるのではないか。

小麦粉は安全な国産小麦、バターはよつ葉バター、たまごはPHF(収穫後無農薬薫蒸)の地元卵、ナッツはフェアトレード商品という徹底した素材へのこだわりが生み出す各種クッキーが美味しいことはもちろんだが、それだけではこれほどの事業結果を残せる理由にはなり得ない。やはり大きなポイントは15年も前から「自然派系市場」を見込んだ商品開発と、販売先の確保、そして生産体制の確立に尽きる。

中崎ひとみ所長(45歳)は、がんばカンパニーの売上には大きく分けて二つの分野があると話してくれた。

「一つは、バザーや官公庁・協力企業への出張販売という福祉市場。これは商圏40km以内の、福祉に協力的な人たちを対象とするマーケットです。これに対してもう一つの市場が、全国を対象とする一般市場です」

中崎所長の分析は単純だ。福祉市場は商圏も狭く、限られた人たちを対象とするためにマーケットが限られている。どんなに頑張ったとしても、年間2,000万円が限界なのではないか。がんばカンパニーでは、毎日三台の販売車が町中の団体・企業を回っていわゆる「引き売り」を続けているが、バザーとあわせて年間2,000万円程度(これでも十分、一般施設の年間売上レベルだが)の数字に過ぎない。

これに対して、一般市場の大きさは無限大とも言ってよい。食品アレルギーを持つ子供たちの親や、安全な食べ物を求める人たちが「徹底して素材にこだわった食品」を求めるニーズは、現代社会においてはますます拡大している。全国には無数の自然食品店があり、それぞれの店に商品を卸す専門の問屋も存在していることがその証である。インターネット上にも、本当に多くの自然食品ショップが軒を連ねている。そうした企業とタイアップしてオリジナル商品を作り出すことで、福祉市場とは比較にならない売上が達成できるというのである。

事実、がんばカンパニーの現在の売上の大半(一億円以上)はこうした一般市場を対象としたものだ。取引企業は100社以上にものぼり、相手の希望に合わせた商品企画を実施、あらゆるニーズに対応した商品作りが成功して、「自然派クッキー製造の依頼ならがんばカンパニーに」という流れが、出来つつある。

障害者の「労働権」にこだわる。社会保険も当然加入

共生シンフォニーが社会福祉法人の法人格を取得したのは、事業スタートから18年後に当たる2004年と比較的新しい。すでにこの時には売上規模は3,000万円を超えており、税務署に事業所申請を果たし、働く人たちには最低賃金クリア(6万円)というレベルにあった組織が、あえてそれまで法人取得をしなかったのには理由がある。それは、授産施設が当時は措置制度という福祉制度の枠組みに置かれた「社会復帰のための訓練通過施設」であり、施設で働く障害者は施設の「利用者」であるという位置づけだったためである。もともと障害を持つ当事者たちが自力で興した事業体であるだけに、「働く人たちはみな労働者」という条件にはこだわった。

2004年に小規模授産施設制度が導入された際、滋賀県のみの独自解釈で事業所型という制度を導入できることになり「働く人たちの労働権」が担保されたため、ようやく社会福祉法人共生シンフォニーとして申請することにしたわけである。晴れて認可法人になって得られた公的資金や各種助成金を駆使して、機械設備や建物を一挙にバージョンアップ。生産能力も、売上高もほぼ倍増となり、さらに多くの障害者を雇用することが出来るようになった。

がんばカンパニーの驚くべき事業成果は、売上数字の他にも働く人たちの給料の高さにある。本人の特性や就労内容にあわせて時間給制の給与体系をとっているとのことだが、月額にすると60,000円から200,000円という数字である。平均すると、119,000円。知的障害者20人、精神障害者7人、身体障害者5人(各種障害種別の中に、発達障害等の重複判定者が3人)という障害者従業員に対して、クッキーの製造販売事業だけでこれだけの給与を支払っているのだ。

もちろん働く人たちは全員が最低賃金法をクリア(最低賃金減額なし)しているし、社会保険にも原則全員加入である。がんばカンパニーで働く障害者の家族が被保険者となっている例も多いらしく、まさに彼らは家族を養う大黒柱的な存在である。一般中小企業でも業績の低下を理由にして社会保険を脱退する違法な事例が相次ぐ中、このような実績はもっと広く社会に広められてしかるべきだろう。

製造能力の不足は外注で対応。当たり前の発想で売上拡大を続ける

一般市場を対象とする事業戦略によって大きく売上を伸ばしてきたがんばカンパニーだが、もちろん施設内だけの製造能力には限界はある。レベルの差すらあれ、その問題は他施設の状況と基本的には変わらない。しかし大手建設会社の生産管理室出身である中崎所長にとって、「製造能力の不足」を解決する手段として企業への「外注化」を考えるのは当然のことであった。

「一億円を超えたあたりから、現状の設備では限界を感じてきたので、私たちのレシピをまったく同じように再現してくれる企業に対して外注するようになりました。外注というと言葉は悪いですが、協力企業、提携企業というイメージですね」

施設が大量の受注をこなすためには一施設の能力では限界があり、共通レシピを複数施設によって分担して製造していこうという「共同受注・共同製造」のテーマが、セルプセンターでも語られて久しい。いくつかの地域ではやっと根付いてきたこの製造システムだが、食品の場合、質の管理という点で問題を多々抱えているのが現状だ。しかし中崎所長は、「徹底した勉強会と、現場に入り込んだ生産指導によって、相手に基本的な設備さえあれば、質の管理はそんなに難しいものではありませんよ」とさらりと語っている。

彼女の言葉が大げさではないのは、生産パートナーを企業だけでなく、滋賀県内の障害者施設へと増やしている点からも頷ける。「企業に発注する方が、もちろん管理上は楽ですよ。でも私たちは、自分たちだけが成功すればいいという考えは持ってないのです。地域の中にもたくさんの施設があります。同じ養護学校を卒業した同程度の障害者が、就職先に選んだ施設が違うだけで給料が10倍も違うなんてことは悲しいことじゃないですか」

かくしてがんばカンパニーでは、現在の自社工場のクッキー製造能力は220kg(日産)というレベルまでたどり着いた。一袋あたり95gとして、2,300袋を1日で製造できる計算だ。もちろん受注さえあれば、多くの協力企業とタイアップして製造能力を無限に増やすことは可能だし、来年には自社工場を建て替えてさらに大きな生産体制も作り上げる計画になっている。

法人の基本理念は「人生をみんなで一緒に奏でよう」

共生シンフォニーのもう一つの事業の柱が、生活介護事業として位置づけられているまちかどプロジェクトだ。これはもともと法人の設立メンバーたちが中心となって、クッキー事業の拡大と共に「障害特性上、生産に向かない人たちのニーズ」を集約した事業体だ。クッキー製造というのは徹底した労働集約型産業であり、生産労働系の代表でもある。しかし「働く」という言葉を考えたとき、「自らが稼ぐ」だけではなくて「公共の利益のために働く」という選択肢もあってもいいのではないか? 「稼ぐ」仕事の代表ががんばカンパニーなら、稼ぐことを目的としないで社会に対するメッセージの発信、人権啓発を目的とする活動もまた大切な仕事である。そう考えたメンバーたちが立ち上げた組織がまちかどプロジェクトなのである。

「稼ぐ」ことを目的としないので、給料は0円から6万円までさまざまだ(それでも平均給料が3万円という数字になっているのが、さすが共生シンフォニーらしい) 。事業内容としては、それぞれが持っている能力を駆使した活動のため、参加するメンバーによって多種多様となる。障害者の人権について語る人がいれば有料で講師として出かけていくし、「まちプロー座」という名の障害者演劇一座として公演活動も実施する。手話パフォーマーとして手話唄ライブや手話教室をおこなう人もいれば、エッセイ本を書くために全国を飛び回っている人もいる。いずれも現代社会の賃金稼得になじみにくい障害を持った人たちが、活き活きとした生活を送るために作られた組織なのだ。

まちプロー座公演写真「ありがとう〜気づいて 気づかせて そして・・近くにいてくれて」(滋賀県理容組合共同企画)

共生シンフォニーという言葉には、「人生をみんなで一緒に奏でよう」というメッセージが込められているという。「シンフォニー(交響楽)は、色々な楽器で一つの音楽が完成します。形も色々なら音色も色々、音の大きさも色々です。どの楽器が抜けても一人だけが大きくてもよい曲にはなりません。みんなの力を合わせて素晴らしい曲を完成したい。そんな思いの中みんなで頑張っています」(法人パンフレットより)

中崎所長を中心とする卓越した経営手腕によって、製菓作業所としては全国でも飛び抜けた存在のがんばカンパニーの事業成果に目が向きがちであるが、法人全体がめざしているものは「障害者が働く」ということに対する徹底した理想像の追求である。福祉制度の上に胡座をかくことなく、むしろ福祉施設でもここまでの経営が実現できることを実証している関係者たちに、最高の賛辞と敬意を表したい。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。