社会福祉法人あゆみ福祉会(滋賀県東近江市)

「工房しゅしゅ」の酒粕チーズケーキで滋賀県の魅力を世界に向けて発信する

あゆみ福祉会の概要

あゆみ福祉会は、あゆみ作業所(就労継続支援B型事業)、虹彩工房(就労移行支援事業)、スマイル(生活介護事業)等の障がい者就労系事業を運営する社会福祉法人である。作業内容は、ボルト作業・さをり織り(ヤマト班)、出向業務・バリ取り・ふきん製造(さくら班)、プラスチック製品の回収分別破砕・草取り・農業(エコ・ドリーム班)、古紙回収・サス枠磨き・ホチキス取り・アルミ缶回収(ながれぼし班)、菓子製造販売(工房しゅしゅ)、施設外就労・調理訓練・ショップ販売(虹彩工房)、アルミ缶つぶし・キャップ選別・駅メンテナンス(スマイル班)、配線通し・チラシセット・パソコン作業・作業所内のタオル交換(ミッキー班)と、多様性に富んでいる。

この中でもここ数年であゆみ福祉会を代表する事業に成長したのが、「工房しゅしゅ」だろう。2011年に「湖のくに生チーズケーキ」を発表するやいなや、オリジナリティあふれる製品の素晴らしさが注目を集め、あっという間に全国に広まった。しかも、評価された舞台が凄い世界ばかりだ。滋賀県商工観光労働部「ココクールマザーレイク・セレクション」選定(2012年)、観光庁「世界にも通用する究極のお土産」選定(2013年)、経済産業省「The Wonder 500」選定(2015年)...と、次々に一流の商品セレクションの仲間入りを果たしている。もはや優れた福祉施設製品というレベルをはるかに超えて、滋賀県を代表する土産物として認知されつつある。

  • 「あゆみ作業所・スマイル」の外観
  • 「菓子製造販売(工房しゅしゅ)」の外観

「湖のくに生チーズケーキ」とは?

ところで、そんな「湖のくに生チーズケーキ」とは一体どんな商品なのだろう? まだご存じない方のために簡単に説明しておこう。これは、酒粕とクリームチーズを混ぜ合わせた画期的なスイーツである。商品開発を担当した工房しゅしゅ責任者・大野眞知子さん(62歳)は、製品が生まれた経緯を次のように説明する。

「滋賀県は山々から琵琶湖に注ぎ込む清流に恵まれているため、美味しいお米がとれ、酒づくりも盛んに行われてきました。県内には35の個性豊かな酒蔵があるのです。地産地消という観点から、県内の酒蔵とコラボした商品が何か考えられないかと思いました。そこで目をつけたのが酒粕です。酒粕というのは、地酒以上に個性豊かな風味の塊。同じ発酵食品だから、チーズとの相性も抜群のはず。男性にも喜ばれるようなスイーツをめざして、一年以上も試作を繰り返してやっとできたのがこの生チーズケーキです」

酒造りの副産物である酒粕は、栄養も豊富で日本の伝統的な食品だ。しかし最近の若い人たちには馴染みが薄く、消費量も年々頭打ちになっている。そこで大野さんは地元「喜多酒造」に相談を持ちかけてみると、障がい者の支援になると同時に「酒粕の新たな活用法としても期待できる」と喜んでくれた。最高級の大吟醸酒の酒粕が提供されることになったのである。

さらに滋賀県社会就労事業振興センター(当時)の市田恭子さんとの出会いにより、そのままでは単に珍しい酒粕スイーツにすぎなかった商品が、「湖のくに生チーズケーキ」としてグレードアップした。市田さん率いる「チームコッコリ」が、酒粕チーズケーキの可能性に惚れ込み、製品ブランディングをゼロから見直してくれたのだ。販売ターゲットを明確に設定し、それに従ったデザイン・販売戦略・広報戦略をゼロからつくり出していく。滋賀を代表するお土産とするための高級感あふれるパッケージ。「喜多酒造」だけでなく滋賀県内6カ所の酒蔵から酒粕を提供してもらい、微妙な味の違いを楽しんでもらうという商品ストーリー。お酒の銘柄を焼きつけたオリジナルお猪口に生チーズケーキを詰めるというアイデア。すべてが会議を進める中でメンバーから提案されていったのである。

「市田さんたちのおかけで、私たちがこれまで考えもつかなかった世界を相手に勝負したいと本気で思えるようになりました。売れる商品はこうやってつくられていくのかと、本当に勉強になりましたね」

と、大野さん。ブランド戦略に沿って、商品は大津プリンスホテル、琵琶湖花街道、岩田屋三越等々、一流の舞台だけの販売をめざし、みごとにそれを実現させていった。その後も、日本橋三越、渋谷ロフト、東急ハンズ、渋谷パルコ等々、東京での販売会も続々決定するほか、百貨店のお中元商品としての取り扱いも始まっている。

  • 湖のくに生チーズケーキの商品画像
  • スタッフのラベル貼り梱包風景

蔵元もビックリ。あっという間に全国区の商品に

「湖のくに生チーズケーキ」の最大の特色は、サブタイトルに「滋賀の地酒きき酒粕」とあるように、「利きチーズケーキ」を楽しめるように工夫されているところにある。メイン商品であるプレミアム6個セットの商品は、喜楽長きらくちょう(東近江市)七本鎗しちほんやり(長浜市)まつつかさ(竜王町)萩乃露はぎのつゆ(高島市)美冨久みふく(甲賀市)浪乃音なみのおと(大津市)という滋賀県を代表する日本酒6銘柄のロゴが焼き付けられたホンモノのお猪口が、チーズケーキの入れ物となっている。酒粕には、蔵元によって色や香り、味に微妙な違いがある。そのため、まるで利き酒をするような感覚でそれぞれのチーズケーキの味を楽しめるというわけだ。酒粕は日々熟成が進んでいくため、クリームチーズとも調和し、日が経つにつれて味はまろやかになっていくのだという。

工房しゅしゅに酒粕を提供する蔵元を代表して、美冨酒造株式会社(創業98年)の藤井範行社長にお話を伺ってみた。

「酒粕を使ったスイーツというのは最近いろいろ開発されていますから、大野さんから打診されたときは特別驚きはしなかったですね。むしろ、その後の動きにビックリしています。当初は福祉施設の製品だから、それほど大々的に販売されないだろうと高をくくっていました。ところが、発売以来あっという間に全国区の商品になって、メディアからの取材もひっきりなし。おかげさまで私のところにも何度も取材クールがやって来て、当社の良い宣伝にもなっています(笑)。ウチが提供しているのは、純米大吟醸の酒粕。香りと風味が豊かなところが特徴ですので、それをチーズケーキにそのまま活かしていただいてとても嬉しいです。県内の他の酒蔵さんとのコラボは、私たちにはとても刺激になる活動です。これからも伝統を守った美味しい酒造りを続けていきたいですね」

  • 工房しゅしゅ責任者・大野眞知子さんと美冨酒造株式会社の藤井範行社長
  • 創業98年|美冨酒造株式会社の外観

世界へ向けて、専用店舗もオープン!!

「湖のくに生チーズケーキ」の発売から4年。現在では、「湖のくに酒粕ビスコッティ」や「湖のくに焼チーズケーキ」等、焼き菓子の販売にも力を入れている。さらに昨年(2015年)の5月、念願の専門工房&ショップがオープンした。建っているのは、観光地である近江八幡駅からは車で15分程度離れた田園風景の中。しかし古墳やハイキングコースとしても有名な雪野山の麓であり、名神高速蒲生スマートインターが完成したため今後は観光の拠点としても期待されている地区である。近江といえば、全国一の人気を誇るバームクーヘン製造拠点のクラブハリエが一大観光名所だが、工房しゅしゅの店舗をそれに負けない知名度に育てていくのが大野さんたちの目標だ。

それは、決して誇大な夢とは言い切れない。著名メディアからの取材依頼が今も続々と舞い込んでいるためだ。「日経トレンディ」には、2015年ヒット予想商品にランキングされているし、「るるぶ滋賀県版」にはクラブハリエのバームクーヘンと並んで滋賀県名物スイーツとして大きく取り上げられている。テレビでも「満天☆青空レストラン」「メレンゲの気持ち」(日テレ系)など、全国区の番組で何度も紹介された。その都度大きな反響を呼び、全国からの注文が相次いでいる。

文字通り「世界にも通用する究極のお土産」としての動きも着々と進んでいるようだ。2014年には、マレーシアのクアラルンプール伊勢丹にて開催されたイベントに出店。日本酒ブームに沸く現地の人たちの間で、新しい感覚の酒粕スイーツは大きな反響を呼んでいる。これをきっかけにして、関西国際空港での販売も視野に入ってきた。海外への玄関口としての空港売店で、本物志向の酒粕チーズケーキを大々的にアピールしようという計画だ。

さらに「The Wonder 500」に選定されたことから、経済産業省が進める「世界にまだ知られていない、日本が誇るべき優れた地方産品」を紹介する海外での商談会に出品できる権利も獲得した。アメリカ、台湾、香港での展示会にはさっそく参加する予定であり、さらなる飛躍が期待されている。

「さまざまな人との出会いが、私たちの商品を大きな舞台に担ぎあげてくれました。これからは恩返しの意味でも、あらゆる要望にお応えできるような動きを進めていきたいと思います。現在、45,000円になった工房しゅしゅの平均月額工賃を、最低賃金まで引き上げるというのも大きな課題ですね。ブランドに恥じないだけの利用者工賃を保証できる事業に成長させたいです」

と、大野さん。あゆみ作業所の寺川登施設長も、法人全体の期待を背負うこの事業を将来は就労継続支援A型事業にしたいと語ってくれた。

  • あゆみ作業所|寺川登施設長
  • 工房しゅしゅの店内画像

「工房しゅしゅの事業が拡大することで、あゆみ作業所全体にも好影響を及ぼしてくれます。現在、近隣取扱店への配達を施設内の他班が請け負えるようになりましたし、今後は商品のシール貼りやチラシ折りといった作業も代行できるようになるでしょう。将来、工房をA型事業にできれば、他の利用者たちの大きな励みにもなるはずです。福祉の世界の常識をはるかに超える急激な成長ぶりに困惑もしていますが、まわりの期待に応えられるようにサポートしていきたいですね」

滋賀県を代表するお土産から、世界に向けたジャパンスイーツへと成長し続ける「湖のくに生チーズケーキ」。福祉施設でもここまでスゴイ商品がつくれる代表事例として、今後の動きにますます注目してほしい。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。