社会福祉法人なづな学園(京都府京都市)

ねこシリーズの陶器群が大人気、「京都市かしの木学園」の陶芸事業,

社会福祉法人なづな学園の概要

なづな学園は、知的障害者通所授産施設「なづな学園」、知的障害者通所授産施設「京都市かしの木学園」(どちらも新体系未移行)を中心にして、障害者支援サービス事業をおこなう社会福祉法人である。二つの通所授産施設の他にも、「ホームかしの木」「ホームみどり」「ホームなづな」「ホームななくさ」等の知的障害者ケアホームや、居宅介護事業「サービスセンターふらっぷ」、「上花田コミュニティセンター(業務一部受託)」等を運営する。

法人が運営する二つの授産施設のあり方は非常に対照的だ。「なづな学園」が、利用者も職員もすべて女性を中心とする構成で、センスある工芸品等の自主製品制作を中心作業としているのに対し、「京都市かしの木学園」では高い工賃をめざすために企業や団体とのタイアップによる各種下請け作業(土産物菓子箱の組み立て)や陶芸作業(観光地のかわらけ製造・土産物用陶器制作)を積極的に展開してきた。どちらの施設がおこなってきたのも、さすがに観光旅行客が多い京都という伝統的な街ならではの授産品目であるといえるだろう。

かわらけ製造を中心とする「かしの木学園」の陶芸事業

「京都市かしの木学園」の陶器事業のメインを占めるかわらけ製造は、地域密着型事業の典型例だ。かわらけとは、皿の形をした秞薬をかけていない素焼きの土器のことである。厄除けなどの願いを込め、素朴なこの土器を高い場所から投げ捨てる遊びが江戸時代に庶民の娯楽として広まった。現在でも有名神社のある観光地では、かわらけ投げを楽しむことができる。

京都府内でいうと、神護寺(右京区)、成相寺(天橋立)、比叡山、松尾神社(西京区)等である。どの会場でも高台から崖下に設置された福輪に向かってかわらけを投げるというのが、遊び方の定番になっている。土器には「厄除」の文字が彫られており、(1)投げて厄を落とし、(2)砕いて厄をはらい、(3)的を通して願いが叶う、という意味が込められている。

観光スポットでは、相変わらずかわらけ投げの人気は高い。日本三大名所の一つである天橋立に行った時に「股のぞき」と共に、成相寺山頂のかわらけ投げを体験した人は多いのではないか。そんな京都府内の人気観光地のかわらけのほとんどを、「京都市かしの木学園」が製造しているわけだ。その数量たるや、一年間で170ケース。枚数にして、136,000枚になる。最近では環境問題の高まりにより納品数は減少気味だというが、陶器事業の売上や作業量の過半数を占める状況にあるのは変わりない。

オリジナルの「ねこシリーズ」がもう一つの柱

「京都市かしの木学園」の陶芸作業の中心がかわらけ製造ならば、代表的な商品(自主製品)が猫シリーズだといえるだろう。透明の秞薬をかけただけのシンプルな陶器に、丁寧に手書きの猫が描かれた製品群だ。ラインアップとして、丸皿、角皿、楕円皿、茶碗、鉢、湯呑み、マグカップ、フリーカップ、一輪挿し、箸置き、等々が用意されている。

猫の絵はさまざまなパターンがあり、一枚づつ微妙に形も表情も違っている。否、あくまで手書きなので同じ絵はまったくないといっていい。手書きが醸し出す優しい筆遣いが猫の表情に何ともいえない愛らしさを生み出す結果となり、女性たちに圧倒的な人気を誇っているのである。

一見現代風にも見えるこの製品だが、「京都市かしの木学園」設立当初から作られているというのだから、意外と歴史も古い。日本セルプセンターの前身である中央授産事業振興センターが運営していた福祉ショップ・パレットでも、オープン当時から「猫皿」が販売されており、多くの固定客を獲得していた。時代の経過と共にシリーズ化されて商品アイテムも増え、ますます親しみやすくなったようで、商品の魅力は以前にも増しているといっていい。

「京都市かしの木学園喜遊窯」の陶器は、「ハートプラザ京都」「ぶらり嵐山」「ほっとはーと」といった福祉ショップや、京都市内の土産物店等に卸している他、清水寺の前の五条坂で毎年実施される「陶器市」に参加して販売をおこなっている。どこの売り場でも観光客の注目をあびるのが、やはり「ねこシリーズ」だ。マーケティング的に考えても、京都を訪れる人たちの大半を占めるはずの女性顧客をターゲットとした素晴らしい商品群だといえるだろう。


  • 喜遊窯 くわばら焼

かしの木学園の陶器ができるまで

陶芸工房を見学させてもらうと、利用者たちが賑やかに仕事をしている姿に驚かされる。隣の人とおしゃべりしている人、私たちにはわからない言葉を一人でつぶやいている人、元気よく私(=外部から来たお客さん)に語りかけてくる人、スタイルはさまざまである。普通、陶芸作業の現場というのは黙々と仕事に励んでいるところが多いが、ここではまったくそんな雰囲気はない。

基本的には、利用者たちが中心となって作業を分担している。陶芸作業のスタートは、まず粘土をこねる作業だ。これは、土練機という機械を使っておこなっている。土練機に粘土を入れて棒状にし、何度も(5回程度)これを繰り返すことで土の中の空気を抜く必要があるのだ。こうしてやっと陶芸に使える粘土が完成する。

次の工程は、精製された粘土を使った型押しである。作る製品によってさまざまな型が用意されている。その型に粘土を押し込む作業にも、固まりの粘土を一個分だけちぎって渡す人、渡された粘土を型に押し込む人等、それぞれの担当分野がある。各々の障害程度にあわせて細かく作業が分けられ、能力の範囲で仕事に参加できるようになっているである。

型に押し込められた粘土を成形するのは、ろくろ係の担当だ。ろくろ係は、陶芸作業のまさに花形である。高速で回転するろくろ上の粘土にヘラを押し当て、思い通りの形に仕上げていく技術を習得できるまでには、相当の時間を要したに違いない。賑やかな職場ではあるが、唯一、ろくろ係だけは真剣な表情で黙々と仕事をこなしている。限度を超えて騒ぐ人たちに対しては注意を促す現場監督の役回りも演じるほどだから、この仕事に対する誇りと自信を持っているのだろう。

ろくろの後は、皿に文字を刻印したり(かわらけの場合)、台に並べて乾燥させたり、仕上げのサンドペーパー作業などが続いていく。すべて利用者だけの見事なチームワークによる連携作業である。このように「京都市かしの木学園」の陶芸作業は、「焼き入れ」以外の工程をできる限り利用者に主体的に関わらせるように取り組んできた。とくにかわらけ製造は、一般陶器と比較するとそれほどの厳密性を求められないため、ほぼノーチェックで彼らに任せることができる。何十年も工房で働いているベテランになると、自分の担当分野については職員よりも技術が高い人も多いらしい。入社してきた新人職員たちは、利用者たちに陶器の作り方を教えてもらうのである。

ねこシリーズ製造のための治具の数々

「京都市かしの木学園」の課題は、利用者たちの高齢化であろう。開設からすでに40年が経つ古い施設である。利用者たちの平均年齢も年々上がってきて、高齢化の対応に迫られている。先日もろくろの名人としてもっとも高い技術を持っていた利用者が病気で突然亡くなるという悲しいニュースがあり、現場は生産工程の変更を余儀なくされたのだという。長い間仕事を続けてきた一部の職人技術に寄りかからず、今後はどんな利用者でも平均的に仕事がこなせるような作業分担化が求められている。

そのために大切なことが、治具の開発である。とくにねこシリーズの陶器を製造するためには、かわらけよりワンランク上の技術が必要らしい。丸皿や角皿の縁を折り曲げる「手びねり」という工程だ。皿の原型となる薄く切断された粘土(タタラ)の縁を起こしていく作業で、単純なようでいて意外と難しい。皿の中心部をしっかりと把握して、全体の大きさがゆがまないようにゆっくりと曲げていかないといけないからである。

これまではまったくの目見当でおこなってきたこの作業を、より多くの利用者たちに担当してもらえるように、オリジナルの治具を開発した。といっても、皿の大きさにあわせた木の台を用意しただけなのだが、これがあることで皿の中心がどこかを意識することができる。また台になっているので、皿をひっくり返す作業も楽になった。結果としてこれまで一部の利用者にしかできないと思われていた「手びねり」作業を、多くの人たちに分担してもらうことが可能になったのである。

「施設の方針として、基本的に作業は利用者が主体的に関わってもらおうと考えています」と語るのは、主任支援員の南さん(52歳)だ。「作業効率だけ考えたら、職員がやってしまった方がいいのは当たり前です。でも作業を肩代わりするのが私たちの仕事ではありませんからね。いかに利用者たちの能力を見いだして、少しでも多くの作業に参加してもらうようにするか。それが最も大切なことです。時間はかかるかもしれませんが、一度覚えてしまうときっちり丁寧に作業を担当してくれるようになるんですよ」

全国のねこフリークをターゲットにした販売活動を

バブル崩壊後、陶器業界は年々厳しい状況が続いている。全国の障害者施設でも、陶器事業を廃止してしまったところも数多いという。「京都市かしの木学園」においても、厳しい事業状況なのは同様である。販売会での売上は激減しているし、かつては高値で販売できた登り窯陶器等もなかなか売り手が付かない状況なのだ。

そんな中、この施設の強みは、何といっても「ねこシリーズ」の存在に尽きるのではないだろうか。設立以来ずっと作り続けている歴史があり、シンプルすぎるほどのキャラクターデザインもかえって魅力的である。今後の陶器部門の活性化を考えたときに、この製品群をいかに全国的に売り込んでいくかが鍵となるような気がする。

現在陶芸部門を仕切っている渡邊豊さん(26歳)は、自身も絵を描く趣味を持つという若者だ。いかにも今時のポップなアーチストという雰囲気を呈しており、味のある直筆の手書き文字で製品のポップや紹介カードなども制作している。こうしたセンスある担当者が新しいアイデアを加えることで、伝統ある「ねこシリーズ」にも新たな展開が見えてくることだろう。

「猫好きの女性たちは、とことん猫グッズを集めるのが大好きなんです。そんな人たちに上手くアピールする製品をもっと開発していけたらいいなと思っています。京都の土産物店だけでなく、東京や大阪の猫フリークたちに製品情報をいかに発信していくか。これが最大の課題でしょうね」

ヒントは、昔「京都市かしの木学園」で受注したというオリジナル製品にある。ペルシャ猫の国際大会で入賞したという人から、入賞記念に知人に配る記念品を依頼されたのだ。しかも、通常のネコ皿の猫の絵を、できる限り写真の猫に似せて描いてほしいという注文であった。実にやっかいな仕事だが、これこそが猫好き人間の典型例とでも言おうか。このような仕事例をもっとアピールしていくことで、きっと潜在ファンを獲得できるに違いない。

かつてはボーナスとして10万円以上を支給できた時代もあっという「京都市かしの木学園」(平均工賃自体は、12,000円程度で変動はあまりない)。そんな黄金期の再来のためにも、なんとかオリジナルのねこシリーズで活路を見いだしたいところだろう。シンプルながらもしっかりしたキャラクターの魅力がある素敵な商品群である。猫好きはもちろんのこと、現代のカワイイもの好きな若者たちにもきっと受け入れられる商品だと思う。

(写真・文/戸原一男)

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社会福祉法人なづな学園(京都府京都市)
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