社会福祉法人青葉仁会(奈良県奈良市)

オンリーワンの心を製品に込める「デリカテッセン イーハトーヴ」

青葉仁会の概要

青葉仁会は、「あおはにの家」(知的障害者入所授産施設)/「萌あおはに」(知的障害者入所更生施設)/「水間ワークス」(知的障害者通所授産施設)/「日笠ワークス」(生活介護事業・就労移行支援事業・就労継続B型事業)/「デリカテッセン イーハトーヴ」(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)等の施設を運営する社会福祉法人である。また、地域支援事業としてグループホーム・ケアホームを5棟運営する他、居宅介護事業・行動援護事業・重度訪問介護事業等の訪問系サービス、気軽に各種専門情報を提供する相談支援事業、短期入所事業等、地域の障害者やその家族が安心して暮らせるようなサポートを多方面において展開してきた。

法人が位置するのは、大和高原に囲まれた恵まれた自然環境の中である。こうした立地条件を活かし、障害児たちのスクール(春・夏・冬の長期休暇を利用した日中活動特別プログラム)、森の学校(障害を持つ中・高校生を対象とした自然体験活動)なども積極的に実施しているのが特色であり、自然の中で家族と触れあう場を作ることを目的としたゲストハウスなども用意されている。利用者に「安らぎと希望を与えること」を使命とし、バイタリティ溢れる人格形成を目的としてさまざまなサービスが提供されているのである。

オシャレな法人イメージのシンボル「ハーブクラブ」

青葉仁会のイメージシンボル的存在の事業が、「水間ワークス」が運営しているレストラン「ハーブクラブ」だ。三重県方面から奈良市内の名所につながる緑豊かな国道沿いに、二棟の三角屋根のログハウスが建っている。木のぬくもりが感じられる吹き抜けのカフェ、周りの自然を満喫できるテラス、薪で火をおこして美味しい料理を提供している手作りの石窯、等々。観光地らしい実にオシャレな空間であり、とても福祉施設が運営するレストランとは思えない。

もちろん提供する料理にもこだわっている。石窯で焼かれたスペアリブや国産鶏もも肉のランチセット。地元産のハーブや野菜がたっぷり乗った石窯ピザやパスタセット。米粉パンを使ったサンドイッチやトーストセット。カレーライスも、このレストランの名物料理の一つだ。複数のスパイスをブレンドし、香り豊かな味わいの8種類のインド風&タイ風カレーは、試行錯誤の末に専門店シェフの監修を経て完成した逸品である。

開店当初から「利用者がいきいきと働ける場、地域と福祉とを結びつける場」という思いからオープンしたレストラン事業は、現在では曜日を問わず多くの一般客の方や、近隣地域の方が利用している。店の前の国道はバイクや自転車の格好のツーリングコースとなっている立地も幸いして、土日のランチは毎週大混雑。店の前には「待ち」が出るほどの盛況ぶりなのだ。

「モンベルショップ」「ブルーリーフ」というショップの存在も、「ハーブクラブ」の人気を高める要因になっている。「モンベルショップ」は、青葉仁会の提携企業であるアウトドア用品の専門店であり、「ブルーリーフ」は法人内他施設で製造された「あはおにGOODS」が所狭しと並ぶお土産ショップである。

人気アウトドアメーカーの専門店がオシャレな店作りなのは当然としても、横に並ぶ「ブルーリーフ」の製品構成もファッション性ではひけをとっていないのが素晴らしい。ポストカード・Tシャツ・ノート等のアートグッズ、陶芸品、ハーブ石けん、カントリー風の木工製品、ハーブティー、土産ケーキ、クッキー、黒米、レトルトカレー...。見ているだけで楽しくなってくる。

このように、訪れた人がみな美味しい料理や楽しいモノで満喫し、素敵な時間を過ごさせてくれる空間、それが「ハーブクラブ」だ。いまや年間の集客数は三万人以上となり、近隣県からもこの地を目的にドライブでやって来るほどの観光スポットに成長しているのである。

「ハーブクラブ」で大人気のカレーを、レトルトにして製品化

「ハーブクラブ」で大人気のカレーをレトルトパックにして製造販売するという事業所が、2010年より新たにスタートした。多機能型障害者福祉サービス事業所「デリカテッセン イーハトーヴ」である。レストラン等のメニューとしてカレーの製造を手掛ける施設は全国では多いだろうが、レトルトカレーの製造となると珍しい。どうしてこのような事業を始めることになったのであろうか? サービス管理責任者・井西正義さん(32歳)は次のように語っている。

「もともと『あおはにの家』で業務用冷凍カレーの製造を請け負っていたので、カレー作りのノウハウを持っていたのが大きいですね。冷凍カレーの事業は好評でしたが、売上をさらに拡大するには保存性の問題がネックでした。レトルトにすることで、対象となるユーザー層がぐっと広まります。これまでの飲食店関係だけでなく、スーパーなどの店舗にもおけますし、通信販売も可能です。幸いレトルトカレーブームで、美味しいカレーなら高くても購入してくださるお客さんがいる時代です。そのため『ハーブクラブ』で提供している高級カレーの味をそのままレトルト化することを思いついたのです」

事実「デリカテッセン イーハトーヴ」のレトルトカレーは「世界にひとつだけのカレー」と銘打ち、スパイスを効かせた本格的な製品である。グリーンカレー・レッドカレー・野菜カレー・キーマカレー・チキンカレー・ひよこ豆カレー・ココナッツ海老カレー・牛肉カレーと、8種類の豪華なラインアップは店のメニューと同様だ。原料のスパイスから厳選し、素材の美味しさを活かした味付けと大きな具材がたっぷり入ったボリューム感は、世の中に出回る高級レトルトカレーのどれと比較しても決して負けないほどの高い品質を誇っている。


(パッケージ写真より)

パッケージもまた素晴らしい。「緑」「赤」「菜」「挽肉」「鳥」「豆」「海老」「牛」と、それぞれのカレーの特色をシンプルに表現した漢字をメインにし、裏に掲載する写真はスタジオで撮影した。撮影自体はプロのカメラマンに依頼したというが、カレーの具材や香辛料などを料理の周りに配置するスタイリングはすべて自分たちでおこなったというのだから、恐れ入る。美味しそうなカレーの香りが漂ってくるようであり、消費者の購入心理をくすぐるレベルの高い広告写真に仕上がっている。

このようなデザイン戦略の確かさは、青葉仁会の製品に共通する特徴の一つとも言える。レトルトカレーは一般の市場に打って出る初めての商品のため、他社製品のデザインや流行などを担当者が集まって時間をかけて研究した結果なのだという。「ハーブクラブ」では人気メニューでもあっただけに、そのブランドイメージを守りたかったというのもあるだろう。完成したパッケージのデザインは、高級レトルトカレーという商品イメージを十分表現できている。

地域の素材を活かしたオリジナルカレーも、次々に実現

「デリカテッセン イーハトーヴ」におけるレトルトカレーの作り方は、実にシンプルだ。ほとんど機械化されていない工場では、職員と利用者たちが細かい作業を分業しておこなっている。

その工程は、(1)野菜や肉などをカットする下処理、(2)巨大な鍋にスパイスや調味料を入れて調合するスープ調理、(3)具の計量とレトルトパックへの袋詰め、(4)具が入ったパックにスープを注入する充填作業、(5)パックのシーティング、(6)パックの検品、(8)高温高圧調理殺菌装置によるレトルト加工、(9)X線異物混入検収器によるチェック、という流れになっている。

大手メーカーのレトルトカレーだと、スープや具の充填を機械化している場合が多いのだが、「私たちが作っているカレーは具が大きすぎるし、スープもサラサラ(欧風カレーのように、小麦粉等で固めていない)。手作業じゃないと、こんな手間暇かけたカレーはレトルトで作れません」(井西さん)とのこと。

実際に食べてみると、それぞれの具材の大きさやスパイシーな香りに「これがホントにレトルトカレーなの?」と驚かれる人が多いだろう。1箱420円というレトルトにしては強気の値段設定だが、食べてみれば十分に納得がいく。

奈良県内でもレトルト加工ができる高温高圧調理殺菌装置を保有している企業そのものが珍しいため、現在では多方面の企業・団体からオリジナル製品開発の打診が舞い込んでいるという。しかも単なる企業の下請けとしてのOEM製造ではなく、地方の食材を活かしたオリジナルカレーの製造が中心だ。

たとえば、猪の町として有名な平群(へぐり)の道の駅からの依頼で開発した「イノシシカレー」、有名なタイ料理店ラホツと組んで奈良時代にあったとされるカレー料理を再現した「一三〇〇年カレー」、京都府立大学、医科大学生協とのコラボで開発中の「丹後のシカ・イノシシカレー」など。

「一三〇〇年カレー」などは、平城遷都1300年にちなんで作った観光用商品(遷都くんのキャラクターマーク入り)でもあるのだが、奈良県出身のタレント堂本剛(Kinki Kids)観光大使がメディアで紹介すると、ブログやツイッターを通じて東京の若者たちの間で大ブレイク。なぜか奈良県内よりも東京からの注文がひっきりなしに寄せられるようになったのだという。

レトルトカレー事業の拡充で、高い工賃の実現も期待

本年度の「デリカテッセン イーハトーヴ」の売上予想は、約5,000万円である。さまざまな事業を展開している青葉仁会の中でも、売上規模としては卓越した存在だ。そのため高賃金をめざした事業所として、規模も拡大していく予定である。来年からは現状の2事業(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)に加えて、さらに就労継続支援A型事業と自立訓練事業の開始も決まっている。

「事業が好調なのは喜ばしいのですが、利用者に対して細かな福祉支援を行っていくことも私たち職員の大切な役割になります。現場作業を通じて仕事のルールや社会常識をいかに伝えていくかということですね」と、井西さん。単に工賃や商品力アップを考えることだけが福祉サービス事業所の役割ではないことを強調する。「もちろんこれからの時代は、福祉サービス事業所として経済的支援をもっと前面に打ち出していく必要があるのも事実です。その意味では、青葉仁会としてもレトルトカレー事業が新たな流れを生みだしていくのではないでしょうか」

今後のカレー事業の展開には自信を持っているようだ。さまざまな企業・団体とのコラボレーション製品を次々実現していく一方で、「内需拡大」ともいうべき福祉施設との提携策も積極的に模索している。具体的には、飲食店を経営する福祉施設が全国に増えていることに目を付け、そこに「デリカテッセン イーハトーヴ」のレトルトカレーを業務用として使ってもらおうという作戦だ。

味には自信があるし、複数の本格カレーが店のメニューに加わればどこでも話題になることは間違いない。それはすでに「ハーブクラブ」での実績が証明済みである。原材料費としての一食あたりの単価が高くなったとしても、付加価値アップとロス率ダウン、何より現場のオペレーションの効率化を考慮すると、それぞれの店のためになるのではないか? そんな観点から全国の福祉施設系喫茶店をチェックしては、積極的に営業活動を実施しているらしい。

今後の夢は、カレー以外のレトルト製品への展開だ。技術的には、とくに問題はない。カレーで培った「煮炊きもの」製造の技術を活かせば、スープ類、リゾット、おかゆ等、さまざまな商品がすぐにでも製造可能なのである。

「レトルト食品製造工場としては、本当に小さい規模なんですよ。でもその小ささがウチの最大の武器。これからも多品種小ロット、そして高品質の手作り製品にこだわっていきます。カレー以外の製品アイテムも増やして、億単位の売上を近いうちに実現させたいです」

いわゆる「福祉色」の雰囲気がまったくない製品だけに、営業力次第で売上を伸ばしていくのはそれほど難しいことではないだろう。青葉仁会ならではの技術とセンスが込められたオンリーワン製品。「世界にひとつだけのカレー」が全国的にSMAPの歌のような存在になるのも、決して夢物語ではないような気がする。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。