社会福祉法人スミや(和歌山県和歌山市)

花王製品の充填・セット作業で、驚くべき高賃金を実現する「和佐福祉工場」

行政・企業・地域が三位一体となって運営する和歌山方式

スミやは、就労継続支援A型事業所「和佐福祉工場」を運営する社会福祉法人である。

工場の設立は、1991年に遡る。当時の仮谷志良県知事の強い意向により、花王株式会社の協力を仰いで重度障害者のための福祉工場を設立することが決まったのである。当時すでに和歌山県にはパナソニック(設立時は、松下電池)と共に設立した琴の浦福祉工場があったが、それに続く流れであった。 大都市圏以外で、県内に二つの福祉工場が設置されている事例は全国的にも珍しい。しかも行政・企業・地域が三位一体となった「和歌山方式」とも言われる運営法によって、全国でも有数の高賃金を実現する福祉工場となっている。

現在の従業員数は、24名。重度身体障害者等を中心とするが、若干名の知的障害者も含まれている。平均年令は33.4歳と比較的若いのも特徴であり、平均在職期間約10年の障害者従業員に対し、月額平均18,5万円(賞与等込)の賃金を支給する。最低賃金は当然大幅クリアであり、社会保険・雇用保険等の他にも諸手当(住宅手当)・定期昇給・賞与(夏冬)、さらには中小企業退職金共済制度にまで加入している。まさに一般の企業とかわらぬ雇用体制を実現した福祉工場なのだ。

花王株式会社の全面協力の下で運営される福祉工場

ところでスミやの角谷昭一理事長は、医療法人スミヤの理事長も兼ねる現役のドクターである。どうして和歌山県は、あえて医療法人の理事長に福祉工場の設立を要望したのだろうか?

「当時は誰も重度障害者の福祉工場がうまく運営できるなんて思っていなかったからでしょうね」と話してくれたのは、角谷美智子施設長(65歳)である。「設立を熱望した和歌山県自体、運営には相当の資金が必要になると考えていました。でも赤字覚悟で引き受けてくれる人は、なかなか見あたらない。そこで和歌山市内でいくつかの病院を経営する現理事長に白羽の矢がたったというわけです。当初は純粋に社会貢献活動だと思って、お引き受けしたのですよ」

しかし和歌山県としても主体的に工場を設立した以上、失敗は許されない。そこで県内に全国最大級の製造工場を構える花王株式会社に、仕事の安定供給を依頼することになった。花王株式会社というのは、国連が提唱する「グローバル・コンパクト10原則」に基づく「花王ビジネスコンダクトライン」を設定するほど、CSR(企業の社会貢献活動)に積極的な企業としても有名である。今回の企画に参加してもらうパートナーとしては、格好の存在だった。

花王株式会社から発注されるのは、業務用シャンプー・リンス(ホテルなどで使われるミニボトル)の充填作業と、歯ブラシセットや旅行用セットなどの詰め合わせ作業である。シャンプー・リンスの充填作業には専用の機材と薬事法に基づく専門の資格取得者の常駐が義務づけられているのだが、これもすべて花王側からの提供だ。仕事についても基本的には年間計画に基づく発注がなされており、「和佐福祉工場」側では専門の営業職を用意する必要がない。まるで花王株式会社の特例子会社のような位置づけで、福祉工場の運営に全面的に協力してくれているのだという。

品質保証こそ、「和佐福祉工場」がここまで発展した秘訣

そうはいっても「和佐福祉工場」はあくまで独立した組織である。ましてや花王製品のセット作業というのは、ライバル業者も数多い。黙っていても仕事が発注されると安心していたら、年々他社に仕事を奪われていくことになる。単純作業ではあるが、セットミスや異物混入等は絶対に許されない。そんな厳しい環境におかれながら、仕事の品質を上げるための地道な努力を積み重ねてきた。

代表的なのが「セル方式」と呼ばれる独自の作業方式である。小原隆広職業指導員(39歳)は、次のように説明する。

「通常、このようなセット作業はベルトコンベア上に多くの作業者を配置するのが一般的ですが、私たちは一人ですべてのセット作業を完結するスタイルを採用しています。これによって作業者は、周りに惑わされずに自分のペースで仕事ができるわけです」

言うならば、作業効率よりも確実性。そして働く人たちの安定性を重視した作業方法というべきだろう。一般企業と比べて個人個人の能力格差も大きいため、それぞれの生産力が明確になるメリットもあった。従業員たちの賃金(賞与部分)は成果主義が採用されているため、作業能力が上がれば上がるだけ収入もアップするというモチベーションが生まれるのである。

異物混入などのミスを防ぐために、徹底されているのが工場全体の清掃だ。「和佐福祉工場」の玄関に足を踏み入れると、なによりもまず掃除が行き届いた建物の雰囲気に驚かされる。それは、花王のヘアケア・オーラルケア製品等の品質保持に全員が関わっているという意識を徹底させた結果である。

「歯ブラシセットの歯ブラシなどの場合には、ほんのわずかな紙粉が混じっていただけで、お客様からはクレームがきてしまいます。そのため専用服や工場入り口のエアシャワー、毎日の床掃除など、基本を徹底的に守るようにしています」と、小原さん。

こうした努力の甲斐あって、「和佐福祉工場」はとても清潔な工場として花王の協力会社の中でも一目置かれる存在になっている。綺麗な職場であれば、ミスが発生する危険性も少なくなる。平成22年度の実績でいえば、約500万個の商品を作り上げて異物混入がゼロ、段ボールのセットミスがわずかに一件だけという結果であった。

また、事故の少なさも驚異的である。平成7年12月16日から続く無災害記録を更新中であり、5,500日を超えた際には花王株式会社はもとより、和歌山県からも表彰を受けている。現在もこの記録は続いており(取材時:5,596日)、目標日数6,000日をめざすパネルが入り口に掲示されていた。

みんなの「働きたい」という夢を実現してくれた職場

「和佐福祉工場」で働く、障害者従業員の声を聞いてみよう。

「まだ3年目の新人です。先輩たちに仕事の仕方を教えてもらいながら、日々頑張っています。セットする商品の位置を変えるだけで、ものすごく効率が変わってくるのですね。もちろんそれぞれの障害の特性もあるので、自分にあった配置の仕方を考えなければいけません。もっとスピードをアップして、給料アップを狙いたいです。将来的にはひとり暮らしを考えていますから」(西山和摩さん:20歳)

「他にもいろいろな福祉施設を経験しているのですが、ここは自分のペースで仕事ができるので働きやすいですね。ベルトコンベアではないので、自分のミスが全員に迷惑をかけるといったプレッシャーもありません。精神的には、非常に楽ですよ。一人ひとりの作業量の違いがわかってしまうというデメリットもあるけれど、逆に私たちはそれをやる気につなげています。あの人くらい早く、仕事をこなすようになりたいという目標ですね。貯金が趣味でもあるので(笑)、もっともっと頑張ってお金を貯めていきたいと思っています」(西圭史さん:35歳)

「入社したころから比較すると、ボーナスは倍以上もらえるようになりました。こんな職場が和歌山県にあって、本当に幸せです。でもお金のことより、一人の人間として認めてもらえていることが、一番嬉しいですね。昔の私だったら、とても考えられません。子供のころは体のハンディのために、諦めてしまったことばっかりでしたから。でもここでは、働き手としての自分の居場所がちゃんとあります。毎日働くのはしんどいけれど、疲れて寝るのも生きている実感があります。これからは自分にできる恩返しとして、いろんなボランティア活動にも参加していきたいです」(中瀬朱(あや)さん:30歳)

話を伺ったメンバーに共通しているのは、仕事ができる喜びに満ちあふれていることと、さらに次のステップをめざす向上心だろう。年令が若いこともあるが、障害者施設としては全国でもトップクラスの賃金が彼らの心にゆとりを持たせているのは間違いない。角谷施設長も語っている。「仕事ができるようになると、性格がみんな丸くなっていい子になっていくのですよ。これはホントに不思議なことですけどね(笑)

障害者施設への仕事発注による「障害者雇用率カウント」の実現を

最後に「和佐福祉工場」の今後の目標について、平木照郎事務長(66歳)に伺ってみた。

「一番の目標は、安定的に現在の経営が続いていくことです。花王株式会社の歴代の和歌山工場長がいつもウチのことを大切に思っていただいているので、私たちは安心して仕事に打ち込めます。花王ブランドに恥じないようないい製品を作ることが、工場の安定につながるのだと毎日みんなを叱咤激励しているのですよ。

もう一つの目標は、花王さんに実利的なメリットをお返しできるようになることですね。花王さんが福祉工場に協力していただいている理由は、CSR 活動の一環ですから。そのためにも私たちは、早急に『障害者雇用促進法』の改正が実現することを願っています」

平成18年に改正された「障害者雇用促進法」によると、働く障害者を「仕事の発注で支える企業」に対して「発注促進税制」と呼ばれる税制優遇制度や、近年増え続ける障害者在宅ワーカーに仕事を発注した企業に特例調整金や特例報奨金などが支払われる制度(厚生労働大臣が登録認定した在宅就業支援団体を通じた場合)などが用意されている。しかし残念なことに、これらの制度はほとんど機能していないのが実状である。

なぜなら障害者雇用支援を望む企業がもっとも期待しているのは、減価償却の前倒しや若干の調整金よりも、「発注量に応じた障害者雇用率のカウント」だからである。花王株式会社はすでに法定雇用率をクリアしているし、独自に特例子会社を立ち上げる等の努力も重ねている優秀な企業である。しかしその上でなお、現在の「和佐福祉工場」への発注量がそのまま雇用率にカウントできる制度が実現すれば、さらに両者は確固たる関係になっていくはずなのだ。

平木事務長は力説する。「最近、全国の福祉工場の関係者も同じ意見を持つ人が増えてきたので、近いうちにこの制度が実現できると期待しています。そうすれば私たちも、もっと多くの障害者を雇用できるようになりますからね」

行政・企業・地域が三位一体となって運営する和歌山方式として、全国でもトップクラスの高賃金を実現させた「和佐福祉工場」。この方式がさらに全国に波及するためにも、制度のさらなる改善が早急に求められている。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。