社会福祉法人南風荘(山口県宇部市)

地域活性化のために、地元メンバーが結集して開発された「おごっそ蟹せんべい」

社会福祉法人南風荘の概要

南風荘は、「セルプ南風」「セルプときわ」「南風デイセンター」「ぴあ南風」「セルプ岡の辻」「セルプ藤山」の6施設において、生活介護・就労移行支援・施設入所支援・就労継続B型・自立訓練などの障害者就労支援事業や、地域活動支援・相談支援事業などのさまざまな活動をおこなう社会福祉法人である。

以前は周りから「ウエス南風」という愛称で呼ばれるほどウエス事業に力を入れてきたのだが、ここ数年の経済環境の悪化によって製造業からサービス業・飲食業への業態変化を法人として優先課題としてきた。その結果、寝具メンテナンス事業・観賞魚システムのレンタル・リース(東京リハビリとの提携事業)や、「ギャラリーショップ南風」「角打ち鍋島」「サンエトワール(焼きたてパンの店)」「全国福祉施設製品ショップ(仮称:市内ショッピングモール内に設置)」等の店舗運営にも力を注いでいる。

「角打ち鍋島」は、県内の地酒やビール、海鮮品などを扱った宇部空港内の立ち飲み屋であるし、「サンエトワール」はフジグラン宇部というショッピングモール内で事業展開していたパン屋を、機材も人材も含めて事業譲渡(いわゆるM&Aを受けたものだ。これらはすべて「福祉事業といえど、安穏としてはいられない。今後はこれまでにない発想で事業展開を図る必要がある(南風荘・小林俊明理事長談)」という法人の考え方から構築されている。既存の枠にはとらわれないユニークな取り組みやダイナミックな動きが、組織の特徴だといえる。

ウエスに代わる目玉事業を創出するための取り組み

そんな南風荘が、山口県の「障害者等地域モデル協働事業」に応募したのは、2002年のことだ。障害者や高齢者が地域でいかにして共に活動し、収益を得てそれぞれの生活の質を高めていくか。そんな目的で実施された事業である。障害者施設が「地域活性化」をキーワードにして、地域のメンバーとプロジェクトを組んでいくという企画が高く評価され、無事事業決定の運びとなる。直接のプロジェクトメンバーには南風荘の職員はもちろんのこと、宇部市商工会議所、宇部商業観光課の職員も参加し、プロジェクトリーダーには地元で活躍するグラフィックデザイナーが就任した。

本来はセルプ南風に隣接した福祉ショップ「ギャラリーショップ南風」を活性化させることを目的とした企画だったのだが、冒頭の議論で「売れる商品がなければ、店の活性化にはつながらない」という結論に至り、そのためには「新たな商品をゼロから開発しよう」という流れとなった。めざすところは、宇部市の新たな名産品として市内のあらゆる店舗で販売されるような製品を産み出すことである。

さまざまなアイデアが出された結果として、新商品は宇部市近海で採れる渡りがに(おごっそ蟹)をふんだんに使った煎餅に決定した。軽くて日持ちがし、老若男女問わない幅広いマーケットが存在する点も評価された。市内に同業社がいないという点も好都合だった。

施設製品ではなく「宇部を代表する名産品」づくりを目的としていたため、製品コンセプトにもこだわった。メンバーたちの徹底した議論から、「高級志向」「磯の香りがする」「歯ごたえある商品」「ネーミングの工夫」「懐かしさのある」「ストーリー性を明確化」「本物の味の追求」「パッケージへのこだわり」「手作りで製造」「福祉を前面に出さない」という考え方が生まれてきたのである。

2年間かけて味を作り出した商品開発

議論された新しい製品コンセプトを受けて、煎餅の味を作り出したのは南風荘職員の谷崎吉宏氏(33歳)である。大学の福祉科を卒業し、介護福祉士の資格も持つ福祉の専門家である彼が、現場を離れてプロでも難しいと思われる「まったく新しい味の煎餅づくり」というテーマに取り組むことになった。

「山口県産業技術センターの紹介で広島に煎餅専門の指導者がいることを教わり、基本的な技術を習いに行きました。そこで教わった技術を元に、県内の産業技術センターの機材を借りて毎日煎餅を試作し続けたのです。周りの職員の協力もあり、2年間はずっと毎日煎餅を焼き続けたでしょうか。福祉の現場のことをすっかり忘れてしまうほど、煎餅開発に没頭する日々でした(笑)。」

煎餅とは単純に言ってしまえば、主原料を混ぜて焼くだけである。しかしシンプルなものほど奥が深いのは、どの世界でも共通だ。原料の配合、混ぜるコツ、焼き方等々にはさまざまな方法があり、一つひとつ試してはノートに書き込み、コンセプトにあった製造法を研究していった。生地に混ぜるカニにも、生カニ、蒸しカニ、焼きカニなどの種類があって、どれを入れるかで風味がまったく違ってしまう。煎餅の焼き方自体にも、ガス、炭火、オーブン、電子レンジ等々が考えられるし、温度や焼き時間の検討も必要だ。「考えつく限りのすべての方法はすべてトライしたと思います」と、谷崎氏。

口にしたときのパリッとした歯触りを表現するために、やっとたどり着いたのが二度焼きという方法である。当初広島の煎餅専門家に指導していただいたレシピは柔らかめであったため、食べやすくはあったのだが、「高級志向」「歯ごたえある商品」という商品コンセプトには不似合いであった。煎餅生地を鉄板でプレスするように焼いた後1日乾燥室で寝かせ、再度今度はオーブンで焼くことで独特の食感が生まれるようになる。これはすべて谷崎氏が試行錯誤によって産み出した独自の製造法である。プロから教えていただいたレシピに満足せず、自分たちの求める商品を徹底追求していったという頑固な姿勢は素晴らしいの一言に尽きるだろう。

デビューに向け、アンケートの結果を受けてさらに開発続行

一年かけて試行錯誤を繰り返した後にようやく満足いく味が完成すると、商品のネーミングを「おごっそ蟹せんべい」と決定、日本古来の朱赤を基調とした格調高いお洒落なパッケージも制作して、さっそくモニター調査をすることになった。会場は、2003年の宇部まつりである。目的は製品のお披露目だけでなく、アンケート調査を実施することであった。「味・見た目(色・形)・歯ごたえ・風味」といった観点から、消費者の率直な意見を募ったのだ。大規模な調査を実施したため、700人程度の意見が集まったという。

アンケートの結果は、総括すると「まずまず美味しい」という評価だったが、「カニの風味が足りない」という意見が多かった。当時の点数は5点満点で、5点が43.1%、4点が24.6%、3点が25.2%、2点が6%、1点が1.1%という結果だった。5点が43.1%であるため合格点としても良かったが、4点、3点を合わせると49.8%になってしまう。この結果に、メンバーは納得しなかった。意見の大半を占めた「もっとカニの風味を」という部分の改良のために、さらに研究を続けることになったのである。

この課題を解決してくれたのは、地元のフランス料理店であった。「ソース職人の店」として宇部市内では有名な店のオーナーシェフに、カニの風味を出すためのソース制作を依頼してみたところ、プロジェクトの趣旨に賛同してくれたシェフは快諾してくれたというのだ。ここにもまた「宇部市の名産品を作り出そう」という情熱家が存在していたということなのだろう。ソース職人によって作り上げられた「カニソース」が、風味の問題をすべて解決してくれた。職人ソースを生地に練り込むことで、豊かなカニの風味が生まれるようになったのである。プロジェクトのスタートから約三年、かくして地元愛に燃えた多くの人たちの願いが結集し、南風荘の「おごっそ蟹せんべい」が誕生したわけだ。

蟹せんべい製造の技術を、地方や海外でも活かしたい

完成した商品の販売は、地元マスメディアもPRに一役買ってくれたこともあり、順調なスタートを切っているようだ。当初のコンセプト通り、「福祉」を特に前面に打ち出さない営業方法で、宇部空港内の売店、県内のキヲスク、道の駅、高速道路のサービスエリア、ショッピングセンター、宇部市内の土産物屋等への委託販売先を次々増やしている。現在その数は、山口県内に80ヶ所以上にものぼる。宇部を中心として下関から萩に至るまで、山口県内の幅広い地域で販売される商品になっているのである。

こうした実績も評価され、平成17年度には「山口県特産品振興奨励賞」を受賞したほか、2005年の「宇部・山陽小野田・あじす名産品コンテスト」では見事に優勝を果たしている。

売上高も順調に伸びてきた。初年度は半年で370万円の売上であったが、二年目に1,400万円となり、本年度(2010年度)の予測は、1,800万円となっている。昨年度比にすると約30%のアップであり、さらに約40%増の2,500万円をめざしていると西重國隆施設長(64歳)は、強気の予測を語ってくれた。

もちろん、課題はまだまだ数多い。二度焼きするという複雑な工程ゆえ、機械化されておらず、形が規格外のB級品や、芯の残った製品が出やすいという欠点がある。生産効率をもっと高めるための工夫を続けていかなければならないだろう。新製品の開発や市場拡大も次のステップに進むためのテーマの一つである。「おごっそ蟹」に続いて、「ぶち黒(イカスミと黒ごま)」「黄金焼(雲丹)」「ほのカニチョコ(季節限定商品)」というラインアップをたて続きに発表してきたが、下関名産の「ふくせんべい」を現在開発中とのことだ。

「せっかくここまでカニ煎餅を極めてきたので、この技術を使って北陸や北海道での商品展開を図りたいですね。市場としての規模をいうなら、上海ガニを使った製品で中国に打って出るのも手かもしれません」(谷崎氏)と、夢は大きく膨らんでいる。宇部市の観光名産を作り出そうという地域メンバーの情熱が結集された「おごっそ蟹せんべい」だからこそ、周りからの期待は大きいものがある。ぜひともその期待に応えて、山口県発の一大ブランド商品に成長してもらいたいと思う。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。