社会福祉法人山口県コロニー協会(山口県防府市)

贈答品から、日用品としての新しい「萩焼」に活路を見いだす

社会福祉法人山口県コロニー協会の概要

山口県コロニー協会は、障害者の自立をめざす二つの授産施設 「山口コロニー授産所」(身体障害者授産施設)・「山口コロニーキャンパス」(身体障害者授産施設)と、障害者雇用の場としての福祉工場「ワークショップ・山口」(身体障害者福祉工場)によって構成される社会福祉法人である。(2010年4月、新体系に移行予定)

福祉工場(新体系移行後は、就労支援継続A型+就労支援継続B型)では、最先端の設備が導入された本格的な印刷工場を経営し、二つの授産施設では福祉工場の印刷事業の一部門(文字入力や製本仕上げ)や、陶芸・手芸・ウエス・箱組立・自転車部品組立等を作業品目とする。事業の中心は、法人売上の9割を占める印刷業である。ゼンコロに所属する施設として、障害者の社会的自立を経済面からもサポートするための事業活動を積極的に進めてきた。

印刷業を中心とする山口県コロニー協会で陶芸事業が始まったのは、重度障害者へ職域を広げるためだったという。比較的体力が必要とされる印刷業に対応できないような人たちでも、陶芸作業は参加しやすいという特色がある。ましてや施設の近くには、鋳銭司(萩焼の主原料となる土が採取される地区)があり、陶芸活動には最高の場所だった。こうした地の利を活かし、山口県の名産品でもある萩焼を施設の自主製品として生み出そうと考えられたのである。

茶を愛する人たちに圧倒的な人気がある「萩焼」とは

「萩焼」とは、主に山口県萩市一帯の窯元で焼かれる陶器のことである。古くから「一楽二萩三唐津」と謳われるほど、茶人好みの器として通の間で圧倒的な人気を誇ってきた。萩焼の特色は、原料に用いられる陶土とそれに混ぜる釉薬の具合によって生じる「貫入」と、陶器を使い込むことによって生じる「七化け」である。「貫入」とは器の表面の釉薬がひび割れたような状態になることであり、「七化け」とは貫入によって生じたひび割れにお茶や酒が浸透して器自体の色が変化して枯れた味わいが生み出されることだ。

ひび割れの原因は、窯出し後の冷却の際、素地と釉薬の膨張率と縮差の違いである。日本ではこうしたひびは欠点とは見なされずに、一種の模様として焼き物の特徴として位置づけられてきた。萩焼の場合、さらにその成分特性上(鉄分が多く含まれる)、1,200度前後の本焼温度ではほとんど焼き締まらず、土の風合いが多く残されている。結果として吸湿性の高い陶器となり、使うにつれて「萩の七化け」と称される、茶渋による色変化が生じるわけである。熱伝導率が低いため、保温性が高く、熱い茶を入れても器自体が熱くなりにくいのも萩焼が茶人たちから好まれる理由だ。

使い込めば使い込むほど、深みがある色合いになり、目にも肌にも馴染んでくる「萩焼」。この特色を活かすために、釉薬はできるかぎりシンプルな色合いのものが選ばれるのが常である。一般的には、木灰透明秞や白萩秞などの秞薬を使って茶色・白色に焼かれたものが「萩焼」と思われているが、もちろん秞薬や焼き方によって色のバリエーションは無限にある。どの秞薬で焼かれた「萩焼」でも、年月と共に器が成長していく点が、古くから日本人の美意識にかなっていた。多くの陶器の中でも、日本人の「萩焼」に対する思い入れは格別なものがあるのだ。

全国から人気を集めてきた山口コロニー協会の「萩焼」製品群

そんな「萩焼」をつくる代表的な障害者施設として、山口コロニー協会の名は福祉関係者の間では昔から有名であり、全国から高い人気を誇っていた。さすがに萩焼の本場で作る陶器であり、近隣の陶工たちの技術協力もあって、製品としての質は高いし、価格もリーズナブルである。現在でも日本中の福祉バザーから、製品を委託販売させてほしいという依頼がひっきりなしに寄せられているらしい。

山口コロニー協会の生活・就労支援係の登城文晴主任(36歳)によると、「現在の販売先は、進物の大進やJA山口宇部などへの委託販売。地元の大型スーパーでの即売会、そして全国の福祉バザー等々です。全国からの依頼は、今でもすごく多いですね。なんでこんなに依頼が来るのか不思議なくらいです(笑)。やっぱり萩焼というブランド名が、バザーではアイテムとして不可欠なんでしょうか。ただ残念ながら売上自体は、以前みたいに大型のセットが売れなくなってきているのも事実です」

十数年前までは、山口コロニー協会の萩焼製品といえば、5客の茶器と急須がセットになった木箱入りの「萩焼茶器セット」や、結婚式等の引き出物に最適な木の葉型の菓子皿五枚組「銘々皿セット」等が売れ筋製品であった。日本セルプセンターでも(正確には、当時は中央授産事業振興センター)、これらの製品群を一度に何十セットと発注した例がかなりあった。

「最近は贈答品としてのセットものに対する需要がぐっと減りましたね。陶器事業全体が落ち込んでいますし、萩焼ブランドの威力も若い人たちには通用しなくなっている気がします。自動食器洗い機では洗えませんし、使っているうちに色が変わるとクレームを付けられるお客さんも増えています。引き出物自体が、最近ではお客さんが自由に選択できるカタログ形式が増えてきていますからね。陶器事業のあり方そのものが、ここ数年の間で大きく変わってきているんですよ」

市場の変化だけでなく、山口県コロニー協会内部の問題も大きい。これまでは一部の職人利用者による専門的な陶芸技術に頼りきりであったが、高齢化のためにそうした高度な技術を持った利用者も入れ替わりを余儀なくされている。贈答用工芸品としての萩焼を制作する能力が年々低下しているため、現在の利用者の製作能力に合わせ、なおかつ現代の市場にマッチした製品開発が求められているわけだ。

利用者の自由な感性が産みだした「萩焼グッズ」

そんな中から生まれてきた新たなヒット作が、カエルやネコなどの置物である。最初は単に可愛い動物を陶器にあしらっただけの製品であったが、これに「金運ねこ」「癒しの玉かえる」「幸せの子ぶた」等と名付けて販売すると、一挙に人気が爆発した。「バザーでお客さんに説明するにも、なにか意味があった方が説明しやすいじゃないですか。そこでみんなで製品のネーミングを考えてもらうようにしたんです」(登城さん)

効果はてきめん。「金運」「癒し」「幸運」というキーワードに反応を示すお客さんは数多かった。とくにバザーでの人気が高く、どれも生産が間に合わないほどである。

人気シリーズの一つ「癒しの玉かえる」を作るのは、小川晴夫さん(48歳)だ。脳性小児麻痺による四肢麻痺という障害を持つ彼は、見る人を幸せにしてくれそうな満面の笑顔が特色だ。自身でもスポーツを見るのが大好きなので、カエルの置物をつくることになったときに、さまざまなストーリーの中でカエルたちを表現しようと考えた。サッカー、バトミントン、卓球などのスポーツシリーズの他、町並のカエルたち、コタツに入った家族団らん等々、まるでジオラマのような精密な雰囲気が彼の置物の特色である。

「作っている間は、自分がこの世界の中にいるような気持ちで没頭しています。世界ができあがっていくのが、本当に楽しいんですよ。残念なのは、パーツが細かいので完成までに壊れてしまう作品が多いことですね。焼き上がって失敗だったときには、ホントにガックリですよ(笑)

もう一つのヒット作「金運ねこ」のメイン作者は、玉島由佳利さん(29歳)である。小川さん同様、脳性小児麻痺による四肢障害がある。手は不自由だが細かい作業が得意で、没頭するといつまでも仕事を続けている。取材中もなかなかカメラ目線を嫌い(「仕事中で、そんな余裕はありません」とのこと)、懸命に美しいレリーフを作り続けていた。

「花が大好きなので、ネコの置物にも花を全面に飾るようにしてみました。いろんな花のシリーズがあるんですよ。ネコはお金を招き入れてくれる福の神ですから、飾ってくれた人にたくさん良いことがあるといいですね」

今後施設に問われるのは、高い営業能力だ

もちろん陶芸事業そのものを、安定運営させていくためにはこのような単品製造以外にも、記念品等の受注を増やしていく必要がある。以前のような贈答品市場ではなく、団体や企業の記念品市場である。最近では、県内にある有名ハウスメーカーの体験工場が来場者に配布する記念品「萩焼花瓶」を、県内の複数施設が共同で製作する試みがスタートした。1ヶ月につき約300個を一年間通じて供給するという契約になっている。

「今後はこうした大量生産の仕事と、手作りの小物の二極化になっていくと思うんです。利用者あっての施設ですし、できる限り彼らの能力にあった仕事を開発することによって、工賃確保をめざしていきたいですね」と語る登城さん。実は彼、つい最近までは福祉工場の印刷営業としてトップレベルの営業成績をあげてきた人物である。陶芸に関しては全くの素人であり、現場の支援員としての経験はゼロであった。しかしプライベートで障害者スポーツチームの監督を務めている等の活動が評価され、畑違いとも思える授産施設への移動になった。この理由について、支援部の加藤元久部長(56歳)は次のように語っている。

「たしかに印刷事業も大変な時代ですが、印刷には優秀な人材が他にもいます。むしろ法人全体として考えた場合、新体系移行後の陶芸・手芸事業(就労支援継続B型)は、相当の営業力を持った人材を充てないと成立しなくなるのではないかという危機感を持っていました。彼のような人材が、これからは自主製品を販売していくためには絶対不可欠だと思っています」

異動後まだ一年余りの時間しかなく、登城さんの活動は主にまだ内部管理にとどまっている。陶器を焼く職員としての腕を磨くために、専門的な研修を受講中の身でもある。しかしネコやカエルの置物に「販売しやすくするためのネーミング」を考案させたり、製品の包装の仕方を工夫したり、販売会で積極時に顧客アプローチを試みたり、と少しずつ持ち前の営業センスを発揮しつつある。不況の印刷営業でもトップレベルの成績を上げた腕で、きっと萩焼事業の再構築を果たしていくに違いない。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。