社会福祉法人蒜山慶光園(岡山県真庭市)

蒜山そばの製造で、日本一の製麺工場をめざす「ワークスひるぜん」

蒜山慶光園の概要

蒜山(ひるぜん)慶光園は「ワークスひるぜん」(生活介護・就労継続支援B型)、「デイセンターまにわ」(生活介護・就労移行支援)等の障害者就労系事業所を経営する社会福祉法人である。この他、「蒜山慶光園」(入所支援)「グループハウスひるぜん」「グループハウスおちあい」等の生活支援事業も運営している。

米子鬼太郎空港から自動車で約一時間半。大阪からは高速道路で約2時間ドライブするとたどり着く広大な蒜山高原の中に、蒜山慶光園の法人本部は建っている。100万年前の火山活動によって誕生したという蒜山三座(上蒜山・中蒜山・下蒜山)と一面に広がる緑の牧場を眺められる景観は圧巻の一言。夏には避暑地として県内外から多くの観光客が訪れる観光スポットになっている。

蒜山慶光園の中でも、障害者の労働に特化した事業所が「ワークスひるぜん」である。蒜山の名物でもある高原蕎麦を中心とする製麺事業を主体とし、弁当事業等と併せて、34名の利用者で約1億円を稼ぎ出す。その結果、県内でもトップクラスの平均工賃約50,000円を誇っている。働くことを支援の中心に据え、利用者の経済的自立にこだわった新しい事業所として注目が集まっている。

補助金ゼロで始めた製麺事業

現在でこそ県内トップクラスの工賃を支給する事業所となった「ワークスひるぜん」だが、2005年の設立当初は陶芸・農芸・給食・箱折り等を作業科目とするだけの一般的な障害者就労施設に過ぎなかった。そこでおこなわれる仕事は「売上が見込まれる」からではなく、「利用者が作業に参加しやすい」から取り組んでいたのである。

考え方が一新したのは、6年前に柴田智宏・現施設長(37歳)が法人に参加してからのことだ。障害者施設といえども「本気で事業を展開することによって、利用者たちに地域で自立生活がおこなえるだけの高い工賃を支払うべきだ」という理想を掲げていた氏は、板原克介理事長と意気投合。他施設でも手掛けていたという製麺事業を、蒜山蕎麦として事業化することを決意する。福祉という考え方に甘えることなく、純粋に「金儲け」に徹しようとする試みである。

とはいっても潤沢な事業資金など、まったくない。製麺機は、廃業した業者から譲り受け、倉庫で機械のサビを落とすところからのスタートだった。今から考えると、この時期に設備に恵まれなかったことが、自らの製麺技術を高めることにつながったのだと柴田施設長は語っている。

「偉そうなことを言っていますが、当初は補助金で最新の製麺機を買ってくれるだろうという甘い考えを持っていました。でも本気で「金儲け」しようというヤツが、他人のお金を期待するなんて見当違いだと理事長に一喝されまして(笑)。機械を買うお金も出してくれないので、四方を当たって廃業事業者を捜したわけです。おかげさまで、麺を作る腕はとても磨かれましたね。最新の機械だと材料さえ揃えれば、誰でも最低限の製品は作れます。しかし古い機械なので、職人としての腕だけが勝負。美味しい麺を作るためのさまざまな工夫を、独力でおこなっていったわけです」

小ロットオリジナル麺に活路を見いだす

こうした事業立ち上げ当初の必死の努力が実り、いつの間にかプロの職人にも負けない製麺技術と知識が身についた。現在、「ワークスひるぜん」の製麺事業の主体となっているのは、小ロットオリジナル麺の製造である。それは飲食店に対して、それぞれの店の要望に応じた麺を提供するという事業スタイルだ。粉の配合率、加水量の調整、保存期間の長短、麺への練り込み(豆乳・抹茶等)、等々。麺と言ってもさまざまな作り方が存在する中で、各店からの細かな要望に応えるオーダー麺を製造するには熟練の技を必要とする。

「最近でこそ大手の製粉会社も参入するようになってきましたが、当初は小ロットオリジナル麺の製造を手掛ける製麺業者なんてありませんでした。手間ばかりかかって生産効率は悪いですから。でも大量生産の製品と違って、価格競争に巻き込まれないという利点が魅力的でした。一度お客さんとの信頼関係を築いてしまえば、簡単に崩れることはないですしね」と、柴田施設長。

「ワークスひるぜん」の製麺工場では、蕎麦だけでなく、うどん、ラーメン等さまざまな麺を製造することができる。それだけではない。それぞれの麺について、生麺、乾麺、半生麺、冷凍麺と、あらゆる方法で加工することも可能なのだ。本来、麺にこうした加工を施すためには相当の設備が必要なはずだが、すべて独自研究によって生産ラインを作り上げたというのだから恐れ入る。お客さんが希望する麺があるなら、徹底的にスタッフ総出でその製造法を研究する。そんな熱心さが、プロの飲食店主たちからの信頼を勝ち取ってきた。

現在の取引先は、蒜山地域だけでなく県外の飲食店も数多くなっている。「福祉を売り物にしない」という基本姿勢ゆえ、営業的には「製麺屋・三座」という屋号を用いて、障害者の就労施設であることはあえて説明していない。ただ単純に美味しい麺を製造する事業所として、100社以上の顧客から高い評価を受け、製麺事業をここまで拡大させてきたのである。

蒜山サービスエリアで提供する、ゆで時間1分半の本格的蕎麦

プロの飲食店主たちも認めたという「ワークスひるぜん」の蕎麦。実際に味わってみたくなる読者も多いことだろう。そこで是非、米子自動車道「蒜山高原サービスエリア(上り)」に立ち寄ってみることをお奨めしたい。このSAのスナックコーナーの麺料理(蕎麦・ラーメン共)は、すべて「ワークスひるぜん」が提供しているのである。観光客の利用も非常に多いSAのため、1ヶ月になんと蕎麦・ラーメン共に10,000食を売り上げる人気飲食店だ。しかも「蒜山蕎麦」はメニューの中でもダントツの一番人気であり、店としてのおすすめ商品でもある。

どうしてこのような人気店と取引できるようになったのだろうか? 店舗の責任者である株式会社三好野本店・蒜山高原サービスエリアの友金主任に話を伺ってみた。

「初めて柴田所長が飛び込みで営業に来られたとき、ちょうど冷凍蕎麦からの切り替えを検討している時期だったのですね。サービスエリアのスナックコーナーという店の特性上、より早く商品を提供するために当時は冷凍蕎麦を使っていました。しかし冷凍では、もっと美味しい蕎麦を食べたいというお客様のニーズに応えることができません。かといって生蕎麦では、ゆで時間が長すぎて回転率を落としてしまいます。私が求めていたのが、生蕎麦でありながら、通常三分のゆで時間を一分半に縮めたオリジナル麺です。もちろん味を落としてはいけません。何回も試作を繰り返した結果、非常に難しい要求に見事に応えてくれたので、当店の麺をすべて『ワークスひるぜん』さんに切り替えさせていただいたわけです」

さすがに「頑固職人が、蒜山唯一の製麺所と共同開発」と看板にも表示されている商品だけあって、つるりとしたのどごしがとても美味しい蕎麦である。注文するとわずか数分で出されてくるサービスエリアの蕎麦とは、とても思えない。初めてこの地を訪れた観光客たちは、さすが蕎麦処「蒜山高原」だと感心していることだろう。

その後友金氏からの依頼で開発した、本格的な「茶蕎麦」も大好評だという。一般的に茶蕎麦というと色づけ程度に抹茶が入っているだけで、香りや味はほとんどしない商品が多い。しかしここで提供する「茶蕎麦」には、大山(蒜山地区の隣町)産の有機栽培抹茶がふんだんに練り込まれている。鮮やかな緑の風合いはもちろん、口に入れたあとのほろ苦さとお茶の香りに魅了されること請け合いである。スナックコーナーのメニューとしてはやや高めの価格設定であるにもかかわらず、蕎麦好きの顧客からの圧倒的な支持を得ているらしい。「少々高くても、ホンモノの味を出せば売れる」という友金氏の戦略はあたり、「ワークスひるぜん」としても高額のヒット商品を作り出せたというわけだ。

土産物やサービスエリア売店での食品販売も大好評

「蒜山高原サービスエリア」では、ショッピングコーナーでも「ワークスひるぜん」の商品が販売されている。可愛い竹カゴに入った蒜山高原そば(乾麺)や、ニンニクを練り込んだオリジナル麺に味噌だれをセットした「蒜山焼きそば」等の商品である。どちらも蒜山高原を訪れる観光客には格好の土産物として、コンスタントに売れている。最近では、第5回B-1グランプリ(2010年度)で蒜山地区の「ひるぜん焼きそば」がシルバーグランプリを受賞した影響もあり、「蒜山焼きそば」の売上が急激に伸びてきた。(追記:取材後に開催された2011年の第6回第5回B-1グランプリでは、なんとゴールドグランプリの栄冠に輝いた!)

さらに昨年度より、建物の外に並んでいるテント販売の一角を株式会社三好野本店より任されている。これは、サービスエリアの入り口に立ち並ぶ人気屋台である。たこ焼きやタイ焼きといったテキ屋アイテムが祭りムードを醸しだし、天気の良い日にはつねに来店者が絶えない状態になる。とくに2010度は、高速道路無料化実験(米子IC-落合JCT間)や高速道路休日上限1,000円実験の影響もあり、土日・祝日だけの開店にも関わらず、テント販売だけで1,500万円の売上げ実績を残した。

このテントの看板メニューが「蒜山ドッグ」である。自家製天然酵母のもちもち白パンに、揚げたてジューシーなドでかフランク、シャキシャキの高原キャベツがたっぷり入ったボリュームたっぷりのファーストフードだ。ご当地ハンバーガーとしてB級グルメの間で密かに人気があった「ひるぜんバーガー」にヒントを得て、柴田施設長たちが独自に開発した商品だという。

「『蒜山ドッグ』のパンは、法人内の別施設『デイセンターまにわ』で作っています。一日平均で100個も販売する超人気商品に育ちましたから、製造現場もてんてこ舞い。他のパンを作る余裕がなくなってしまったくらいです(笑)。でも付加価値ある商品なので、利益率も高く設定できます。このように既存の商品を売ることにこだわらず、販売現場に合わせた新商品を開発するのはとても大切なことだと思いますよ。『蒜山ご当地グルメ』と命名したこの商品、本当に蒜山を代表する食べ物になってくれると嬉しいですね」

日本一の製麺工場をめざすために必要なこと

「ワークスひるぜん」の今後の課題は、ギフト市場への本格展開である。蒜山高原サービスエリアや道の駅・蒜山高原等の店舗では土産物としてすでに多くの販売実績があり、インターネット通販でもさまざまな商品が販売されているのだが、「まだまだ土産物としての商品レベルを脱皮できていない」のだと柴田施設長は厳しく自己分析する。事業としてさらに大きく飛躍するためには、一般市場の中でも勝負できるような商品開発が不可欠なのだと。

「美味しいものが溢れている世の中です。『無農薬栽培による本格的手打ち蕎麦』などという謳い文句では、一般のお客様は見向きもしてくれません。数年間、楽天市場に実験的に出店してみて、そのことを改めて痛感しました。美味しいのは当たり前。それ以上に、商品としてもう一歩進んだ企画力が必要になってくるわけです」

たとえば一つの例として、フリーズドライ技術を使って現在試作中の新製品を見せてくれた。蒜山高原のキャベツやキノコといった特産品とセットにし、家庭にいながらにして蒜山の食材を楽しめるという商品である。このようなアイデアに、さらに斬新なパッケージやネーミング等を付加することにより、一歩も二歩も進化した商品となり得るかもしれない。めざすのは、B-1グランプリで一躍全国区の知名度になった「ひるぜん焼きそば」にも負けない商品開発というところだろう。

そしてもう一つ、柴田施設長たちが取り組んでいる施設外の取り組みがある。それは、近隣地域(県内・県外含む)の障害者作業所や施設とネットワークを組み、連携しながら共同で商品開発や販売をおこなうことをめざしたプロジェクトだ。「かがやきプロジェクト」と名付けられたこの活動には、現在23団体が参加を表明、NPO法人化へ向けた動きも進行中であるという。

真庭には豊富な食材、豊かな大自然、そして観光客向けのさまざまな体験工房がある。1施設では力不足でも、複数の施設が集まることでこうしたメリットを最大限に活かした活動ができるのではないか。もちろん福祉関係者だけでなく、プロの商品開発チームや地域観光施設、農家との連携は欠かせない。あらゆる人たちを巻き込んだHUB組織の構築によって、「かがやきブランド」商品を生み出そうとしているのである。

これまで多くの施設を取材してきて感じることだが、成長する施設に共通していることは、「共通の利益こそ、自らの利益にもつながる」という哲学を持っていることだ。すでに県内最高レベルの工賃を実現した「ワークスひるぜん」ではあるが、もちろん現状に満足しているわけではない。めざしているのは、あくまで日本一の製麺工場というゴールである。真庭地区から全国に通用する製品を次々生み出したいという若いスタッフたちの情熱は、きっと近いうちに大きなパワーを持った組織を生み出すことだろう。障害者の経済的自立を促す一つの事例として、ぜひ今後も成長を続けていってもらいたいと思う。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。