社会福祉法人高知小鳩会(高知県高知市)

「真心絶品」で開花しつつある、第二あじさい園のドライトマト事業

社会福祉法人高知小鳩会の概要

高知小鳩福祉会は、知的障害者更生施設あじさい園、知的障害者通所授産施設第二あじさい園(新体系未移行)、分場こばと作業所を中心にして障害者サービスを運営する社会福祉法人である。法人の設立は、平成六年と比較的新しい。ダウン症児を持つ親の会が、子どもたちがいつまでも安心して暮らせるような施設を要望し、定員50名の入所施設あじさい園が建設された。その5年後の平成12年に、生活だけでなく働く場としての施設をということで、第二あじさい園が併設されたのである。

現在の主な作業科目は、木工製品製作と、ミニトマトの栽培だ。当初は水道メーターの計量器のリサイクル事業という下請け事業を中心にしていたのだが、水道法の改正等によって仕事が激減し、そのことを心配した農家兼県議会議員の紹介でミニトマト栽培に挑戦することになった。

高知県の特産物といえば、かつお、ゆずに続いて最近ではトマト(フルーツトマトの発祥の地)が有名である。龍馬ブームに沸き返る観光地の土産物店でも、人気のフルーツトマトを使ったジュースやジャム等の加工製品が所狭しと並べられている。第二あじさい園のまわりでも、トマトの温室栽培を始めた農家も数多い。紹介されたミニトマト栽培とは、そんな高知県内のトマトブームの流れに乗った事業なのであった。

普通の農家では栽培が難しい、特殊なトマト

第二あじさい園で栽培しているのは、「ネネ」と呼ばれる特殊なミニトマトだ。これは「甘みと酸味のバランスが絶妙」で、「ビタミンA及びCが一般ミニトマトの約1.5倍含まれている」と専門家の間で高い評価を受けている希少品種である。皮が薄く、透明感のある表面が透けて見えるほど。一般的なミニトマトのサイズよりも若干小振りサイズで、女性でも一口で食べることができる。試しに口に入れてみると、多くの人がその「甘くてジューシーな味」に驚くだろう。マニアの間では「幻のトマト」として高値で取引されるゆえんである。

どうしてそれだけ美味しいトマトが一般に知られていないのだろうか? それは「ネネ」が、農家泣かせの繊細な品種だからだ。「皮が薄くてジューシー」という特徴は、そのまま「傷みやすい」という欠点でもある。流通の過程で少しでも衝撃を受けると、皮が破裂しやすいのだ。皮が破裂したトマトは、当然商品とはなりにくい。こうした点から、破損率が非常に高い「ネネ」は農家には嫌われ、ほとんど一般流通していないわけだ。

しかし事業的に見ると、そのことが逆にチャンスにもなり得るのではないか。他の近隣農家と同じことをやっても価格競争に巻き込まれるだけだし、せっかくならまったく新しい品種を育てた方がやり甲斐があるだろうということで、この希少な「ネネ」というミニトマトの栽培を始めることになった。

栽培方法は、ハウス内のプラントでロックウールと呼ばれる人造鉱物繊維を敷き詰めた水耕栽培である。土をまったく使わず、ハウス内にロックウールを整然と並べた農場が広がっている。農作業からイメージされる泥臭さはなく、施設の利用者たちでも気軽に日常手入れや収穫に参加できるのがメリットだ。室温はもちろんのこと、水分や肥料の供給に至るまですべてコンピュータ管理するため、計画的なトマト収穫が可能である。カゴメなどの大手企業でも、同様の栽培方法を実施しているらしい。

ハウスは6メートルもの高さを有する、オランダ製の特製品である。少ない作付面積でも、蔓の高さを伸ばすことによって収穫量を上げられるという特徴を持つ。これだけの高さを持つハウスは珍しいため、トマトハウスが建ち並ぶ近隣農家の中でも、第二あじさい園のトマト農園はひときわ目立つ存在となった。(現在は背の低い一般的なハウスも組み合わせ、二棟体制で栽培をおこなっている)

話題の製品、「ドライトマト」を作った理由

そんな第二あじさい園が、ミニトマトを使った加工食品としてドライトマトの製造を始めたのは、2007年のことだ。「ネネ」という品種の特性上、どうしても収穫段階でかなりの数の破損品(皮が破裂してしまった果実)が出てしまう。サイズが大きすぎたり、小さすぎるものもいわゆるB級品として選別しなくてはならない。このロス率が大きすぎることが、一般的な農家で「ネネ」を栽培しない大きな理由なのである。

生食トマトとしては商品にならないこれらの規格外果実を有効利用するためには、加工食品を作るしかない。そこで職員たちがアイデアを絞った結果、ドライトマトを作ろうということになった。この製品、イタリア料理通の間では非常に有名だが、日本ではまだ一般的には馴染みが薄い食材だ。ドライトマト製造を決めた理由について、谷本直哉指導課長(38歳)はこのように語っている。

「当時、料理番組などのテレビでドライトマトが盛んに取り上げられていて、本格的なイタリア料理を作る上での不可欠の食材として若い人たちの間でも注目が集まっていました。あれを見て、ウチのトマトならもっと美味しいドライトマトができるんじゃないかとひらめいたんですね」

もともと第二あじさい園では、乾燥椎茸製造に取り組んでいたという経験も大きかった。ドライ製品に関する基礎的ノウハウを持ち合わせているわけだから、比較的簡単に取り組めるだろうと考えたわけである。利用者の作業を増やすという観点からも、生食トマトの販売だけでなく加工品の製造を始めることには意味があった。加工食品製造の過程には、利用者の障害に応じたさまざまな仕事を用意することができるためだ。

ドライトマトの製造工程は、実に細かい作業の連続だ。まず小さなトマトのへたを取り、水洗いしてから、それらを一粒ずつ1/4のサイズにカットしていく。実に細かい作業だが、この工程が美味しいドライトマトを作るためのポイントだと言っていい。さらに、細かく切ったトマトを綺麗にカゴの上に並べていく。これが乾燥ムラを防ぎ、製品の安定化につながっていくのである。

仕上げとして、並べたトマトにまんべんなく塩を振る。塩分濃度5パーセントの塩水だ。塩は、地元高知・大方で製造されているブランドモノの自然海塩を使用している。コスト的には高くつくが、海のミネラルを豊富に含んだ自然の塩を使うことで、まろやかな味わいが生まれている。

塩を振ったトマトを乾燥庫に入れ、10〜12時間経過したら、ようやくドライトマトの完成となる。製品を作り始めた頃は、もちろんその作り方を熟知している職員など誰もいなかった。まわりの農家にもいないし、アドバイスを請う専門家も見つからない。ネットなどでその作り方を調べては試行錯誤し、何度も失敗してはようやく現在の製造法にたどり着いたのだ。ミニトマトを使って作るドライトマトのため、一般の製品と比較すると水戻しが短くてすみ、「ネネ」独特の味わいも活かされた美味しい製品に仕上がった。

地元ではまったく売れなかった「ドライトマト」

しかしそんなドライトマトも、発売当初はまったく売れなかったのだという。「珍しい商品ができたと、地元のスーパーや市場に持っていきましたが、残念なことに反応はまったくなかったですね」と、谷本課長。「いくらメディアで話題になっているといっても、あくまで都会での話でしたし、ほとんどのお客さんは使い方がわからないという状況だったんです。高知県内では、まず需要はないだろうというのが大方の専門家の意見でした」。

ドライトマトというのは、扱い方が難しい食材である。初めて手にする人にとっては、これが食べ物なのかどうかもよく理解できない。みずみずしい生食の果実と違い、見た目も美しいとは言い難い。よほど料理好きな人か、イタリア通の人でないと、その良さは理解できないのではないか。新製品として流行のドライトマトを作るという着眼点は素晴らしかったが、製品を販売する肝心のマーケットを想定できていなかったわけである。

そのままではなかなか売れないので、イベントで販売する時などに「ドライトマトを使った料理レシピ」を配布し、ドライトマトの地道な普及活動に努めてみた。ドライトマトのパスタや、ドライトマトを使ったあさりご飯など、そのレシピ数は相当数にのぼっている。イタメシ好きの都会の若い女性には受けそうなこの企画も、製品を欲するユーザーに情報が届かなければ意味がない。せっかく満を持して発売された新製品も、発売してから数年間はほとんど売れずに在庫の山となる状況が続いていた。

転機が訪れたのは、2009年12月にオープンした「真心絶品」に選定され、インターネットを通じてユーザーに紹介されてからである。これまで地元ではほとんど売れなかったこの商品が、一挙に全国からの注目を集め、大量の注文が寄せられるようになったのだ。ドライトマトを「真心絶品」認定商品に強く推薦したのは、日本セルプセンターの加瀬紀江バイヤーである。選考会では、よくわからないこの商品に「?」と首を振る委員も多かった。

「初めて見たときから、『これはいける』とピーンときましたね。男性にはわからないでしょうが、料理好きな女性にはすごく人気がある食材なんです。しかも都会でも百貨店等に行かないと、なかなか手に入りずらい商品でもあります。それがこの価格で気軽に購入できるんだから、主婦層には絶対受けると思いましたよ」

この狙いは見事に当たり、現在「真心絶品」の中でもドライトマトの人気はうなぎ登りである。全国から150点以上の厳選された商品が並ぶこのサイト内で、「もっとも魅力的な製品」と評価する女性顧客もいるという。しかも一度購入した顧客はリピート客となり、定期的に注文をしているようなのだ。

このような急激な顧客からの反応に、製造現場では戸惑いを隠せないのも事実らしい。「もともとB級品対策として作りだしたドライトマトですが、私たちがびっくりするような売れ方をし始めています。おかげさまで最近ではB級品そのものの数が足りなくなってしまい、生食用の果実を加工用に回している状況です。こうなると採算度外視ですが、苦節三年、私たちがゼロから生みだした製品がやっと認められてきたわけですから、みんなで必死になって生産しているところですよ(笑)。」(谷本氏)

「ドライトマト」に続く新製品を開発していきたい

第二あじさい園では、その後ドライトマトに続く加工食品を送り出している。まずは、すでに「真心絶品」でも販売されているトマトジャムだ。ドライトマト同様、一般的には馴染みが薄い商品ではあるが、高知県内ではお土産物店を中心に広く販売されるようになっている。トマトの味をしっかりと残しながら、ほのかな甘みを加えた斬新な味が巷に広がる野菜ブームにも後押しされ、若い女性たちの間で人気が広まっているらしい。

「野菜スイーツ」という新しいジャンルも生み出され、野菜を使ったヘルシーなケーキが都会では流おこなっている時代である。「これまでにない味」ゆえ、なかなかその魅力を伝えずらいのも事実だが、口コミで少しずつファンを増やしていく可能性は十分に残されている。この他にも、ドライトマトをさらに加工することで「多くの人に、気軽にその美味しさを楽しんでもらえる商品」も企画中とのことだ。詳しくはまだ書けないのが残念だが、ドライトマト製品のファンが次々生まれている現在、企画中の新製品(試食したら、イケてる味であった)は間違いなくヒットすることだろう。

岩城雅人施設長(50歳)は、最後に施設としての豊富を語ってくれた。「ドライトマトは、ゼロから職員たちが必死になって作り上げた自主製品ですから、みんなの思い入れも人一倍深いようです。やっとその良さを理解してくれるユーザーに出会えたので、今後はもっとたくさんの人にその美味しさが伝わる製品を開発していきたいですね。

また、入所施設が併設された当園の利用者にとって、日中活動をいかに充実させるかというのも非常に重要なテーマです。製品が売れてみんなが納期を守るために必死に働くという経験は、なかなかできるものではありません。ぜひ今後とも、みなさまのご協力をいただければ嬉しい限りです」

ドライトマトに続く新製品の完成を、全国の第二あじさい園トマト製品ファンたちが期待して待っている。高知の新しい名産品となるように、私たちもがんばって販売していきたいと思う。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。