社会福祉法人池田博愛会(徳島県三好市)

樹恩割り箸で、国産材間伐の重要性を全国に訴え続ける「セルプ箸蔵(はしくら)」

池田博愛会の概要

池田博愛会は、知的障害者通所授産施設「セルプ箸蔵(はしくら)」(2011年9月新体系移行予定)を運営する社会福祉法人である。この他、「箸蔵山荘」(知的障害者更生施設)・「池田学園」(知的障害児施設)・「池田療育センター」(知的障害児通園施設)・「箸蔵山荘」(ケアーホーム&グルーブホーム)・「はくあい」(障害者生活支援センター)等の障害者福祉事業、「永楽荘」(特別養護老人ホーム)・「永楽荘デイサービスセンター」・「永楽荘在宅介護支援センター」・「長生園」(特別養護老人ホーム)・「ケアハウス宝珠」(軽費老人ホーム)等の老人福祉施設を経営している。

「セルプ箸蔵」が建っているのは、こんぴら奥の院として有名な箸蔵寺を有する箸蔵山の麓、鮎苦川のほとりという自然豊かなところである。近くには箸蔵幼稚園、小学校、公民館、特別支援学校等が立ち並び、「はくあいの里」として一つの建物の中にまとまっている「セルプ箸蔵」「池田学園」「はくあい」「池田療育センター」「ケアハウス宝珠」と共に、地域と施設と心で結ぶ福祉の里「箸蔵福祉村」と命名されている。

樹恩割り箸ネットワークのスタート

「セルプ箸蔵」のメイン事業は、割り箸の製造である。施設がある徳島県三好地域というのは、林業が盛んな土地柄だ。四国の清流・吉野川の上流域であり、豊かな水と霊峰剣山を擁する四国山地に抱かれ、豊富な森林資源に恵まれている。そんな地元の木材資源(間伐材)を活用し、施設で割り箸に仕上げ、「樹恩割り箸」として全国の大学生協の食堂を中心にして販売している。

この「樹恩割り箸」が生まれた背景には、次のようなエピソードがあった。時は1995年1月17日未明、日本全土を震撼させた阪神淡路大震災にまで遡る。震災によって下宿を失われた大学生に対し、徳島県三好郡各町村と林業関係者は、間伐材を使った57棟のログハウスを仮設学生寮として無償で提供したのである。被災者学生支援から始まったこの活動は、後に「都市と農山漁村の循環と世代をこえた人々のつながりを取り戻す」というJUON(樹恩)NETWORK運動の設立へと結びついていく。

日本の森林を守るために国産間伐材を活用していくのは、実は非常に大切な活動である。安価な外国産の木材ばかりが大量に輸入されると、国内の森林は手入れがされず放置されたままの荒れた森となり、自然災害を起こしやすい山となってしまうのだ。間伐作業を推進するためにも、それを有効活用した割り箸の存在が再注目され始めている。たとえコストは若干高くても、日本の自然を守るという意識で国産間伐材を使った割り箸を普及させることはできないか。

樹恩ネットワークのメンバーとなった全国大学協同組合連合会では、そんな考えから阪神淡路大震災の時の三好郡関係者に対するお礼として「樹恩割り箸」製造の企画を提案。全面的にその購入参加を申し出てくれた。つまり三好地区の間伐材でつくられた割り箸を、全国の大学生協食堂で積極的に活用していこうという試みである。

当初は吉野川(三好)森林流域林業活性化センターでこの「樹恩割り箸」を作る計画であったのだが、プロジェクトの趣旨からすると地域の障害者が製造にも参加してくれた方がいい。そこで池田博愛会に相談が寄せられ、新たな障害者就労系施設が作られることになった。つまり「セルプ箸蔵」は、まさに「樹恩割り箸」を製造するための事業所としてスタートしたのである。

「セルプ箸蔵」の割り箸の特色とは・・・

「セルプ箸蔵」の割り箸の特色は、単純だ。材質として、国産(ほとんどが地元県産材)のヒノキやスギのみを使用。煮沸消毒(120℃で60分間)のみで、防腐剤や漂白剤は一切使用していない。それゆえ、割り箸を鼻に近づけてみると、ほのかに木の良い香りがする。基本的に煮沸消毒で木の香りは飛んでしまうはずなのだが、使用する部位により(木材の中心部であったりした場合)わずかに自然の香りが残っていることがある。食材を口に運ぶ箸としてクレームの元ともなりうる特徴は、実は安全性の証明でもある。一般的に流通している中国産の割り箸などは、臭い消しとカビ防止のための防腐・漂白処理が施されているのが一般的であるためだ。

五島章夫施設長(56歳)は、次のように語っている。

「本来、自然の木を使う以上、完全に臭いを消すことはできません。まったく臭わない割り箸というのが、本当はいかに不自然なものかを丁寧に説明していくしかないですね。それにウチの割り箸は、防腐剤を使っていませんから、在庫を基本的に持たないようにしています。作ってから出荷するまで、最長でも1ヶ月だけなのですよ」

製造工程を見ていくと、木材の皮むき、製材、煮沸、スライス、プレス、乾燥、選別、面取り、磨き、最終選別、完封(袋詰め)という作業が、すべて手作業で丁寧におこわれていることに驚かされる。木工作業でありながら、箸という食品容器を製造する工場としての衛生管理も徹底されている。不良品の選別体制も非常に厳格だ。あまりに厳格すぎて、「ロス率40%」というのが悩みのタネでもあるという。しかしこれも「安心安全」な割り箸を通じて、使用者たちに日本の森林資源の問題を真剣に考えてもらいたいという熱意の表れだろう。

割り箸事業が成り立つ理由

本来、割り箸製造というのは採算が合わない事業だと言われている。それは当然だろう。中国産の安価な輸入割り箸と対抗すると、価格面でどうしても負けてしまう。業務用割り箸になると、一膳あたりの単価が1円未満というのが現状である。そんな価格では事業として成り立たないし、かといって高い金額を付けても販売できなければ意味がない。割り箸というのは、食堂や弁当で使う1回限りの消耗品であり、多くの顧客はそこに高い付加価値は求めていないからだ。

しかしすでに説明した通り、「セルプ箸蔵」の割り箸事業は、スタート時時点から全国大学協同組合連合会との連携が図られていた。「日本の森を守り、障害者の雇用を手助けする」という意義を持った活動だからこそ、「樹恩割り箸」として一膳2.5円という価格でも取引してくれる。そこに、割り箸事業が成り立つ秘密があった。結果として「セルプ箸蔵」では、利用者に対して平均月額工賃21,000円を支払っている。これは割り箸事業を主体とする事業所としては破格ともいえる実績ではないか。

現在の総売上高2,700万円のうち、95%が全国大学協同組合連合会への販売であるという。東京農工大学や早稲田大学など、首都圏の大学を中心に全国の大学生協で「樹恩割り箸」が使われている。数にして、年間2,000ケース(1ケース3,000〜4,000本入)。割り箸の袋には、「森・人 みんなイキイキ」「間伐は木を育て森を守ります」「この『樹恩割り箸』は間伐材を使用し、ハンディキャップのある人たちが製造したものです」と明記されている。

さらに「この割り箸について詳しく知りたい人は『樹恩割り箸』で検索してみてください」との一言も。興味を持った大学生たちが、個人としてJUON NETWORK運動へ参加してもらえるような仕組みも用意されているというわけだ。大学生協側としては、もっとも身近な「食」を通じて「国産森林資源の有効活用」というテーマを学生組合員に伝えられる格好の教材ともなっている。

こうした考え方は、全国大学協同組合連合会以外の企業にも少しずつ広がりつつある。最近では地元の大塚製薬徳島工場が社会貢献の一環として全面的にこの活動に賛同し、大学生協と同じ価格で食堂の割り箸として購入するようになっている。コストも比較的かからないわりに、非常にわかりやすく意義ある活動である。同様の考え方から、社内の割り箸を『樹恩割り箸』に切り替えていく事例は今後も増えていくのではないだろうか。ちなみに『樹恩割り箸』は2010年からは、福島・茨城・東京・広島の知的障害者施設でも分担作業として生産がスタートしている。

弁当・製パン事業で、さらなる工賃アップを

もちろん割り箸の生産だけでは、事業的に限界もあると五島施設長は言う。

「少子化の影響で大学生の数そのものが減っていますし、食堂を利用する人たちも減少傾向にあるようです。大学生協との関係はこれまで通り良好ですが、利用する学生そのものが減ってしまってはどうようもありませんからね。売上はやはり年々減ってきているのです」

そのための解決策として、五年前から弁当事業をスタートさせた。もともと施設の裏にある池田特別支援学校の給食を請け負ったのがきっかけで、近隣官公庁や企業、個人向けの弁当を製造販売している。特徴は、すべてのメニューに細かいカロリー計算を記載している点だという。たとえばある日の日替わり弁当のメニュー(魚の塩焼き・ひじきの煮物・うの花炒め・かきあげ)には、「カロリー791、タンパク質30.6、脂質25、糖質98.9、カルシウム181」と細かく表示されている。

揚げ物を極力控え、栄養バランスが取れたヘルシーメニューを安価に提供するのがモットーであり、カロリーの採りすぎが気になる人たちに好評を博しているようだ。弁当の注文は、毎朝9時15分まで。日替わり弁当や各種丼物のメニューの中から電話かFAXで注文を受け付けると、その日の正午までに職場までお届けするというシステムである。

「最近では、実験的にパンの製造も始めました。どうしても女性たちにはパンの方が人気なので、弁当とパンの二つを作ることで定期的に利用してもらおうと考えているのですね。今後はこの二つの食品事業を、より積極的に拡大させていこうと考えています」

弁当事業が拡大していけば、利用者工賃アップにつながるだけでなく、自分たちの手で『樹恩割り箸』を地元の人々に広めることにもなるはずだ。割り箸を通じて多くの人たちとのネットワークを広げるという原点も守りつつ、施設全体の事業を伸ばしていく。そんな考え方で、「セルプ箸蔵」は着実な歩みを続けている。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。