社会福祉法人徳島県身体障害者連合会(徳島県徳島市)

利用者工賃向上をめざして、つねに進化をし続ける「眉山園」と「かもな」

徳島県身体障害者連合会の概要

徳島県身体障害者連合会は、障害者支援施設「眉山園」(生活介護事業/施設入所支援事業)・社会就労センター「かもな」(就労継続支援B型事業)の二つの障害者就労系施設を経営する社会福祉法人である。この他、「眉山園デイセンター」(生活介護事業)や障害者生活支援センター「眉山園」(相談支援事業)等の福祉サービスも運営する。

法人の設立は、1981年。徳島県内では初めての重度身体障害者入所施設「眉山園」として定員50名でスタートした。当初手掛けていた作業科目は、活版印刷・縫製・木工・表装であったが、時代の流れと共に次々と内容を変えていき、当初から残っているのは印刷と表装のみ。むしろ製パンを中心とする食品事業が現在の中心となりつつある。つねに作業品目の見直しをおこない、時代に対応した事業展開を考え続けてきた施設だといえる。

地元では誰もが知る存在になった、表装の「眉山園」

ところで「眉山園」がある徳島県といえば、西暦800年頃に弘法大師が巡ったゆかりの場所をたどる、四国お遍路のスタート地点としても有名だ(一番札は、霊山寺)。菅笠をかぶって白装束に身を包み、金剛杖を突きながら1,400kmもの壮大な道を歩いて行く88カ所寺院巡礼の旅。俗塵を離れ、生きる喜びを見出すための修行として、今なお多くの人たちがお遍路さん姿で四国を訪れている。2004年に年金未加入問題が発覚した菅直人元総理(当時は民主党元代表)が、88カ所巡りをした姿をご記憶の方も多いだろう。

それぞれの寺院の札所では、参拝の証として御朱印をもらうことになっている。一般的には納経帳(和綴じの帳面)に押してもらうのだが、納経軸と呼ばれる巻物に記帳してもらうと、88カ所の御朱印が綺麗に並んだ立派な記念品になる。お参りが完了した後にそれを掛け軸や額、屏風などに表装すれば、御利益も永遠と続くに違いない。

「眉山園」では、そんなお遍路さんたちの納経軸の表装作業を、開設以来の重要な事業としておこなってきた。低価格の商品(綿両面並金襴/高級桐箱付)でも、26,250円。最高級の商品(正絹本金襴)になると、10万円を超える高級品である。施設開設当初は、表装の現場担当をしていたという三橋一巳園長(52歳)は、この事業について次のように語っている。

「一見マイナーな仕事に見えますが、徳島ならではの地場産業として地元ではたくさんの業者が参入していました。88カ所巡りがブームになった時などは、本当にいくらでも仕事がありましたね。他の業者と比較すると眉山園は価格が非常に安いので、書道教室の発表会用の表装としてもよく活用されました。現在では1ヶ月に200幅程度をコンスタントに製造するレベルですが、1回の展覧会用に200幅納品したこともありましたよ」

現在の年間売上高は約1,200万円と、ピーク時の約半分に落ち込んでしまっている。そのため最近では紙を綺麗に貼るという表装技術そのものを活かして、障子や襖の張り替えにも事業の幅を広げている。

右肩上がりの成長を続ける製パン事業

そんな表装事業に対し、破竹の勢いで右肩上がりの成長を続けているのが製パン事業である(「眉山園」は2010年に新体系に移行して、「眉山園」と「かもな」に分離した。現在の表装・印刷・製パン事業の中心を担うのは、「かもな」である)。2006年に徳島県立障害者交流プラザにおいて軽食喫茶事業を受託することになり、店で提供するパンを製造するために始めたのがきっかけらしいのだが、いまや施設を代表する看板事業に成長しつつある。

「当時はあくまで試験的に取り組んだ事業にすぎなかったのです。アイテムも10種類くらいで、製造能力も1日100個が限界でした。しかしどうせやるならもっと本格的に取り組みたいということで、各種助成金を活用して建物や整備を大幅に拡張してきました。印刷や表装というこれまでの事業とはまったく異なる分野で難しい面もありましたが、さまざまな協力者のおかげでやっと軌道に乗りつつあります。売上は倍々ゲームで伸びています。昨年度はパンだけで2,300万円を売り上げました」

販売先は各種バザーや企業団体への出張販売が主体であったが、最近では徳島県内最大のショッピングモールであるフジグラン北島の協力が大きいという。 垣鍔(かきつば)店長が社会貢献活動に非常に意欲的であり、モールのイベントスペースを毎週(土・日・祝日)「かもな」のパン販売用に無償貸し出しすることを申し出た。フジグラン北島の週末・祝日といえば、店内はたくさんの人が溢れることで有名な店舗である。そんな店の一等地を借りられることになり、三橋園長はチャンス到来とばかりこの話に飛びついた。

「数日間ならともかく、一年間定期的に出店するとなると、職員の勤務体系がどうなるのか、もちろん若干不安はありました。けれども、商品を販売する上で一番大切なのは、お客さんがいるところに出向いていくことですよ。1日にパンが何百個も売れるスペースなんて、県内では滅多にありません。しかもモール内には別のパン屋さんも出店しているのです。普通なら、テナントに気兼ねしてパンの販売だけはさせないところですが、お客さんが喜んでくれることならなんでも取り組むというのが、垣鍔店長の考え方。時期によってはヤマザキパンも出店してくるという厳しい状況の中、どこまで勝負できるか挑戦してみたくなりました」

結果は大成功。メインの菓子パンだけでなく、日本セルプセンターが2010年度実施した製菓・製パン技術者指導者派遣事業で加藤講師に教わった食パン「ホテルブレッド」などは、ライバル店の商品よりも美味しいと顧客の間で評判になっているらしい。民間業者がひしめき合うパンの激戦区でもまれたからこそ、必死で味の改良と品質向上に取り組むことができた。大幅な売上アップを実現したことに加えて、フジグラン北島での販売が職員の意識改革につながったと、三橋園長は語っている。

プール売店等の販売事業受託にも次々着手

こうしたさまざまなパンの出張販売の実績が評価され、公共スペースにおける売店運営そのものを受託する事例が増えてきた。具体的には、徳島市田宮公園プール、ポカリスエットスタジアム、オロナミンC球場等の売店である。どれも施設内唯一の売店であり、顧客を独占できるのが強みだ。とくにすごいのが、徳島市田宮公園プールだろう。7月上旬から8月末までの夏シーズン54日間のみの開店で、2010年度にはなんと700万円を売り上げた。

販売しているのは、かき氷、ジュース、焼きそば、たこ焼き、フランクフルト等のいわゆるテキ屋アイテムが中心だ。もちろん「かもな」で製造しているパン類も取り扱っているが、販売アイテムのほんの一部にすぎない。お祭り等のイベントで日銭稼ぎのためにこれらの製品を販売する施設はあっても、これだけ長期間にわたって施設事業としておこなう事例は稀だろう。儲かることなら何でも引き受ける。それが結果的に利用者工賃のアップにつながっていくはずだ。三橋園長の考えは、そんな単純な理論に貫かれている。

「プール売店の成功のおかげで、昨年度(2010年)は『かもな』の利用者平均工賃が5,800円もアップしましたからね。これだけ売れると、事業的にも大きな柱の一つと言えますよ。施設外売店販売には、希望する利用者たちが交代で参加できるようになっています。クーラーもほとんど効かない過酷な労働条件での売店業務ですので、1日参加する度に工賃がプラス加算されるシステムを採用しています。体力のある外向的な人たちは喜んで手を挙げてくれますよ(笑)

サーカーJ2の徳島ヴォルティスのホームグランドであるポカリスエットスタジアムにおける売店事業も、大きな可能性を秘めている。J2とはいえ、昨年度は優勝争いに絡んで「来期はもしかしたらJ1に昇格か?」と期待させるほどの活躍を見せた。もしJ1に昇格した場合には、対戦相手のアウェイサポーターの数が格段に跳ね上がる。これまでと違い、全国から徳島県まで応援に駆けつけてくるからだ。そうなると、これまで以上のスタッフ体制で臨まないと売店は運営できなくなるだろう。

「事業規模がもっと大きくなったら、売店運営だけで就労継続B型事業所を新たに立ち上げてもいいくらいの考えを持っています。これだけお客さんがいる販売スペースを運営するということは、今後私たちがオリジナル商品を開発する上でも必ず大きな武器になります。せっかくのビジネスチャンスですから、最大限これを活かさない手はありませんよ」

仕事を取ってくるのが職員の仕事。鬼の園長、吠えまくる。

三橋園長は、一見穏和そうに見える風貌とは別に、職員たちからは「鬼」と恐れられるほど厳しい指導力を発揮しているらしい。施設内にはあちらこちらに張り紙がある。「施設が存在し続けるかぎり、常に成長を続けなければならない」「すぐやる。必ずやる。出来るまでやる」「仕事鬼の十訓」等、有名経営者の名言から、「園外対面販売実績」「各作業科平均工賃」「各作業科売上」等々。すべての数値を明示し、職員はもちろんのこと、利用者まで全員が現在の事業状況を把握できるようになっている。

「ウチの仕事は、すべて○○扱いと受注担当者の名前が入るようになっています。職員たるものすべて営業マンという考え方です。家族や友人に、もっとどんどん製品を売り込む努力をしてほしい。どうせどこかの店でパンを買っているなら、『かもな』のパンを買ってもらうように話せばいいだけですよ。定期的に購入してもらえる人をひとりの職員が何組も捕まえれば、それだけで大きな売上になります。もちろん自分で買って食べてもいい。私なんか、ほとんど毎日パン食で、ひどい時には三食ともパンばかり食べていますよ(笑)。職員に会議のたびにこんなことを言うので『鬼』と呼ばれていますが、年賀状の一件も受注してこない職員は怠慢だと思うのです。私たちの仕事は、施設の中で黙々と利用者支援だけをしていればいいわけではありません。工賃を上げるための懸命な努力こそが、一人ひとりの職員に問われているわけです」

三橋園長のこうした考え方のバックボーンとなっているのは、原宗一理事長(82歳)の影響が大きいのだという。「適当な仕事や妥協を許さない、徹底した指導を20年間にわたって受けました。施設経営のノウハウはもちろん、人生訓を徹底的に叩き込まれましたね。新聞紙の四隅を揃えずに無造作に置いてあるだけで叱られたぐらいです。徹底的なコスト意識と、商売をする上での基本的な気配りや礼儀作法など、多くのことを教えていただきました。これまで資金の借り入れもなく毎年さまざまな事業にチャレンジできるのも、理事長の教育のおかげだと感謝しています」

ところで眉山園では、2003年の支援費制度施行の際、サービス報酬の減収試算を見越していち早く給与規程を改定し、年功序列や定期昇給の廃止と完全能力給制を導入した。より多くの仕事を獲得してきた職員には、人事考課としてプラスポイントが与えられるシステムに変更したわけである。岸野安子次長や吉野拓也次長も、ここ数年の職員の意識変化について次のように語っている。

「私も昔、民間企業にいましたが、売上ノルマの厳しさはこんなものではなかったですよ。モノを販売する以上、厳しいノルマを課せられるのは当然のことだと思います。私も友人や親戚に、パンを毎日のように配達しています」(岸野次長)

「園長の考えにすべての職員が完全についていけているわけではありませんが(笑)、少しでも追いつこうとみんな努力しています。おかげさまで『かもな』は徳島県内で最高額の工賃を支給する施設になりました。でもまだまだ上を見たらキリがありません。せっかくなら、全国のトップレベルをめざしたいですしね」(吉野次長)

共同開発事業やオリジナル製品開発への取り組み

さらに三橋園長の事業構想は、とどまるところを知らないようだ。2009年に徳島県内の障害者施設を束ねたNPO法人とくしま障害者授産支援協議会を発足させ、その事務局を「眉山園」が買って出た。単独施設の営業では限界があるところを、NPO法人としてまとまることで官公庁からの障害者施設への優先発注を獲得しようという狙いである。事実、年々衰退を続けていた「かもな」の印刷事業は、このシステムによって息を吹き返すほどの効果を得たという。

また、徳島県内施設製品のイメージアップのために、各施設の若手職員と各種専門家から構成される「ブランド研究会」にも積極的に参加。統一ブランド名として「awanowa」を制定し、多くの施設が共同で製作する「共同開発製品」のリーダー役としての役割も担っている。

このプロジェクトで開発されたのは、誕生石を添えたマスコットキャラクター人形「あいねこ」や、障害者アートのポストカード、和紙ステーショナリー、高級菓子「AWANOWA PLUS SWEETS」等々であり、どれも非常にレベルが高い商品である。とくに大阪に本社を構えるカステラの「長崎堂」の全面協力で生まれたスイーツ類「和三盆コロン」「どら焼き(なると金時・ゆず)」「阿波羹(すだち・ゆず)」などは、都心のデパ地下で販売していても不思議でないほどの出来映えだ。これだけのオリジナル製品を、徳島県の施設チームが共同開発&製造したという実績は、全国にもっと知られてよいのではないか。

こうした経験を活かして「かもな」独自でも、オリジナル商品開発事業をスタートさせた。徳島県産の特徴ある素材を使った新商品を、四国四県に164店舗を構えるコンビニチェーンで販売する計画だというのである。具体的にはまだ「企業秘密」(三橋園長)とのことだが、年度末には販売がスタートすることになっている。販売先が確定できている上、商品自体の考え方もシンプルだ。事業としては成功する可能性が高いはずである。

印刷・表装といった創設以来の伝統的な事業を大切にしつつ、ここ数年でパンを中心とする食品販売事業に少しづつスライドさせてきた「眉山園」「かもな」。原理事長の施設や就労事業の卓越した経営才覚の指導の元、三橋園長のたゆまぬ営業努力と事業意欲によって、今後も飛躍的に成長を続けていくに違いない。もしかしたら数年先には、まったく新しい事業をスタートさせているかもしれない。次にどんな表情を見せてくれるのか、その展開が楽しみである。

(写真・文/戸原一男)

*この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時()のものです。予めご了承ください。